ゴースト刑事(デカ)
マスP
プロローグ
彼は今自分がいる場所が何処なのか、何時からいるのか、そもそも何故ここにいるのか思い出せずにいた。もしかすると記憶喪失になってしまったのかと思い、記憶の糸を手繰り寄せてみた。
名前は雅良太、歳は三十五歳、島根生まれの大阪育ち、大学を出てそのまま東京に住んで十七年、妻の名前は由里、子供はいない、母親の名は・・・
彼はここで自分探しを止めた。こんなにすらすら思い出せる記憶喪失などあり得ないからだ。
それにしてもここは薄暗いというだけで、形のある物は何も見えない。正に霧というよりも分厚い雲の中に頭を突っ込んでいる感じだった。
彼は少し歩いてみようとして、あることに気付きゾッとした。
足を踏み出す感覚がないのだ。そういえば手を動かす感覚もない。
自分はここに漂っているだけのか。
音さえ何も聞こえない・・・・
いや何か聞こえる。
だがそれはラジオのノイズの様に、高音、低音が入り混じり、理解できる言葉でも、もちろん言語でもない。
分厚い雲の中の薄暗い光と、ラジオのノイズだけ。
もしかすると、自分は事故か病で視覚と聴覚だけの植物人間になったのだろうか?
そう思うと鼓動は高まり息も荒くなり、思わず深呼吸しようとしたが・・・・
呼吸をする感覚さえもない事に気付いた。
狼狽しながら視線を周囲に振り回し、耳を研ぎ澄まし、肌に感ずるものを漏らさず感じ、今の状況を理解しようと思考を巡らせた。
しかし、相変わらずどす黒い濃霧と耳障りなノイズだけだった。
(一体俺の身に何が起こったんだ?)
良太は自分に問いかけた。
その時である。唐突としてそれは起きた。
「あんた死んだんだよ。気がつかなかったのかい?」
突然声が聞こえた。
良太はやっと何か理解できる事が起きて一瞬ホッとする気持ちが沸き起こった。
しかし・・・
『あんた死んだんだよ。気がつかなかったのかい?』
言葉を思い出し、安堵を超えるショックが彼の心を握りつぶした。
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