第226話 敗退 02
◆
アドアニアでの戦闘が終わってから一週間が経過した。
未だに世間はアドアニアでの『正義の破壊者』とルード国の戦いについていい意味でも悪い意味でも盛り上がっていた。連日のニュースでも取り上げられ、ネット上でも議論を醸し出していた。
その話題の中心となっているのは勿論、『正義の破壊者』についてだ。
「……」
その組織の幹部であるミューズは、険しい表情であった。
彼女がいるのは、アドアニア国とはさほど離れていない国にある、とある一軒家の一室。
いつものように白衣を着こんだ彼女は、膝に乗せたノートパソコンの画面を睨み付けていた。
そこに映っていたのは、ライトウがアドアニアの建造物を破壊している画像と、その下にあるコメントの数々だ。クロードの能力で様々な言語を聞き、話し、そして読むことが出来るようになったので世界中から情報を得ることも可能となっていた。
故に知ってしまった。
全世界でとんでもないことが起きているということが。
『正義の破壊者』に対する誹謗中傷が連なられている一方で、アドアニアが提示してきた画像が偽物であると指摘する声もあった。だがその意見は「ならば嘘だという証拠を出せ」という一言で封殺されてしまっていた。
封殺される原因はただ一つ。
あまりにも大規模なのに、実際に戦闘を行った『正義の破壊者』側から反証となるモノが一切出てこないからだ。
これだけ一方的に言われて反論しなければ、世間の風向きは『正義の破壊者』に非があったかのように変わってきてしまう。
すると生まれてくるのが――裏切りだ。
今までの快進撃故に『正義の破壊者』が敗北した事実からルード国に情報を売ったり軍門に下ったりという人物がいたことは容易に想像が付く。
しかし、『正義の破壊者』は裏切りを許さない。
『正義の破壊者』に害ある行動を所属員が取れば、それは死に直結する。
それは悪意ある風評被害の流布も含まれる。
その為、ネット上の書き込みが急に途絶えることがあり、いつしかそれらは意図しない方向で『正義の破壊者』に不利な方向に世論が誘導される。
「……きついっすね」
その世論を様々な方法で変えようと試みていたミューズだったが、彼女は目元を押さえて上を向き、大きく息を吐く。
一週間経っても、彼女は戦いを未だに続けていた。
情報戦で後れを取り、反証材料を手に入れられなかったのは彼女の責だ。
故にその状況を逆転しようと頑張っていたのだが、やはりハンデは大きすぎた。
と、天を仰いでいたその時に、隣室の扉が開いた。
そこから顔を出したのは、白衣を着た短髪の女性だった。
彼女は医者だった。
「先生、今日もありがとうございます」
「ん」
立ち上がって頭を下げたミューズに対して、彼女は白衣のポケットに突っ込んでいた片手を挙げて応える。
「というか昨日と変わらんので礼を言われる筋合いはないわ」
「いえいえ。二人を診ていただいて本当に助かっているっす」
「あんただって白衣着ているんだから診れると思うよ」
「あたしは理系的な意味での白衣着ているだけで、医療関係はさっぱりなんすよ」
苦笑した後、ミューズは表情を引き締める。
「昨日と変わらない、ってことはやっぱり……」
「ああ。そうだ。魔王――おっと、患者だからきちんと名前で言おうか」
医者は短く息を吐いて告げる。
「クロード・ディエルの意識は未だに戻っていないよ」
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