第248話 開発 13

「そうよーん。だって新しい物事は最初に試したいでしょー? 自分が最初に乗らないとねー」


 事もなげに彼女はそう言う。


「パイロットでもないのに、しかも危険だと分かっているのに乗ったのですか?」

「危険かどうか分からないじゃないのー。で、結局あたしはこうして無事なわけだしー」

「相も変わらず狂っていますね。よく耐えられましたね」

「だって心の攻撃じゃないー。肉体的な攻撃じゃないことは確定していたしー。というかそんなの作らないしー」

「そうでしたね。貴方は開発者でしたね」

「そうよー。それに大したことは無かったじゃないー」

「……大したことない?」

「あんな恨み言なんてしねー。普通のジャスティス作る時も毎回あんな感じよー」


 あははー、と笑う彼女。

 その様子に変わった所はない。

 ――


「変わらないですね、貴方は」

「むー、それは容姿が変わらないってことー? 普通の女性には良いことだけどあたしゃ怒るわよー」

「全然気にしていないじゃないですか」

「まあねー。どうでもいいしねー、容姿なんてー……と、容姿といえばコンテニューちゃんはいい感じに成長したわよねー」

「どうも」

「最初に出会った時は、ばぶばぶー、って言っていたのにねえー」

「……………………それ、本気で言っていますか?」

「にゃはははは! 冗談だよーん。だからそんなに怒らないでよー」

「怒っていませんよ。ほら、笑っているじゃないですか」

「コンテニューちゃんの笑顔は怖いのよー。あーこわー」


 きゃー、と諸手を上げてふざけるセイレン。

 ――その顔をどれだけ殴りつけたくなったか。

 内心だけで留め、コンテニューは笑顔のまま問う。


「貴方に目を付けられた少女は非道な目に遭って、パイロットとなってその訓練の厳しさから記憶と感情を無くしたのですか?」

「語弊があるわねー。別にパイロット訓練でそうなったわけじゃないわよー」


 ぷくっと頬を膨らませ、セイレンは言う。


「あの子は最初にジャスティスに乗った直後から記憶を無くして、死んだ魚のような目になっていたのよー。むしろパイロット訓練の方は丈夫なくらいだったわよー」

「丈夫だった?」

「あの緑色のジャスティスは見たと思うけど獣型に変形するからねー。で、パイロット席はそりゃぐりゅんぐりゅんするのよー」

「体に負荷がかなり掛かりそうですね」

「そうなのよー。アリエッタちゃんは慣れるのに苦労していたわー。でも、あの子――マリーちゃんはすいすいとカリキュラムをこなしていたわよー。おおよそを持っているのねー」

「……丈夫、とは?」

「文字通りよー。あたしの予想は当たっていたってことねー」


 彼女は自分の左胸を親指で指差す。


「魔王にとって彼女は大切な存在だったのねー。だから銃で撃っていかにも関係無いようにさせたー。でもその時に生命力の底上げでもしたのでしょうねー。生き残らせるためにー」

「……それが後の彼女の丈夫さに繋がった、と?」

「だって普通の女の子があんな怨嗟の声に耐えられたりパイロット訓練に耐えられたりするわけないじゃないー。ってことは彼女の心を壊してでも身体は耐えてしまう構造だってことなのよー」

「……魔王の所為で意図せずそうなった、と」

「不幸ねー。本当不幸ねー」


 あははと笑い飛ばすセイレン。その態度にも非常に腹が立ったが、それにいちいち角を立てては収まらない。この人物はずっとこうなのだから。


「……魔王も予想外でしょうね。守るためにしたことが、貴方のようなのに見つかってしまって死よりも辛いことを受けさせてしまうことになるとは。何にも後先考えていないで能力を使えばこういう代償が訪れてしまう」

「むむむー? まるで魔王がそう思っているかのような真剣な言葉ねー? まさか魔王の方に感情移入しちゃったー?」

「……」


 一拍置き、コンテニューは微笑みを深くし、敢えて嫌味も込めてこう言い放つ。


「あははー。そうだったわねー。唯一、魔王に土を付けたコンテニューちゃんにしか言えないセリフよねー」


 彼のことを知りつくし、彼の弱点をついて、彼に攻撃を通した。

 その実績があること知っているセイレンは当然、額面通りに言葉を捕えない。


 ――しかし。

 それをその通りに受け取ってしまった人物がいた。



「魔王ヲ……知ッテイル……?」



 心臓が止まりそうになった。

 あまりにも気配を感じず。

 あまりにも無警戒な所に。

 唐突に背部から声が聞こえたからだ。

 コンテニューは思わず振り返る。


「魔王ヲ……クロード・ディエルのコとヲ知ってイルノ……?」


 パイロットスーツに身を包んだ紅い髪の少女。

 マリー・ミュートがそこにいた。

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