外伝 戦場 08
「……いや、ちょっと待って。何さ、あれ。ちょっと有り得ないんじゃないの?」
有り得ない。
セイレンが口に出した言葉は本音だった。
「だってあれ――完全に対ジャスティスを想定した動きじゃない」
今回初めて実戦投入したジャスティス。
当然、戦闘経験などない。
加えて奪い去った相手なんかには操縦経験すらないはずだ。
「いったい誰が入っているのよ……っ」
ぞくり、と背筋が震えた。
ジャスティスにはパイロットと呼べる者はおらず、開発部の人間が乗っていた。それでも、搭乗経験はそこら辺の人間とは段違いに持っている。
にもかかわらず、あのパイロットはその誰よりも明らかに経験している動きをしている。
未知の領域。
有り得ない状況。
そんな中、彼女は震えた唇でこう言葉を紡いだ。
「欲しい……欲しいわ、あのパイロット……ッ」
いつもの飄々とした幼い女性の様相は無く。
紅潮させたその表情は、色気すら感じられた。
彼女が感じていたのは恐怖でも、苛立ちでもなく――恍惚だった。
経験者を凌駕する「初心者」。
パイロット適性など関係ないように作成した機体で、あれだけの差を見せつける存在。
いったいどんな人物なのだろう。
何故だろう。
そんな好奇心が彼女の足を前に運ぼうとする。
だが、そんな必要はなかった。
駆けだす前に、残った一機のジャスティスは彼女の目の前までやってきたからだ。
その間にいた一般兵や一般兵器は既に一掃されている。
もはや誰もそのジャスティスに攻撃をしていない。
いや、攻撃を仕掛ける人がいないのかもしれない。
ジャスティスが目の前に来てその剣を振り上げた。
このままでは彼女も他の兵士同様一刀両断される。
その先の未来まで見えない。
――はずなのに。
剣が振り下ろされる瞬間まで彼女は不敵な笑みを崩さなかった。
じっ、観察するようにぶれない瞳とぶれない笑み。
しかしそれは好奇心が恐怖を上回ったからではない。
その理由はすぐに分かった。
「はい、どうもー」
ピタリ、と。
彼女の声と同時に、相手のジャスティスの動きが止まった。
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