第16話 規則十五条 ハーレム計画
このままじゃ俺の頭がおかしくなりそう。精神的に。
俺は今、自室こと管理人室で台風対策で使った資材や金額の見積書を書いている。数時間前のお風呂騒ぎでみたパラダイスを思い出す。
風呂から上がると既に食堂でアルコールを手にしているアヤメさんが、マルタと色々喋っていた。仕事をしてきますと断って今に至るわけである。
時計を手に取り見ると夕方の4時、もうそろそろ食事を作る時間だ、ゆっくりと扉を開けると外の喧騒が聞こえてきた。
「アタシに任せろってっヒック、好きなもんつくってやるって」
「アヤメおねえちゃん酔ってるから危ないって」
「テンも手伝うですぅ」
俺の視線に気付いたマルタが腕をクロスしてバツ印を作る、直ぐに廊下に設置してある黒電話へと指をさすと意味が通じた。
今晩は出前を取ろう、と。
静かに頷くと、俺とマルタの意思の疎通は成功した。
「アヤメさーん、今日は色々あったし出前取ろうと思うんだけど何がいい?」
「寿司っあったしは得上しか食べないからなっ」
即答で返すアヤメさん、その顔は赤く足もフラフラである、八葉とテンが懸命に転ばないように抑えている状態だ。
「だれだ、こんなに飲ませたのは……」
俺の独り言に顔を隠す二人の大人、もっとも一人は今は小さい姿であるが。
「はいはい、取りますよ。アヤメさーん。ちょ、ここで寝ようとしないで晩御飯頼みますから」
薄着のアヤメさんを必死にソファーまで運ぶ、シャンプーの香りが鼻に届きドキマキとする。
「これでシュウ君おねがいですぅ」
テンがポケットからむき出しの万札を大量に出す、その量に一瞬声が止まった。十枚以上はあるお札だからである。
「せやな、この台風だし。とりあえずひーふーみー。一番高いパーティセットを四つと、この熨斗袋に万札を入れてっと、寮長からって配達の人に渡しんしゃいな」
直ぐにデリバリーをやっている寿司屋に電話をすると無愛想な声が聞こえてきた、しかしそこは商売である。かなりの量を注文すると威勢が良い返事に変わった。
十分も待つと直ぐに寿司はきた、配達してくれた二人は玄関まで運んでくれて威勢の良い声を出す。お礼にと、二つのポチ袋を手渡すと最初は辞退した者二回目には受け取ってくれた。
「おい馬鹿野郎、持てるか?」
八葉の声が聞こえる。
「あー俺一人じゃ無理、少し運んでくれる?」
「任せろ、どんな重い物でもな」
自虐なのが変な空気が流れるも本人は笑っている。
たった数分間席を離れていただけなのにテーブルにはビールの空き缶が増えていた。
横を見ると目が座ったアヤメさんがぐびぐびと飲んでいる。
「あんだー文句あっかー」
完全な酔っ払いだ。
「無いです、それよりご飯きましたよー寿司です寿司美味しそうですし、なんちゃって」
「シュウちゃん……」
テンが悲しい目で俺を見てくる、辞めて見ないでっ!
話を変えるべく八葉に声をかけた。
「そういや、八葉たちって学校ってあるの?」
キョトンとした顔で俺を見てくる。
「君は本当に馬鹿か? 日本は義務教育があるだろう? 行かないと僕だけじゃなく両親だって困るじゃないか、それとも君は教育すら受けてないのか?」
長文をすらすらすらと俺にぶつけてくる。
「それぐらいはわかるわ。偏見を持ってるわけじゃないんだけど、俺が小さい頃見てたアニメで『妖怪は試験も学校もない。』って歌っててさ。軽い話のキャッチボールで聴いたんだよ」
「ちょっと勘違いしてるから言っておくが、一部の人間以外全員力を抑えて学校などにいってるぞ。アヤメおねーちゃんも通常の高校に行ってるし。就職も希望があれば斡旋される。僕だって、おねーちゃんの花婿になるのに大特進付属に通ってた」
「大特進付属って超難関の所か!」
「馬鹿でも、それぐらいは知ってたか」
「人の事を馬鹿馬鹿言わない。道徳の勉強も習ったんだろ?そんなんじゃ友達も出来んぞ」
「う……習ったけど、僕には必要ない。それに周りは全員ライバルだ、学校に友達なんかいない」
語尾が段々小さくなってる。皿にいれたお寿司を皿ごと抱えてる、小動物を飼った気分に浸る。
「イージメた、イージメた」
マルタが俺をからかって来る。
アヤメさんが酒臭い息で俺の目の前に顔をだす。
「おい、お前イジメとか良くないぞっ!」
ポンっと、マルタがアヤメの頭を叩くと顔の近い俺とアヤメさんの唇が重なった。
「ぶっは、マルタッな、なにを」
俺は慌てて離れるとアヤメさんは笑っている。
「あっはっは、コイツ赤くなってやがる、ほらほら食え食え」
場の空気に呑まれて、見ると八葉もお手上げと手をあげている。次々に寿司を取っては食べ始めた。
「八葉。どうせ、暫くこっちに住むんだろ? その間。俺が友達になってやるよ」
「ふん、期待はしてないがありがとう」
「素直じゃないなぁ。そうだな。もう少し髪を伸ばして数年もすれば綺麗になってるとおもうぞ」
数年後の八葉の姿を思い浮かべる。髪はセミロングで胸も少し膨らみかけてる、服装は男っぽいのにスマートな体。言葉使いは悪いかもしれないが、その冷ややかな目。
「人の未来を想像するな!」
「シューイチ君ハーレム計画やなー」
「テンも仲間にはいるぅ」
「なんだ、お前。アタシみたいな可愛い彼女がいるのにハーレムを作るのかっ!?」
酔っ払いの集団に絡まれまくる。
時刻はもう二十三時を回りそうだ、宴会じみた夕飯も終わりアヤメさんはお腹を出しながらソファーで寝ている。
部屋から毛布を出して寝ているアヤメさんに掛ける。
洗面台から八葉が歯磨きをしながらコッチを見ていた。
「疲れたな……マルタ達は?」
「部屋で飲みなおすって。こっちこそ気を使ってもらって悪かったな。じゃ、ま……またなシュウ」
「シュウって俺?」
「当たり前だろ。ば……ごほん。友達になったんだ名前で呼ぶのが礼儀と習った」
「そっか、うん。そうだよな。有難うな八葉」
直ぐに洗面台に顔を向ける八葉、そっけなくも信頼を少し勝ち取った気分だ。
弟……いや妹が出来たかと思うと俺の口元は自然に笑ってしまう。
「それじゃお言葉に甘えて傷薬でも塗りますか……」
渡されたビンから塗り薬を塗ると痛みが引いてきた気がする。
隣からは料理を作る音が聞こえはじめてきた。
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