▼第十章『It's a good day to die!!』 ♯3
〈ジュラント〉のア
このグォイドとの長きにわたる戦いの最終決戦という時に、なんとかア
そして人類の勝利への一助として、ここ【
己を存在意義を達成することができた。
信じて最善を尽くしてきたつもりだが、ワープゲイトを無事潜り抜けられるか? 出来ても〈対消滅爆弾〉が起爆しなかったり、それ以前に〈対消滅爆弾〉の納められた〈アクシヲン二世〉を、起爆すべき位置にたどり着く前に、グォイドとの戦闘で破壊されてしまいはしないか? とあらゆる可能性を恐れていた。
だがこうして目論見通りの位置とタイミングで〈対消滅爆弾〉は無事起爆し、【グォイド・プラント】の後端に、【オリジナルUVDビルダー】へと続く最後の道筋を設けることができた。
ただ通り道を開けるためだけにしては、いささか不効率な爆発だった気がするが、今それを望むのは贅沢というものだろう。
想定を超えた〈対消滅爆弾〉の輻射は、球状に空間を刈り取る以上の破壊力をその外の空間に発揮し、それは爆弾を発射した当人たる〈ジュラント〉と他の〈じんりゅう〉級四隻にも襲い掛かった。
〈じんりゅう〉級一行は、無人駆逐艦〈ヘリアンサス〉や、サティ、IDNの犠牲によりなんとか自滅を免れたが、それでも単縦陣の先頭で輻射を真正面から受け止めた〈ジュラント〉の船体は、決して軽くはないダメージを負っていた。
〈ジュラント〉は【
〈ジュラント〉のトレードマークたる艦首のヒマワリの花のようなUVシールド発生ディフレクターも、今はドロドロに溶けた金属の塊になり果てていた。
これで〈ジュラント〉ほ、ほぼ素体の能力のみで今後戦うしかない。
ジュリーは心細さを覚えないでもなかったが、逆に言えばダメージは〈ジュラント〉の船体にはもう残ってはいないということでもあった。
ジュリーはどこか清々した気持ちで、自分に残された最後の使命に集中することにした。
あと自分達がすべきことは、無事に〈じんりゅう〉が【オリジナルUVDビルダー】へとたどり付くまで、ほんの少しの間、ここで時間稼ぎをするだけで良かった。
実にシンプルでジュリーは気に入っていた。
ジュリーは瞬時に〈じんりゅう〉のア
同時に〈ファブニル〉と〈ナガラジャ〉は〈じんりゅう〉後方で、追撃してくるグォイドどもを迎え打つ態勢に入る。
つい先刻まで〈じんりゅう〉級一行に追いつき、攻撃をしかけんとしていた〈ニセじんりゅう〉型グォイドは、見た目以外にどこまで〈じんりゅう〉に似せられていたのかを確認する間もなく、〈対消滅爆弾〉の輻射で消し飛んでいた。
これにより〈じんりゅう〉級一行は僅かながら時間を稼ぐことができた。
が、
が、すでに進路前方【グォイド・プラント】最後部に開けた穴と、これまで通ってきた後方の回廊からは、新たな〈ニセじんりゅう〉型含むに来るグォイドが迫ってきていた。
進路前方から来るグォイドは十数隻しかいなかったが、【グォイド・プラント】前部からやってくる追撃グォイドは【グォイド・プラント】前方の大艦隊から分裂した部隊であり、その数は無尽蔵と考えるべきであった。
その迎撃は当然困難を極めるはずであった。
だが【ANESYS】の思考統合時間はまだ3分30秒以上残っている。
それだけあれば〈じんりゅう〉は【オリジナルUVDビルダー】にたどり着けるはずであり、目標達成は不可能ではないはずだ。
ジュリーは自分の任務成功について心配はしていなかった。
困難なのは【オリジナルUVDビルダー】へとたどり着いた〈じんりゅう〉が、無事に帰還してくるを待つことだけだった。
だが、それについては〈じんりゅう〉に頑張ってもらう他なく、自分にできることはない。
だからジュリーは、ただ自分のできることだけをひたすら頑張ることにした。
『
ジュリーは雄たけびとともに、溶けて不定形な金属の塊となった艦首UVシールド・ディフレクターだった物体を、爆砕ボルトで
真正面から鉄塊を叩きつけられた〈ニセじんりゅう〉は、たまらずアコーディオンのごとく蛇腹状になって全長を短くして潰れると、追随する他のグォイド艦を巻き込んで玉突き事故を起こして爆沈していった。
ディフレクターを失った〈ジュラント〉の艦首には、〈ファブニル〉を除外した他の〈じんりゅう〉級三隻と共通したフィギュアヘッド付きの洋上艦に似たフォルムの艦首が現れていた。
さらに身軽になった〈ジュラント〉は、UVキャノンを乱射しつつ、大型化された両舷バルジ内の格納庫から、無人飛宙戦闘機セーピアーを発艦させると、無人機達と共に前方から迫ってきた残りのグォイドどもに襲い掛かった。
戦域は【
それらは戦域にまき散らされた後も、【
結果、迎撃戦闘が開始されて以後、【
その現象はSSDFにとって、多少は良いニュースであった。
ガスと残骸が充満したことで、前方グォイド大艦隊の地球方向への加速と視界が多少は阻害されるからだ。
だが、じわじわと悪化していくSSDFによる迎撃戦闘の戦況の前では、そのような環境の変化など微々たる影響でしかなかった。
圧倒的な敵の数の前では、いかなる攻撃を行えども時間稼ぎにはなっても勝利には繋がりはしない。
沈めども沈めども、減りはすれど決して無くなることはない敵艦の数に、人類は疲弊を蓄積させていた。
第七次小惑星実体弾の投射が終了した時点で、その命中成果を待つことなく、【
つまり地球圏手前でグォイド大艦隊航行空間に到達予定の第七次小惑星実体弾群を最後に、もう高速戦闘指揮巡洋航宙艦〈ヴァジュランダ〉と〈アラドヴァル〉による支援砲撃は無い。
その後は、幾度もの迎撃戦闘を経ても、なお残存したSSDF迎撃艦隊のみをもって【
約三カ月前に観測されはじめた【
多数のグォイド製UVDが発する噴射光が観測されたのだ。
人類は【
それらの存在は、ワープゲイト開通時にごくわずかな時間だけ観測された情報から、一応は予測されていたことではあった。
【
すでに半天然の対グォイドバリケードであるメインベルト内に、【
グォイド大艦隊の艦艇数は、平均的グォイド大規模侵攻時の艦艇数を下回る程度まで減らすことができたが、それを迎撃するSSDFの艦艇はさらに損耗している。
そこへ【
戦略AI〈メーティス〉に尋ねるまでもなく、事態の悪化は明白であった。
だが、ただ事態悪化を告げる情報だけが観測されたわけではなかった。
【
“誰かが中で今もまだ戦い続けている!”
ガスの噴出現象そのものをもって、【カチコミ艦隊】が【
人類にとって、その事実は希望であり続けた。
そして、火星公転軌道と地球圏の中間、現行速度で地球圏まで一週間の位置まで【
――SSDF第八艦隊所属・現地修理用・技術支援艦〈ヘファイストス〉内・作業指揮所――
「なん…………じゃありゃぁ……」
戦線のはるか後方の安全圏で、ひたすら損傷したSSDF艦艇の応急補修と補給が続けられる〈ヘファイストス〉内にて、ノォバ・ジュウシロウは戦況を逐次知らせるビュワーに映る光景に、思わずそう漏らした。
その映像を見る余裕のあった人間は、皆同じように思ったことだろう。
【
黒く蠢く巨大な塵の塊であった。
一瞬、黒い色のついたガスが風圧で舞っている可能性を考えたが、明らかにガスよりも粒子が荒く、明らかに自然にはありえない意思ある動きをしていた。
それは黒虫か、はたまたコウモリか何かの度を越して巨大な大群のようにも見え、それらが不定形に形を変えては【
[トゥルーパー・グォイドの群です]
観測映像の到達から距離による僅かなタイムラグをおき、月の〈メーティス〉が告げてきた。
ノォバはその言葉を聞いただけで、すぐにそれが何かを思い出せた。
だが驚きが消えたわけでは無かった。
土星圏の【ザ・ウォール】内で〈じんりゅう〉を苦しめたという
トゥルーパー・グォイドが、グォイドの本拠地たる【
だが、なぜそのトゥルーパー・グォイドが、同胞たる他のグォイド艦を包み込んでは食い散らして沈めているのか?
ノォバには皆目見当がつかなかった。
しかし、その疑問の答えはすぐに向こうから訪れた。
『こちらSSDF【カチコミ艦隊】戦闘指揮旗艦〈リグ=ヴェーダ〉、現在我々はトゥルーパー・グォイド群のコントロールに成功し、これをもって付近のグォイド艦隊と交戦中!
周辺のSSDF艦に現在の対【
そのトゥルーパー・グォイドの群の内部から届いた通信音声は、ノォバにとってとてもとても聞き覚えのある女性の声だった。
「うわ~ん! 死んじゃうかと思ったよぉ~!!」
キルスティが半ベソ状態でそうこぼした。
テューラはキルスティが自分の気持ちを代弁してくれたので、若干スッキリしたが、だからといって緊張を解ける状況ではなかった。
――〈リグ=ヴェーダ〉内
【カチコミ艦隊】は確かにトゥルーパー・グォイドの大群に包まれた。
常識的に考えればデッドエンドしか待っていない状態のはずだったが、待てども待てどもその瞬間が訪れることは無かった。
それどころか、【カチコミ艦隊】をすっぽりと包んだトゥルーパー・グォイドの膜の向こうで、次々とグォイド艦が破壊されていゆくのが、トゥルーパー・グォイド同士の隙間から観測された。
それが【カチコミ艦隊】が成した所業ではない以上、グォイド艦を破壊したのはトゥルーパー・グォイド意外に考えられなかった。
いったいなぜトゥルーパー・グォイドが突然味方である他のグォイド艦に襲いかかったのか? その答は〈ウィーウィルメック〉のア
『〈王冠〉によるオーバーライド〈遠隔操作〉が成功した模様です』
簡潔な説明すぎてテューラは一瞬頭が真っ白になったが、一応は理解が追いついた。
〈王冠〉は、【グォイド・プラント】へと向かう直前に、〈じんりゅう〉が〈太陽系の
それは〈ウィーウィルメック〉のセンサーモジュールの上に被さることで機能し、アビーの推測によれば、グォイドの指揮系統に割り込んで命令を与えることを可能にする装備と思われた。
思われた……というのは、なにしろ〈太陽系の
そしてこの〈王冠〉は、早速【グォイド・プラント】から発進したグォイド大艦隊に向かって使用が試みられたのだが、効果はなかった。
グォイド艦は、基本的にそのサイズに比して航宙艦で言うところのメインコンピュータの知性が高くなり、シードピラーなどを頂点とする指揮系統に対し厳格になる。
〈王冠〉はいわばグォイド艦に対し、〈ウィーウィルメック〉を指揮系統の上位の存在と誤認させ、偽の命令を与えて自在に操る装置かと思われた。
が、グォイド艦は早々容易く騙されてはくれなかったのだ。
〈王冠〉は【亡命グォイド】にして【他文明救助要請プロトコル】でもあるアビーが使用することで、期待通りの機能を果たすと期待されたのだが、それは甘い考えだった。
シードピラーは言うまでもなく、戦艦、巡洋艦、駆逐艦にすら〈王冠〉の効果はなかった。
〈王冠〉からの指令を偽物と見破るだけの知性があったのだ。
だがただ一種、トゥルーパー・グォイドだけは違った。
トゥルーパー・グォイドは一匹一匹のサイズが数メートルしかなく、当然その内部に有している脳やコンピュータに値する部分のサイズも小さく、宿る知性もそのサイズに準じていた。
だからトゥルーパー・グォイドだけは〈王冠〉経由の偽の命令を見破ることができず、素直に従ってしまったのだ。
トゥルーパー・グォイドは動力源たるUVエネルギーをトータスグォイドから得ていたが、それはオリジナルUVD搭載の〈ウィーウィルメック〉や量産型〈ウィーウィルメック〉のUVシールドからトゥルーパー・グォイドが勝手に吸い取って得ていた為、問題にはならなかった。
オリジナルUVDから無尽蔵にUVエネルギー供給を受けている分、トータスグォイドからのUVエネルギー供給時よりもパワフルになってる可能性すらあった。
それは期待していた成果とは程遠かったが、少なくとも【カチコミ艦隊】を延命させ、グォイド大艦隊の数を減らする効果はあった。
もちろんトゥルーパー・グォイドに襲われたグォイド艦も、黙って沈められはせずにUVキャノンによる反撃を試みていたが、数十匹単位で破壊したところで、雲霞のごとく襲い来るトゥルーパー・グォイドの攻撃を防ぎきることなど不可能であった。
しかしながらトゥルーパー・グォイドといえどシードピラーを沈めることは出来ず、沈められたのは主に巡洋艦以下のグォイド艦艇であり、トゥルーパー・グォイドもまた数千匹単位で破壊され、その数を減らしていった。
こうしてトゥルーパー・グォイドの大群を味方につけた【カチコミ艦隊】は、これをもってグォイド大艦隊を擦り減らし続けながら、流されるままに【
キルスティと同じくらい、テューラは生きた心地がしなかった。
そもそもが帰還の目算の無いワープゲイトを通じた【
トゥルーパー・グォイドとグォイド大艦隊との戦闘は続いていたが、とりあえず生きて故郷に帰る目算はついたのだ。
【カチコミ艦隊】で脱出できたのは戦闘指揮旗艦〈リグ=ヴェーダ〉と、〈ウィーウィルメック〉、無人量産型〈ウィーウィルメック〉10隻と、それらに取り付いて有大気空間用翼となってくれていたIDNのみであった。
随伴させた無人駆逐艦は全て沈められていた。
だが交戦した相手の規模を考えれば、これだけ帰ってきたことは奇跡に等しいだろう。
そしてテューラ達は、命からがら成り行き任せで【
【カチコミ艦隊】はメインベルト内からワープゲイトを通じ、メインベルトの外にいた【
だが今、【
テューラは最初、知らぬ間にワープゲイトを潜った可能性を疑ったが、そうではないことはすぐに分かった。
【カチコミ艦隊】を挟んだ【
テューラがこれが、自分達がワープゲイトを潜ったのではなく、【
『でかしたテューラ! そのまま一隻でも多くグォイド共を沈めやがれ!』
【カチコミ艦隊】の突然の内太陽系への帰還に、関係各方面からの様々な通信が〈リグ=ヴェーダ〉に一斉に届いた。
その中にノォバ・チーフの切羽詰まった声が混じっていることに、テューラはすぐに気づいた。
そして休む間もなく戦いはまだまだ続くことを悟った。
〈ナガラジャ〉が〈バトイディア〉でアップデートされたス
中央船体両舷に元々あった二基に加え、〈バトイディア〉でさらに四基の補助エンジンナセルに追加装備された異星技術製追加ス
〈ナガラジャ〉のア
そしてデリゲイトが言った通りの性能を、追加されたス
迫りくる〈ニセじんりゅう〉数隻を、ロール機動しながらすれ違い様に二枚おろしにすると、〈対消滅爆弾〉の生んだ球状空間の端で大きくカーブしてUターンすると、しつこく〈じんりゅう〉を追いかける新たな獲物に斬りかかる。
その一方で、【グォイド・プラント】の中心軸空間であると同時に、【
一発で一隻ずつ仕留めるなどというケチ臭いことはしない。
迂闊にも直線状に並んでしまったグォイド艦数隻を、一発で串刺しにして仕留めていく。
グォイドも馬鹿ではないので、すぐさま実体弾の発射源に向かってUVキャノンやUV弾頭ミサイルによる反撃を行ってくるが、〈ファブニル〉はすかさず盾にしていたグォイドの残骸から別の残骸に移動し、ヒット&ウェイでグォイドを屠り続けていた。
その後ろで〈じんりゅう〉はひたすら【グォイド・プラント】最後部に開けられた開口部を目指していた。
〈じんりゅう〉の前方では、〈ジュラント〉が反対側から迫るグォイドを、〈じんりゅう〉に近づけさせまいと、UVキャノンを撃ちまくり、【グォイド・プラント】後端開口部まで先に到達すると、乱暴に球状空間内壁に強行着陸して踏み止まり、迫るグォイドを撃ち続けていた。
〈ジュラント〉はさらに、自身が放った無人艦載機12機と、〈じんりゅう〉〈ファブニル〉〈ナガラジャ〉がバトイディアで補充されていた異星文明製の無人機約30機を遠隔コントロールし、〈じんりゅう〉にグォイドを寄せ付けないでいた。
〈じんりゅう〉のア
だから〈じんりゅう〉を守る為ならば、自らを盾にする覚悟であった。
〈じんりゅう〉のア
ヴィニーやナギやジュリーは『それはこっちのセリフだ!』と返してきていた。
それから『うまいことやれよ! 少年と!』などと真意不明なことを言ってきた。
〈じんりゅう〉は後ろ髪惹かれる思いで、彼女たちの奮闘により、ついに【グォイド・プラント】の最後部から外へと出ることに成功した。
その行く手には、推測通り〈太陽系の
思いのほか【グォイド・プラント】の後端と【オリジナルUVDビルダー】の間には距離が開いていたが、想定の範囲内であり、また距離があったお陰で、〈じんりゅう〉は【オリジナルUVDビルダー】の全貌を観測することができた。
それはア
おそらく【オリジナルUVDビルダー】が生み出すというオリジナルUVDは、この水面から飛び出してくるのだろう。
〈じんりゅう〉は躊躇うことなく、その水面へと飛び込んだ。
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