番外編 聖夜

番外編 聖夜 01

※クリスマス企画 番外編です。

 本編に何ら関係あるかもないかもわかりません。



     ◆



「クリスマスって何なんだ?」



 冷たい風が肌を撫ぜるようになった季節。

 いつものように『正義の破壊者』の六人全員での会議が終わってそれぞれの個室に戻ろうかというその時、クロードはとある人物に呼び止められ、文脈も何もなく唐突にそう訊ねられた。

 クロードはその人物に対して眉間に皺を寄せる。


「クリスマス、っていう行事については知ってはいるが……ライトウ、お前の口からその単語が出てくるのが意外だぞ」

「意外なのか?」

「意外すぎるぞ。というか知らないのか? 知っていて煽っていたと思ったが」

「すまないがふと耳にしただけなんだ。何やら女の子にプレゼントをあげる行事だと聞いている」

「合っているか合っていないか微妙な話しだな、おい」


 どこからそんな話を訊いたのだろうか、と突っ込もうとしたのだが、しかしそこで言葉が詰まる。


「どうした?」

「あ、いや、どう説明したらいいものかと思ってな。……クリスマスって何だ?」

「俺がそれを聞いているんだが」

「そうだよな。すまない」


 クロードは数瞬の逡巡の後、言葉を選ぶようにして答える。


「女の子にプレゼントをあげていちゃつく日のことを差す」

「……そういう日なのか?」

「嘘は付いていない」


 本当だとも言っていないが。


「で、急にどうしたんだ?」

「いや、プレゼントをあげる日と聞いて、少し落ち着いた今だからこそ、感謝の意を伝えるべきだと思ってな」

「で、その後にいちゃつきたいと」

「そこは知らなかったんだ! だからアレインといちゃつきたいと思ってなどいない!」


 ライトウが顔を赤くして抗議する。

 そしてクロードは、彼の発言にあったとある言葉を聞き逃さなかった。


「ほほう。アレインとか」

「なっ!」

「アレインに何をプレゼントすべきか、悩んでいたということだな?」

「い、いやだからな? その、アレインだけじゃなくてミューズやコズエもだな……」


「――コズエに何か用ですか?」


 ぬっ、と何処からともなくと言った様子で現れた一つの影。


「う、うわっカズマ!? いつからいたんだ?」

「ついさっきですよ。コズエに何か渡すんですか?」


 純真無垢そうな少年は首を捻る。


「コズエの誕生日はまだですし、何があるんです?」

「クリスマスだよ」

「クリスマス……ああ、もうその時期でしたね」

「ん? カズマは知っているのか?」

「ええ。というか知らない人がいるのですか?」

「……」


 隣にいるぞ、とはとてもではないが言えなかった。

 少々顔を紅潮させている人物を余所に、カズマは「あ、そうだ」と手を打つ。


「折角ですし女性陣にクリスマスプレゼントを渡しましょうか。そういえば明日辺りに到着する国に大型のショッピングモールがありますので、そこで各人プレゼントを購入しませんか?」

「何を言っているんだ!? 俺達はジャスティスを破壊して、ルード国と戦っている最中で――」

「いいんじゃないか?」

「クロード!?」

「たまに息抜きは必要だ。お前達はずっと気を張り詰めている必要などないんだからな」


 ストレスは身を滅ぼす。

 ならばこれぐらいはやっておいてもいいだろう。


「それにカズマは何も考えずに提案しているわけじゃないだろうさ。だろう?」

「え?」

「ええ。明日到着する国はルード国の領土ではないので、ジャスティスはいません。食糧や日常品の補充のために立ち寄るつもりでしたので」

「ということで問題ないわけだ」


 クロードは手をひらひらと振る。


「なので明日は自由だ。何か買ってきてあげることだな」

「え? 何を言っているんですか?」


 カズマはきょとんとした顔をする。


「クロードも一緒に行きましょうよ」

「……何故だ?」

「いや、だって三人にプレゼント渡すんですよ。だったら男側も三人いなくちゃ駄目ですよ」

「その理屈は意味が判らないぞ。別に個別に渡すわけじゃなくまとめて――」


 と、クロードはそこで言葉を止める。


「いや、やはり俺も一緒に行こうか」

「クロード!?」


 ライトウが驚きの表情を見せてくる。

 反面、カズマはにやりと笑う。

 理解しましたね、と言わんばかりに。


「では各自、個別にプレゼント買っていきましょうか。あ、ライトウはアレインに対してのプレゼントを買ってね」

「何でだよ!?」


 ライトウが涙目でこちらを見てくる。

 戦闘中に鬼のような形相でジャスティスを破壊している男がこんな所で泣くんじゃない、と言いそうになったが、多分自分がライトウの立場でもそうなるだろうなと思い直す。


「ああ、じゃあカズマはコズエのを買うのか?」

「いえいえ。可愛い可愛いコズエの為に買いたいのは山々ですが、流石に彼女も兄離れをしなくてはいけないと思い、ここは心を鬼にしてプレゼントはあげないようにします。くっ……」


 お前が妹離れ出来ないんじゃないか――と思うクロードではあった。実際にコズエの方は兄離れなど易々としそうな性格であったことを知っているし。


「ということで僕は女性三人の中で人気投票したら最下位になりそうなミューズに、可哀想だから仕方なくあげることにします」

「お前、ミューズに対して恨みでもあるのか?」


 ミューズだって可愛い部類に入るのに、扱いがひどくないだろうか? まあでもミューズは「男女関係なんか煩わしいっす」とか言って飄々としそうだからこれでいいのかもしれない。


「ということは俺はコズエにあげればいいんだな」

「絶対に喜ぶものをあげてくださいよ!? 絶対ですからね!?」

「まずはお前が妹離れしろ」


 ついに言ってしまった。

 反省はしていない。


 一方、


「喜ぶ……? アレインが喜ぶモノって何だ……? 俺は……俺はどうしたらいいんだ……?」


 ライトウは頭を抱えていた。

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