第393話 希望 22
◆
そこからコンテニューは何度も試した。
コクピットに入ると見せかけて、唐突に銃弾で撃ち抜いてみたり。
煙幕を張って突然近づき、動揺した隙にジャスティスの所持しているナイフを投げつけたり。
様々な方法でクロードを負傷させた。
しかしことごとく、過去に戻された。
どうあがいても先に進めなかった。
(……やはり……駄目なのか……)
コンテニューは歯噛みする。
頭では理解していた。
この先でクロードが彼女と遭わなければ――彼女を殺さなければいけない。
自分がクロードに成り代わり、痛みを与えないまま繰り返そうとすることは不可能だ。
何故ならば――後悔が無いから生まれないのだ。
コンテニューという存在が。
分かっているが、どうしても止められなかった。
探り切りたかった。
だからクロードを傷つけ続けた。
何度も。
何度も。
方法を変え、手段を変え。
それでも――先に進まなかった。
絶対に戻された。
だけど。
コンテニューは諦めなかった。
何度も。
何度も。何度も。
何度も。何度も。何度も。何度も。
何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。
何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も――
……やがて、何回目だろうか?
コンテニューは疲弊し、疲れ切っていた。
『今度こそ勝ってやるよ』
「……どうぞ。あなたの勝ちです」
だからおざなりに応えてしまったのだ。
諦めた言葉を口にしてしまったのだ。
『……はぁ?』
クロードから疑問の声が放たれる。
当然だろう。
彼からしてみればあれだけ挑発し、自身の姿を覚えるように強調していた人物が、突然、戦う気が失せていたのだから。
「いや、だって勝てないでしょう、貴方に。だったら抵抗するのは無駄かなって」
完全に疲れていた。
だからどうでもよくなってしまった。
どうせ戻される。
どうせ何も出来やしない。
――本末転倒だった。
何かを変えようと足掻いてみたのに、諦めてしまった。
停滞してしまった。
あまつさえ――
(このまま……時が進まなければいいのに……)
そう思ってしまった。
このまま放置していても、歴史は変わってしまって、また元に戻されるだろう。
ならば一生、ここでループする。
そうすれば彼女は傷つかない。
――そんな風に思ってしまった。
だが――
『……ふざけるなよ、お前』
その静かなる怒号は、クロードから。
彼が次に放った一言が――奇しくも、コンテニューの心に突き刺さった。
『お前を信じてこの場を任せてくれた奴を裏切るなよ。だったら最初から格好つけずに投げ出してしまえ』
「……っ」
きっとクロードがこの言葉を告げたのは、この砦にいた人達のことだろう。
コンテニューに全てを任せ、この場を離れて行った人達。
任せておけと言いながら逃げる姿勢。
最初のはブラフと捉えられていたり、他の意図があったと読み取られていたから批判は無かったものの、結局投げ出すのはみっともない。
そう言ったのだろう。
だが、コンテニューが思った人物は違った。
コンテニューに全てを託した人物。
アドアニアで撃たれた彼。
ジャアハンで巻き込まれた彼女。
ローレンツでボロボロにされた彼女。
そして七年前のアドアニアで――
(……そうだ、そうだった)
次の瞬間、コンテニューは自分の頬を殴り飛ばしていた。
(何を忘れていたんだ僕は……約束したじゃないか)
他でもない。
(お母さんと……後悔しない、って)
母親。
彼女と交わした約束を、まだ果たしていない。
コンテニューは出来ていない。
「……馬鹿、やっていたな……」
コンテニューは猛省した。
彼女と遭って血迷った。
やるべきことはただ一つ。
そこに狂いを生じさせるわけにはいかない。
腹を括ったではないか。
やる。
やり遂げる、と。
「迷ってんじゃねえぞ……この野郎!」
そしてコンテニューは、持っていたナイフで、自分の首を貫いた。
――戻される。
先と同じ場所まで。
『今度こそ勝ってやるよ』
「――いいでしょう」
コンテニューは声高に告げる。
先歩までの無為な思考はもう止めだ。
ここからはきちんと括った腹通りに行う。
何度括って、何度解いてきたか。
自分の弱さに辟易する。
(――だけど!)
「こちらこそ、貴方の『正義』を破壊することになりますから覚悟してくださいね」
覚悟しろ、クロード・ディエル。
覚悟しろ、――コンテニュー。
「……」
『……』
先と同じように慎重に歩を進める。
数秒の睨み合いが続く。
先に一歩踏み出したのはクロードだった。
ゆっくりと一歩ずつ、ジャスティスとの距離を詰めていく。
その動きを見て、コンテニューは銃弾を放つ。
しかしながら当然、その弾丸はクロードの身体を貫かない。
五メートル程手前で弾かれて他方へ飛んでいく。
「前と同じく、見えない盾、ですか」
『言っておくが、地雷とか無意味だぞ』
「――地面を不動の盾に変化させたのですか」
『正解だ。察しがいいな』
回答も含めて先と同じ。
「どちらにしろ地雷なんか観光地に仕掛けてある訳ないですけど――ね」
と、そこでコンテニューは真上に向かって一発放つ。
――その軌道は、少し横にずらして、当たらないようにして。
(次は、これ)
コンテニューはジャスティスのとあるスイッチを押す。
直後。
真っ白い煙に辺りが包まれていた。
そのまま、クロードのいる位置に銃弾を撃ち込む。
カン、カン、と音が鳴る。
(よし、傷つけてはいない)
そのままコンテニューはクロードを中心に、五メートルを超えない範囲はきっちりと守ってぐるぐると回転しながら攻撃をする。しかも位置を特定しにくいように一定速度ではなく変化させ、クロードが少し動く度に修正をしていた。
姿は異能により見えていた。
(さて次はどう――っと)
――唐突に、クロードが凄まじいスピードで前方へと飛び出してきた。
「くっ……!」
少し予想外だった。
というよりも記憶外であった。
このタイミングで飛び出してくるとは。
苦しげな声を思わず上げてしまい、ジャスティスを慌てて横に転がす。
直後、周囲の白煙が霧散し、見晴らしのいい状態になった。
そんな中、中心にいるクロードは余裕の表情でこちらに近づいてきた。
『どうだ、コンテニュー。俺に勝てる見込みでもあるか?』
「……あったんだけどなあ」
何度もあった。
あったが、出来なかった。
『もう五〇回は勝っているんだけどなあ……』
五〇回から先は覚えていない。
ずっと、作業のようにしていた。
愚かな行為を続けていた。
もはや意味のないことだ。
本当だったら口にしなくてもいいことだ。
だけど――どうしても言いたかった。
負けていないんだぞ、と。
分からなくてもいい。
それは意味のない、意地なのだから。
『……そんな戯言を口にしてこちらを動揺させようとも無駄だ。お前は俺に勝てない』
「……そう……みたいですね……」
勝てない。
クロードには勝てない。
それでいい。
それが正史なのだ。
『――終わりだ』
その声と共に今まで緩慢な動作から急転して、クロードの姿が移動する。
移動先は、ジャスティスの真上だった。
カメラが無いけれど、彼が何をしようとしているのか、瞬時に分かった。
彼がいる所は――パイロット席の射出部
直後、ガギンという鈍い音が響く。
それはクロードが脱出口を使用できないように変形させた音であった。
『これでお前はここから出られなくなった。これで俺の勝ちだ――とは言わない。当然、このジャスティスも破壊する』
「……その通りの様ですね」
破壊される。
これでコンテニューとして、表舞台に立つのは終わりになる。
それは分かっていた。
その通りとしか返せない。
……だけど。
最後の最後まで、きちんと足掻いて見せる。
確実に――確実に計画を遂行する為、ギリギリまで声を張り上げる。
「……クロード・ディエル!」
渾身の力を込めて、コンテニューは発する。
スピーカーを通さなくても聞こえるような大声で発する。
それは、クロードに対しての願いであり、――命令であった。
「――僕を信じろ!」
その声と共に。
ジャスティスがバラバラにされるのが目の端で見え。
コンテニューは静かに目を閉じた。
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