第30話 規則二十九条 家族会議は突然に

「はーい、アヤメ遊びに来たわよ。およ、この子が噂の彼氏? 可愛い顔してるわね」

 

 玄関前でフレンドリーに手を振る女性。

 さきほど後ろでアヤメさんが『お母様』と呼んでたきがするが、見た目はマルタとそんなに変わらない。


「えっと……アヤメさん、このお姉さんは?」


 俺は振り返り真っ赤になってる彼女に最終確認をする。


「すみません、母です」


 申し訳無さそうに謝る。


「可愛い! 聞いた聞いた? マルタちゃん。この私をお姉さんだって!」

 

 俺を指差して前進してくる。

 近くによるとでかい、胸が! じゃなく、胸も大きいが、その身長である。

 アヤメさんの父親も大きい人だったかそれに負けないぐらい大きい一九〇センチぐらいはあるんじゃないだろうか? 


「さっすが、娘の見込んだ彼氏ね素直で良い子じゃない!」


 よほど気分が良いのか、俺を抱き寄せる。

 丁度俺の顔の位置に胸が当たる、柔らかい。

 さすがこの体勢は危ないので力を出すが全然離れない、しかも……ほどよい良い匂いもするし、ちょっとだけ八葉の気持ちが分かる。


「お母様! 秋一さんを放してあげてください」


 慌てるアヤメさんの声は聞こえるのだが、顔は見えない。


「あら、アヤメ。お母さんにやきもち? こっちにいらっしゃい一緒に抱っこして上げる」

「そうじゃなくてですね」


 アヤメさんの困った声も聞こえるが顔面は未だアヤメさんの母親の胸の中だ。

 耳には外のタクシーの帰る音も聞こえる、ドアが閉まり動き出す。

 あれ……さっき帰ってなかった?


「こんばんわーしゅーちゃーん、お母さんが来たわ……よ?」


 俺の母親の声が聞こえ、途中で止まる。

 そりゃそうだろう、玄関をあけると長身の女性が息子をがっちりと抱き、それを見ている着物姿の女性、さらに奥には、これまたナイスな体系の女性と小さな子供がいる。

 俺を抑えてる腕の力が緩んだ所で俺は渾身の力で顔を母親へと向ける。


「いらっしゃい……母さん」


 あまりの事で脳がパンクしたのだろう俺の母親は気を失った……。

 取り合えず、俺たちは自己紹介もしないまま全員で俺の母親を食堂に運ぶ。


「あ、起きた?」


 俺は食堂に寝かしたとたん意識が戻ったようだ。


「ここは……?」

「アパートの食堂、いやーびっくりしたよ行き成り倒れるんだもん」


 俺の言葉が白々しいほど棒読みだ。


「そうだ。しゅうちゃん聞いて! 玄関を開けたら長身の女性としゅうちゃんが抱き合ってたような気がして、それを見つめる女性とかいてなんだかわからなくて……」

「とりあえず落ち着こう。そそっかしいなー母さんは、あれは俺が母さんを迎えに行くのに玄関にでたら転びそうになったんで、たまたま来ていた。ここのアパートの住民の母親さんに助けて貰っただけだよ」

「そうだったかしら……?」


 まだクエスチョンマークをつけた母親をたたみかける。


「此間の手紙だって誤字あったぜ、高校生に指摘されるようじゃだめだなーあっはっは」

「ごめんね。お母さんなんだか、迷惑かけたみたいで」

「大丈夫俺も混乱してるから」


 聞こえないように喋る。


「驚かせてごめんなさい。私が雪乃 吹雪(ゆきの ふぶき)此処に住んでいる雪乃アヤメの母です、先ほどは、管理人の近藤さんが転びそうだったので支えたまでですわ」


 俺たち親子の会話が止まったのをみて、吹雪さんがフォローを入れてくれる。

 先ほどと俺との会話と違いちょっとした大人の対応をしてくれた。


「はじめまして、えーっと……」


 アヤメさんの彼女で近藤秋一です。と言った方がいいのか、戸惑う。


「か、管理人の近藤秋一です」


 俺の言葉に、吹雪さん、マルタ、八葉がふーんって白い目をしている、唯一白い目をしてないアヤメさんは此方を見てない。


「ご紹介が遅れました、私はしゅーちゃ。ごほん。秋一の母、近藤 京子(こんどう きょうこ)と言います。今日は明日の文化祭を見に行こうと思い失礼ながらお邪魔させて頂ました」


 おお、普段みている母親と喋り方が違う! ちょっと関心する。


「あら、わたくしもですのよ」


 吹雪さんが微笑む。


「えっと、あっちから。大きい女性がマルタ。小さい子供が八葉。どちらも、俺を雇ってくれた、あっちにいる雪乃アヤメさんの知り合い」


 手短に紹介をする。


「全員女の子なのよね、しゅうちゃん何時からスケコマシに?」


 普段の喋り方に戻り、しかも、変な事を俺につぶやいてくるので咽る。


「ふっふっふ」


 突然の笑い声に振り向くと、吹雪さんが笑っている。


「あら、すみません変な喋り方で」


 俺の母親が謝る。


「いえ、どーでしょう、私も娘の文化祭と、ある人を見に来たんですけど。硬い話方も無しにして一緒に楽しみましょう?」


 わりと、フレンドリーな感じで俺の母親を誘う吹雪さん、『ある人を見に』の所で思いっきり俺を見ていた。


「はぁ、ママ友ね。しゅーちゃんどうしよう、ママ嬉しいわ、こちらこそ宜しくねー」

「はいはい」

「それじゃ、おざなりに紹介されたウチらの番やな」


 さっきの紹介が手抜きだったのがマルタが自己紹介をしてくる。


「ウチはマルタ=クーニン、こっちにいるアヤメの親友でシューイチ君とも…………友達や」


 俺は冷や汗を書く、俺の母親に聞こえないように『シューイチ君とも』の後に小さな声で『お風呂を入りあう』を付け足していた、殴りたい。

 吹雪さんは聞こえてるらしく『ほっほー』って関心した顔をしてるし。


「僕の番だな、僕は木目 八葉(もくめ はちよう)小さいけどちゃんと親の許可を得て住んでるので問題なく、此処に住んでる三人とは友達であり知人だ」


 食堂に間の抜けた間というのだろうか、沈黙が訪れる。


「ほら、アヤメ。秋一くんのお母様に挨拶しないと」


 吹雪さんがアヤメさんを肘で突っつく。

 挨拶してない事に気付いたのか緊張した顔でこっちを向く。


「わ……わた……わたしは……」

「アヤメ、落ち着きなさいな」


 吹雪さんがアヤメさんの襟から何かを入れた。


「ひゃ」


 小さい叫び声をあげるアヤメさん。


「お母様! 氷入れましたね……」

「ほらほら、秋一くんのお母さんが見てるわよ~」


 意地悪い顔をして笑っている。挨拶の途中と思い出したのだろう、此方を向きなおす。


「失礼しました、私雪乃アヤメと申します。近藤さんとは……とは……一緒の高校に通わせて貰ってます」


 そりゃアヤメさんだって俺の母親相手に恋人です。とはいえないよな、しかもその説明じゃ、俺が通わせてるみたいな紹介の仕方だ。


「はぁ、みなさん宜しくお願いしますねー」


 納得したのか曖昧な返事をする。


「さ、自己紹介も住んだし料理食べようや。今日はシューイチ君の母親がくるって聞いて、アヤメがなー。いろんな料理つくってあるねん」

「あら、私の分は?」


 吹雪さんが喋る。


「もちろん、姐さんの食べる分ぐらいはあるで。一言くれてたら好物作っておいたんやけどなー、そや。京子さん」

 

 突然こっちを見るマルタ。


「なにかなー?」


 ほんわかな返事を返す俺の母親。


「こっちはいけるん?」


 いつの間にか手にはブランデーを持っている。


「はぁ、それなりには」


 俺は母親が酒を飲んでる姿はほぼ見たことないので驚く。


「飲めるの!?」


 驚いて聞いてみる。


「あら、しゅーちゃん、私もそこそこ飲めるのよ」


 俺の問いに答えてくれる。


「それじゃ、大人組みであちらで食事を貰いましょうか」

「おねーちゃん、僕もお腹減ったんだけど」

「あ、はい。今用意しますねー」


 にぎやか過ぎる夜が始まった。

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