▼第一章『炎のたからもの』  ♯4


「あ~……それでその~……オリジナルUVDの回転と、グォイドとの二つの問題について、解決策は出ているのかね?」


 テューラのショッキングな発言に、停滞してしまった会議をなんとか進める為にと〈30人会議〉議長が尋ねた。

 が、テューラに答えられることは限られていた。


「残念ながら、今私が告げた問題の数々は、太陽にオリジナルUVDが多数周回しているという可能性に行きついたばかりなこともあり、正直なところまだ解決方法は見い出されてはいません」

「そもそもグォイドが太陽系中心部に侵入しているという話は本当なのか!?

 君たちでメインベルト潜伏中の野良グォイドの掃討作戦が進んでるという話ではなかったのか!?」


 テューラの返答に、案の定納得しかねた高官の一人が、ややヒステリックに訪ねた。

 そういう反応はテューラとて予測はしていた。

 個人的には、自分に都合の良い未来予測ばかりするんじゃない! とは思ったが、SSDFの力が及ばなかったと思われても仕方がないことではあった。


「現場、確実に太陽系中心部にまでグォイドが侵入してるという、光学観測などの確実なエビデンスは存在していません。

 私共はただ、改良されたステルス航法を用いて侵入してきている可能性が極めて高いと推測しただけなのです。

 もちろん、証拠は無くとも根拠があっての推測です」


 テューラはそこまで言うと、太陽系を北天方向から見下ろしたメインベルト以内のホロ総合位置情報図スィロムを投影し、そこにメインベルトから内太陽系へと向かう無数の光るラインを描き足した。


「これまで発見・撃破されてきた野良グォイドの数々の航跡を、発見位置から撃破位置までを繋いで示したものです。

 ご覧の様に、多くが地球、火星、水星へと向かうウィンドウ上で撃破されていることが分かるはずです」

「…………」


 テューラは非SSDFの面々からは、いきなりホロ総合位置情報垂《スィロム》見せられたところで、芳しい反応など無いことを承知で続けた。


「ですが、これらの撃破された野良グォイドの位置は、同時にSSDFが警戒してきた位置でもあります。

 数に限りがある艦艇で、メインベルトから内太陽系に侵入を試みる野良グォイドを迎撃するには、警戒するエリアを限定するしかないからです。

 逆に言えば、我々が撃破したのは、内太陽系に侵入する野良グォイドのうちの、地球、火星、水星、金星に向かおうとしている艦のみであり、それ以外は見逃してしまった可能性があるのです。

 この航跡を見て下さい」


 テューラは一つのラインを指し示した。


「〈じんりゅう〉の〈斗南〉への帰還直前に遭遇し、〈ウィーウィルメック〉によって撃破された野良グォイドの航跡です。

 恐るべきことに、これは野良グォイドとはいっても〈シード・ピラー《播種柱》〉でした。

 この艦の存在が、我々の野良グォイド太陽系に中心部侵入説の切っ掛けとなったわけなのですが、結論から言えば、この〈シード・ピラー《播種柱》〉野良グォイドは、撃破直前の進行方向から考えて、地球でも火星でも水星、金星でもなく、太陽そのものに向かっていた可能性が非常に高いのです。

 そしてこれが最後の一隻なのか? 唯一の一隻なのか? それは現在にいたるまで分かってはいません……」

「つまり君たちは、その〈シード・ピラー《播種柱》〉が太陽に向かっていたのは、太陽を周回中のオリジナルUVD群が狙いであり、他にも同じような野良グォイドが太陽に向かって接近中かもしれない……と言いたいのかね?」


 テューラは言わんとすることが伝わり、安堵と共に大きく頷いた。


「もちろん、SSDFの艦艇と光学観測による警戒は続けています。

 ですが、ステルス航行を駆使することで、すでに太陽の近傍まで侵入している可能性は、けっして低くはないでしょう。

 これは〈メーティス〉も同意見なのです」

「その太陽に向かったという野良グォイドが、進路を変えて地球や火星に向かっている可能性はないのか?」

「無いとは言いきれませんが、仮に太陽方向を目指すことで我々SSDFの警戒網を突破した野良グォイドが、急に進路を変え、地球や火星や水星に向かったとしても、接近前に発見され、撃破されるのがオチでしょう。

 太陽に向かっているからこそ発見できなかっただけなのであり、そうで無いならば、警戒網の密度的にも、迎撃戦闘の優位性から言っても、過度に心配する必要は無いと考えられます」

「逆に言えば、……だからこそ太陽に進路を向けたことで、あなた方の警戒の目を潜り抜けたグォイドがいると考えているのですね?」

「はい、〈メーティス〉も同意見です」

「それでその侵入したと思われる野良グォイドの規模は、推測できているのですか?」

「最悪の場合、〈シード・ピラー《播種柱》〉クラスが数隻……と〈メーティス〉は推測しています。

 そしてそのグォイド達にオリジナルUVDが奪われてしまった場合……例えるなら〈じんりゅう〉が敵となって現れたのと同等以上の脅威となる可能性が高いのです。

 その場合、地球や火星などの内惑星の人類圏は、【ガス状巡礼天体ガスグリム】を待つまでもない程の危険にさらされることになります」


 ようやくテューラの告げた言葉の意味が浸透したのか、〈30人会議〉の非SSDFの面々から次々と息をのむ音が聞こえた。


「一つ疑問なのですが、なぜメインベルトから内太陽系に侵入したという野良グォイドは、すぐに太陽を周回中のオリジナルUVDを確保しないのですか?」

「それにはいくつか可能性があります。

 一つは、改良されたとはいえ、慣性ステルス航法では大規模な加速ができず、太陽接近に時間がかかってしまっている為。

 二つ目は、太陽を周回していると思われるオリジナルUVDは、まだ【グォイド光点増援群】の残骸に紛れて識別困難である為、残骸がプロミネンスで焙られ、余分な残骸が除去され、オリジナルUVDだけが残るのを待っている為……という可能性があります。

 そしてもう一つ……」

「なんだね?」

「すでにオリジナルUVDを入手した状態で、太陽近傍に潜伏している可能性です」


 テューラはその可能性が存在することを、さも確定的未来であるかのごとく低い声音で告げた。









──────────────────────────────


「まさか、【ANESYS】を使う間も無かったとはな……」

「まだ一回目なんですから、無茶を言わないでください!」


 ――【太陽周回オリジナルUVD回収作戦】シミュレーション第一回終了直後――


 思わずもらしたテューラのぼやきに、ユリノが溜まらず抗議した。

 【ガス状巡礼天体ガスグリム】光学観測からおよそ1カ月後、テューラは〈じんりゅう〉のもたらした情報の数々から、ただちに太陽を周回中と思われるオリジナルUVDの回収シミュを〈じんりゅう〉ブリッジにてクルーに任せてみたが、それはこれから始まる数々の苦難を予測させるものであった。


「あ~んなプロミネンスがわんさかあるっちゅ~のに、〈じんりゅう〉が速すぎるんだよ!

 回避性能を上回る速度であん中に突っ込めば、【ANESYS】を使おうが使うまいが、どの道こうもなるわい!」


 HMDを乱暴にむしり取りながら、クィンティルラが操舵補助席からわめくと、となりでフォムフォムが頷いた。。

 クィンティルラの前の主操舵席では、フィニィが何か言いた気な顔をしていたが、テューラは彼女が黙っているなら自分も何も言わないでおくことにした。


「事前に予想は出来ていたことなのです。

 太陽の重力に抗うには速度を出す他なく、その速度ではオリジナルUVDの周回している高度にプロミネンスが発生した場合、回避がほぼ不可能なのです」


 シズが特に落胆した風もなく告げた。

 彼女としては、無駄なシミュにしか思えなかったのかもしれない。

 彼女が事前に予測した通りの理由により、〈じんりゅう〉はシミュ内において、プロミネンスを回避し損ねて沈んだ。

 シミュの直前に一応の対策として、事前の先行偵察プローブを展開してのプロミネンスの発生予測と、クィンティルラとフォムフォムを操舵と電測の補助席に回すという対策がなされたが、焼け石に水でしかなかったようだ。


「でも……確かに残念な結果ではありましたが、後の【ANESYS】時に役立つであろう経験値は獲得できました。

 そもそもまだたった一回目のシミュに過ぎません。

 悲観するのはまだ早計かと思います」

「まあな。

 だが何かの対策も無しに、同じ条件でまたシミュレーションしたとしてもだ…………違う結果にはならないだろう」


 サヲリが前向きな意見と唱える一方で、カオルコが自分の意見を告げた。

 テューラとしては、どちらの意見も正しいとしか言えない内容だった。


「プローブの情報が万全ならば、回避の問題はともかく、プロミネンスの発生予測は可能デス。

 プローブがもてばデスけどね」

「今のシミュでは、プロミネンスの発生を予測できる距離に近づいた瞬間から、データ通信にノイズが入っちゃってデータのやりとりに問題が発生しちゃってます」


 ルジーナとミユミ少尉が、電測員と通信士の立場からそれぞれなかば愚痴るように報告した。

 だいたいは、シミュ前に予測されていたことであった。

 それを承知でシミュを行ったのは、理屈ではなく経験でこの試みの困難さを確かめたかったからだが、少しばかり焦り過ぎた感は否めなかった。


[今回ノしみゅデハ、マダぷろみねんす関連ノ難易度ハ甘イ方ダロウ。

 ナニシロぷろみねんすハ、時ニ地球ヲすっぽり飲ミ込ム程ノさいずニサエナルノダ。

 発生予測デキテモ回避ガ不可能ナ場合ガ多々アルダロウ]


 エクスプリカがビュワーの一つに太陽を映し、過去に撮影された巨大プロミネンスの映像を再生させながら語った。


「問題点は……それとあとグォイドか……」


 テューラは最後の問題点は自分から告げた。

 このシミュでも出現させる用意はできていたのだが、その前に〈じんりゅう〉が沈んでしまったのだ。


「もし、危惧した通りに太陽周回オリジナルUVDを狙うグォイドがいたとして…………連中はどうやってオリジナルUVDを回収つもりなんでしょね?」

「……わからん、分かってるのは連中が太陽に向かったかも……ということだけだ。

 ひょっとしたらもうオリジナルUVDを回収し、そいつを主機関にしたグォイド艦がいる可能性すらある…………。

 だが、ハッキリしたところは分からんので、このシミュでも出す予定だったのは既存のグォイド艦艇だった」

「……ですよね…………でも、グォイドの回収方法がわかれば、私達もその方法を真似て太陽のオリジナルUVD回収できるのに……。

 あるいは……私らがこれから思いついた手段を、グォイドもやろうとしているのか……」


 ユリノは残念そうにテューラに告げたが、その言葉は途中から自分に向けての大きな独り言になっていた。。


「う~む!」

「とりあえず、ド頭から【ANESYS】ありきで次のシミュをやりますか?」


 悩むテューラにユリノが提案した。

 〈じんりゅう〉の切り札たる【ANESYS】であったが、太陽周回オリジナルUVD回収作戦の所要時間から考えて、【ANESYS】の6分前後の思考統合時間はあまりにも短すぎ、【ANESYS】終了直後に太陽の作戦高度から上昇する前に、またプロミネンスに焼かれるのがオチだろう。

 だが【ANESYS】のアヴィティラ化身が経験値を積めば、何かしらの対応策を思いつく可能性も無くはない。

 テューラは「ああ、頼む」と答えるしかなかった。

 確かにテューラは悩んではいたが、すでにテューラの中で、最優先で自分が行わなければならないことは固まっていた。


「とりあえず、次のシミュではバラまく先行偵察プローブの耐熱限界を30%程上げてくれ。

 データ通信強度も同じくあと30パーは、改良すれば上げられるはずだ」


 そう告げたのは、テューラと共にシミュを見ていたノォバ・チーフだった。

 テューラが太陽周回オリジナルUVDの存在を知り、最初に相談したのが彼だった。

 仮に〈じんりゅう〉での回収作戦が承認された場合、既に補修が決定された〈じんりゅう〉を、さらに太陽周回オリジナルUVD回収作戦向けに改修する必要がある。

 だが問題はどう改修すべきか、まだ分からないことであった。

 それが分からねば実作業には入れない。

 チーフはそれを早急に見出さねばならない立場であった。

 土星圏の戦いでダメージを受けた〈じんりゅう〉の補修はもちろん、その改修にはプラン構築を含めた時間が必要だからだ。

 実作業に要する時間を考えれば、可能な限り早急に改修プランを立てる必要があった。


「あ~みんな、大変申し訳ないんだが、もうしばらくこのシミュを続けて、気がついたことを随時教えてくれまいか?

 技術的に解決可能なら、それを早急に発見し検証する必要があるのだ。改修作業を始めるにはな……」


 チーフが神妙に告げると、ユリノ達は真剣な顔で頷いた。

 まだ人類に時間は残されている。

 だがそれは有限であり、無駄遣いすれば簡単に人類の滅亡は不可避となるだろう。

 ならば、今テューラが最優先で確保せねばならないことは、一つしかなかった。


──────────────────────────────







「今君が告げたこれらの問題が全て現実のものとなった場合、つまり太陽を多数のオリジナルUVDが周回していて、それを狙うグォイド、もしくはすでにそれを回収したグォイドがいた場合……君が我々のこの〈30人会議〉で欲するものは何かね?」


 テューラはようやく待ちに待った質問が、〈30人会議〉議長からなされたことで内心ガッツポーズした。

 テューラは艦を降りて久しく、【ANESYS】適性も今は無く、航宙士としての腕ももう怪しいが、それでもSSDFに残ったことで得た発言権があった。

 そしてVS艦隊司令となり、自分の半分あずかり知らぬところでの〈じんりゅう〉の活躍により、結果として〈30人会議〉の一員となり、こうして自分の意見を言えるポジションに付けたのは僥倖と言えた。

 自分にはユリノのような対グォイド戦術家の才も無く、ノォバ・チーフのような技術スキルや知識も、あの少年のような閃きも、レイカのようなカリスマも無かったが、今この瞬間に自分が何をすべきかは、割と前から分かっていた。


「私が頂きたいのは、半年以内の『太陽周回オリジナルUVD回収作戦』の実行の許可と、それへのVS艦隊全艦のへの投入許可、そして作戦実行のための必要予算です」


 テューラは絶句する〈30人会議〉の面々を見ながら、「もちろん予算は、可能な範囲内で構いませんよ」と付け加えておいた。







──────────────────────────────


「で、〈30人会議〉のお歴々はなんだって?」

「もちろん許可をくれたさ。

 オリジナルUVDがわんさか手に入り、作戦を実行しなきゃ逆に野良グォイドに奪われる可能性があるんだからな。

 【ガス状巡礼天体ガスグリム】との戦いに向けて、許可をしないわけにはいかなかっただろうよ」



 ――宇宙ステーション〈斗南〉SSDF施設内、航宙艦建造ドック内展望室――


「しかしVS艦隊全艦投入とはな……」

「会議の直前に、チーフがそうリクエストしてきたからじゃないか」


 ドック内でバラバラにされた〈じんりゅう〉を見下ろしながら、ノォバ・チーフが呆れたようにこぼしたので、〈30人会議〉から〈斗南〉へ戻ったばかりのテューラは、若干の憤りを覚えながら言い返した。


「【ヘリアデス計画】にはVS艦隊の実体弾投射艦がいる! 会議場に入る直前の私に、大慌てでエクスプリカ経由で伝えてきたのはどこの誰だか……」


 〈30人会議〉でテューラの作戦提案の機会が回って来る直前の出来事を思い出し、テューラは少し胃が痛くなった。

 人類の命運をかけた会議において、いくら会議の一員とはいえ、大々的に作戦提案を出来る機会はそうそう無く、たとえ太陽周回オリジナルUVDの存在を認められたとしても、一歩間違えば回収作戦は他の人間と艦隊にイニシアチブをとられなかねなかった。

 テューラが司令を務めるVS艦隊で【ヘリアデス計画】と名付けられた太陽周回オリジナルUVD回収作戦を実行に移すには、自分達ならば、自分達にしかできないとプレゼンする必要があったわけだが、結果はテューラが心配する必要などなかった。

 割と気負って会議に臨んだつもりだったが、テューラもまたVS艦隊司令として、『黙示録アポカリプスキャンセルデイ』という偉業を成し遂げた人間の一人として見られており、テューラ自身が思う以上の信頼を勝ち得ていたのだ。

 驚くほど速やかに、テューラは【ヘリアデス計画】の指揮官に任命され、予算と時間の確保に成功した。

 責任を押し付けられたという側面は否めないが、望んだことには違いなかった。


「だがVS艦隊全艦投入は叶わなかったがな……」

「〈ジュラント〉は改修が決定されてたからなぁ、まぁ〈ファブニル〉と〈ウィーウィルメック〉が投入できるならそれで良しだ。

 〈ナガラジャ〉もいてくれると心強い」

「…………」


 テューラはすでに〈ジュラント〉参加不可の事情を知っていたノォバ・チーフに軽く憤ったが、何も言わないでおいた。

 〈ウィーウィルメック〉の投入が決められた時は、〈30人会議〉のメンバーだった〈ステイツ〉高官と、〈ウィーウィルメック〉の現時点での司令官たるクラリッサ・ファーミガ大佐が凄い顔をしていたが、気にすることは無いだろう。

 知りたいことはもっと別にあった。

 テューラが〈30会議〉に赴く直前に見た〈じんりゅう〉の【ヘリアデス計画】のシミュは、けっして芳しいものではなかった。

 結局〈じんりゅう〉クルーの【ANESYS】を用いれども、太陽周回オリジナルUVDの回収は極めて困難であったのだ。

 だが、ノォバ・チーフはVS艦隊の実体弾投射艦が必要であるという結論に至った…………実体弾投射艦をどう使うのか? どうやってその結論に至ったのか? テューラは知る必要があった。

 ユリノ達の【ANWSYS】は、機関長……というか【特別懸案事項K】がいない為か、今一精彩を欠いていたが、それでも【ANWSYS】をもってしても思い浮かばないような案を、いったいどうやって見出したのか? テューラは気になってしかたなかった。


「そろそろ教えてもらえるのだろうな……すぐに次の〈30人会議〉で私は説明せにゃならんのだぞ」

「あ? ああそうだったな………………まず、実体弾投射艦をどう使うか? 何をさせる為に必要なのかを教える前に、このアイディアを提案したヤツを教えるべきだろう」

「は~や~く~!!」


 テューラの低くなった声色に、ようやくテューラの憤りを察したノォバ・チーフは慌てて答えようとした。

 が、彼はそれをテューラに話すのに若干の抵抗があるらしかった。


「あらかじめ言っておくが、俺ぁアイツにゃ何も話してないからな! 向こうが勝手にこっちの悩みを推測して、こうすれば良いんじゃないですか? って提案してきたんだ!」

「だから一体誰が………アイツか!?」


 テューラは答えをチーフから聞く前に分かった。

 太陽を多数のオリジナルUVDが周回していることは、今の所ごく限られた人間しか知らされていない事実だ。

 だが、ここにいない人間で、その事実を知らずとも、推測でたどり着きそうな人物に、テューラは心当たりがあった。

 むしろその人物以外に、テューラは一人で勝手に答えにたどりつきそうな人物が考えれなかった。


「ケ……じゃなかった……ア…………っていうか【特別懸案事項K】か!?」


 テューラの問い、ノォバ・チーフはやれやれと言った顔でどこか申し訳なさそうに頷いた。











──────────────────────────────


 ――その18時間前…………地球・赤道直下のとある無人島……の浜辺……夜――

 

 上陸三日目にして、ついに木の枝と葉でできた簡易シェルターの建築に成功したケイジは、葉と竹でできた床の寝心地が思った程快適では無いという感想をもったにも関わらず、自分でも驚くほど深い眠りについていた。

 火起こしは一日目の晩にすぐに達成し、暖をすでにとれていた。

 だからこの睡眠が、それまでほとんど眠れなかったケイジにとって上陸後最初の深い眠りだった。

 そして睡眠による体力の回復が、ケイジの脳にサバイバル以外を考える余裕を与えた。

 夢でさえない深層意識で、自分がいったい何をどう考えたのかは思い出せなかった。


「そうだ~っ!!」


 ケイジは半分自分の大声に驚いて目覚め跳ね起きた。

 そして何故跳ね起きたかを瞬時に思い出し、大慌てでそばに置いてあったSPAD個人携帯端末を手に取り、記憶していた連絡先へと繋げるなり忘れてしまわぬうちにまくし立てた。


「ああ! ノォバ・チーフですか!?

 あの実体弾をぶつけてはどうですかね!?

 …………オリジナルUVDに!!

 太陽を回ってるオリジナルUVDの後方の、東側か南北方向の安全距離から、実体弾ぶち込んでオリジナルUVDを弾き飛ばして、安全な距離まで飛んでったところでゆっくり回収すれば良いんじゃないでしょうか!?

 な~に、実体弾ぶち込もうがどんなに乱暴にしようが、オリジナルUVDがぶっ壊れる心配なんて無いですから!」


 ケイジは僅かな時差の後で、連絡先の人間の困惑した声が返って来ても、構わずまくしたて続けた。

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