第155話 空戦 13

    ◆



「さて、と」


 全てを見届けた後、カズマは可翔翼ユニットを起動するボタンを押して再び浮遊を開始し、空中に投げ出されたライトウを柔らかに手で受け止める。


『ナイスキャッチだ、カズマ』

「お疲れ様、ライトウ」


 徐々に高度を下げていく機体の上に乗ったライトウとインカムを通して会話をする。


 燃料を少なくされていたのは予想が付いていた。

 その上で、相手の策に嵌った振りをしていたのだ。


「どうだった? 僕の演技?」

『鬼気迫っていたな。本当に燃料が無くなったかと思ったぞ』

「ま、それだけはないようにしたから大丈夫だよ。――それより、ライトウ大丈夫だった? いろいろ振り回したりしたし、高度も今も結構高いよ?」

『ああ。それはクロードにお願いしたおかげで全然大丈夫だった』


 ライトウがクロードに依頼したこと。

 それは――『大気圧に耐えられる体にしてくれ』ということだった。


『しかしクロードは凄いな。大気圧どころか空気圧や風圧、酸素の薄さや気温変化まで何一つ不具合なことは起きていない』

「それ全部変化させたんだっけ?」

『そうだ。クロードの提案でな』

「もうそれ最強ボディじゃない?」

『分からないな、正直』

「あと、ずっと背中にいたと思うけど、それも大丈夫だったの?」


 カズマは途中で一度、地上に降りていた。

 その際にライトウを乗せ、そこから彼はずっと背中にしがみついていた形になっていた。


『ああ。機能に影響ない部分に刀を差してずっとそこでしがみついていたからな。可翔翼ユニットの熱とかもさっきの外気温変化と同じように何もなかった』

「もう最強じゃないか。色々な意味で」

『どうだか。クロードには及ばないと思うがな』

「ですね」


 そこで二人は笑い合った。


 ヨモツ・サラヒカ。

 孤児院の人達を殺戮せしめた張本人。

 その恨みを一番持っているのは、ライトウだ。

 だからライトウにできればその役目を譲りたかった。

 結果的に上手く言ってよかったが、勝率は決して高い作戦ではなかった。


 加えて。

 敢えて二人は言わなかった。

 とある言葉を。

かたきを取った」という言葉を。


 相手を殺しても何も変わらない。

 いなくなった人間が戻ってくるわけでもない。


 ならばそこで満足感を得ても仕方ない。


 あくまで彼らは貫き通した。

 これは復讐である。


 だが個人への復讐ではない。


 ヨモツも含めた、ジャスティスへの復讐だ。


 だからこそ、まだ復讐は終わっていない。

 彼らの役目はまだ終えていない。


 彼らは『正義の破壊者』。


 例え憎き敵を討ち取っても。

 彼らの戦いはまだ続く。


『……すまん。一つだけ言わせてくれ』


 ――それが分かっていても。

 ライトウは一つだけ言いたかった。


「いいよ。ここには僕だけしかいませんから。聞かなかった振りをしておくよ」

『すまない』


 お互いの決意を知った上で。

 ライトウは震えた声で絞り出す。




『父さん、母さん、ブライ、施設のみんな――兄ちゃんはやったよ』

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