第334話 クロード 03
「――いいでしょう」
正義を破壊するという宣言をしたクロードに対して、コンテニューは一つ笑みを浮かべた後にコクピットへと入って行く。
『こちらこそ、貴方の「正義」を破壊することになりますから覚悟してくださいね』
ジャスティスが動きを始める。
コンテニューのジャスティスは見た目は量産型と同等で、可翔翼ユニットもその背にはついていなく、どうやら獣型でもないらしい。
それでも何かあるのだろう、何せ相手はトリックスターの気のある人物なのだから――と警戒し、クロードは相手の出方を伺う。
二足歩行型ロボット対魔王。
久々となったその戦いは、長き会話の後、慎重な始まりを見せた。
――しかしながら。
「……」
『……』
あまりにも慎重すぎる戦いであった。
あちらも考えは同様なのか、動きを見せない。
数秒の睨み合いが続く。
その間にクロードは思考する。
思考して、気が付く。
(――また考えてしまっている)
戦闘前にあれだけ「何も考えない方が強い」とライトウ達に言っておきながらまたしても考え込んでしまっている。本当に悪い癖だ。
シンプルに考えろ。
ただ、目の前のジャスティスを破壊すればいいだけなのだ。
――圧倒的なこの力を使って。
故に。
先に一歩踏み出したのはクロードだった。
ゆっくりと一歩ずつ、ジャスティスとの距離を詰めていく。
その動きを見てだろう、コンテニューが操るジャスティスが銃弾を放ってくる。
しかしながら当然、その弾丸はクロードの身体を貫かない。
五メートル程手前で弾かれて他方へ飛んでいく。
『前と同じく、見えない盾、ですか』
その通り。
クロードは透明な盾を張っていた。
但し前回、アドアニアで戦った時とは少々違う。
「言っておくが、地雷とか無意味だぞ」
アドアニアの時は仕掛けられた地雷の爆風を回避する為に下方に盾を無理矢理生成し、上方が疎かになって銃弾で撃ち抜かれた。
だからこそクロードは反省を生かして、盾の生成方法を変更していた。
空気の盾は以前と同じでドーム状になっている。
そしてもう一つ。
『――地面を不動の盾に変化させたのですか』
「正解だ。察しがいいな」
その通り。
前回は地雷による爆風と高熱が地面から襲ってきたからこそ、対処しなくてはいけなかった。
ならば、爆風と高熱がこちらに向かってこないようにすればいい。
そう。
広大な地面の表層を硬質な盾として変化させることで。
足場としての役割も果たし、仮に地雷が埋められていても爆風や高熱はクロードまで襲いかかってこない。唯一は地面経由で温度が伝わってくることではあること音だけではあるが、それはある程度反応できる範囲だろう、そして口にすればあちらが爆破させることは無いだろう――という目論見であった。
『どちらにしろ地雷なんか観光地に仕掛けてある訳ないですけど――ね』
と、そこでコンテニューは真上に向かって一発放つ。
しかしながらクロードは反応しなかった。
――思考を読んでいた。
足元が駄目ならば次は上に向くように――という形であろう。
視線を上に向けた後に、相手がやることはただ一つだ。
直後。
真っ白い煙に辺りが包まれていた。
煙幕だ。ジャスティスの背部から射出されるのを、彼は目撃していた。
この煙幕の効果は二つある。
一つは自身の姿を隠す為。どこから攻撃してくるかが分からなくなる効果を狙っているのだろう。
もう一つは、クロードの空気の盾の弱点である、外部から取り込んで放出する空気穴を探す為。こればっかりは生命活動をしているが故に必要な要素となっている。
だからクロードは変化させた。
空気穴。
その位置は短い時間でランダムに位置が変更されるようにした。
カン、カン、と音が鳴る。
盾が銃弾を弾く音だ。四方八方から聞こえてくる。
「呆気ない結末で悪いが、もう終わらせてもらうぞ」
彼には既にコンテニューが搭乗するジャスティスの居場所が掴めていた。
ジャスティスは動作時にかなり静かだ。
だが、それは大型兵器の割に、という注釈が付く。
故に日頃からその振動音には耳を澄ませており、その変化については人一倍敏感であった。空気の盾は、音まで防いでいない。これも完全に主観によるモノであった。もしくはランダムに空気穴を移動させているのでそこから出入りしているのかもしれない。
いずれにしろ、クロードは聴覚によってジャスティスの位置を割り出していた。
相手はクロードを中心にぐるぐると回転して――しかも五メートルを超えない範囲はきっちりと守って――攻撃をしている。しかも一定速度ではなく変化させているので、位置は掴みにくいし、クロードが少し動く度に修正してくる。白煙の中でどのように把握しているのかは不明だが、先のアドアニアの戦いでも見えていたようなので、きっと科学局局長のセイレンが特殊な白煙と可視化できるモノでも作ったのであろう。そこについて考察していても無意味だ。
クロードは、すう、と息を大きく吸うと、一気に前方へと飛び出した。
『くっ……!』
途端に苦しげな声と共に、右方からガシャンという大きな音が聞こえた。察するにクロードの接近を悟って、横に慌てて転がったのであろう。
つまりは防御態勢だということだ。
そこを狙って、クロードは一時的に盾を解除し、周囲の白煙を霧散させる。
するとハッキリと、ジャスティスが横倒れになっているのが見えた。皮肉にも人間が倒れ込んだ時と同じ格好なのが、二足歩行型ロボットとしての完成度の高さが伺える。
しかしながら攻撃が出来る体勢ではないのは間違いない。
その様子にクロードは煽りの言葉を掛けながらゆっくりと歩み寄る。
「どうだ、コンテニュー。俺に勝てる見込みでもあるか?」
『……あったんだけどなあ』
答えた彼の声はひどく疲労し切っていた。ジャスティスは動き回っていたが、だからといって体力を使うモノではない。先の攻防でそこまで消耗する出来事も、ましてやまだ破壊行為を行っていないので命を削るようなこともしていないはずだ。
どうして彼は疲れているのか?
その答えを聞く前に――
『もう五〇回は勝っているんだけどなあ……』
「……」
負け惜しみ。
そのようにクロードは解釈した。
何故ならばこの戦闘でクロードが負けるどころか、ダメージを与えられるような機会すら生じていない程のあっという間の出来事であったのだ。
もしくはシミュレーション上での話であろう。
想像上での自分は勝っていた。
いずれにしろ、現実には手も足も出させていない。
「そんな戯言を口にしてこちらを動揺させようとも無駄だ。お前は俺に勝てない」
『……そう……みたいですね……』
息も絶え絶えに本当に悔しそうにそう言うコンテニュー。この人間の行動原理が全く理解出来ない。
だが、そこに頭を悩ます必要は――もうない。
「――終わりだ」
今まで緩慢な動作から急転して、一気にジャスティスの上へと移動した。
彼が乗っているのはジャスティスの中でも特別な場所。
――パイロット席の射出部であった。
アドアニアの戦いの際に、通常のジャスティスにはそのような脱出機構があることを知った。具体的な場所はカズマのジャスティスを見て知った。
だから、他に脱出機構が無いことも知っていた。
直後、ガギンという鈍い音が響く。
クロードが脱出口を使用できないように変形させた音であった。
「これでお前はここから出られなくなった。これで俺の勝ちだ――とは言わない。当然、このジャスティスも破壊する」
『……その通りの様ですね』
諦めの混じった、先と変わらぬ疲れ切っている声。
つい数分前にクロードに大見得切っていた人物と同一人物だとは思えない。
あまりにも困惑させる要素ばかり。
それもこれで終わりだ。
いつものようにジャスティスを砕け散らせるように意識を集中させた瞬間――
『……クロード・ディエル!』
正に最後の瞬間であろう、その時。
コンテニューは命乞いでもなく。
ましてや打開策でもなく。
こう言い放ったのだった。
『――僕を信じろ!』
その声と共に。
クロードの足元のジャスティスがバラバラに砕け散った。
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