第303話 決戦 14
◆ミューズ ――軍本部情報室
「……何をしたっすか?」
耳元のインカムから流れ出てくる阿鼻叫喚にも近い報告の内容に、ミューズは画面越しのセイレンに問いを投げる。
『んー? ジャスティスが動かないとかそんなのが来たのかなー?』
「分かっているじゃないすか。何をしたっすか?」
『何よー。あたしの所為だっていうのー? あたしゃ何にもしているわよー』
「嘘を……って、しているじゃないっすか!」
『にゃはは』
子供のように愉快に笑うセイレン。これが本当に自分の母親なのか、ということと先の質問に対する回答に、ミューズは二重で頭が痛くなって額を押さえる。
そんな様子も見えているのだろう、セイレンは更に煽るような口調で続けてくる。
『あっれー? もしかして考えてもいなかったのー? ジャスティスに反逆されたらどうしようもないからジャマーを――こういう緊急停止の手段は持っておくべきに決まっているじゃないー』
「……そんなの当たり前に想定していたに決まっているじゃないっすか」
悔し紛れではなく、実際に想定はしていた。
だが、色々と予想外だった。
「だけどまさか主要部だけではなく――カーヴァンクル全体に効力を発するとは思っていなかったっす」
『カーヴァンクルが円状だからちょうど出来たようなものよん。――ま、でも、本当に想定外だったのはそっちじゃないでしょー?』
ひひひと笑ってセイレンは告げる。
『ジャマーの効力は「命を使うというジャスティスの燃料を断ち切る」構造だと思っていたんじゃないのー? だからウルジス国の偽物ジャスティスには効力を発揮されないってねー』
「それじゃあ……」
『そうよん。あのジャマーは「燃料から操作系に至る所までの機構をシャットダウンする」だけだからねー。そこは同じだったようねー』
やはりそこか――とミューズは奥歯を噛みしめる。
カズマの操るジャスティス、ならびにウルジスの模造ジャスティスの中身をある程度把握はしていたが、その中で構造に理解が出来ない部分があった。
その一つが、操作をした際に燃料を用いて動かす機構であった。
ソフト、ハード共に複雑に絡み合っており、下手にいじると動かなくなってしまう恐れがあったためにそのままに設計したのだな、と思えるものだった。
『というかあたしだって命を燃料にする方法なんて分からないしねー。あれはいじれないわー』
「……え?」
『あれは完全にオーパーツよー。まー、どっかの魔女が遊び半分で作ったんじゃないかなー。そっから構造を丸パクリして量産しただけだしねー』
俄かには信じられないが、命を燃料に置換する方法についてはミューズも分かっていなかった。内部に小さな箱のようなモノがそれだということには分かっていたが、どうやって開けるのかも分からないので、先のと同じように解析を諦めていたのだ。
セイレンでさえ分からなかった、というのが真実がどうか分からない。だったらどうやって量産しているのだという疑問も湧く。
しかしながら問題はそこではない。
「っ!」
ミューズは急いで打鍵を開始する。
彼女は気が付いた。
耳元で響く阿鼻叫喚。
それはジャスティスを制止させられ、一般兵に乗り込まれた――などという被害ではない。
動いているのだ。
ジャスティスを止められている中で、ただ一つの存在。
「供給構造を変えたっすね? あの――獣型ジャスティスだけ」
『だいせーいかーい。と、ポチッとな』
――ブン。
一瞬にして全ての画面がブラックアウトした。かろうじてミューズの手元のパソコンだけは様々な外部からの不正アクセスに対して策を講じていたので同じ画面を映し続けている。
しかしながら同時に、ミューズの耳元のインカムから音も聞こえなくなった。
それは勿論、セイレンが何かしたに違いない。
『じゃあ我が愛しくない娘よ。また勝負をしようじゃないかー』
「……勝負?」
『そう。あのアドアニアの時と同じようにねー。さあ画面をご覧くださいなー』
その言葉と共にブラックアウトした画面に、文章が表示される。
ちらと一瞥し、ミューズは首を横に振る。
「ルード語で書かれても読めないっす。口で言ってくれっす」
『あらそうなのー勉強不足ねー』
「自分の国の言葉は理解して当然だっていう発想が傲慢っすよね」
『あー、それが言いたいだけだったのね』
図星だ。
本当はミューズはルード語を読むことは出来たのだが、セイレンの手を煩わせてやろうとわざとああ言ったのだ。
『まあどっちにしろいいわー。じゃあ口頭で伝えて上げるわー』
全く気にした様子もなく、セイレンは告げる。
『ミューズちゃんの挑戦。
一つ、ジャスティスの動きを止めているジャマーの解除。
二つ、『正義の破壊者』の通信を妨げている妨害電波の解除。
三つ、その部屋の通気ダクトにこれから入ってくる毒ガスの解除。
制限時間―― 一五分』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます