第351話 真実 12

「何よこれ……」


 思わずへたり込んでしまった。

 文字通りに地面となったその場所に。

 既視感を覚える光景ではあった。

 見える建物。

 風景。

 だけどもそれら全ては、覚えのある光景とはほぼ遠く。

 全て焼き尽くされ、破壊され尽くしていた。


 そして……誰もいなかった。

 誰も居なかった。

 あれだけいた魔女のみんなの気配すら感じ取れなかった。


 一瞬でこのような状態になり得るはずがない。

 何かが起こったのは明白だった。

 でも何が起こったのか。

 その時の私は何も考えられなかった。

 ただひたすら、ふらふらと歩いた。

 進む度に、見たことがある光景が見たことない光景になっていることを痛感させられた。

 ここは自分が住んでいた、人里から離れた魔女の村。

 そうであるのは間違いない。

 間違い、ないのに――



「――……おいあんた!」



「……え?」


 悩みで周囲が見えていなかった為に急に声を掛けられて驚いた――ということもあったが、それよりも何よりも、聞き覚えのない声であったことが、私が声を上げてしまった要因だった。

 ハッと顔を上げると、すぐ傍には髭面の妙齢の男性がいた。

 やはり見覚えが無かった。

 加えて視覚情報から、その驚きは重ねられた。

 彼の手。

 そこに握られていたのは木製の柄の先に金属の大きな刃が付けられた物体――斧であった。

 斧。

 すなわり、それは魔女であれば持つ必要のない――武器であった。


「…………?」


 思わず言葉を漏らしてしまった。

 先にも述べたけれど、この村に一般人はいない。魔女だけしか住んでいない。結界みたいなのを張っていたのだろう、迷い込んでくることも無かった。

 だからこの時に、私は初めて魔女以外の人を生身で見たことになる。

 故にそう呟いてしまったのだ。


 そして――それがいけなかった。



「お前……か!?」



 目の前の男が鬼気迫る表情で叫び声を上げた。


 三年前?

 生き残り?


 気になる単語が耳に入った。

 だけどそれについて思考する暇もなく――



 次の瞬間。

 私の眼前には、彼の持っていた斧が迫っていた。





 ――だけど。

 衝撃を受けたと思ったその時。


「え……?」


 気が付けば目の前にあった斧は、その持ち主の男性ごと消え失せていた。

 そして、目の前の景色も変化していた。


 ――へと。



 ……そう、ここまで言えば判るわよね。

 私も今のあなたと同じような状態になったのよ。


 死んだら過去に戻される。


 死ななくても、選択肢を間違えると過去に戻される。

 死ぬことも出来ない。



 そんな状態を繰り返し、繰り返し、繰り返し――

 私は何百年も生きてきたのよ。

 実体感時間は何百年どころじゃない、永い時を。


 ずっと。

 ずっと。

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