Justice Breaker 外伝 「"Continue" Story」

プロローグ

外伝 プロローグ

 戦場にて咲きし花は、やがて死せり。



 逃げ惑うことが出来ない花は蹂躙され、その命を落としてしまう。

 それは爆撃だけではなく、逃げ惑う人々によって踏みつぶされることも多い。

 人々は上を見る。

 前を見る。

 下など見ない。

 だからいとも簡単に踏みつぶす。

 花壇に綺麗に植えられた花も。

 野に咲いた泥にまみれた花も。

 同じように踏まれ、その命を落としていく。

 無情にもその花の命を弔う人などいない。

 散った花は散ったまま、誰の記憶にも残らない。

 平和であったならば想う人はいただろうに。

 花を愛でる心は、結局は心の余裕がある時にしか出来ないということだ。

 花であってもそうなのだから、人間であっても同じだ。

 自分の命の危機が迫っている中で他人を構っている暇などない。

 ましてや他人の子供など眼中に入らないだろう。

 泣き叫び、その存在をアピールした所で誰も気が付かない。

 気が付かない振りをする。

 砲弾で耳をやられた振りをする。

 銃撃音で聞こえない振りをする。

 阿鼻叫喚が多すぎて分からない振りをする。

 戦場というのはそういうものだ。

 誰も彼もが生き残ることに必死だ。

 死という恐怖が身近に迫っている中での思考など、誰も普段は分からないし、責めるつもりなどない。

 仕方がないのだ。

 自分だってそうする。


 周囲の人間、知っている人間は助けようと思うが、他の大多数の人間の命なんて知ったことではない。

 周囲の人間さえ幸せならばどうでもいい。

 自分達がハッピーエンドになる為ならば、他の人間のバッドエンドでも構わない。


 この世の中は理不尽だ。

 戦場のど真ん中で生身の人間はあまりにも無力だ。

 銃弾を受けても死ぬ。

 爆撃を受けても死ぬ。

 本当に脆い生き物だ。

 武力を持たない人間が立ち止まったまま生き残るなんてほとんど不可能だ。

 走れ。

 逃げろ。

 生存本能が離脱を促す。

 留まることはない。

 留まることをしてはいけない。

 それが戦場だ。

 蹂躙し、蹂躙される。

 理不尽な輪廻は、戦争が行われている限り続いていく。

 戦争がある限り戦場は必ずある。




「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」




 そんな戦場のど真ん中で――その人物は生まれた。


 産声ではない。

 絶望に叫んだ――絶叫ではあった。

 だが間違いなく、この場に誕生した瞬間だった。


 涙が出ているのか。

 どうして叫んでいるのだろう。

 何故ここにいるのだろう。

 ――色々な考えや疑問がぐるぐると内部で渦巻く。


 やがて、どれくらい叫んだのだろうか。


「……そういう、ことか」


 頭もスッキリし、思考も落ち着いてきた所で彼は呟く。

 ずっと無防備に立つ尽くして彼はようやく自分が戦場のど真ん中にいることを改めて認識する。

 しかし、慟哭の間、銃撃や砲撃で命を落としていないのは幸運だったなと今更ながらに感嘆する。


「何もしていなかったからな、僕は。……いや……僕? ……俺? ……まあ、いいや。僕にしておこうか。いや――しておきましょうか」


 砲弾が飛び交い、銃声が鳴り響く戦場のど真ん中で未だに混乱しているのか、そんな場外れな言葉を口にする。

 と、そこで近くに落ちていた割れた鏡が目に入った。

 その反射により、自分の姿を認識する。

 無理矢理認識する。

 そして自覚する。

 自分は十台前半の少年であるということを。

 そして、その容姿には特徴があるということを。


 金色。

 碧眼。


 そんな容姿についても、自分のものじゃないように感じていた。

 少年には、自分の目に映っている自分が他人のように見えていた。

 加えて、この少年が何故こんな戦場のど真ん中という場所にいるのかも全く分からなかった。

 故に『生まれた』と表現したのだ。

 だが、覚えていることもいくつかある。

 名前だって憶えていた。


「――コンテニュー」


 コンテニュー。

 ウルジス語で『続く』という意味の言葉。

 それが少年の名前。



 革命歴 一七二年。

 魔王クロードが現れる時から八年前。



 後の陸軍元帥・コンテニューの物語が産声を上げたのだった。

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