Epilogue 1

 とある病室の一室。午前七時半。朝。

 ここは青子の伝手で用意してもらった病室だ。

 レヴィル・メイブリクはそこで切り分けられたリンゴを頬張っていた。

「……美味いです」

「そっか。それならよかった」

 ベットの横の椅子に座っているユウトは病院から借りたフルーツナイフを置く。

「ユウトさん。ありがとうございました」

「いいよ。約束だしな。俺は俺のできることをしただけだ。つってもみんなに助けてもらってばっかりだったけどな」

 あれから一週間が過ぎた。

 テレビのニュースではもう話題のシリアルキラーの話は放送されなくなっていた。

 何というか、あれだけ世間を騒がせたはずなのに、それさえも世の中に五万とある事件の一つでしかなく、流れる水のようにすぐに忘却の彼方へと消えていく。そんな気がした。

「レヴィル。その……お兄さんは?」

「……。兄さんはあれから一度も出てきません。でも大丈夫です。腕輪も壊れてしまいましたし、もう悪さはしないと思います」

「いや、そういうことじゃなくて」

 例えどんなに悪人だったとしても、ユウトは彼女から兄を奪ってしまった。唯一の家族を。どんなに取り繕ってもその事実は変わらない。



「勘違いするなよ? 俺は矛盾だらけの正義の味方になるつもりはねぇ。俺は自分で自分いもうとを助けるだけだ。悪党らしく最後まで醜く生き延びてやる」



「え?」

 子供にしてはドスの聞いた鋭い声。鋭い瞳。あいつを連想させる。

「なんて。フフフ。兄さんならきっとこう言うんだろうなって」

「あぁ、そうだな」

「ユウト。そろそろ学園行くわよ」

 刹那が病室のドアを開けて言った。

「よし。行くか!」



 恐ろしい事件が起きた。

 多くの人が巻き込まれ、たくさんの人が傷つき、失い、泣いた。

 だけどそれだけではないはずだ。少なくともユウトから見える世界の中では、一人の少女が救われた。

 それがどんなに小さな世界であっても、どんなに小さな成果でも。

 それが誇れるのなら、ただ前へ進み続けるだけだ。


第一章 始まりの腕輪 -First Magic- 完

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