▼プロローグ
――そこは静寂に満ちた世界――。
目を閉じ耳をすませば、聞こえてくるのは規則的に繰り返される己が鼓動と、吸っては吐き出される微かな吐息の音だけのはずであった。
だが今は、さらに不規則な笛の音のような風鳴りと、はるか前方の彼方から響く低く重い爆発音、そしてエンジンのもたらす振動音が、彼女の鼓膜を振るわせていた。
風鳴りと爆発音は、艦の速度と戦況を、クルーに迅速かつ感覚的に伝える為に、艦のコンピュータが生み出した合成効果音だ。
低い、だが腹の底に響くような重い爆発音は、刻々とその音量と数を増していた。
瞼を上げると、目の前には様々な計器類がもたらす明りと、それに照らされたクルー達の姿があった。
その向こう、ブリッジ正面の進行方向を映すビュワーには、無数の星々の中に紛れ、明滅する光の粒が映しだされていた。それこそが彼女達が向かう戦場、宇宙の戦場だ。
「減速態勢から戦闘態勢への艦首回頭完了。現在本艦は慣性航行中。戦闘宙域到達予定時刻まで後二分四五秒」
『全無人艦〈ラパナス改〉に異常無し、指定間隔で先行中、一番艦、間も無く戦闘宙域に到達なのです』
「全武装、安全装置解除、UVエネルギー充填開始。全発射管に対艦UV弾頭ミサイル装填完了」
「全ヒューボット、ダメコン態勢で配置完了」
「第一迎撃分艦隊は敵艦隊の減速に成功していますが、攻撃はシードピラーには届いていない模様。シードピラーの位置及び敵艦隊の配置データを送りますデス」
『こちら艦尾有人艦載機カタパルト、クィンティルラ、昇電TMC、発艦準備よろし』
『同じくフォムフォム、無人艦載機セーピアー全十二機、全て発艦準備良し』
「第一迎撃分艦隊への警告通信開始します」
クルー達の報告の数々、彼女は座席の肱掛けを握りしめながらそれらに耳を澄ました。
彼女は経験と努力、そしてそれらが生み出した勘に従い、その瞬間を感じ取ると叫んだ。
「総員【ANESYS】
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