第247話 開発 12

    ◆




「――以上が、マリーちゃんがパイロットになった経緯よー」


 ぱちぱち、と手を叩きながらセイレンは嬉しそうに言う。

 そんな彼女に向かって、コンテニューは笑顔で一言。


「鬼畜ですね」

「いやーん。褒めないでよー照れるでしょー」

「本気でそう言っているのが恐ろしいですね」


 はあ、と一つ息を吐き、彼は告げる。


「貴方の話を聞いて得心が行きましたよ」

「ん? 何かあったの?」

「とある日にアドアニアで『娘をどこにやったの!? 連れ去った娘を返して!』と喚き立てる女性が軍の受付に来ましたからね。全く身に覚えがなかったので受付の子も困っていましたよ。僕が通らなかったらどうしようもなかったと思いますよ」

「そうなのー? 迷惑をかけたわねー。で、その女性をどうしたの?」


「静かな場所に行ってもらいましたよ。――に、ね」


「鬼畜ねー」

「貴方に言われたくないですよ」

「えーなんでよー」


 唇を尖らせて文句を言うセイレン。が、彼女はすぐにパッと顔を輝かせて、


「まあいいやー。じゃあ次はアリエッタちゃんを開発した――」

「あ、それは興味ないのでいいです」

「えー?」

「だってどうせ犯罪者集団の中にいて、もう一機の緑色のジャスティスに乗って意識を保っていたから、っていうお話でしょう?」

「んー、まあ、端的に言うとそうなるわねー。あっちは最初の方よりも半分くらいの命しか使っていなかったとかあったけど……あ、この話はつまらないわねー」


 話している途中で気が付いたのだろう、セイレンは少しトーンダウンする。

 が、彼女はすぐに顔を上げ、


「でもでもー、じゃあアリエッタちゃんがパイロット適性があると分かってから――」

のですよね?」

「……むー」


 頬を膨らませるセイレン。


「何で当てちゃうのよー。ミステリーの犯人を言い当てられた気分だわー」

「貴方の行動から容易に想像が付きますよ。パイロット適性がなかったら死ぬ、っていうこともご丁寧に言っていましたし」

「あちゃー。ばれちゃったかー。伏線だったんだけどねー」


 あっはっはー、と笑い声を上げるセイレン。

 しかしそれに対してコンテニューは、笑顔のままではあるが視線は鋭く射抜くように彼女に向ける。


「そういえば、一つ確認したいことがあるんですが、いいですか?」

「なになにー」

「先程まで語っていたのは、貴方の回想ですよね?」

「うん。そうだよー」

「だったら何故――『』という所まで貴方が語れるのですか?」

「ああ、あれ?」


 にっしっしとセイレンは意地悪く笑う。


「あれはあたしの想像だからねー。彼女の気持ちは完全に想像よー」


「……想像?」

「そうよー。彼女に聞くこととか出来る訳ないじゃなーい。さっきも言ったけど彼女には全部の記憶をショックで無くしたんだしー。まー、あの出力上げたがゆえにパイロット席へと流れ込んできちゃっているあの声を聞いて正気を保ってられる方が珍しいでしょー?」

「……ちょっと待ってください。さっき感じた嫌な予感が当たりそうです」


 コンテニューは額に手を当てながら訊ねる。


「あの怨嗟の声ですが、妙に表現が生々しかったですね。想像にしては」

「まあねー。だって――」


 セイレンは唇をぺろりと舐め、告げる。


しねー」


「……やはりそうですか」


 そうよーん、と無邪気に笑うセイレン。

 そんな彼女の様子に内心で信じられないと呟いてから、コンテニューは口に出して彼女に問い掛ける。

 あれほど客観的に聞いていても気分が悪くなる、気が狂いそうな声。

 助けを求める無数の声。



「貴方――実際にパイロット席に乗ってその声を聞いたことがあるのですね?」

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