▼第九章 『ロスト バケーション』
まだまだ訊きたいことは山程あったが、かといって一度に受け止めるにはあまりにも濃密な情報過ぎた。
せっかくアクシヲン・ビーチから〈アクシヲン三世〉艦首防衛ユニット・〈びゃくりゅう〉メインブリッジまで移動してきたが、ケイジ達は特にすることもできることもなく、またアクシヲン・ビーチに戻ることにした。
「ま、今すぐアンタ達にしてもらうことはまだ無いからな。
〈アクシヲン三世〉内の居住エリアは、数百年単位の恒星間航行に備えて窒素ガスで満たされている。
そいつを呼吸可能な空気に入れ替えるまで、あとまる一日はかかるから、それまではビーチで休むなり遊ぶなりしてれば良いさ」
とぼとぼとビーチに戻る道すがら、フォセッタ中佐は告げた。
すぐ戻るのだったらわざわざここまで足を運ばせなくても……と思わないでもなかったが、己の目で、五感で得た真実にこそ意義があるという考えなのかもいれない。
正直、全員水着姿のままブリッジにいるのは何か気が落ち着かないので、ケイジは彼女の言葉を聞いて安堵していた。
「アンタ達の最新の身体データを元に、ここの全自動縫製機で新しい
それまではその恰好で我慢してくれ」
フォセッタ中佐のこの言葉に対しては、ケイジは安堵とも無念ともつかぬ感覚であった。
本来であれば、青少年男子として泣いて喜ぶ光景がケイジの前には広がっていたのだが、正直それどころではない重大事実が次々明かされて、ケイジの思考はオーバーフロウ寸前だったのだ。
きっと、沈黙している他のクルーもそうなのだろう。
アクシヲン・ビーチに到着するまで、〈じんりゅう〉クルーの誰も何も語らず、到着してもそうだった。
特にユリノ艦長はまるで魂が抜けてしまったかのようで、ケイジはミユミらと共に大いに心配になった。
いつもならサヲリ副長やカオルコ少佐が元気づけるところなのだろうが、今回はその二人も沈黙している。
二人はユリノ艦長の手を握り、一緒に悲しむことを選んだようだった。
そして驚いたことに、こういう時に率先して場を明るくしてくれそうなクィンティルラ大尉までもが、フォムフォム中尉の手を握りながらうつむき沈黙していた。
彼女らもまた、五年前の〈アクシヲン三世〉の船出に立ち会っており、〈びゃくりゅう〉がここに存在していることに驚き、悲しみ、少なくともユリノ艦長に同情しているらしかった。
〈びゃくりゅう〉がここにあることは、自分たちにとっては希望かもしれなかったが、太陽系脱出船が船出に失敗したということでもある。
それが彼女たちの悲しみの原因らしかったが……当事者では無かった自分に口を出す勇気もなく、ケイジは存分に悲しむに任せた方がいいのかもしれないと、そう結論づけることにした。
誰にだって悲しい時には、思いっきり悲しむ権利があると思ったのだ。
他のクルーも、フォセッタもスキッパーも同じ考えに達したのか、アクシヲン・ビーチに到着すると、皆で砂浜に座り、水平線を眺めながら、ただ波の音を聞きながら過ごした。
………………ほんのしばらくの間だけは。
ここにはそういった人間の心の機微だのという理から、外れた存在が一人いた。
突如、一同の目の前の海面がザァッパ~ンとばかりに爆発すると、砂浜の一同を波しぶきで洗い流しながら、不定形な塊が逆さにしたクラゲのように触腕を蠢かせて浮上した。
その正体を知らない人間が見たら、この世の終わりかと思いかねない光景だった。
『もぉ~みなさ~ん! 戻ってきてからなんだか暗いですよ~!』
散々ここで待たされた上に、帰ってきてから何もしゃべらない一同に、サティは完全に痺れを切らしていた。
一応、〈びゃくりゅう〉メインブリッジで明かされた事情は、彼女も所持している通信機で聞いて知ってはいるはずではあったが、そんなの知ったこっちゃなかった。
『せ~っかくこんな面白いところで思う存分遊べるチャンスがあるのに、いつまで黄昏てるつもりですか!?』
「あ、いや~あの~サティ? 今はそんな遊んでいる場合と気分じゃ――」
『問答無用!』
みなを代表してケイジがサティをなだめようとしたが、無駄だった。
ケイジは筒状になった彼女の触腕に、悲鳴を上げる間も無く頭から吸い上げられると、彼女を形成する塊の頂上、高く高くアクシヲン・ビーチの天井ギリギリの高さから、上下左右斜めへと滑らかなカーブを描いた雨どい状の触腕の上を、水流と共に猛スピードで滑り下ろされた。
「………ひぃぁぁああああああああぁぁぁああああああぁぁぁああ」
宇宙生活では味わおうはずもない感覚、スリル、肌で感じる水流、ぶつかってくる空気の感触……。
気が付くとケイジは緩やかな上り坂となった触腕から、ぽ~んとばかりに弧を描いて放り上げられ、軽い0Gを感じた次の瞬間水中深くにダイブしていた。
数秒後、ようやく水面へと浮上したケイジが見たものは、砂浜で繰り広げられる阿鼻叫喚の図であった。
逃げ惑うクルー達を次々と吸い上げては、ケイジと同じようにウォータースライダーと化した触腕の上を滑らせ、そして次々と半自動砲のごとく斜め上方に打ち出していった。
「ひぃぃぁぁぁぁああああぁぁぁあああああぁぁ! どいてどいてぇ~」
情け容赦なく撃ち上げられたユリノ艦長が、悲鳴をあげながら水面のケイジへと向かっておっこちてくる。
慌てて潜航して回避すると、ケイジのすぐ後ろで水柱が上がり、さらにその周囲で他のクルーの水柱が、次々と連続して立ちあがった。
砂浜では最後に残っていたフォセッタが「自分はいい! 自分はいいから! スキッパー助け――」と叫びながら逃げ惑っていた。 が、呼ばれたスキッパーは当の昔に退避しており、彼女もまた情け容赦なくサティに吸い上げられると、デタラメなカーブを経て打ち出され、ドップラー効果を伴った(ような気がする)悲鳴と共にケイジのそばに落下し水柱を上げた。
が、誰一人としてケガを負うようなこともなく、皆無事に浮上すると、かつて感じたことのない恐怖を味わい、しばし沈黙した。
一瞬、ここに至るまで何を悲しんでいたのか思いだせなくなるほどだった。
ケイジはもちろん、誰もがあまりのことにしばし無表情となった。
「サ――」
やっと我に返ったケイジが、問答無用でこんなことをしてくるサティに、思わず何か言おうと思ったところで、背後から聞こえる笑い声に気づいた。
「……はは…………ははは………はっはっはっはっは……」
振り返ってみると、笑っていたのは誰あろうユリノ艦長だった。
「あっはっはっはっは……すご~いサティ! ねえ今のもう一回やって! もう一回!」
それまでがウソのように満面の笑みを浮かべたユリノ艦長が、皆が別方向の心配をするほど大笑いをすると、大はしゃぎでクロールし、サティへと向かい始めた。
「みんなも早く! せっかくこんなとこでこんな遊びできるのに、チャンスを無駄にするつもりなの!?」
「え!?」
振り返って皆に告げるユリノ艦長に、カオルコ少佐が思わず濁音交じりで驚きの声を漏らした。
が、驚いたのは一瞬だった。
「……ユリノぉ……まったくお前さん奴はって……行くぞ!」
一瞬で腹を決めたカオルコ少佐はFollow Me!とばかりに後の皆に大きく手招きすると、ユリノ艦長に続いた。
どうも、皆で黄昏るのはもうお終いのようだった。
「おっしゃ! 行ったらぁ!」
火が着いたように俄然遊ぶ気を爆発させたクィンティルラ大尉はもちろん、サヲリ副長までもがサティに向かい、ケイジも後を追った。
一見堅物で常時不機嫌そうだったフォセッタ中佐も、しれりと皆に交じり、歓声を上げながら皆と一緒にサティ・スライダーを楽しんた。
サティ・スライダーは最初はめちゃめちゃ怖かったが、完全に安全が確保されていると分かると、その恐怖はスリルとなり、心をつかんで離さぬエンターテイメントとなるのだ。
そしてそれから時間の許す限り、皆でサティ・スライダーをはじめ、この太陽系最果てにあるビーチを様々な方法で満喫することにしたのであった。
思う存分悲しむべき時も、人生では確かにあるかもしれなかったが、それは後回しでも良かった。
飽きる(一部は酔う程)ほどサティで遊び、小腹が空くと、ケイジがビーチの隣接施設であるモールで食料と調理器具を調達し、ヤキソバとかき氷を作って食べた。
フォセッタ中佐が「なんだこれは!?」と呻きながら一番ガッついていた。
それから一瞬まったりすると、今度はモールにあったビーチアイテムの数々を使い、動力源サティのバナナボートもどきや、ボディボード、ビーチバレー、砂の城作り、シュノーケリング等々、ここで一生分遊ぶつもりなのかという程楽しんではすぐに飽き、さすがに一瞬疲れて横になっていたケイジは、気が付けば首だけ出した状態で砂に埋められていた。
――バカな!?
いくら遊び疲れていたとはいえ、ちょっと目を瞑っていただけなのに……一瞬で砂に埋められるだと!?――
ケイジは目覚めるなり軽くパニックに陥ったが、サティとう掟破りがいるので、一瞬で砂に埋められた謎はすぐに解けた。
これはアレだ……マンガやアニメで見る、首から下を砂で埋められた状態で、砂に埋まった胴体部を、例えばムキムキマッチョマンだとかヒューボだとか、面白おかしい形にするイタズラの類だ……。
ケイジはそう思ったのだが、それにしては若干不可解な点があった。
普通は仰向けで寝ている人間の体を砂で埋めるはずだと思うのだが……今の自分は、小山のように盛り上げられた砂に、頭を上にして垂直に体を埋められていた。
これではどちらかというと、西部劇や海賊モノの映画でたまに見る拷問方法の類みたいではないか!? とケイジは恐怖したが、自力での脱出は不可能だった。
恐る恐る視線を上げると、眼前の波打ち際に他のクルー全員が横並びになってケイジを見守っていた。
ケイジはそれまでかけていたサングラスが外されていることに気づき、軽くまたパニックになった。
今の彼女達は、裸眼で見るのは危険すぎる。
「あ……え~と…………次は人間棒倒しとか!?」
ケイジは願望を兼ねた冗談を言ってみたが、無言でスルーされた。
「…………」
明らかに何か意図があってケイジを埋めたのだろうが、眼前のクルー達は自分でそんなことしておきながら、しばし無言で、微かに顔を赤らめながら無言で目を反らすばかりであった。
『も~……ここまできて恥ずかしがっていたら、陽が暮れちゃいますよ!』
焦れたサティが横に伸ばした触腕で、一同を一まとめてにしてずずいと前に出させた。
「なになに? 今度は何して遊ぶんだ?」
訳も分からず皆と並んでいたフォセッタ中佐がわくわく顔で問うたが、誰も答えなかった。
勇気を出して最初に口を開いたのはミユミだった。
「まさか(バイオレンスな)スイカ割りとかじゃ……」
「ケイちゃん!」
「はい!」
「ケイちゃんを埋めたのは他でも無いわ! それはね…………」
「……それは……なに?」
「…………言って欲しかったの……」
「何を?」
「だ~か~ら~……」
ずずいと近づいてきてぶんぶん腕を振り回して何事かを訴えようとする幼なじみの迫力に、ケイジは思わず後退しようとしたが、無理な話であった。
「…………感想を……言って欲しかったの……」
「な……何の?」
「だ~か~ら~! みんなの水着姿のぉ!」
「……おうっふ!」
顔を真っ赤にして怒鳴るミユミに、ケイジは返す言葉が出てこなかった。
いや、そういうことを訊かれる可能性は予測していた。
だが、こうも逃げ場ない状況で、全員から一度に訊かれるとは……。
ケイジの前では、クルー達がもじもじとしながら、ケイジの答えを今か今かと待っていた。
――テヴィリスへ……楽編は土星圏の彼方にあったよ……――
〈三鷹ケイジ・心のメール〉
ケイジは瞑目すると、〈ワンダービート〉でEVAのバディを務めた親友に、届くことのないメールを心の中から送信した。
もしも彼がこの光景を見たら……きっと……ぶっとぶに違いない。
ミユミに訊かれなくても、答えは決まっていた。
ただそれがケイジの語彙ではアウトプットできなかっただけだ。
一人一人が素晴らしく、素晴らしかった。
ケイジはこの日のことを一生忘れないだろうと思った。
サティ・スライダーで遊ぶ間、ようやくケイジは、ありのままの彼女たちの姿に、ありのままの感想を抱くことを自分に許していた。
目の前で色とりどりの水着姿となった彼女達が、事ここに至るまでの全ての不安や悲しみを忘れ、鈴の音のような笑い声と共にビーチでの一時を楽しんでいた。
眼前の光景のその全てを、脳細胞の許す限り記憶に刻もうと試みる以外に、優先すべきことなどあろうか?
答えは分からない……。
普段は
ともかく、理由がなんであれ、健全なる青少年にとってこの宇宙に、今の彼女たちの姿を心に刻む以外に重要なことなどなかった。
ケイジは宇宙の真理にさえ近づいている気がした。
シズ大尉は黒いフリルの着いたホルダーネックのセパレート。
フィニィ少佐はフリルの付いたオレンジのボーダー柄の三角ビキニ。
(※この二人の水着にフリルがやたらとついてる理由については謎である)
クィンティルラ大尉はシルバーのタンキニとかいうセパレート。
ミユミはマンガやアニメでしか見たことが無いようなコバルトブルーのスクール水着。
サヲリ少佐はシンプルな白いワンピースの競泳水着。
ルジーナ中尉は裾の超短いオーバーオールみたいな水着だった。
ユリノ艦長は青地に白い花柄のレース付三角ビキニ。
カオルコ少佐は上下に短いスポブラとショートパンツみたいな水着だが、ひし形の大きな穴によって布面積が著しく減じられていた。
フォムフォムはワンピースなのに何故かビキニのように面積の小さなヒョウ柄の水着だった。
そしてそれに深紅のビキニのフォセッタ中佐が加わり、サティの一人遊園地に興じていた。
なお紹介の順番に他意は無く、水着の名称についての知識は、彼女らの水着チョイスに大いに尽力したというルジーナ中尉の解説に基づいている。
ルジーナ中尉プロデュース水着は、彼女らのビジュアル的魅力を引き出しつつ、彼女らの個性を際立たせ、また彼女らの活動スタイルにも対応していた。
彼女らの希望に則しているかはさておいて……。
ケイジは思わずルジーナ中尉に固い握手を求めた。
彼女はうんうんと達成感を浮かべた顔で自分の仕事に満足しつつ、太陽を肉眼で直視出来ないかのごとく、彼女らの姿をまともに見れないケイジに対し、「これを使って下さいナ」とそっとサングラスを渡してくれた。
ケイジは一生恩に着ると誓ったものだ。
が、そのサングラスも今は奪われてしまった。
「ケイちゃん……その………………………………似合わない?
……………………似合わないって思ってるなら、似合わないって言ってよ……」
「でぁ……その……」
答えが返ってこないことで急に落ち込み始めた幼なじみに、ケイジは答えようとしたが、舌がもつれて意味ある言葉が何も出てこなかった。
「ハッハッハ! その答えなら決まっているじゃないか!?
スリーサイズその他のスペックから言って、自分かフォムフォムがプロポーション的に圧倒的に優れている決まって――」
[あ~あ~ごめんなさいね皆さん! この娘ったらも~……ずっと独りぼっちでいたもんだから、団体行動ができないというか、空気が読めないというかも~……]
「え? なに? 自分なにかまずいこと言ったか?」
突如、豊な胸を張ってフォセッタ中佐が自信満々に発言したが、すぐにスキッパーによってケイジの視界外へと背中を押されて強制退去された。
ケイジはその間に皆の気持ちが変わらないかと思ったが、フォセッタ中佐が抜けたあとも、クルー達はものすごく真剣なまなざしを向けてきていた。
何しろこういうことをしそうにないキャラであるユリノ艦長やサヲリ副長やフィニィ少佐までもが、ケイジの答えを待ってるのだからプレッシャーは半端なかった。
「あの……ケイジ君……そんなに言いたくなかったら、無理に何かコメントしなくても……」
「いやぁ! そういうんじゃないんです! ただ……」
ユリノ艦長に微妙に目を潤ませながらそう言われると、ケイジは本格的に何も言わないわけにはいかず大いに慌てた。
言わなくても良いと言うのは、明らかに何か言って欲しいのだとうことくらい、ケイジも学んでいた。
そしてなんでもいいから口に出す覚悟を決めた。
「た……たた……ただたたたたたた……ただ、みんなメチャクチャ奇麗過ぎて言葉にならないんです! 凄く……奇麗で凄くて……直視できないくらいなんです!」
ケイジは皆の視線に耐えきれず、目をきつく瞑りながら、顔から火が出るような思いで叫んだ。
そもそもなんでこんなに当たり前のことを言うことが、恥ずかしく、言い難かったのか? ケイジは今更ながら不可思議に思った。
そしてリアクションが返ってこないことに、ケイジは段々怖くなり、恐る恐る目を開けると…………。
目を開けるなり、バシャリとミユミの持つ水鉄砲がケイジの顔面に命中した。
「この……この意気地なしのすけべぇ者めぇぃ……」
「わ~っはっはっは! エッチな男子にはお仕置きしてくれるわ! どぇ~はっはっは!」
恐ろしく冷ややかな表情のミユミに続き、ハイテンションのルジーナ中尉が、さらにその他の全員から、一斉に後ろ手に隠してたピストル型水鉄砲の一斉射撃が始まった。
「……………」
ケイジは甘んじて水鉄砲を食らいながら、ここまで来てようやくこれが壮大なドッキリだったと理解した。
多分……多分ドッキリだった。
ドッキリだったに違いない……。
クルー達が水鉄砲と共に背中に隠し持っていた金属バットが、どすりと砂浜に捨てられたことからは目を反らすことにした。
「ホントに……ケイジ三曹は男の子なのですね……」
「まったくだ! 素直にわたしを褒めておけばよかったものを……無難なことを言いおってからに……」
「後で個人的にボクに感想言ってくれてもいいんだよ?」
「素直ではないなケイジぃ~そこは俺が一番素敵とか言うところだろ~!」
「……フォムフォム」
「……ケイジ三曹……喉が渇いてませんか……」
「ケイジく~ん……危ないとこだったよ~……と~っても…」
皆が好き勝手なことを言いながら、ケイジに水鉄砲を撃ち続けた。
サヲリ副長とユリノ艦長が若干恐ろしいことを呟いた気がしたが、きっと気のせいだ。
ケイジは喉元を大鎌が通過し終わったことに安堵し、グッタリと疲れ、もうどうでも良くなっていた。
そうしてケイジは埋められたまま、はしゃぐ彼女らを眺め続け、最後に皆でホログラムの夕日が水平線に沈むのを眺めた。
夜時間になると、照明代わりに砂浜のど真ん中にホログラムのキャンプファイヤーが焚かれ、ようやく砂から出されたケイジは、再びモールで材料その他を準備すると、皆でわいのわいの言いながら電熱グリルを使ってバーベキューをして夕食とした。
フォセッタ中佐が最初に言った通り、トイレ・シャワー・更衣室の類は全てビーチに隣接しているので、一日を過ごすのに不都合はなにも無かった。
先にビーチで待たされていたサヲリ副長らも、一週間ちかくここで生活できたのだ。
それどころかこのビーチが、フォセッタ中佐の普段の住まいらしい。
夕食が終わり、ホロの星空が頭上を覆うと、海で遊ぶ時は夜になったら皆で花火を(マンガやアニメでは)するものだとルジーナ中尉が主張し、シズ大尉が「確かに……」と頷いたが、さすがにそこまではモールに用意は無かった。
それにどちらにしろビーチは火器厳禁だった。
そこでフォセッタ中佐が代わりとして、ビーチのホログラムの空に、ド派手に打ち上げ花火を投影してくれた。
思ってたのと違ったが、それで皆満足だった。
そうしてビーチの一日が終わった。
ビーチに見えても宇宙船の中なので、気温が下がって寒くなることもなく、ケイジ達はタオルをかけ布団にしつつ、サティをベッド代わりにして、遊び疲れてそのまま眠った。
ケイジはビーチでの一日が、目が覚めたら夢であったことにならないか、それがちょっとだけ心配だった。
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