▼第四章『Solar system express 802』 ♯3
『ナンダッテ~!?』
プロミネンス群へと突入する直前、【ANESYS】スタンバイ状態のまま、今か今かと野良グォイドの襲撃を待ち続けていたその時、VS‐803〈ファブニル〉内バトルブリッジでは、同艦艦長アストリッドが思わずそう声を出してしまいそうになっていた。
そして〈ファブニル〉と同じ立場の〈ナガラジャ〉内においても、きっと、ほぼ同じようなリアクションがクルー内で(特に艦長に)あったに違いないと勝手に確信していた。
4隻の〈じんりゅう〉級一行は、艦との間がタイムラグの発生しない距離である限り、通信は開放状態にしてある。
〈ファブニル〉艦長アストリッドも、〈じんりゅう〉でなされていた一連の野良グォイドの正体に関する会話を聞きながら、〈じんりゅう〉のクルー達に訊きたいことや言いたいことが山とあった。
が、下手に話しかけて茶々を入れることなり、有益な結論が導き出されることの妨げになるかもしれないと我慢していたのだ。
初めて聞く二代目〈じんりゅう〉クルーの会話は、よく言えば大変興味深いものであった。
第五次大規模侵攻迎撃戦以前ならともかく、今となっては〈ファブニル〉には、〈じんりゅう〉ほどの未知の敵との遭遇戦経験はない。
大規模侵攻迎撃戦以外は、基本的に野良グォイド相手の戦闘経験しかなかった。
それはそれだけ〈じんりゅう〉並みの戦果が無かったとも言えるが、アストリッドと〈ファブニル〉のクルー達は、むしろそれを運が良かったとありがたく思っていた。
正直なところ、〈じんりゅう〉クルーの潜り抜けてきたような経験を、自分達もしたいとは思えない。
逆に言えば〈じんりゅう〉の戦歴に、なんて運の無い……気の毒に……くらいに内心思っていたのだが、今回ばかりはその戦闘経験にあやかりたかった。
慣性ステルス膜航法の登場で壊れつつあるとはいえ、遮蔽物の無い宇宙でのグォイドとの戦闘は、彼我が戦闘の大分前に補足される為、基本的に突然起きることはない。
だからアストリッド達には、このような遭遇戦に対するノウハウが無かった。
ゆえにアストリッドも、今、自分達に迫るとされる見えぬ敵を、〈じんりゅう〉クルーがディスカッションの末に導き出そうとしていくのには感心していたのだ。
こういう会話を経て、ユリノ艦長らは数々の難関を潜り抜けてきたのか……と。
が、その末に出された結論には、すぐには理解が追いつかなかった。
「な……アイシュワリアさぁ、ユリノ達の話している意味って理解できたか?」
『は…………トリ姉……七割ぃ? ……いえ半分いえくらいなら?』
アストリッドは、思わず個人回線で尋ねた〈ナガラジャ〉艦長の答えに、理解が追いついていないのは自分だけではないと安堵した。
オリジナルUVDを一柱以上有した、艦種および艦数不明の野良グォイドが、自分達の下の太陽表層を自分達と同等の速度でかっ飛びながら、プロミネンス群を進路上に発生させている…………。
そうなんだと納得できるわけが無かった。
だが、ユリノ艦長たちのディスカッションは、さらに太陽表層下に【ザ・トーラス】が存在する可能性にまで言及し始めた。
【木星事変】については一通りアストリッドも聞いてはいたが、それが今の自分達に関係してくるとは想定外だった。
理解が正しければ【ザ・トーラス】とは、【木星事変】時に木星の赤道直下に生まれていた円環状真空空間のことである。
それが太陽表層付近にあれば、
理屈は通っているのかもしれないが、たとえそうであっても自分達にはとうていたどり着けないような結論だった。
だが、アストリッドが一番驚いたのは次の瞬間であった。
『〈ファブニル〉の皆さま初めまして、私は〈ウィーウィルメック〉クルーの【ANESYS】の
〈ファブニル〉は【ANESYS】を温存してください。
ここは私達の【ANESYS】で対処します!』
〈じんりゅう〉クルーが野良グォイドの正体に見当をつけた次の瞬間、〈ファブニル〉バトル・ブリッジに見知らぬ少女がホログラム投影で現れたかと思うと、〈ファブニル〉を勝手に
〈ファブニル〉は勝手に加速して〈じんりゅう〉の前に出始めた上に、上方を通過するはずだった前方のプロミネンス群を前にして、あろうことか急降下をしはじめた。
本来は真空であるために、艦を揺さぶる大気など存在しないはずなのにも関わらず、艦が微振動をはじめ、それは急速に激しくなっていった。
太陽表層に接近したことで、強大になった磁力線に、船体やUVシールドが干渉しはじめているのだ。
「おおおおおおおお……」
アストリッドはクルーの手前、悲鳴を上げるのを必死にこらえながら、前方ビュワー一杯に広がるプロミネンスの輝きに、彼女は食いしばった歯の隙間からただ低く呻いた。
「にやぁああああああああ!」
混乱は、振動を始めた〈ナガラジャ〉内バトル・ブリッジでも変わらなかった。
アイシュワリアは、突然目の前の舵輪が勝手に回転をはじめ、のけぞったところでデボゥザ副長に後ろから抱きとめられた。
アビーと名乗る少女のホログラムが、突然現れあ~だこ~だ言ったかと思うと〈ナガラジャ〉を問答無用で後退させたためだ。
その一方でアイシュワリアは、外景ビュワーの彼方で〈ウィーウィルメック〉と〈ファブニル〉が前進し、〈ナガラジャ〉の横をすれ違うのを確認した。
それまで〈じんりゅう〉級四隻の一行は、先頭を〈ナガラジャ〉、〈じんりゅう〉の左右を〈ファブニル〉と〈ウィーウィルメック〉で挟んだ、限りなく二等辺三角形に近い菱形陣形で航行していた。
実体弾での長距離狙撃を得意とする〈ファブニル〉と〈ウィーウィルメック〉を陣形前方に置いてもメリットはなく、〈じんりゅう〉の左右を守りつつ、太陽極点方向……すなわち上下方向から襲来すると予測される野良グォイドに対し、二隻で同時に迎撃できるポジションにいた方が良い。
必然的に〈ナガラジャ〉が先頭になり、〈じんりゅう〉前方の守りを務めていたのだが、アビーはそのポジションを変更するつもりらしかった。
〈ナガラジャ〉は後退と同時に、〈じんりゅう〉と太陽との間に入り、〈アケロン〉を広げ、その影の中に〈じんりゅう〉を納めた。
問題は、それらの動きと同時に、あろうことか〈じんりゅう〉級四隻全てが、太陽表層へと向かって猛烈に降下していることであった。
「こ…………これはいかがしたことでしょう姫様……」
膝をついた副長デボォザが、アイシュワリアの下半身を支える体でしがみつきながら訪ねた。
「さぁ!? なんだか分からないけど…………しばらくは操られっぱなしなのかも!」
迫るプロミネンスの輝きに顔を照らされながら、アイシュワリアが思った通りに答えると、デボォザがとても嫌そうな顔をした。
アイシュワリアはデボォザに腰をへし折られるかと思った。
『皆さん、しばらくの間辛抱してください。
失礼は承知ですが、今だけ皆さんの艦を操らさせて頂きます』
〈じんりゅう〉バトル・ブリッジに現れたアビーと名乗る少女を、もちろんユリノはアミ一曹からの報告で聞いてはいた。
だが実際にその目で見るのは初めてであり、抱いた最初の印象は…………なんだかおとぎ話に出てくる森の妖精のように思えた。
シズやキルスティよりも小柄で、長い髪の毛と一体になった裾の長い緑のドレスを身にまとい、ちょこんとバトル・ブリッジに立っている。
その表情はどこか固く、ようするに緊張しているようだった・
〈ウィーウィルメック〉のアヴィティラ《化身》と言ったが、アヴィティラ《化身》がこうも普通にしゃべるものなのか!? とまずユリノは度肝を抜かれたのだが、その感情は一時ねじ伏せた。
ともかく彼女は、この状況下で〈じんりゅう〉級一行を救うべく現れたということらしい。
〈じんりゅう〉級の切り札は【ANESYS】だが、それは一時間につき約6分しか使えない。
故に使うタイミングを間違えれば敗北につながる。
自分ふくめ、出来れば温存しておきたいと思うところが各〈じんりゅう〉級艦長の共通した希望だろう。
そこへ〈ウィーウィルメック〉が自ら進んで、最初に【ANESYS】を行ってこの窮地を脱してくれるというならば、これはありがたいと思うべき話であった。
…………あったのだが……。
「わ……分かったわミス・アビー! でも何をどうするつもりなのか教えてちょうだい!」
ユリノは瞬時の思考からその結論に至ると、アビーに向かってややヒステリックに頼んだ。
アビーは自艦ふくむ四隻の〈じんりゅう〉級を、一度に
いかに【ANESYS】のアヴィティラ《化身》といえども、相当な離れ業だ。
アビーがそれで何をどうしようというつもりなのか、ユリノはすぐに知る必要があった。
なにしろいつの間に前方ビュワー一杯に、上下逆になった光のアーチが、まるで無限に奥へと続くトンネルのごとく連なっていたからだ。
それこそが間近で見るプロミネンス群なのだ。
太陽表層の磁力の抵抗で揺さぶられながら、〈じんりゅう〉はそこへ真正面から突っ込もうとしていた。
『分かりました。
説明を終える前に事態が先行してしまっている可能性がありますが、可能な限りご説明します。
私は〈じんりゅう〉クルーの皆さんのディスカッションを聞くことで、現場のほぼ正確な解明に達しました』
そうアビーが直立不動のまま早口で語りはじめたが、ユリノは自分で訊いておいて半分くらいしか聞いていなかった。
悲鳴を堪えるので精いっぱいだった。
前方ビュワーに見える〈ファブニル〉〈ナガラジャ〉のシルエットを残して、画面全体がプロミネンスの輝きで真っ白に染まったからだ。
「…………~~!!」
一瞬、そこの天国への問が見えそうな気がした。
だが〈じんりゅう〉級四隻は、プロミネンスに自ら突っ込む直前、ギリギリのところでプロミネンスの輝きはビュワー画面上方へと消え去り、〈じんりゅう〉一行は降下することで、太陽表層とプロミネンスでできたアーチの間を通過し始めた。
「…………ぉ~~!!」
ブリッジ内に、自分含むクルー達の声にならない悲鳴が響く。
何しろ〈じんりゅう〉級四隻は、上方をプロミネンス群のアーチに、下方を太陽表層に囲まれたトンネルを猛烈な速度で通過することになったのだ。
『良い気分ではないでしょうがこれしかなかったのです……。
これを見て下さい。
上方、左右から昇ってきたプロミネンス群は、互いに衝突し、融合してさらにその上へと昇って行きます。
だからプロミネンス群の上を通過するわけにはいかなかったのです。
そうすれば我々は今頃全滅していたことでしょう』
ユリノたちの心拍数の上昇を他所に、アビーは太陽表層、〈じんりゅう〉級一行がその真下を通過中のプロミネンス群のアーチを、上方から描いたホログラムをブリッジ内に投影させながら説明を続けた。
ユリノは〈じんりゅう〉一行の針路の左右から発生したプロミネンスが、アビーの言う通り、アーチの最上部で激突し、互いの運動エネルギーがその逃げ場として上方を選んだことで、プロミネンスを形成するプラズマガスが、アーチの真上へと大噴火の如く迸るのを確認した。
しかもその噴火は乱れた一列となって、〈じんりゅう〉一行の進路に連なっている。
ブリッジ最前列の操舵席で、フィニィが小さく「えぇえぇぇぇ!」とショックを受けているのが聞こえた。
アビーが現れなければ、フィニィはそのコースを通るつもりだったのだ。
もしも〈じんりゅう〉一行がプロミネンスの上方へ逃げるコースを選択していたならば、いまごろ船体は解けて蒸発し、運んでいた112柱と〈じんりゅう〉と〈ウィーウィルメック〉搭載の2柱のオリジナルUVDだけがプロミネンス群を抜け、太陽の周回を続けていたことだろう。
ユリノは肝を冷やすと同時に、この事実が意味することに戦慄した。
やはり今回のグォイドは、プロミネンスを操れるのだ。
それが理論的には可能であっても、実行するのがいかに困難な事象かは考えるまでも無いが、オリジナルUVDを有していれば可能であり、真実と受け入れるしかなかった。
だからといって、プロミネンスでできたアーチの下を潜り続けるのは、決して心臓に良いものではなかったが。
上下左右を灼熱のプラズマガスで焙られながら進むということは、恒星規模の火葬場かオーブンの中を飛ぶようなものなのだ。
「ルジーナ! 現在の高度は?」
「太陽表層からおよそ5万キロを切ってますデス! なお降下中!」
ユリノの問いへ返答が返ってくるのと同時に、警告アラームが鳴り始めた。
「艦長、〈アケロン〉に過加熱警報! 上方プロミネンスからの熱に、〈じんりゅう〉を守る〈アケロン〉の防御力が限界を迎えそうです」
船体コンディション担当のサヲリの報告。
「つまりもっと降下しろということか!?」
『その通りです。
プロミネンスと太陽表層の間で、相対的に最も温度が低いのは、両者の中間高度なのです。
今はまだ高度が高すぎます。
もっと降下する必要があります』
カオルコの憤りに馬鹿正直にアビーが答えると、彼女は〈じんりゅう〉と残り三隻の〈じんりゅう〉級を、クルーらの悲鳴と共にさらに降下させ続けた。
前方ビュワーの上下左右が光で埋められ。中央のみに小さな黒い穴となった宇宙空間が見えるのみとなった。
「い……いや、そうは言うけれどもね? このままこのトンネルを通り続けられるものなの?」
『ご心配なく、算段はあります。
敵の潜伏手段とその位置については、〈じんりゅう〉の皆さんのお陰で見当がつきました。
これから反撃行動に移ります』
「はい?」
ユリノは自分の問いへの返答に、そう訊き返すことしかできなかった。
アビーは「反撃行動に移る」と微かに自信ありげに語る最中にも、各〈じんりゅう〉級のポジションを移動させ続け、〈じんりゅう〉一行を上下二列縦陣に揃えた。
前方上部が〈ファブニル〉その後方が〈じんりゅう〉。
前方下部が〈ウィーウィルメック〉その後方が〈ナガラジャ〉。
各〈じんりゅう〉級は、それぞれが従えた六隻の〈アケロン〉を、上部側二隻が上方のプロミネンス群のアーチへ向け、下部側二隻が太陽表層へ向け、その灼熱輻射からの盾として、間に挟まった自艦と僚艦を守った。
「反撃ですって!? 今反撃って言った!?」
『ええ、確かにそう言いました。
……どこまで通じるかは分かりませんが…………』
ユリノはアビーの答えに、いやそこで弱気になられても……と思ったが、それよりも、この状況下で反撃に打って出ることができるという方が驚きだった。
正直、〈じんりゅう〉一行はこのプロミネンスのアーチから脱出するだけで精一杯に思えたのだ。
それに、反撃するとは言うが、まだ相手の攻撃手段と潜伏方法に、だいたいの見当がついただけだ。
正直反撃どころではないはずであった。
『もちろん簡単な行いではありません。
ですが、敵の潜伏方法から逆算し、私の情報処理能力を結集することで、敵の位置を割り出すことは可能です』
「ホントにぃ!?」
説明を続けるアビーに、思わずユリノはものすごく疑わし気な声色で尋ねた。
『僅かですがチャンスはあります。
それを説明したいところなのですが――』
アビーはそこまで語ったところで、まるで石にでもなったかのごとく静止した。
と同時に彼女の背後で、唐突に〈じんりゅう〉前方を進む〈ファブニル〉が、ドゴォンという合成効果音と共に、艦首実体弾投射砲を発射し始めた。
一斉射だけでなく、プロミネンスの輝きに負けない保護のマズルフラッシュを瞬かせながら、次々と実体弾を前方へと放つ〈ファブニル〉。
もちろん〈ファブニル〉がどこに向かって、何を狙って実体弾を放ったのかについては、さっぱり分からなかった。
だが、誰が撃ったかは明確に分かっていた。
一瞬、呆気にとられていたユリノが思わず何事かと尋ねようかとしたところで、〈ファブニル〉のその発砲は終わり、同時にアビーは静止状態から復帰した。
『失礼しました。
やはり私の説明より、事態の進行の方が早かったようですね。
反撃行動自体は終了しました。
戦果があるかはしばらく経たないと分かりません。
あとはこのトンネル空間からの脱出に専心します』
「ちょちょちょ……ちょっと待って、説明は続けてくれるんでしょうね!?」
ユリノの問いに、アビーは『もちろん』と答えると、再び〈じんりゅう〉一行の針路上のホログラムを投影させながら、説明を続けた。
『アミ一曹が言ったように、我々を狙うグォイドが、木星にあった【ザ・トーラス】のような空間を通行することで、我々に気づかれることなく太陽表層を通過したのは間違いありません。
ですが、実際に太陽表層に【ザ・トーラス】が存在するとは思えませんでした。
子細は省きますが、木星に【ザ・トーラス】が生まれるまでは、異常の観測から半年以上あり、それまでの推移データはありましたが、太陽表層の観測データに同質のものはありませんでした。
もちろん、通常観測でも【ザ・トーラス】の存在は確認できませんでした』
アビーはホログラム太陽の黄道面直下に、円環状真空空間【ザ・トーラス】のホロを重ね合わせたながら説明を再会した。
『数十億年前に、〈
故に今相対しているグォイドは、太陽に存在した【ザ・トーラス】に潜んでいるのではなく、あくまで【ザ・トーラス】に似た何かを自前で生み出して潜んでいると考えるべきです。
そう仮定した場合、敵グォイドが通過している【ザ・トーラス】モドキは不完全である可能性が高く、また我々を待ちぶせして襲うことが目的あらば、完全である必要もありません』
太陽のホログラムに重ねて投影されていた【ザ・トーラス】が消えると、代わりにごく細い糸のようなものが、太陽の黄道面に張り付いた。
ユリノはすぐに、張り付いたその糸が、環になっていないことに気づいた。
『現実問題として、巨大な太陽の黄道面を一周するような【ザ・トーラス】モドキを作ることは期間的、現実的には不可能であり、またメリットもありません。
今回のグォイドが生み出したのは、あくまで先頭と終端のあるトンネル状のものと推測します。
おそらくグォイドは、ステルス航法で先に太陽に到達、太陽周回オリジナルUVDを先んじて回収し、その出力を用いて【ザ・トーラス】モドキを作り、その前後のあるトンネル内を移動しながら、今、我々を狙っているのしょう』
「ちょっと待って!」
ユリノは思わず挙手して声をあげた。
ブリッジの端でアミも同じことをしていたが、今回は自分の方を優先した。
が――
「その説が正しいならば…………それじゃ…………それじゃ……」
「敵のグォイドって少なくとも二隻いるってことぉ!?」
言葉に詰まったユリノに代わり、手を上げていたアミがアビーに尋ねると、ユリノはコクコクと頷いた。
『そう考えられるのです。
今相対している野良グォイドは、我々のはるか前方を先行して、トンネルの先頭で【ザ・トーラス】モドキを生み出しているいわば先行掘削グォイドとでも言うべき存在。
それと、そうして出来上がった【ザ・トーラス】もどきを移動しながら、我々の進路上にプロミネンスを発生させ、そして今我々が運んでいるオリジナルUVD112柱を奪い去る為のグォイドの二隻がいると考えられます』
アビーはホログラム太陽の表層に張り付いた糸の先頭と、その意図の中間を移動する物体の二点を明滅させながら説明した。
確かに、我々から身を隠すだけならば、太陽を一周する【ザ・トーラス】など作るだけ無駄だ。
むしろ【ザ・トーラス】のように一周させた方が、逆に目立って見つかる可能性が増すだろう。
今、我々の真下の太陽表層にあるのは、我々に外部観測で存在を気取られないレベルの、長大なトンネルに過ぎないのだ。
ある程度長大であれば、多少の異常が観測されても、それが人為的な【ザ・トーラス】モドキなどとは思いつくはずもなく、ただ、たまたま黄道面を走る自然現象のプラズマガス潮流にしか思わないはずだ。
先行掘削グォイドがトンネルを掘り進んでいる地点では、太陽表層にそれなりの異変も観測可能であったかもしれないが、それは今我々が飛んでいる地点からははるか前方の出来事であり、その異変とグォイドを結び付けては考えてこなかったのだ。
そして先んじて長大なトンネルを作っておけば、そこを別のオリジナルUVD搭載グォイドが通過しても、太陽表層のプラズマガス大気を乱すことはなく、我々には発見する術はない。
それこそが、今自分達を襲っているグォイドの作戦なのだ。
ユリノはトンネル先端で、ひたすらプラズマガスガス大気をかき分けて進むグォイドと、それが生み出した安全な空間を前後自在に移動するもう一隻のグォイドの姿を脳内に思い描いた。
それは論理体に可能であり、仮にそうであるならば、これまで発見されなかった説明もつく。
極めて認めたくはないが、あり得る話であった。
「…………ってことは――」
『はいアミ一曹、我々がまず狙うべきは、この【ザ・トーラス】モドキを生み出していると思われる先行掘削グォイドです。
それを倒さない限り、続くもう一隻のグォイドを倒す術はありません………ですが』
アビーがそこまで語ったところで、メインビュワーに映るはるか彼方の太陽表層に、突然極太のプラズマガス柱が上がった。
一瞬遅れて届く大瀑布のような合成効果音。
『先ほど撃った〈ファブニル〉の実体弾により、その先行掘削グォイドは仕留めた……すくなくとも大ダメージを与えたはずです』
アビーは告げた。
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