第137話 交渉 16

    ◆



 この後、ウルジス国に対して、クロードが下した命は一つ。


 全国民に対して、『赤い液体』を飲む様に伝えること。

 その際、『正義の破壊者』の不利益になる行動を起こす、または犯罪行為を行えば命を落とすという『赤い液体』の効用についても説明するよう、また飲まない人に対してはやましいことを考えている犯罪者である、という注釈もつけた上で喧伝するようにも伝えた。

 更にもう一つ、加えたことがある。

 それは『飲んでいない人間に対しての犯罪行為については効力の対象外とする』ということである。このことはつまりは飲まない人間が飲んだ人間に対して優位性を持つことは無い、むしろ損だということを伝えている。唯一、飲んでいないのに飲んだと虚偽することを恐れ『赤い液体』については余分に所持することを許し、飲んだ飲んでいないで揉めた場合はその液体をその場で飲む、飲ませるという解決手段を取らせた。無味無臭で赤い液体を製造することは極めて難しい為、その行為は大いに信頼性があった。

 また『赤い液体』については『正義の破壊者』側で大量に用意した。予備も含めて膨大な数であったが、クロードの一部から取っているだけでかなりの微小単位でも可能だったので、ほとんど既存の液体を再度薄めることによってそれを用意することが出来た。クロードの手によって、新たな素材を提供する必要もなく増殖させられる技術を事前にしておいたのも功を奏した。今更ながら、クロードの身体を離れればそれは『クロードそのもの――同一である』という能力阻害条件を満たさないらしいので能力の対象内となっており、だが『効果範囲はクロードの一部なので広がる』という扱いになるという非常に都合の良いモノになっていた。この原理については色々と考えるのを止めていた。分かりもしないし、誰も証明できない。


 閑話休題。


 このような御触れが出て、市民は多数の感情に巻き込まれながらもその液体を飲んだ。実際に飲んでもやましいことが無ければ大した効果が無いため、人々はほとんど抵抗しないで口にした。当初は飲まない人もいたが、周囲から犯罪者のような扱いを受けたために、結局は渋々口にしていった。



 こうしてあっという間に。

 ウルジス国はほぼ全国民が『正義の破壊者』に属することとなった。

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