おじさんの12月

@keyinc

第1話 クビ

12月3日、会社をクビになった。勤め始めて18日目、この局に配属されてちょうど10日目のことだった。

カブが好きだった。それでこの仕事に就いた。最初のトレーニングセンターでは原付と小型、2種類のカブで訓練を受けた。教官には、お前は小型に乗ることになると言われ、ウキウキしていた。

しかし、実際渡されたのはジャイロ。乳酸菌飲料を販売するおば、いやお姉さんたちが乗っている三輪バイク。変速はないし、排気ガスは臭いし、意外と操作は難しいし(*体重移動をうまくやらないと曲がれない。特に登り坂。何度も逆方向に曲がり、肝を冷やした)、正直ガッカリした。

でも、数日で慣れた。乗れば愛車ではないが、愛着が湧いた。この荷台に字の書かれた紙やら立体的なものやらを積んで、届け先まで走って行くのが仕事だった。担当したのは、高台の高級住宅地。周りの皆さん曰く、とても楽な区域だそうだ。先輩社員と回ってみると、確かに分かりやすく、初心者にうってつけだと感じた。

同じ班のサブリーダーが丁寧に指導して下さったおかげで、12月2日には、多少時間がかかったものの、一人で回れるようになった。とても嬉しかった。そしてとても疲れた。その晩はたくさん飲んで寝た。失敗だった。

翌日は二日酔いで寝坊。今思えば休むべきだった。しかし、班の皆さんに迷惑をかけては申し訳ないと思い(*飲み過ぎた時点で、寝坊した時点ですでに多大な迷惑をかけていた)、家を出た。

出勤後はまず遅刻に対して始末書を書かされた。その後、乗務前の点呼で反応が出たので、それに対してもう一通書かされ、乗務できないので今日は欠勤扱いだと言われ、今度は欠勤届けを書かされた。こんなことなら来なければ良かった、と後悔していたら最後通告を言い渡された。退職願いを書けとのこと。早っ!本当に休めば良かった。文章を書いて捺印してを繰り返した半日だった。上場企業は厳しかった。コンプライアンスは守ろうね!

お昼前に局を出て(*出され)、取り敢えず繁華街を目指して歩いた。天気は崩れかけで、冷たい風が吹いていた。途中、以前から来てみたかった中国風庭園で一休みし、お弁当を食べた。優雅なのか落ちぶれているのか。親や子どもは何と思うだろう。

繁華街に着いた。お腹はいっぱいだったけど、歩き疲れたのでどこか室内で休みたかった。無難にカラオケに行った。平日限定激安ハイボールをあおりながら、アニソンを熱唱した。大好きなアニメ映像を鑑賞しながら大声を出していたら、気持ちが晴れたし、楽しくなった。ハイボールはうまくはなかったが、気持ちの高揚には役にたった。

知っているアニソンを歌い尽くした後は、歌の点数でグラビアアイドルを脱がすゲームに没頭した。真剣に歌った。本当に興奮した。

カラオケ屋を出た時は、もう夕方だった。まだ帰りたくなかったので、本屋や楽器屋、アニメショップなどに寄りつつ、わが県の代表的な歓楽街である流川町を目指した。



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