1-3-6 苦戦

「踏ん張れ! 俺達が苦しい時は、敵も苦しいんだ! 諦めるな! 押し戻せ! 」


 ノーデンスの檄が飛ぶ、自警団員はその檄に応え、実力以上の力を発揮する。


 急遽ダンウィッチ防衛の為に編成されたこの自警団は、実戦経験を持たない者が多い。それどころか、まだ子供と呼んでも差し支え無い者まで志願参加している。


 実戦経験も乏しく、その上訓練期間も不充分な彼等は、どう評価しても


 苛烈ならざる戦場において、防衛の任にすら耐えられない部隊


 と判断せざるを得ない、全くと言って良い程戦力として当てにならない部隊であった。


 そんな彼等がどうにか戦線を支えているのは、郷土愛と作戦の妙であった。彼等は自分の姉、妹、幼馴染みのガールフレンドや憧れの深窓の令嬢を守る為に、命を懸けて戦っていた。


 そんな彼等の心の拠り所となったのがノーデンスである、ルルイエ世界最強の賞金稼ぎの一人に数えられ、慈善家としても有名なノーデンスを、彼等は皆一度は憧れた。憧れのノーデンスと一緒に、大切な存在を守る為に戦える、これで心が奮い立たない訳がない。


 作戦の妙は、ノーデンスと共に壁に徹して動かない事である。


 ノーデンスの名声は、敵にとっても看過出来ない物がある、自警団にとって拠り所なら、野盗にとっては最悪の災難である。相対した場合には、自分の命を守る為に慎重にならざるを得ない。慎重になって部隊行動が鈍れば、両翼から百戦錬磨のハスタァとマージョリーが率いるビヤーキー隊が突入し、足踏みする野盗共を擦り潰して追い返す。結果、新米自警団員の多くは生き残る事が出来た、生存は自信となり、守った誇りとなり経験として蓄積する。


 実戦を利用して彼等を鍛えるこの作戦は、立てたマグダラ自身をして『泥縄式』と自嘲する程の危うい作戦であったが、ノーデンス、ハスタァ、マージョリー、ビヤーキー隊という四本柱に支えられて、充分な成果をあげていた。


 こんな泥縄式の作戦も後少しの我慢、土星の刻限を過ぎればマスターが帰って来る、マスターさえ帰って来れば、野盗の群れなんか簡単に捻り潰す事が出来る、それまでみんな頑張って。


 砂を噛む思いで願うマグダラの思いも虚しく、アーミティッジ枢機卿の姦計による野盗達の猛攻が、土星の刻限の直前に開始された。


「おりゃあ~! 次はどいつだ! 死にたい奴は出て来やがれ! 」


 最前線で、攻め寄せる野盗の精霊機甲を屠り、ノーデンスが雄叫びをあげる。


 幾分演技が過ぎる気もするが、部隊の士気向上の為ならやむを得ない、道化にでもなんでもなってやる。しかし、今回はコイツら思いの外しつこいぞ、何か有るかもしれん。


 訝しく思ったノーデンスの周りで異変が起きた、自警団員が突如苦しみ出して戦線が混乱した。


「何だ! どうしたんだ? 」


 ノーデンスの問いに、一人の自警団員が苦しみながら答えた。


「ノーデンスさん、あそこに変な鳥が、あいつが飛んで来てから……みんな、変に……」

「分かった。ようし、ここは俺が支える、お前達は苦しんでいる仲間を回収してすぐに下がれ。」


 指示を出したノーデンスは、戦場を見回して自警団員の報告した変な鳥を探した。


 その鳥はすぐに見つかった、上空を飛ぶきらびやかな七色の羽を持つ鳥を視認する。


「何だ、ありゃあ? 」


 ノーデンスは鳥と目が合った様な気がした、すると鳥は一直線に飛来してノーデンスの精霊機甲、ナイトゴーントの前に降り立った。


「! 」


 ノーデンスは鳥の姿に目を見張る、美しくもおぞましい人間の女の顔と、きらびやかな七色の羽を持つ一本足の不気味な鳥。


 ミスカトニックの郊外で見たあの鳥だ!


 鳥はモニター越しにノーデンスと目を合わせると、禍々しい笑顔でニタリと笑って囀ずり始める。


 テケリ・リ テケリ・リ テケリ・リ テケリ・リ


 凶鳥の囀ずりを聞いたノーデンスは、目から生気を失った、一瞬後彼の目は狂気を孕んで真っ赤に輝いた。


「ぐぉおおおおおおお! 」


 口から泡を飛ばし、狂気の表情を浮かべ、ノーデンスは咆哮する、そしてマージョリーの孤児院めがけて突進を始める。


 少し離れた高台から、この光景を見てアーミティッジ枢機卿は、満足そうな笑みを浮かべた。


 ノーデンスの異変に気がついたマグダラは、ナイトゴーントのクリスタルを発振させる。


「ちょっと! 何やってるの、ノーデンス! 」


 マグダラがクリスタルを通して見たのは、狂戦士と化したノーデンスの姿であった。


「ネオンナイト! オレトタタカエ! 」


 正気を失ったノーデンスは、野盗の群れを引き連れて孤児院を目指している。


 早く止めなければ!


 マグダラはマージョリーとハスタァに連絡を取る。


「マージ! ハスタァ! ノーデンスが変なの! 早くあいつを止めて! 」

「何ですって! 」

「分かった、すぐに追いかける! 」


 マージョリーとハスタァは、それぞれリュミエールとイタクァを全速力で飛ばしてノーデンスを追った。


 矢継ぎ早にマグダラは、各部隊に指示を出す。


「自警団は最終防衛ラインまで下がって、そこで防衛線を構築、ビヤーキー隊はその前に布陣して野盗達の機動戦力の侵入の排除、配置転換急いで! 」


 マグダラの急な配置転換の指示に、各部隊は蜂の巣をつついた様な騒ぎとなり、取るものもとりあえず走り出す。


 マグダラとアリシアが、はらはらしながら戦場を見守る中、ハスタァのイタクァがノーデンスのナイトゴーントに追いつき、押し止める。


「ノーデンス、どうした! ? しっかりしろ! 」


 ハスタァが必死に呼び掛けるが、狂戦士と化したノーデンスの耳には既に、幼馴染みの声すら入らなくなっていた。


「ウグゥゥゥウウウウ、ネオンナイト! ネオンナイト! 」


 ひたすらにネオンナイトとの戦いを欲し、狂ったノーデンスのナイトゴーントに、押し止めようと試みるイタクァは次第に力負けし、ジリジリと押し込まれていく。


「馬鹿な! ? このイタクァが力負けするだと! 」


 焦るハスタァの目に、ナイトゴーントの背後から、殺到する野盗達の精霊機甲と機動兵器の軍団が映った。


「これまでか、キョウ殿、すまん。」


 ハスタァは悔しさに歯軋りをして、思わず天を仰ぐ。


「まだよ! ハスタァ! 諦めないで! 」


 マージョリーのリュミエールが駆けつけて、加勢する。


「いっけぇ~! 影縫いぃ~! 」


 広範囲の影縫いを仕掛け、マージョリーはノーデンスと野盗達の前進を食い止める事に成功する。間一髪、各部隊の配置転換が終了した。


 しかし、ほっとするのも束の間だった。


「グギャオオオオオオ! 」


 信じられない程の力を発揮して、ノーデンスは影縫いの戒めを解いた、常軌を逸した力を発揮して、ノーデンスのナイトゴーントは再びイタクァを押し込み進み始めた。


「ノーデンス、一体どうしちゃったの! ? 」


 マージョリーもハスタァに加勢して、一緒にナイトゴーントを押し止める。


「すまない、マージョリー殿。」


 しかし、ナイトゴーントは止まらない。


「何、この力! ? 二機がかりでもダメなの! 」


 余りのナイトゴーントの力に、マージョリーの気が影縫いの維持から逸れたのを見てとったアーミティッジ枢機卿は、解除の魔法で野盗達の精霊機甲を解放する。


 自由になった野盗達は、ノーデンスを食い止めるマージョリーとハスタァの脇をすり抜け、孤児院に向かって進撃を始めた。


「ビヤーキー隊! パンツァーカイルで叩き返して! 」


 ビヤーキー隊の主力精霊機甲ビヤーキーは、本来高速機動戦を得意とする機体で、防衛戦闘に使うならば、拠点防御ではなく機動防御に使うべく機体だが、事ここに及んでは致し方無く、不利を補う為にマグダラは、陣形による集団連携戦を指示する。


「ビヤーキー隊! 根性みせろ! 」

「お願い、頑張って! 」


 ハスタァとマージョリーの檄が飛ぶ、ビヤーキー隊は三人の期待によく応え、戦線を維持して野盗達を叩き返す。やはり百戦錬磨に鍛え抜かれたビヤーキー隊と、勝手気ままに統制の取れていない野盗達とでは格が違った。


 突然のノーデンスの謎の造反という、予想外のイレギュラーの発生にも関わらず、苦しいながらも防衛戦は均衡を保っている。

 土星の刻限まであと僅か、後少しだけ耐えれば大丈夫とマグダラは考えていたが、そんな彼女を嘲笑うかの様に、野盗達は最悪の手を使って攻め寄せて来た。


 ビヤーキー隊の精霊機甲の足下をすり抜け、二足歩行機ンガ・クトゥンを使った浸透突破を謀って来たのだ。大部分はビヤーキー隊に潰されたが、数機のンガ・クトゥンが突破に成功し、自警団を蹂躙する。援護に向かおうとビヤーキー隊の隊列が崩れた所に、再び野盗達の精霊機甲が襲いかかる、防御陣は阿鼻叫喚となった。


 ノーデンスの造反は、遂に埋めがたい穴となり、防御部隊の肩に重くのし掛かった。


 野盗の駆るンガ・クトゥンから放たれた火矢が、養蜂箱の一つに命中した。燃え上がる養蜂箱に、小さな人影が走り寄る。


「うわぁあああん、ハチさぁ~ん、ようちゅうさぁ~ん! 」


 アビィが泣きながら養蜂箱に向かって走って行く。


「アビィ、いつの間に! 」


 ディオの親爺が痛恨の呻き声を上げた。


「ダメよ! アビィ、戻って! 」


 マージョリーが必死に叫ぶ。


 しかし、それを見逃す野盗達ではなかった、彼等はあっという間にアビィを取り囲む。


「アビィ! アビィ! ノーデンス! お願い! 目を覚まして! 誰か! 誰かアビィを助けて! 」


 マージョリーの悲痛な叫びも虚しく、アビィは野盗達の手に落ちた。


「おぉ~、女の子だぜぇ~。」

「いやだぁ~! マージおねえちゃ~ん! 」


 下卑た野盗達の視線に囲まれ、アビィは怯えて泣き叫ぶ。


「これで俺達の格も上がるぜ。」


 へらへらと笑い、アビィに手をかけた野盗の全身を、金色の点が覆い尽くす。


「何だ、いっ痛てぇ! 痛てぇ! 」


 野盗達はアビィを手放し、地面を転がりのたうち回る。


「蜂だ! チクショウ! こっちに来るな! 」


 黄金のミツバチ達は、巧みに野盗達を追い立ててアビィから引き離す事に成功した。


 この子は我等の幼虫を可愛いと言ってくれた

 この子は我等の幼虫に優しくキスをしてくれた

 この子は我等の幼虫を友達と呼んでくれた

 この子は我等の幼虫を溢れる愛で慈しんでくれた

 この子は我等の幼虫を救う為に駆け付けてくれた

 この子は我等の幼虫の非業の最期に涙してくれた


 アビィを守る様に周りを飛ぶ黄金のミツバチ達は、空中で互いに頷き合う。


 ならば、この子を守る為ならば、私達は命はいらない!


 彼女達は、悲壮な覚悟を心に決め、野盗達に群がり刺し違える。下卑た野心でアビィを捕らえようと取り囲んだ野盗達は、全身を黄金のミツバチ達に刺されて絶命した。


 野盗一人に対し、その数百倍の黄金のミツバチの死体。


「ごめんなさい、ありがとう……」


 黄金のミツバチ達の献身を目の当たりにしたマージョリーは、そっと目を閉じて勇敢な蜂達の冥福を祈った。


 土壇場の総力戦の様相を呈してきたダンウィッチ防衛戦、勝敗を分ける鍵は士気である、しかし……


 ハスタァは防衛部隊、特に自警団の士気を維持するため、大きなジレンマに陥っていた。


 後少しで土星の刻限、それまで士気を維持出来れば我々の勝利は間違いない。

 しかし、自警団員の士気が、この馬鹿のせいで崩壊寸前だ! このままでは犠牲も増える一方だ、もしも孤児院の子供達に被害が及んだら、自分を信じてこの場を任せてくれたキョウ殿に顔向けが出来ない。士気を維持するためには……、いや、白騎士教団の戦闘僧伽としての立場上、ネオンナイトを当てにする訳にはいかない。しかしだ、今は緊急事態だ、損害を最小限にする為、士気を鼓舞する為には仕方がない、その為なら自分は後でどんな処罰も甘んじて受けよう。


 腹を括ったハスタァが、大きな声で叫ぶ。


「ビヤーキー隊及び、自警団員の諸君! 苦しい戦いではあるが、今しばらく耐えられよ! もうすぐ土星の刻限がやって来る、それまで耐えたら我々の勝利だ! なぜならキョウ殿が、最強の機械魔導師にして精霊騎士、ネオンナイトが必ず諸君を救いにやって来る! それまでの辛抱だ! 決して諦めるな! 」


 ハスタァの必死の演説を嘲笑い、ウォーランが現れて否定した。


「莫迦め、ネオンナイトは死んだわ! 」

「何だって! 」


 ハスタァは耳を疑った、まさかあのキョウ殿が、たかが野盗ごときの手にかかる訳がない。


「何が最強だ、あんな腰抜け見たことがねえぜ! 」


 ウォーランの言葉に、手下共が下卑た追従笑いをする。


「嘘! キョウは生きてる! 」


 凛としたマージョリーの言葉が、野盗共の下卑た笑いををかき消した。


「キョウは私と約束した、だから必ず帰ってくる! 誰が何て言おうと、私はキョウを信じる! 」

「マージ……」


 マグダラはマージョリーの言葉に微笑んで頷く。


 しかしウォーランは、品の無い態度と口調で嘲り続ける。


「そんな事言ったってヨォ、おっんじまったモンはしょうがねぇだろ。どうしても信じられねぇって言うなら、証拠を見せてやっても良いんだぜ、ほらよ。」


 そう言ってウォーランは、首桶からキョウの首を取り出し、高々と掲げた。


「どうだい、これでもまた生きてるって言うのかい、え~っ。」


 いやらしく勝ち誇った笑みを浮かべ、ウォーランは防衛部隊をめ回した。


 掲げた首は血を失ってか、黒く変色している。


 それを目にしたハスタァが絶句し、アリシアが泣き崩れる。


「そんな、まさか……」

「イャァ! キョウ様が! キョウ様が~! 」


 激しく動揺する二人に、マグダラが厳しい叱責を飛ばす。


狼狽うろたえないで! あなた達がそんな事でどうするの! 」


 気丈に指揮権を掌握し、部隊の士気を維持しようとするマグダラに、アリシアが涙に濡れた顔を向ける。


「だってお姉様、キョウ様があんなお姿に~! 」


 アリシアはマグダラにしがみつこうとしたが、実体の無い彼女をすり抜け床に倒れ伏し、そのまま号泣した。


 泣きじゃくるアリシアを一顧だにせず、マグダラは二人に叱咤を続ける。


「うるさい! 二人共マージを見習いなさい! 」


 マージョリーはリュミエールのコクピットの中で、涙をこらえてキョウの首を見つめていた。

 両手を握りしめ、マージョリーは自分に言い聞かせる。


「嘘だ! キョウが死ぬ訳無い! 必ず生きてる! 生きてる! 生きてる! 生きてるんだぁ~! 」


 マージョリーは絶叫した。気力と魔力を振り絞り、ナイトゴーントを押し留める。


「必ず帰ってくるって約束した! だから私も約束を守る! 貴方の帰る場所を守って見せる! 」


 そんなマージョリーを鼻で笑い、ウォーランは更に心を折りにかかる。


「現実を受け入れろよ、姉ちゃん、あんたにも見せてやりたったぜ、こいつがみっともなく命乞いをする姿をよぉ。ま、俺達の盟主、アーミティッジ枢機卿の手にかかればこんなモンよ。」

「何だって! まさか、アーミティッジ枢機卿が野盗の盟主だって! ? 」


 愕然としてハスタァが聞き返す。


「ああ、そうだぜ、俺様達は言うなれば、白騎士教団お抱えの野盗って事なのさ。」

「調子に乗り過ぎです、ウォーラン。」


 ウォーランの隣に現れたアーミティッジの姿に、ハスタァは激しく動揺する。


「何故! 何故なんですか! ? アーミティッジ枢機卿! 」


 アーミティッジは、ハスタァの必死の問いに冷淡に答えた。


「私はあなたに命令しました、その娘がネオンナイトと接触したら殺しなさいと。しかしあなたは今まで生かしておいた、だからですよ。」

「そんな……」

「だから私はウォーランに命じて、ここを襲わせたんです。ハスタァ僧正、あなたは教団に対する特別背教行為の咎で、ここに死刑を宣告します。最期の情けで一つ聞かせあげましょう、私はマリア病克服の為の研究をしています。その献体として、多くの娘達を必要としているんですよ、資金も。この孤児院にはその両方があります。有効利用させてもらいますよ、ほっほっほ。」


 悔しさにうち震えるハスタァに、アーミティッジが冷笑を浴びせた時だった。


「そいつが聞きたかったぜ、さそり道人。」


 いきなりキョウの首が目を開き、喋り出した。


「あひゃあ! 」


 ウォーランは無様に腰を抜かし、持っていた首を放り出した。


 放り出されたキョウの首は、ふわりと空中に浮かぶと、髪と瞳の色が金色に変わり、肌の色は真っ黒に変化した、そして大きく口を開ける。


「にゃ~る~が~しゃ~ん~な~! 」


 首が空に向かって大きく咆哮した、すると夜空高く、打ち上げ花火の様に大きな魔方陣が美しく描き出された。


 首は空中で回転すると、ナイアルラートのキュートな姿に変身する。ナイアルラートはウォーランの顔面に思い切り回し蹴りを放ち、魔方陣向かって飛んで行く。


 魔方陣の中央が揺らぎ、檜扇の先端が現れた。


 檜扇が左右に動くと、夜空は暖簾の様にめくれ、その向こう側からマージョリー達が帰りを待ちわびた男が現れた。


「キョウ! 」

「マスター! 」

「キョウ殿! 」

「キョウ様ぁ~! 」

「キョウ! 」

「キョウおにいちゃん! 」


 皆の目が輝き、希望が甦った。


「すまない、待たせた。」


 キョウは包み込む様な優しい笑顔で、待たせた皆に謝罪する。


「うほっ、カワイコちゃんばかりじゃのう! 」


 キョウの肩から脇にぶら下げた瓶から、鼻の下を伸ばしたスケベジジイの様な老人の声がした。


「だろう、セクハラはするなよ。」


 キョウが言うと、瓶はムッとして答える。


「誰がそんな事するか! 儂は紳士なんじゃ! 」

「そういう事にしておきますか。」


 キョウはナイアルラートを肩に乗せ、自警団を突破して孤児院に殺到しつつある、野盗の群れの前に舞い降りた。


「しかしアレじゃの、こんなカワイコちゃん達をいじめるとは許せんのぉ。キョウ! やってやれい! 」


 エキサイトする瓶の声が、キョウをけしかける。


「言われなくても、分かっているさ。」


 腰に差した黒絹の鞘からバルザイのシミターを抜き放ち、足を前後に大きく開く、やや前のめりの低い姿勢で刀身を担ぐ様に横薙ぎに構え、そのまま大きく身体を捻り、足指はしっかり大地を掴む。


 キョウはバルザイのシミターに、あらん限りの力と魔力を込めた。


「テメェら、俺の留守中に、よくも好き放題やってくれたな。」


 キョウの瞳が青白く輝く。バルザイのシミターの刀身が、巨大なザンバーに変化した。


「ロング・リィィィィィィブ・ロックンロール! 」


 ザンバーを一閃し、込められた力と魔力を解放すると、迫り来る野盗共は快刀に断たれた乱麻の如く、ズタズタに斬り倒され吹き飛ばされた。

 そしてその剣圧は、養蜂箱についた火を消し止める。


「キョウおにいちゃん! 」


 アビィがキョウに駆け寄り、嬉しそうに抱きついて胸に顔を埋める。


「ゴメンな、アビィ、怖かったろう? 」


 キョウの優しい言葉に、アビィはくしゃくしゃに歪めた顔を向け、涙をこらえて指を差しながら言った。


「はちさんがね、はちさんがたすけてくれたの。」


 キョウはアビィの指差す先を見ると、アビィを守る為に野盗共と刺し違えた黄金のミツバチの骸が、大量に横たわっていた。


 キョウは小さな英雄達の遺骸に、深々と頭を下げる。


 そして頭を上げたキョウは、アビィに優しく、力強く宣言した。


「もう大丈夫、今からお兄ちゃんが、悪い奴等をみんなやっつけて来るからね。」

「うん! 」


 アビィは大輪のひまわりの笑顔で、キョウの背中を見送った。

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