第6話 メリークリスマス

「お兄ちゃん、ありがとう。いろいろ…。」

「バーカ。あんまり萎らしいと気持ちわるいだろ。」

「ふーんだ。ふりしただけだよ。」

「可愛くないやつ。まぁその方がおまえらしいよ。気をつけて帰れよ。」

「うん。バイバイ。」


 翌日の朝早く紗綾は帰って行った。

 駅の売店でしっかりサンドイッチとコーヒーを買わせる、そつのない妹である。

 だが、少しは吹っ切れた様で安心して見送った。


「新太の妹君にも会ってみとうごさいましたね。」

「新太に似てなくて、すごく可愛いかったわよ。しっかりしてるしね。」

「ほう、それなら新太の両親も安心じゃのう。」

「どういう意味ですか⁈」

「ちっとからこうただけじゃ。新太は新太で良いところがあるのだから気にするでない。」

「例えば?ひとり一個言って下さい。俺のいいところ。」

「男がその様なこと催促するでない!情けない!」

「チェッ、ああ、そうだ。正月は俺の実家に行きませんか?母さんが俺じゃあお屋形様たちに、ロクな正月を迎えさせられないだろうって。拓海も実家に帰るかもしれないですから。マリーちゃん拓海から聞いてる?」

「何も言ってなかたよ。」

「そっかあ、じゃあ今年は帰らないつもりかな?拓海が帰ったら話てみよう。」


 拓海が七面鳥の丸焼きを買って戻ってきた。

 七面鳥の丸焼きなんて初めてみる。

 マリーアントワネットがいて、七面鳥にシャンパン、でっかいクリスマスケーキ。そして寿司。日本人って祝い事に寿司を外せないんだよな。


「メリークリスマス!!!」

「めりぃくりすますう!!」

「新太これは殿と私からの、ぷれずえんとですよ。」

「私と拓海からも。はい。」

「ぅわあ、マジで?ありがとうございますっ!俺からも皆んなにプレゼントがあるんです。」


 昨日、紗綾と行った店で買ったベネチアングラスのストラップを渡した。


「まあ、なんと美しい。蝶の型をしております。」


 お濃さんには紫のストラップ。


「うむ、見事な細工じゃ。」


 お屋形様には藍色の中に金や銀が散りばめた宇宙をイメージできるストラップ。


「私の好きな色しってたの?可愛いわ。」


 マリーちゃんにショッキングピンクの花畑の様なクロス型のストラップ。


「新太にしてはいいセンスだな。これは世界にひとつしかないガラスなんだ。僕たちにぴったりだ。」


 拓海には浅葱色のクロス型のストラップ。


「知ってたのか?チェッつまんない奴。でもその色は拓海の誕生日1月22日の色で、愛とか友情とか思いやりの意味があるんだって。」

「素敵!拓海の色ね!」

「そこまでは知らなかったよ。やるじゃん!」

「拓海もまだまだな。」

「新太のは?見せて。」

「これ。」

「ローズマダーね。この色にも意味があるの?」

「別にないよ。なんとなく気に入ったから…。」


 嘘。ローズマダーは俺の誕生日の色で、愛敬、優雅、ユーモア、心に響く言葉で感動させる人って言う意味がある。

 そんなの恥ずかしくて言えっかよ!


「お濃さんとマリーちゃんも、お屋形様と拓海からプレゼントもらったんですか?」

「はい。私はじゃあじぃと殿が通っているじむの会員証を頂きました。」

「良かったですね。お濃さん。」

「はい。近頃はしょっ中何処かへ行かれるので、てっきりげす不倫をしているのかと疑っていたのです。安心致しました。」

「下衆風鈴っとはなんじゃ?」

「下衆風鈴じゃなくてゲス不倫。お濃さんはお屋形様が、外に好きな女が出来たんじゃないかって心配してたんですよ。まったく、何処でそんな言葉を…。」

「TVで毎日いってるわよ。ねぇーー。」

「たわけたことを!儂を信じておらぬのか‼︎」

「殿には側室がおりましたでしょ!」

「あっあれは、あの時代では仕方ないではないか?世継ぎの問題があるのだからして…。いっ今はその様な時代ではない!」


 だめだこりゃ。

 痛いとこ突かれて言い訳がカミカミ。

 織田信長だらしねぇ〜。

 まぁそれも仕方ない。この時代に来た時お屋形様には拓海と二人で浮気について、しっかり釘を刺しておいたんだから。


 この時代で浮気したら、妻に財産全部取り上げられて棄てられるぞ!ってね。


「信じておりますよ、殿。信じてなければ今こうして皆と一緒に笑っておりません。

 ただ前の時代では夫が何人側室をとろうと、女子は何も言えず平静を装って耐えるしかありませんでした。こうして本当の気持ちが言える時代に、殿に連れて来て貰えたのが嬉しいのです。」


 お濃さんはクスクス笑いながら言った。


「まりぃちゃんは何をもろうたのじゃ?」


 お屋形様は照れ隠しに話をかえた。


「私はねぇ、ティアラをもらったの。」

「てぇあら…。とはなんです?」

「女性用の冠ですよ。」

「まりぃちゃん今度見せてくださいね。」

「いいわよ。ティアラも凄く嬉しかったけど、拓海が本当のこと話てくれたのが嬉しかったの。それに拓海も一緒にルイ陛下のことを祈ってくれたの。」

「良かったですね。まりぃちゃん。」

「大好きだったお姉様が私の身代わりになって、ギロチンの刑にあったのは残念だし、申し訳ないと思うわ。ルイ陛下を置き去りにして自分勝手だったと、ノブさんとノンちゃんを見てて反省してる。だから私はずっと祈りを捧げるわ。でもね死んでしまうはずのマリア・ヨーゼファお姉様が死なずにすんで、少し救われた気持ちになった。ノンちゃん拓海を説得してくれてありがとう。」

「良いのです。ここで私とまりぃちゃんは、友達であり時に姉妹の様に生きてまいりましょう。」

「ノンちゃん…。」

「儂は友達で兄で父にもなろう。」

「ノブさん。ありがとう。」

「新太は…、弟じゃな。」

「ちょっとぉお屋形様、俺の方がマリーちゃんより年上なんですよ!お屋形様とだって2歳しか違わないんですから。」

「男が小さいことを気にするでない。」


 チッ、いっつも俺はガキ扱いだ。


「そうだ!拓海が帰ったら聞こうと思ってたんだ。おまえ正月はどうすんの?実家に帰らないのか?」

「親からは帰って来いって言われてるけど、そうもいかないだろ?」

「うちの母さんが皆んなで帰って来いって言ってるんだ。お屋形様たちも気分転換になるかと思って誘ってるんだけど、拓海次第だな。」


 拓海は少し考えてこたえた。


「それもそうだな。どうですか?近くにお肌に良い温泉もあるし、ちょっとした旅行気分になれるかもしれませんよ。」

「オンセンって何?」

「地下から沸いたお湯でお風呂を作ってるんだよ。」

「お肌がツヤツヤになるの?」

「そうだよ。」

「ノンちゃん行きましょうよ。楽しそう。」

「そうですねぇ…。」

「儂が留守番をしておるから、二人は行って来るがよい。」

「殿…。ならば私も留守番いたします。」

「どうしたんですか?お屋形様。」

「いや、別に。」

「殿は新太の母上が苦手なのです。」

「お濃、余計なこと言うでない!わっ儂は別に母上を恐れてなどおらぬわ!」

「恐れているとは言っておりません。苦手と言ったのです。」

「えっえぇぇい、小賢しい!天下の武将織田信長が、たかが女子おなご一人を恐れているなどあり得ぬわ!」

「だから恐れているとは言っておりません。はぁーー。」


 プッフ、意外に可愛いとこあるじゃん。

 初対面で一番最悪な時の母さん見てるもんなぁ。仕方ないか。


「お屋形様、母さんは普段はあんなじゃないですよ。うちは酒屋だって言いましたよね?小さいけど蔵もあって母さんが酒を作ってるんです。日本酒の味がわかるお屋形様となら、気があうと思うんだけどなぁ。大好きな酒飲み放題ですよ。」

「なに⁈母上は酒を作っておられるのか?女子だてらにあの度胸、只者ではないと感じていたのじゃ。あっぱれじゃ!」


 天下の武将織田信長、意外に単純だった。


「今回は三人に新太の実家へ行って貰いたい理由があります。

 僕は新太の両親が何か隠してる様な気がするんです。」

「隠してるって何を?」

「タイムスリップの事。僕と新太では警戒されるだろうから、それが何か三人に探って来て欲しいんです。」

「でも、それが私たちに不都合なことだったら…、どうするの?」

「まりぃちゃん、タイムスリップするスマホはもうないんだ。何かあったとしても、新太と僕がちゃんと対処するから安心していいんだよ。」

「おおっ、その様なことならば儂とお濃に任せよ!隠しごとの口を割らせるのは得意中の得意。お濃は探りの名人。儂とお濃がおれば無敵じゃぞ!ワッハッハハハア」

「まあ、殿。その様なことを…、嬉しゅうございます。」


 この夫婦はまた戦国の血が大騒ぎしてる。


「俺の親だってこと忘れないで下さいよ!くれぐれも手荒な真似だけは…。」

「わかっておるわ!あの母上に下手な事をしたら何をされるか考えたくもない!」


 お屋形様はそう言って武者震いした。

 おおっ!織田信長が武者震い。これが本物武者震いだ。

 それにしても母さんって、そこまで恐いかなぁ?


「大丈夫ですよ。殿は人を陥れるあの手この手はを、たっくさん心得ておりますから。」

「そうよね。ノブさんって頭いいもん。手段を選ばないしねぇ。」

「もう、よさぬか二人とも照れるでわないか。さあ儂の新作まかろんでもどうじゃ?」


 あんたら三人とも全然褒めてねぇーよ!


「とにかく三人とも穏便に上手くやって下さい。」


 そんなワケでかなり不安を感じるが、正月は俺の実家で過ごすことに決定した。

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