第二章『バンド・オブ・シスタース』 ♯2


 ――〈じんりゅう〉右舷・UV弾頭ミサイル直撃破孔――


「しょ…………ショーガヤキィ? ショーガヤキって……あのショーガヤキ?」


 尋ねるユリノに対し、キャスリン艦長はコクコクと頷いた。


「あの……どこでそれを?」

「〈じんりゅう〉クルーの報告書で…………一般公開されている艦内生活についての各クルーの航宙日誌で、ちょっとだけ有名だったんですよ、〈じんりゅう〉のショーガヤキは!」


 あまりに突然かつ予想外のリクエストに対するユリノの問いに、キャスリン艦長はヘルメットの奥で、少しだけ瞳をキラキラさせながら答えた。

 言われてみれば、SSDFの広報部……特にVS艦隊の広報は、時折そういうことをする。

 VS艦隊のクルーそれぞれが報告する航宙日誌から、広報に使えそうな情報を一般公開するのだ。

 VS艦隊クルーのファンに対し、そういった艦内生活の情報は人気があるらしい。

 中でも艦隊グルメ情報は鉄でがあり、金曜日の各艦の特性カレーライスなどが有名だが、〈じんりゅう〉の場合は、何故かショーガヤキが有名になったらしい。

 ほとんどの航宙艦では今、食事はヒューボットが調理しているはずなのだが、一般人にはそんなことは関係ないようだった。

 ユリノはそのショーガヤキ情報の出所らしきクルーが、キャスリン艦長の発言と同時に、ビクッと跳ね上がってからそわそわしまくっているのを見逃さなかった。


――ルジーナぁ…………――

――いやぁ艦長、だって実際美味しかったんですもの! そりゃ日記にも書きますデスってばよ――


 そう唇を動かしながらユリノに睨まれた〈じんりゅう〉電測員は、両手をばたばたと顔の前で左右に降りながら、キャスリン艦長らに聞こえないよう声なき口パクで抗弁した。

 ショーガヤキと言えば、おそらくあのショーガヤキのことだろう。

 だとしたならば、結果的なことはさておいて、実際問題ルジーナの行いを責めることなどできなかった。

 ルジーナ含め、クルーは報告書が広報に使われる可能性を加味して航宙日誌を書くようにしているものなのだが、ケイジのことを書くよりかははるかにマシだった。

 ルジーナの書いたショーガヤキとは、ケイジ少年が〈じんりゅう〉に救助され、初めて艦内で振舞った夕食の献立を指しているのだろう。

 確かのあの時食したショーガヤキはとても美味しく感じた。

 それは実際の味だけでなく、シチュエーション込みでの感想なのかもしれなかったが、それはユリノにとっても大切な思い出だった。

 以後、クルーらはケイジ三曹に幾度も献立としてショーガヤキをリクエストしている。

 まさかそのショーガヤキに、〈ウィーウィルメック〉の艦長が着目しているとはついぞ思わなかったが……。


 ――ひょっとして……キャスリン艦長って…………――


 ユリノはふとある可能性に行きついたが、そんなまさかとそれ以上考えるのをやめた。

 まさかキャスリン艦長が、元から〈じんりゅう〉の大ファンだった……などということはあるまい。

 むしろ〈ウィーウィルメック〉艦長としてファンを多数持つ側の人間のはずだ。


「あの…………都合が悪かったならば無理にとは……」

「あ、いえ大丈夫だよ! 大丈夫!」


 ユリノ達の動揺を見て、心配そうに訊くキャスリン艦長に対し、ユリノは反射的に答えていた。

 ショーガヤキの提供それ自体は、ヒューボ任せでよければ容易いことであった。

 問題はそれで満足するか? であったが。

 一番はアミ一曹に化けたケイジ三曹を呼んで調理してもらうことだが、今すぐ食堂に行き、彼と遭遇して女装がバレる可能性は増やしたくない。

 いかに彼に女装を施したとはいえ、ばれない自信がたっぷりあるわけではなかった。

 それにどちらにしろ、今すぐ食堂に移動しても、調理の為の待ち時間が少なからず必要なはずだ。

 …………ならば、ユリノはこれから自分達が最初にすべきことを思いついた。









 ――〈ウィーウィルメック〉メイン・ブリッジ――


「ふう………………じゃ、そろそろ始めも良いかしら?」


 ジェンコは無意識に額の汗をぬぐいながら、ようやく首を縦に振った〈じんりゅう〉臨時機関長に確認した。

 彼女は自分がここに来ることになった事情について、まだまだ納得がいっていないようだった。

 アミ一曹の立場からしたら無理も無い話であったが、彼女の疑問の全てに答えるわけが出来るわけではなく、また、彼女を〈ウィーウィルメック〉にこれ以上長時間拘束するわけにもいかない。

 この行動が露見してほしくないのは、自分らもアミ一曹も同じはずであった。

 だから一刻も早く【ANESYS】を済ませてしまおうという点においては、意見は一致していた。


「じゃアミちゃん……ん~とそこのセヴューラちゃんの席に座ってて、すぐに終わるはずだから」


 ジェンコは本来であれば〈ウィーウィルメック〉第二副長が担当する右舷壁際の席を指した。

 アミ一曹は咳払いしながら、促されるままにそこへと着席した。

 が、ここにいない人間の席に座ったことで、また余計なこと思い出してしまったようだった。


「あの…………すごく今さらですけど…………〈じんりゅう〉に行ったキャスリン艦長とセヴューラ少佐は【ANESYS】に加わらな……………………いえなんでもありません!」

「大丈夫だから……あとは【ANESYS】のアヴィティラ化身に訊いてちょうだい」


 最後まで言う前に自分でブレーキをかけたアミ一曹に、ジェンコは申し訳なく思いながらも、自らも己の担当コンソールに着席した。

 アミ一曹の疑問は無理もない。

 だが【ANESYS】は必ずしも全クルーが揃わなければできないわけでもなく、今回は特に艦長とセヴューラにはこの場にいない方が良かった。

 〈じんりゅう〉に行った二人抜きで【ANESYS】を行うことは、最初から想定済みのことであった。

 ようやく【ANESYS】を始められる…………ジェンコは微かな安堵を覚えながら、はたしてこの【ANESYS】が終わり、この艦のアヴィティラ化身と彼女が話した時、アミ一曹は自分らをどう思うのだろうか? と思いをはせた。

 そして自分達の未来に、どんな影響を与えるというのだろうか? と。

 ジェンコは沸き起こる恐れと疑問を心から押し出しながら、目を閉じ【ANESYS】を起動させた。






 断続的に襲い来る振動と共に前方ビュワーの彼方で、白き氷の星エンケラドゥスが猛烈な速度で巨大化していった。

 その白き衛星の手前で無数の光の粒が瞬く、我が方の放った迎撃弾の数々が、エンケラドゥスから放たれる敵実体弾に命中した閃光だ。

 予測して然るべき事実であったが、当然のごとくエンケラドゥスにも、グォイドの本拠地防衛用の実体弾投射砲が多数存在し、接近を開始した土星圏グォイド本拠地殴り込み艦隊への苛烈な砲撃を繰り広げていた。

 殴り込み艦隊の対実体弾迎撃達成率は、エンケラドゥス接近にともなって急速に低下していった。

 エンケラドゥスとの距離が短くなれば、当然敵実体弾の発射から艦隊到達までの時間が短くなり、それは同時に迎撃に要せる時間もまた短くなるということだからだ。

 〈J《ジョナサン》Hアーチャー〉の前後で、一隻、また一隻と僚観が真正面から実体弾の直撃を受け、艦首から艦尾までを貫かれて耐える間もなく轟沈していく。

 迎撃に成功した実体弾も、その破片は速度を維持したまま無視できぬ破壊力をもって艦隊に襲い掛かり、〈J《ジョナサン》Hアーチャー〉の船体を激しく揺さぶり、着実にダメージを与えていった。

 土星圏グォイド本拠地殴り込み艦隊本隊は、〈じんりゅう〉が補給艦部隊の土星圏脱出で行ったのと同様に、〈ウィーウィルメック〉による【ANESYS】で最適コースを算出し、土星の衛星エンケラドゥスを用いたフライバイ・ターンを慣行すべく同衛星に接近中であった。

 コースの算出は、思いのほか短時間の【ANESYS】で済んだ。

 朗報ではあったが、それは同時に思考統合限界時間を、全てに使い切るまでもないような単純な計算だったからともいえる。

 また殴り込み艦隊本隊の艦は、補給艦部隊の艦とは違って充分な機動性がある為、【ANESYS】でリアルタイム遠隔操作オーバーライドする必要が無かったことも、短い統合時間で済んだ理由であった。

 それはつまり、【ANESYS】をこれ以上使っても、出される答に変わりはなく、これ以上の安全や確実性は得られることはないということであった。

 殴り込み艦隊本隊の全艦は、【ANESYS】で組んだ即席の対実体弾回避および迎撃プログラムを利用し、エンケラドゥスに向かっていた。

 これにより艦隊は、望みうる最大現の敵実体弾の回避と迎撃を成し遂げていたはずではあったが、それはあくまで実行可能範囲の最大限というだけであって、必要性を満たしているわけではなかった。

 今だに艦隊の全滅もありえる状況に違いは無かった。

 そして最初の【ANESYS】から耐えること一時間以上が経過し、艦隊がエンケラドゥスに接近すると同時に〈ウィーウィルメック〉は再び【ANESYS】を使用することが可能になっていた。

 この次なる【ANESYS】の使用時間が、〈J《ジョナサン》Hアーチャー〉……いや土星圏グォイド本拠地殴り込み艦隊本隊に残された最後の切り札かもしれなかった。


「敵実体弾命中率、さらに上昇中! 艦隊損耗率は30%を超えました!」

「エンケラドゥス最接近時までに残る艦は……このままでは全体の15%を下回ります………全滅の可能性も……」


 聞きたくない報告が連続する。

 殴り込み艦隊はすでにエンケラドゥスの重力圏に突入し、猛烈な加速を始めていた。

 この時点で〈J《ジョナサン》Hアーチャー〉がまだ無事なのは、単なる幸運であったとしか言えなかった。

 その幸運も、フライバイ・ターンが終わるまで続くとはとても思えなかった。

 たとえ轟沈を免れたとしても、内太陽系までの帰還が不可能になる程のダメージを受ければ、結果は同じであった。

 どう考えても絶望的な未来しか見えない。

 だが、そんな中にあっても、まだ希望が完全に消え去ったわけではなかった。

 エンケラドゥスに変針したことで、土星リング外縁部の実体弾投射砲群からの攻撃が、これ以上悪化することは無くなった。

 これまでの戦闘で、土星リング外縁の実体弾投射砲の位置の割り出しが進んだことで、敵実体弾の迎撃率も上がってきている。

 そしていつでも再び使える【ANESYS】がある。

 その【ANESYS】を、どのタイミングで使うべきかも、すでに分かっていた。


「艦長、間もなくエンケラドゥス精密観測圏内に到達! 艦隊先頭の艦より、観測データが届きます!」


 その瞬間、それまで瞑目し、ひたすら最良のタイミングを待っていたクラリッサ・ファーミガ艦長が顔を上げた。


「【ANESYS】再起動準備! 目標設定、艦隊実体弾投射砲による遠隔操作オーバーライド精密砲撃! 標的・エンケラドゥス赤道部、氷火山帯!」


 クラリッサ艦長が叫ぶなか、ブリッジクルーの掛ける座席が変形、手足を固定するパッドが展開し、頭部を磁器共鳴スキャナーが覆った。

 そして視界が光に包まれる瞬間、この【ANESYS】で、〈JジョナサンHアーチャー〉のクルー全員が、無事に故郷に帰れることを切に願った。








 その瞬間になって、今はアミであるはずのケイジは、これが自分の記憶ではないことを唐突に自覚した。

 いったい誰の記憶かまでは分からなかったが、自分はSSDF土星圏グォイド本拠地殴り込み艦隊の中の一隻、〈J《ジョナサン》Hアーチャー〉のブリッジクルーの一人として、あの・・エンケラドゥス・ターンの瞬間を追体験している。

 どうやって自分にこの記憶を見せているのかは分からないが、実際の自分は今、〈ウィーウィルメック〉のメイン・ブリッジにいるはずであった…………間違いなく。

 アミは夢の中で、これが夢だと気づいた時のような気分になった。

 そして同時に思った……………。


 ――この記憶が〈ウィーウィルメック〉【ANESYS】の彼女アヴィティラが自分に伝えたかったことあのだろうか? ――


『それは少し違うな……』


 アミは突然、思考内に届いた女性の声に驚いた。


『これは確かに私が君に伝えたいことの一部ではあるが、今君が見ているこの記憶は、私の意思とは無関係にリフレインされる彼女達のフラッシュバックだ』


 驚くアミのことなど頓着せずに、その声は続けた。


『多少長く思えるかもしれないが、実時間の上では一瞬だ。

 だからしばらく辛抱して、彼女らに付き合ってやってくれ』


 そう告げる声を聞きながら、アミは声の正体に思い至った

 これはきっとアヴィティラ化身の声に違いない……と。

 アミのその推測には、その声は何も言わず、まるで一時停止させた映像記憶が再生されるかのように、彼女たちの思い出・・・は再開された。






 接近に伴って精密観測できるようになったエンケラドゥスの上空には、予想の通り敵実体弾投射砲艦の姿は見えなかった。

 土星圏グォイド本拠地を守るエンケラドゥスおよびイアペトゥスの実体弾投射砲群が、ではなく、地上に接地された固定砲であろうことは、論理的に事前推測されていたことであった。

 衛星の上空の衛星・・軌道上宇宙空間に配置した場合、発射できる弾体に限りがあり、補給も非効率的になる。

 だが最初から地上に接地しておけば、衛星の構成素材から実体弾の弾体を作り、ほぼ無尽蔵の実体弾の補給が可能だ。

 大気の無い星からならば、地上で撃つのも、軌道上宇宙で撃つのとその精度も弾速も射程も変わらない。

 重力や自転による影響はあるが、それは星のそばであれば何かしら常にある問題だ。

 ゆえに〈じんりゅう〉は、グォイド本拠地の敵実体弾投射砲群がイアペトゥスの赤道部地上にあると判断し、それに基づいたマニューバで内太陽系人類圏への脱出を果たした。

 〈J《ジョナサン》Hアーチャー〉が再【ANESYS】時に行おうとしているのは、少し前に実行された、〈じんりゅう〉による補給艦部隊のイアペトゥス・フライバイ・ターンでおこなわれたのと同じマニューバであった。

 〈じんりゅう〉が遠隔操作オーバーライドした補給艦部隊もまた、イアペトゥス接近中に、同衛星赤道部地上に多数存在した敵実体弾投射砲に苦しめられた。

 これに対し〈じんりゅう〉【ANESYS】の統合思考体は、補給艦部隊の有する全火力を用いて、イアペトゥス赤道部地上に全力で攻撃を行った。

 補給艦部隊の護衛としてわずかに存在した実体弾投射砲艦と、その他の護衛艦のUV弾頭ミサイル、さらにUVキャノン、それらを敵実体弾投射群に正確に命中させ破壊することは、距離と敵のサイズやUVシールドの存在からいって、いかに【ANESYS】を用いても不可能であった。

 だが、氷を主成分としたイアペトゥスの地上赤道部そのものに砲撃を命中させることは可能であった。

 そちらの方がずっと的が大きいからだ。

 〈じんりゅう〉【ANESYS】は、そこを攻撃することによってイアペトゥスの地上を融解あるいは水蒸気爆発させ、大地震、もしくはそれに類する天変地異を発生させ、地上に存在する敵実体弾投射砲を発射するどころではなくさせたのだ。

 少なくとも敵実体弾投射の砲撃は阻止はできずとも、照準を狂わせることはできた。

 これにより、補給艦部隊への命中率を激減させることに成功したのであった。

 こうして〈じんりゅう〉ふくむ補給艦部隊の7割以上が、内太陽系人類圏への帰還の途につくことができた。

 〈J《ジョナサン》Hアーチャー〉の【ANESYS】は、これと同じアイディアに基づいたマニューバを行おうとしたのであった。



 〈J《ジョナサン》Hアーチャー〉が再び行った【ANESYS】による、土星圏グォイド本拠地殴り込み艦隊本隊全艦の遠隔操作オーバーライド精密砲撃が開始された。

 アミの視界に映る〈ウィーウィルメック〉バトル・ブリッジの各方向のビュワーの彼方で、遠隔操作オーバーライドされた僚艦の数々から、盛大なマズルフラッシュと共に一斉に撃てる火力の全てを放ち始める。

 実体弾はもちろん、UV弾頭ミサイルも出し惜しみなどしない。 弾速の遅いUV弾頭ミサイルは、エンケラドゥス側からの迎撃用レーザーで撃ち落とされていくが、それでも破片は運動エネルギーを失わずにエンケラドゥス地表へと落下していく。

 接近しない限り敵UVシールドを貫徹できないUVキャノンも、UVシールドを持たないエンケラドゥス地表にならば、有効射程外からでも通用した。

 前方ビュワーやや右側に、画面上下に届くほど巨大に映るエンケラドゥスの赤道部、白き氷の地表に、小さな円形の爆炎が白い粉を吹いたかのように無数に発生した。


『彼女は〈じんりゅう〉の彼女・・がそうしたように、殴り込み艦隊本隊の僚艦たちを遠隔操作オーバーライドし、エンケラドゥス赤道部に艦隊の有する全火力を叩きつけた。

 一応は目論見通りになったと言える。

 エンケラドゥス赤道部の地表は、液体と固体のH20でできた氷の火山帯があり、それに砲撃で穴をあけ、氷の噴火を誘発させることに成功した…………だが』


 アミに届くその声は、その後の悲劇を予感させた。








「…………」

「…………」

「あ、あの…………お気に召したかしら? その……ウチの大浴場は…………?」


 ――〈じんりゅう〉大浴場――


 ユリノは恐る恐る湯船に浸かって以降、無言になったキャスリン艦長とセヴューラ少佐に思い切って声をかけてみた。

 彼女達が無言なのは、この湯浴みを満喫しているからなのか、それとも突然裸の付き合いに引き込まれ不機嫌になったからなのか、まだ彼女らに会って間もないユリノには、彼女らの表情からだけでは分からなかった。

 だが、今はこの突然のお風呂の誘いに、二人が付き合ってくれただけで良かった。

 この湯浴みの最大の目的は、時間稼ぎである。

 良く考えたならば、泡を食って焦る程のことでは無かったのかもいしれないが、ユリノはキャスリン艦長が突然ショーガヤキを食したいと言いだした時には驚いた。

 彼女達が求めるショーガヤキを提供するには、アミ一曹に化けたケイジ三曹に食堂で調理してもらうのが一番だが、下手にそれを実行すると、彼女達にケイジの女装が露見する危険を増やすことになる。

 なるべくその可能性は低く留めておきたかった。

 だからユリノは思い切って、ショーガヤキの昼食が出来るまでの時間潰しにと、この〈じんりゅう〉大浴場へと二人を誘ったのであった。

 着替え中の隙を見て、メイン・ブリッジにいるサヲリ経由で、ケイジ三曹には至急ショーガヤキの昼食の準備を頼んでおいた。

 彼はすぐに調理にかかると答えたそうだが、ユリノの懸念を理解した上で動いているのかについては、聞いている暇はなかった。

 だからユリノは、彼とて事態の危険性くらい承知していると信じるしかなかった。

 そして、あとはひたすら大浴場をエンジョイすることにした。

 …………のだったが、大浴場に同行したシズとルジーナとカオルコが、『お背中でもお流ししましょうデスぞな!』『大丈夫、優しくするから』『セヴューラ少佐のお背中はシズが……』と、戸惑うキャスリン艦長とセヴューラ少佐に迫り出したのを止めるので、それどころではなくなってしまった。

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