ミューズ

第318話 ミューズ 01

    ◆ミューズ



 あたしという存在は何だろう?


 最近、よく考えるようになった。

 物心ついたころには既に孤児院にいて、そこからの記憶しか覚えていない。

 それでも、記憶の隅に焼き付いているモノもある。

 それが白衣だ。

 あたしは普段の恰好は白衣だ。幼い頃から真っ白な服が好きだったが、シンプルなこの恰好を好んでいた。

 理由は技術者っぽいと思ったからだ。

 だけどきっと、それだけではない。

 多分、記憶の隅にあった母親の姿をも思い出していたからだろう。

 ずっと白衣だった母親。

 薄らと記憶にあるその姿。

 きっとそれが影響しているのだろう。

 そんな薄い記憶の母親と同じ格好をしていたのは、やはり母が恋しかったからだろう。

 家族が恋しかったからだろう。

 意識はしていなかったが、今考えるとそうとしか思えない。

 本当に笑える話だ。

 そんな幻想にも近い形にすがって、結局はルード国の科学局局長のマッドサイエンティストで、娘を捨てるのは当たり前の性格破綻者であったのだから。

 正直に言おう。

 あたしはそんな母親がいるということがあったので、ライトウやカズマ、アレインやコズエ程、施設の人達に家族とまでの感情を持っていなかった。

 だから施設が襲撃された際にたくさんの人を亡くしたけれども、怒りや復讐の感情は他の人達に比べて薄かったのだと思う。

 はっきり言って他人への興味というのはほとんどなかった。

 冷めた子だったと思う。

 だけど表面上はみんなと仲良くしていた風を取っていた。

 偽りの子だった。

 だけど。

 一人だけ、そこに割り込んでくれた人がいた。

 最初に意識したのはいつだろうか。

 覚えがない。

 気が付いたらあたしの中に巣くっていて、いつの間にやらどんどん領域を占めてきて。

 結果、大好きになってきた。

 だから、今のあたしという存在は、彼という存在で出来ているんじゃないかと思っている。



 そう。

 それこそ、自分の命よりも大切な――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る