第22話 規則二十一条 大宴会でええんか
俺達は再び山道を歩いている。
温泉でほてった体が気持ちいい。
『こんな島で暮らしたいものだ』と言おうと思ったが、マルタに言うと『上げるで』で返ってきそうなのでやめて置いた。
夕暮れになる頃に無事ログハウスに着いた。玄関の前に大きい箱が置いてある。
「さて、夕飯はウチに任せてもらおうかな」
箱の横でマルタが豪語する。
マルタが手早く箱を開けると中にはクーラーボックスが入っていた。
フタをあけるので覗いて見ると、海老。タイ。サザエ。ホタテ。フグ。ウニなど……ん。
「まった! これマルタが調理するの?」
「そやで?」
「あの、フグがみえるんですけど。免許は免許」
例えマルタが免許持っていても怖くて食べれないが聞いてみる。
「ないで?」
「いやいやいや、俺まだ死にたくないし」
「あー、すまん。フグはシューイチ君以外やな、ウチ等はフグの毒平気なんよ」
「まじで?」
「おおまじやで」
「すみません。秋一さん、でも私もマルタの料理を手伝うので安心してください」
「僕も僕もー」
「でもってなんや……マルタおねーちゃん悲しいわ」
「三人にだけやらせるわけにも行かないわね、テンも手伝うわよ」
「スルーかいっ」
誰も突っ込みをせずに会話が進む。
「そやな……作るのも思い出になるんか、じゃさくっと四人で作ろうかー」
マルタの提案で一同が頷く。
「んじゃ八葉早速なんやけどそれ運んで」
重さ十キロ以上ありそうなクーラーボックスを難なく運ぶ八葉、俺はそれについていく、どうみても反対だよな。
二泊三日の島生活も今日で終りだ、初日は肉と野菜祭りで次の日が海鮮祭り。
当たり付きですと激辛の海鮮料理を持ってきたテン、それを見事当たってしまう俺。ソレを見て皆が笑う。時間が緩やかに過ぎていく。
時刻を見ると午後八時を過ぎた所だ明日は飛行機で帰るので朝早くに出発するらしい。
俺達は海鮮祭りを堪能した後に、用意してきた花火を打ち上げる。
マルタが指と指の間にロケット花火を挟んで八葉に向けるなど危険な遊びをしていたが八葉も打ち上げ花火をマルタに向けて応戦している、その後ろでテンがバケツを持って何時でも消化できるように待機していた。
隅のほうではアヤメさんがヘビ花火を眺めてニタと笑っている、怖い。
「ほらほら、アヤメさんこれ」
「あら? なんです?」
ヘビ花火が終わりそうな時を見て声をかける、手には線香花火をもってきた。
「一緒にどうかなとおもって」
「喜んで」
俺達二人は線香花火を眺めている。
「アヤメさん」
「はい、なんでしょうか?」
「改めてなんだけど、俺はアヤメさんが好きです。付き合ってください」
小さな声で告白をする。
「いや良く考えたら好きだ! とは伝えたけど付き合ってくださいって言ったこと無かった気がして」
「そうでしたかしら、それではですね、私の答えはこれです」
アヤメさんの線香花火が俺の線香花火とくっつき大きな球になる。
「此方其処宜しくお願いします」
「そこのいちゃつくカップルー花火片付けるでー」
その言葉で俺達二人の体がビクっと震える、弾みで大きな球も落ちてしまった。
「あーあ、それじゃ俺達も行きますか」
膝についた砂を掃き叩き立ち上がり手を差し伸べる
「はい」
朝である、何時もより眠い。
昨日花火の後は寝るだけと思い込んで居たのだが、何処にあったのかマルタがカラオケセットを持ってきた。
居間には大型スクリーンを張り映像を映し出す。
南の島のカラオケ大会! そう宣言して深夜まで熱唱してたので朝が辛い。
俺は最近の歌は知らないので昔見てたアニメの歌などを歌ったりすると八葉も一緒になって歌っていた。
マルタも洋楽などを、アヤメさんは想像はついたけど演歌を熱唱してくれた。テンは童謡や軍歌を、以外にもCMで流れている曲までも歌ってくれる。
その中でアヤメさんの歌い方は凄かった、普段大人しいのにストレスたまってるのかな……と心配するほどに。
深夜の狂乱も終わり朝になるとふらふらの頭で荷物と共に居間へたどり着く。
今では同じく眠そうな二人と二人元気な姿のマルタを見つける。
「あと十分もしたら飛行機くるでー忘れものないかー」
「多分ないです」
「あの、この部屋このままでいいんでしょうか?」
アヤメさんの言葉に八葉も頷く。
深夜まで騒いでいたので壁には大型スクリーン。テーブルには謎の空き缶に謎の空き瓶、お菓子の袋
ソファを動かして作ったお立ち台に、どっからもってきたのか天井にはミラーボールも付いている。
「大丈夫、後で管理の奴が全部綺麗にするとおもうし、ねマルちゃん。さてそろそろいこ?、腕が鳴るわっ」
帰りも操縦桿を握るつもりで居るテンは現在ウイスキーを飲みながら喋っている。
「まってまって、飲酒運転ダメ絶対っ!」
「それって車の事でしょ?」
「詳しくは知りませんが、飛行機もそうと思いますよ」
俺とアヤメさんの声がテンに振りそぞく。
俺達がログハウスを出るときに空に爆音が鳴り響く、飛行機の音だろう。
早足で急ぐと着た時同様にイケメンパイロットが手を振っている。
マルタがイケメン二人とハグをする、次にアヤメさんに向かって両手を広げて待っている。
困った顔をして此方をみるがマルタがGOGOサインを出しているので、顔を赤面しつつ男性二人とハグをする。
イケメン二人がブラボーとしきりに叫んでいるとマルタにわき腹を突っ込まれてる、次に八葉の番で八葉はというとヘリコプターというのだろうか、体を持ち上げられてぐるぐる回されている。
顔を見ると嬉しそうだ。
テンのばんがくると、二人のパイロットにキスをしている。
そんな皆の姿をみて俺は飛行機に乗り込もうとしたら、肩を叩かれる。
ゆっくり振り返ると、男性一人が大きく腕を伸ばして肩ひざを付いている。
男と抱き合う趣味はないんだがとアヤメさんに助けての視線を送ると『私もしたのだし諦めてください』と目線で返される。
俺は後ろから一人の男性に抱えられて肩ひざを付いている男性と抱き合う。何を思ってるのが抱き合ったままぐるぐる回される。
その回転からやっと開放されたかと思うと、もう一人の男性にお姫様抱っこをされたまま飛行機に乗せられる。
最後にはイケメンとマッスルにほっぺにキスをされた。
座席には既に三人が待機していた、恥ずかしさのあまり顔を赤くすると皆が笑っている。
シートベルトを締め飛行機がゆっくりと離陸する、窓からみえる島にお別れを言って軽い睡眠をとる事にした。
「シュウ着いたぞ」
俺は八葉に起されると外をみる、窓からは大型の飛行機や大きな建物も見える。
「空港かな?」
「そうですわね、なんだか楽しかった分寂しいですわね」
「なに、また来ればいいんや」
「そう簡単いける場所ではないですよね」
「ボクは一人では行きたくないな」
「一人で行くのも良いものよ」
それぞれの思いを口にする。
最後まで運転してくれたパイロット二人に手を振って別れ空港内に移動する。
明らかに日本じゃなかった場所からの帰国な気がするのだが、特に注意も受けずに、それとも何かあるのか一般とは違う通路から空港内に入る。
「さてニ時間ほど休憩しようかー、家まで車で数時間かかるさかいお土産もかわんとなー。あ、そだシューイチ君ちょっとちょっと」
大事な話なのか小声で喋る。
「アヤメの指は十号や」
「は?」
「ええからええから」
俺から離れたマルタは全員の顔を見合わせて点呼を取る。
「それじゃ二時間後此処で集合やーウチも地酒コーナーいくさかい。八葉もおいでなー好きなお土産こうてやるし」
「本当!?」
「うんうん」
「マルちゃんテンにも買って」
「テンちゃん、ウチよりもってるやん……」
片目をつぶり合図をしてくる、気をまわせ過ぎだ。
まぁでも俺も少し休憩しながらぶらぶらしたい。
「俺達も少し見て回りましょうか?」
「ご一緒で宜しいんですか?」
「是非に」
俺達二人はお土産コーナーを数件回りだした。もはやお土産屋と関係ないお店までならんでいる。ブランドバックや宝石など誰か買うんだと思っていると、結構女性に人気のようだ。
輸入品などが安いのだろうか。
アヤメさんも宝石や指輪を熱心にみている、その姿を見ると女性なんだなーと思う。
俺の視線に気付いたのか、近くに走ってくる。
「すみません、つい見とれてしまって。次に行きましょうか」
「いや、大丈夫だよ。どんなの見ていたの?」
俺は先ほどまでアヤメさんが見ていたショーケースの前までいき中を覗き込む。
中には銀色の指輪でシンプルに雪の結晶の形が掘り込まれている。
「へえー可愛いね」
「そーですよね、デザインが良いと思ってつい見とれてしまいました。では行きましょうか」
微笑むアヤメさんを見つつ、アヤメさんにばれない様にその指輪の値段を覗き見る。
お値段なんと59,800円成り。
高い……が、小遣いと給料でなんとかいける。
頭をフル回転させる、周りの店を見て作戦を練る。
俺はアヤメさんと次の店へ回る。
そこで出た試食のお饅頭を一口貰う、よし此処だ。
俺はアヤメさんをロビーの椅子へ誘って暗い顔をする。
「ごめん、アヤメさんお腹が痛い」
「まぁ! まってください今腹痛に効くお薬を出しますので」
手持ちの鞄を開いて中を探し出す。
「いや、この痛みは今食べた饅頭かもしれないしトイレ言ったら直ると思うんだ」
「では直ぐにお饅頭屋さんに言って来ます!」
「まってまって、他のお客もいるしさ。もしかしたら饅頭じゃないかもしれないし。ちょーっとだけトイレに行きたいから、ここで待ってもらっていいかな?」
「はぁ」
「俺が迷子になるかもしれないから此処から絶対動かないでよ?」
「もう、心配性ですね、わかりました。待ってます」
俺は急いでトイレ! じゃなくて先ほどの宝石店へ駆け込む。店員さんを呼んで先ほどの指輪を下さいと。
アヤメさんと一緒にいたら、俺が指輪を買おうとすると拒むはず。ならば先に買ってから渡そう作戦へ。
「指輪のサイズは以下ほどにしますでしょうか?」
美人な店員さんから質問を受ける。
そんな答えはもう決まってる。
「十号で」
「はい、うけたまわりました。それでは税込み59,800円に成ります」
俺は店員さんにリボンなどをしてもらって指輪をズボンのポケットに忍ばせる。
急いでロビーに戻ると窓の外を見ているアヤメさんを発見した。
「お待たせ」
「お帰りなさい、お腹は大丈夫でした?」
「う、うん大丈夫」
時計を見ると集合時間まであと十分ほど、まだマルタと八葉は着ていない。
「あ、ほら、飛行機が飛び立つ」
俺は窓の外を指差す。
「空港ですからそうですね」
俺の糸を気にせずソレがどうがしましたか? なアヤメさん。
「えーっと。ほら、あの車なんだろ? 滑走路の。ア……アヤメさん。ほら一緒に」
「はい?」
アヤメさんと一緒に外の飛行機を眺める。
「アヤメさん」
「はぁ、なんでしょう? それよりお腹は平気ですか?」
俺はそのまま窓の外を眺める、ガラスに映るアヤメさんは不思議そうな顔でこっちを見ている。
勇気出せ俺!
「アヤメ! ……さん、旅の思い出と俺の気持ちって事で何も言わずにこれを受け取って欲しい」
ポケットに忍ばせた指輪をアヤメさんに渡す。脳内ではタイタニック号をメインとした映画のBGMが流れている。
受け取った指輪のケースを開けて驚いた顔でこっちを見ている。
ガラスに映るアヤメさんは何か言いたそうに口をパクパクしてるが、何も言わず深呼吸をし始めた。
ただ一言。
「私の気持ちです」
そういってから相変わらず窓の外を見ている俺のほっぺにキスをしてくれた。
後日全員で取った写真では、カチコチの俺と隣にポーズを決めている八葉、しゃがんでピースをしているマルタにその横では少し顔を赤くした微笑が綺麗なアヤメさんその肩を後ろから抑えるようにテンの五人の姿が写っていた。
こうして俺の夏休みは終わりを告げたのであった。
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