第194話 乱戦 05

    ◆ライトウ



「――これで三機」


 ライトウは目の前のジャスティスの腹部を横薙ぎして分離させる。その前に既に両手両足を切り落として動けなくした状態にした上での一閃であったが。

 いつも通り。

 むしろいつもより弱いとさえ感じてしまう。

 耳元のインカムに手を添え、ライトウは問い掛ける。


「次は何処だ?」

『一〇〇メートル前方くらいっす。あとはその一機だけっす』

「……カズマはもう四機破壊したのか」


 可翔翼ユニットで移動する機体が上空にちらと時折見えたが、やはりあの圧倒的な機動力と自らの足とは格段にスピードの違いを実感する。

 ――そのことについて劣等感や嫉妬を覚えている暇はない。


『ライトウの方が近いっす。なのでお願いっす』

「了解した」


 ライトウはグッと足に力を入れ、前方へと駆けて――いや、途中に停車している車を踏み越え渡っているので、傍から見れば走るというより飛んでいるように見える進み方だった。実際に窓枠などを踏んでどんどん上方向へと身体は移動していた。

 やがてライトウは銃声が鳴り響く路地の上部に辿り着く。

 そこでは一機のジャスティスの姿があり、対面には戦車が鎮座していた。この戦車は『正義の破壊者』のものであるのは間違いない。彼らも路地を通して必死にジャスティスと戦闘していた。

 奮闘はしているもの、ジャスティスは戦車の砲撃を受けても全く効果がある様子を見せておらず、足止めすらできずにあっという間に戦車との距離を詰められ、持っていた剣で分厚い鉄の装甲を突き破られていた。

 全く歯が立っていない。


(――それもここまでだ)


 ライトウは上部から真っ直ぐにそのジャスティス目掛けて刀を向けながら降下する。


 ――だが。

 唐突にジャスティスは上部にその顔を向け、持っていた剣を上部に掲げた。


「読まれたっ!?」


 ライトウの顔が焦りで引きつる。

 彼の刀はジャスティスを一閃するモノだが、しかし、相手ジャスティスが持つ剣を真っ二つにすることが出来ない。

 故に彼の攻撃はこのままでは通らない。


(――どうする!?)


 狭い路地裏とはいえ、真上から重力を受けて落下している。壁を蹴って方向を変えるには壁までの距離が遠すぎるので足が届かない。加えて、刀を突き刺せるような距離でもないので、建物を利用したブレーキを掛けることは難しいだろう。

 ならば一度相手の攻撃を受けて地面に着地するか?

 ――それも出来ない。

 何故ならばこちらは支えるモノが無いのに、相手は何よりも丈夫な足場を持っている。

 地球。

 地面。

 故に空中のライトウが押し負けることが確定事項となる。


(どうする――)


 先と同じ言葉を改めて頭に浮かべた。

 ――その瞬間だった。


 耳を思わず覆いたくなるような爆発音に近い大きな音と共に横のビルから巨大な黒い右腕が伸びてきて、ライトウの真下にいたジャスティスの首をもぎ取って行った。


 あっという間の出来事だった。

 何が起きたのかを脳が理解出来なかった。


 ジャスティスの左右には壁しかなかったはずだった。

 それなのに――このジャスティスは何処から来た?


『危ない所だったね、ライトウ』

「カズマか!?」

『そうだよ』


 カズマの声。

 このジャスティスはカズマのだった。

 ライトウは彼のジャスティスが差し出した左手の上に着地する。


『さあ、離脱するよ』


 その声はとても落ち着いていた。

 落ち着いていることが異常だと感じた。

 異常であったが故に気が付けた。



 カズマは――のだった。

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