第123話 交渉 02

   ◆



「……あはっ」


 執務室へと向かうウルジス王のいつもと変わらない背中を見ながら、フレイは小さくそう笑い声を発した。

 その笑みに含まれた意味。

 王との会話の中で何か嬉しいことを見出したわけではない。

 彼に浅さを見出したから故の嘲りではない。

 彼女の心の中で何か考えがあって、それが思わず漏れて出たわけでもない。


「……生きている。生きているわ、私……」


 単純な――安堵。


「ふ、ふふふ……何なのよ、もう……」


 彼女はストン、と腰を落とす。

 廊下という場所にも関わらず。

 人目も気にせず。

 そうせざるを得なかった。


 今まで彼女は裏の世界で生きてきた。

 故に恐怖に押しつぶされそうなことは何度もあった。

 だがその全てが、幼かったが故の未知なる恐怖だった。


 成長した今では過去の恐怖などすっかり無くなっており、今覚えばそれらも思考能力さえあれば恐怖など覚える必要はなかったのだという分析すら出来るようになっていた。

 だが――


「まさかこの私がこうして抑圧されるとはね」


 今までの恐怖は、彼女よりも年上――『経験が上の者』から受けていた。

 だからこそ、彼女は一層、信じられなかった。


 王に対してではない。

 王なんかに恐怖なんかしていない

 そもそも王だって自分より『経験が上の者』ではあるのだ。


 容姿からも明らかなのにその法則を捻じ曲げた、恐ろしい存在。

 それがこの国にいる。

 この国に――来てしまっている。


 彼女は戸惑いと共に、自らの震えを止めることが出来ずに頭を抱えた。



「あれは本当に……だったの?」

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