真の仇討ち

仁志隆生

真の仇討ち

 昔々あるところに小さな村がありました。

 村人達は何事も無く平和に暮らしていました。


 ある日村の子供達が森で遊んでいると、どこかで誰かが泣いている声が聞こえてきました。


「なんだろ?」

「あっちの方から聞こえる」

「行ってみよう」


 子供達が行くとそこには座り込んで泣いている子鬼がいました。

「ねえ、どうしたの?」

「足がー! えーん!」

 よく見ると足を怪我していました。

「うわ、痛そう」

「皆、ここに薬草が生えてるからこれ使おう」

 子供達は薬草を使って手当てをしました。


「みんなありがと」

 子鬼は子供達に礼を言いました。

「いいよいいよ。でもどうして怪我したの?」

「木に昇ってあの実を取ろうとしたらね、滑って落っこちゃったんだ」

 見ると木には美味そうな実がなっていました。

「ありゃー無理だろ」

「でもあれをおっ母に食べさせてあげたいんだ。おっ母寝込んでるからあれを食べれば元気になるかと思って」

「そうなんだ、皆どうする?」

「うーん、そうだ! 紐を引っ掛けて登ろう!」


 こうして子供達は紐を枝に引っ掛けて木に昇り実をたくさん取りました。


「皆ありがと。あ、早く帰らないと」

「大丈夫? 歩ける?」

「もう少し休んでいきなよ」

 子供達がそう言ってると


「おーい、どこだーぼうずー!」

 と大きな鬼が現れました。

「うわー!」

 子供達はびっくりしました。


「あ、おっ父」

「おお、ここにいたのか」

「うん、おっ母にこれ食べさせてあげたくて」

 そういって子鬼は父鬼にこれまでの事を話しました。

「そうだったか。ぼうず達、ありがとうな」

「いいよいいよ」

 最初父鬼が現れた時は怖がってた子供達も、話をしているうちにすっかり慣れました。


「では帰るとするか」

「うん、皆本当にありがとう」

「今度は普通に遊びに来てね」

「うん、じゃあまた」

「いろいろ世話になったな、では達者でな」

 こうして子鬼は父鬼と一緒に帰りました。



 そんな事があってから何年か過ぎて子供達も立派な青年になり、それぞれ一生懸命働いています。



 そんなある日

「なんか最近ここに来る人間が多いな」

 そう言ったのはあの時の子鬼、こちらもすっかり大人になっていました。

「そりゃーおめえ、娑婆では戦ばっかだからなあ」

 別の鬼が言いました。

 ここは地獄、悪人達が来る場所、鬼たちは地獄の番人です。

「そうか、戦か」

「人間どももなあ、それぞれの考えはあるんだろうけどなあ」

 そう二人は話していました。


 そして

「そういやあの村の皆はどうしてるだろ」

 そう思い一度あの村へ行こうと思いました。


「閻魔様、すみません、少しの間お暇を頂きたいのですが」

「ああ、構わんよ、お前は真面目で働き者だからな、ゆっくり休んでこい」

 そう言って閻魔大王にお許しを貰った鬼は村へと旅立ちました。

「皆元気だといいんだが」



 村に着いた鬼が見たものは

「これはいったい? まさか戦で」

 変わり果てた姿となった村でした。

 家が焼け落ち、田畑も荒れています。


「おーい、誰かいないかー?」

 鬼は辺りに呼びかけましたが返事がありません。


「まさか皆……」

 そう思いつつ村中を探していると、倒れている一人の男がいました。

「ううう」

「おい、しっかりしろ!」

 鬼は男に持っていた竹筒の水を飲ませました。

「う、あ?」

「おお、気がついたか」

「ひ、鬼?」

「ああ、すまんな驚かせて」

「い、いえそんな、すみません」

「それよりこの村はどうなったんだ? 他の皆はどうした?」


 尋ねられると、男は話し始めました。


 戦に負けた国の兵が野盗と化してこの村を襲った事。

 多くの人が殺されたり攫われたりしたという事。

 村中の食べ物や金を根こそぎ奪っていったって事を。


「そ、そんな……」

「村中皆で立ち向かったけど、多勢に無勢で」

「すまん、俺がもう少し早く来てたらそんな奴ら追い払えたのに」

「あんたのせいじゃねえべって、ん? あれ、あんた前にどっかで会ったような?」

「え? あ、あんたもしかしてあの時の子供?」

「やはりあの時の鬼?」

「ああ、あの時の子鬼だよ」

「あ、子鬼の方か。おとっつあんそっくりだなあんた」

「ああ、よく言われる、そういや名前言ってなかった、俺は権助ごんすけっていうんだ」

「オラは与作よさくだ」


 こうして再会した権助と与作は他に生き残った人がいないか探し回りました。

 大半はもうすでに事切れていましたが、大怪我をしていたもののまだ息のあったものもいて急いで寺に連れて行きました。

 寺には老人や子供達の何人かか逃げのびていました。


「どうやら生き残ったのはこれだけのようだな」

「そうか、あの時の他の皆は」

「ああ、太郎たろう熊吉くまきち佐吉さきちも、おそらくもう」

「……くそ、野盗共め」

 権助の心にある思いが芽生えました。


 そして何日か過ぎ、大怪我をした村人達がある程度回復したのを見ると権助は言いました。

「すまんが俺はもうそろそろ行かないと」

「そうか、いや、来てくれてありがとうな」

「これから大変だと思うが頑張ってな」

「ああ」

「また来るわ」


 権助は村を去りました。


 地獄へ帰るのではなく、野盗共を倒しに。




 権助は野盗共の棲家を探し当てました。

 そっと窓から中を覗いてみると

「へっへ、あの村じゃ結構収穫あったな」

「そうですね親分、これで当分は安泰ですぜ」

「攫ってきた女どもはどうしやす?」

「南蛮にでも売り飛ばすか」


「あいつら……許さねえ」


 ドカアッ!

 権助は持っていた金棒で壁をぶち破って中に入りました。


「な、なんだいったい!?」

「うわ、鬼だ!」

「に、逃げやしょう!」

「慌てるな! 相手は一匹だ、全員でかかれ!」


 野盗達は一斉に権助に襲いかかりました。

 しかし文字通り鬼である権助には敵いません。

 一人また一人とやられていきました。


 そして最後に野盗の親分一人となりました。

「く、くそ」

「皆の仇、覚悟しろ!」

「うわああああ!」

 親分はやぶれかぶれで突撃して刀で権助の腹を刺しました。

「ぐふっ!」

 権助は倒れました。

「へ、へへ、やったか?」

 と親分が思ったとき

「ぐおおおお!」

 権助は起き上がり野盗の親分を殴り飛ばしました。


「ハアハア。こ、これで皆の仇は討てたか」

 権助は再びその場に倒れました。


「う、うう」

「ん? まだ生き残ってたやつがいたのか」

 権助は起き上がり声のした方を見ました

 するとそこには野盗の一人が倒れていましたがもう虫の息でした。

「う、うう、すまねえ、俺はもうここまでだ」

「?」

「おっ母……飯持って帰れずすまねえ……うっ」

 その野盗は事切れました。


 それを見た権助は子供の頃に病気で寝込んでいた母親に果実を、と娑婆に来た時の事を思い出し、そして

 

 そういえばこの野盗達は戦で負けた国の兵だったんだよな。

 こいつらにも家族がいたんだよな。

 許す事は出来ないが、こいつらにも事情があった、のだけは……




 権助は怪我を押しながら野盗達の墓を作って葬りました。

「次に生まれた時は、野盗なんかしないように生きられるように」

 権助はそう言うと気を失ってしまいました。




 そして気がつくと

「おお、気がついたか」

 そう言われて声のした方を見るとそこにはお地蔵様がいました。

「あ、閻魔様」

「こりゃ、この姿の時はお地蔵様と呼ばんか」

「あ、そうでしたお地蔵様。ところでここはいったい?」

「ここは人間道の前じゃ」

「人間道? 人間に生まれ変わる道ですか」

「そうじゃ」

「なぜ俺をここに?」

「権助、お前は仇討をしたいか?」

「え? もうしましたけど?」

「いや、お前はもうわかっているはずだ、真の仇が他にある事を」

「……はい、娑婆には様々な悪しき縁が渦巻いているために、人々が憎しみ合い殺しあうなど犯したくない罪を犯しています。それらの悪しき縁を潰さないと、本当の仇は討てないのではないかと」

「そう思うならばな、この道を行き人間に生まれ変わるがいい。そしての、わしや地獄の鬼達全員に暇を出せるようにしてくるがいい」

「でも俺にできるでしょうか?」

「出来んと思うならこんな所に連れて来んわ」

「……わかりました。では行ってきます」

「しっかりな」

「はい」



 こうして権助は人間道を進み、人間に生まれ変わりました。

 どの時代のどこの人にか、それは誰にもわかりません。

 でもどこにいようとも前世の記憶がなくとも

 この世から悪しき縁をなくす「真の仇討ち」をしているでしょうね……



 おしまい

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真の仇討ち 仁志隆生 @ryuseienbu

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