第19話 規則十八条 飛べ南半球へ

 その日俺は真っ暗な時に起された。


「ほらほら、早くおきな~」


 揺らされて、思考回路が追いつかない。


「準備しますんで、後5分寝かせてください」


 良くわからない返事と共に睡眠に入る。


「ほれ、起きた起きた」


 万歳三唱のポーズのまま服を脱がされ、ズボンと一緒にパンツにまで手が掛かった時に一気に目が覚める。


「まった! 自分で着替えれます」

 

 時計を見ると午前二時、いくら夏は日の出が早いと言ってもまだ夜。

 こんな時間から何処までいくんだよ……おれはつぶやきながらも服を探す。

 起こしに来たマルタを部屋から追い出し何時ものTシャツにGパンという簡単な格好に着替える。

 サイフと着替え、水着をもって部屋を出る。

 食堂には眠そうなアヤメさん。

 そして完全に寝てる八葉。その横ではテンが元気に走り回っている。

 そして何時も通りテンションの高いマルタが待っていた。


「おはよう御座います秋一さん」


 ああ、アヤメさんも眠そうだ、ソレ俺じゃなく冷蔵庫だし。半分寝てる返事を受けて俺も返す。


「そろった所で、はよいこかー」


 こんな朝早くから何処まで行くんだ。

 全員が車に乗り込む。運転席にマルタ、助手席に俺、後部座席に寝ている八葉と隣にアヤメさん、その隣にテン。さらに後ろには全員の荷物が入ってる。


「皆寝てていいでー着いたら起しちゃる」

「それじゃお言葉に甘えてそうさせてもらいます」

「すみません、私も」

「ええでええで、あ。テンちゃんだけはガンガン食べ物食べて妖力回復してくれるとありがたいなぁ」

「はーい。テンそれじゃ栄養ドリング飲むねー」


 後ろを見るとテンの足下に大量のエナジードリングが山積みになっている。オイオイとつっこも無も妖怪だから平気だよぅと答えたが帰ってきたので再び窓の外を眺める。

 思いのほか安全運転で睡魔が襲ってくる。時計をみるとまだ午前三時だ。


「ほら、シュウーイチ君見えたで」

「ええっと、どこに? なんでしたっけ?」

「海に決まってるやろ」


 何時の間にか寝ていたらしく俺は眠い目をこすって窓を見る。窓の外には、すみきった青の海、白い砂浜、眼下に広がる森林にコテージ、其処まではまだ理解できたか、右端には滑走路まで、それに窓から目線を横に向けると何故かプロペラと翼が見える。


「飛んでる!」

「そや、飛行機だから飛ぶにきまってるやろ」

「いや、そうじゃなくて! 車に乗ってたのに、そして何処此処!?」

「ウチのプライベートビーチや」

「シュウ少し騒がしいぞ、たがが空の上じゃないか」

「おいおい」


 軽く突っ込みを入れる。

 後ろを見ると八葉とアヤメさんが座っていた。


「すみません、私も起きたら既に飛行機の中でして、秋一さんを見るとぐっすり寝ていらしたのでそのままのほうが良いかと」


 改めて飛行機内をみると前方にパイロットが三人。

 俺の視線に気付いたのか二人とも俺にガッツボーズを見せてくる、そんな事より操縦桿をちゃんと握っていてくれと見ると、見知った姿の人が操縦桿を握っていた。


「急速先回ー」

「ちょ。て、てんが操縦してるの!?」


 俺の声に操縦桿から手を放し後ろを向いてくる。


「はーい、パイロットのテンでーす」

「前、前みて操縦、ちゃんと操縦してよっ!」

「なーに? そんな簡単に落ちないわよ。ねー?」


 二人の逞しいパイロットもハラを抱えて笑っている。思わずオーマイガッと叫ぶと後ろを振り返る、良く見ると他の乗客は居なく貸し力であった。


「さておしゃべりはそれぐらいでもう直ぐ墜落……じゃなく着陸やで、頼んだでテンちゃん」

「オーケー。無事に着陸するか久々に掛けてもいいわよ」


 笑えない冗談はやめて欲しい、俺の体が斜めになるのがわかる。飛行機に乗るのだって初めてだ。

 心の中で祈ってる間に無事に滑走路に着陸した、俺達が飛行機から降りるとイケメンパイロットとテンが何か日本語じゃない言葉で喋っている。

 八葉はその得意な力で全員分の荷物を抱えてる。

 イケメンパイロットとマルタがハイタッチをしてパイロット二人が飛行機に乗り込む。

 プロペラエンジンの音をなびかせて滑走路から無事飛んでいった。


「…………」


 鮮やかに旋回しながら島から旅立つ飛行機を地上から眺める。


「あの飛んでいったんですけど」

「そや? 迎えは二日後やで? どうしたん? シューイチ君変な顔しとって。折角の旅行にパイロット二人いてどーすんねん」

「いや。そうですね、この際楽しもうかと気合入れてるところです」

 

 俺達はマルタの案内でコテージまで歩いて進んだ。


「そもそも台風の後の海いったって人も居ないし沖にもでれんへんしつまんないやろ」

「確かに、ところで此処って沖縄の何処らへんです?」

「しらへん」

「は?」

「ウチも巻き上げた、もとい。貰っただけやし、その時に永久パスポート券が付いてきただけや、まだ来るのは2回目やさかい」

「少なくとも私には日本に見えないんですけど」

「沖縄だったらあんな飛行機ださないわね」


 意味深な言葉をいうテンに困った顔してアヤメさんも付いてくる。


「最初に島を回った時に危ない奴はおらんかったしそんな心配する事もなかっと」

「大丈夫アヤメおねーちゃん。僕が守るから」

「八葉ついでに俺も守ってくれ」

 

 俺の言葉にマルタが笑う。

 全員の荷物を軽々持つ八葉が胸を張る。


「ほれ、アレかコテージや」


 案内の元にコテージに入る。素人目で判断するが、木造バンガローの作りはしっかりしてる。 

 室内には大きい白いソファーにテーブル。カウンターキッチンで小さな冷蔵庫もある。

 庭にはバルコニーが設置されていて、そこでバーベキューなどするのだろう。其処を下りれば直ぐ砂浜だ。


「凄い」


 素直な感想を言う。


「そやろ?」


 得意けな顔で此方を向いてる。


「アヤメおねーちゃんーこっちきてーベッドも凄いー」

「はいはい」


 既に探検している八葉の声のするほうに向かう。

 開けっ放しのドアを覗くと寝室らしい。ダブルベッドが二個並んでいる。


「これと同じつくりの部屋がもう後ニ部屋や。」

「アヤメとシュウイチ君がこの部屋使うから、二人は隣やな」


 俺は無言で突っ込みを入れる、顔が赤くて言葉も出ない。


「アカンか……なら八葉とアヤメがこっちで、ウチとシューいちっグフ!」


 見ると反対隣でアヤメさんが無言で突っ込みを入れていた。


「わかってるって、テンと八葉とシュウイチく、ごふ」


 八葉のツッコミがマルタに入る。


「ボケただけやさかい。シュウイチ君には悪いが、一人この部屋で後はニ人ニ人で別れようか」

「そうですね、ソレが一番です、秋一さんいいですか?」

「俺一人で部屋使っていいんですか?」


 俺はマルタに聞いて見る。


「おねーちゃんと一緒の部屋だー!」


 八葉はそれを聞いてはしゃいでる。


「よし決まりや。それじゃ、着替えたら早速泳ごうや、もう良い時間やで」

 俺の腕時計を見ると午前9時。

 全然早い時間だ。


「それじゃ着替えるさかい~20分後に居間で会おうや~」


 目の前のドアが閉じられる、俺も自分の荷物から海水パンツを取り出すボクサータイプにしようか考えたが一般的なトランクスタイプの品物だ。


 こうして俺の夏休み最後の三日間は何処かの島で始まった。

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