▼SSDFの対グォイド大規模侵攻迎撃ドクトリン

 SSDFは過去三度の大規模侵攻かを経て、以下のような対グォイド大規模侵攻迎撃ドクトリンを構築し、第四次及び第五次大規模侵攻時に実行。その有用性を実証している。






【ステージ0】

◇グォイドの大規模侵攻・警戒観測状態。


 太陽系各SSDF超長距離土星圏観測ステーションによる、土星方向からのグォイドの大規模侵攻艦隊への常時警戒・観測状態。(※あるいは、それ以外のなんらかの手段でグォイドの大規模侵攻を警戒している状態)


 遮蔽物の無い土星圏から木星圏までの宇宙では、大規模な艦隊がUV加減速噴射光を観測されずに行動することはほぼ不可能に近く、SSDFはその噴射光を捕捉することにより、常日頃からのグォイドの動向の迅速な察知を可能としている。

 シードピラーを擁するグォイド艦隊の大規模侵攻が観測されると、直ちにその報はSSDF各艦隊に送られ、それが本当に大規模侵攻であるかが速やかに分析されると、SSDF各艦隊は第七艦隊・大規模侵攻時対応艦隊〈ソダリタース〉を中心に結集、グォイド大規模侵攻迎撃艦隊が編成される。

 その一方、迅速な対処の為、SSDF第五艦隊・大質量高速実体弾砲艦艦隊〈トレビシュタット〉のみは、分析の結果を待たず、直ちに対グォイド砲撃ポイントであるメインベルト外縁部土星方面への移動を開始する。







【ステージ1】

◇大質量高速実体弾によるグォイド艦隊の減速、あるいは加速の阻止と進路変更の試み。


 メインベルト外縁部の砲撃ポイントに移動したSSDF第五艦隊・大質量高速実体弾砲艦艦隊〈トレビシュタット〉による大質量実体弾の高速投射作戦オペレーション・プレアデスを行っている状況。

 UVDを搭載した航宙艦は、燃料の消費を気にせず加速を無限にし続けることが可能な為、グォイドの大規模侵攻が始まった場合、可及的速やかに敵艦隊の加速を阻止しなければ、グォイド艦隊は光速の数%まで加速、SSDFは迎撃戦闘をする時間も無いまま、地球や火星等へのシードピラーの到達を許してしまうことになる。

 SSDF第五艦隊・大質量高速実体弾砲艦艦隊〈トレビシュタット〉は、グォイド艦隊の進路上に大量・大質量の実体弾をばら撒くことにより、このグォイド艦隊の加速を阻止しつつ、あわよくばSSDF大規模侵攻迎撃艦隊が結集しているポイントへの誘導を試みる。

 宇宙戦闘における実体弾は、真空無重力故に無限の射程があるが、宇宙的尺度で言えばその弾速は遅い部類に属し、発射から命中までの間に回避、あるいはレーザーでの迎撃が充分に可能なものである。

 しかしながら、グォイド艦隊側は地球に向け加速をし過ぎてしまうと、相対速度差が増すことで、自ら進んでUVシールドの防御力を上回る程に敵実体砲弾の威力を増大させ、回避と迎撃の時間を減らすことになってしまう。故に、グォイド艦隊の減速と進路変更には実体弾砲撃がもっとも有効なのである。

 しかし、グォイド艦隊もまた大質量高速実体弾砲艦を用いて第五艦隊〈トレビシュタット〉の実体弾砲撃による進路妨害を阻止しようと試みる為、状況は自然と大質量高速実体弾による長距離砲撃戦となる公算が高い。

(※実体弾はレーザー砲による長距離迎撃も行われるが、処理できるのは実体弾のなかでも質量の軽いものだけであり、大質量実体弾を迎撃するのであれば、同じく実体弾をぶつけた方がはるかに効率的であるという事情もある)

 この時の戦闘は苛烈なものになることが予測されるが、幸いにも、人類側はメインベルトという天然の大質量実体弾原材料庫が砲撃ポイントの背後に存在する為、本拠地である土星圏を遠く離れたグォイド艦隊に対して、大質量実体弾の備蓄量はSSDFが上回り、人類は大質量高速実体弾による長距離砲撃戦を有利に戦うことが可能である。

 この大質量高速実体弾による長距離砲撃戦は、両艦隊の搭載砲弾が底をつき次第、大規模侵攻迎撃戦は次のステージに移行することになる。

(※この時、人類はグォイド艦隊の右翼側を砲撃し、敵艦隊が取り左回頭をとるよう仕向けることにより、反時計まわりのメインベルトの公転方向に逆らうコースになるよう誘導する。

 例えるなら、メインベルトという小惑星の流れる川を越え、地球に向かおうとするグォイドを、川上に向かうよう仕向けることで、敵の渡川をより時間がかかる上に危険なものにしようとしているのだ)






【ステージ2】

◇SSDF各艦隊により編成されたグォイド大規模侵攻迎撃艦隊による、中近距離からの交差迎撃戦闘。


 第七艦隊を中心とするグォイド大規模侵攻迎撃艦隊は、メインベルト外縁部にて第五艦隊〈トレビシュタット〉による長距離砲撃戦が行われている間に結集しつつ移動、グォイド艦隊の砲撃から第五艦隊を守るように第五艦隊前方に前後に長い楕円状に展開、迎撃を開始する。

 グォイド艦隊が針のように細い円錐陣形をとることにより、SSDF艦隊迎撃網の突破を試みるのに対し、SSDFは前後に長い楕円形陣をメインベルト外縁部に展開して迎え撃つことにより、全艦の保有火力を効率よく一点に集中させ、敵艦隊の撃滅あるいはシードピラーの撃破を試みる。

(二〇世紀の洋上戦闘でいうT字戦闘の宇宙板と例えられている)

 この時点でグォイド艦隊は、UVキャノンやUVミサイル等の射程距離に達している可能性が高く、戦闘距離は肉眼で敵艦を捉えることが可能なレベルであり、また敵味方艦隊の相対速度も最大で時速数キロまで減速されている。

 SSDF・グォイド双方からのUV兵器による砲撃戦が開始される一方、楕円形陣形の前後二か所に展開したSSDF空母機動艦隊からは、飛宙艦載機にるUV弾頭ミサイル攻撃が試みられる。

 敵艦隊陣形のシードピラー前方には、多数の護衛艦が立ちはだかっているのに対し、側面部分は比較的防御が薄く、飛宙艦載機による攻撃の浸透が期待できるからである。

 また、この楕円陣形の陣形前後二か所から発艦させることにより、攻撃を終えた飛宙艦載機は、互いに発艦した空母の反対側の空母に着艦させることが出来るというメリットもある。

 この人類側の飛宙艦載機攻撃に対し、グォイド側もまた直掩艦載機を発艦させ邀撃してくる為、【ステージ2】では中近距離砲撃戦と同時に飛宙艦載機同士の戦闘も行われることになる。

(※初期の大規模侵攻迎撃戦では、有人飛宙艦載機によるUVミサイル攻撃によってシードピラーの撃破がなされることが多かったが、グォイド側も進歩して優秀な小型グォイド飛宙艦載機を投入してきた為、人類側有人機の被撃破率が上昇し、第五次では無人飛宙艦載機が多数使われている)

 【ステージ2】の最中も、第五艦隊〈トレビシュタット〉による大質量実体弾の高速投射作戦は可能な限り続けられる。

 迎撃と回避が不可能な中近距離での実体砲弾は、非常に強力だからである。

 基本的な実体弾の備蓄量は人類のほうが勝っているはずなので、この時点でまだ実体砲弾が残っている可能性は充分にある。しかし、何よりもまずグォイド大規模侵攻艦隊の減速が優先される為、絶対では無い。

 また、実体弾砲弾を撃ち尽くした後も、近傍のメインベルト内の小惑星を原材料に、新たな実体弾の生産も並行して続けられており、グォイドが迎撃網を突破した場合に備えている。


 【ステージ2】の後半になると、SSDF迎撃艦隊はグォイド艦隊を包むように左右上下に展開、敵艦隊の側面からの砲撃でシードピラーの撃破を試みる。

 しかし、それでもシードピラーの撃破を達成できす、SSDFの迎撃網を突破されてしまった場合は、グォイド大規模侵攻迎撃ドクトリンは次のステージに移行しなければならない事になる。





【ステージ3】

◇SSDFの迎撃網を突破したグォイド大規模侵攻艦隊追撃戦。


 SSDFグォイド大規模侵攻迎撃艦隊がメインベルト外縁部に構築した迎撃網を、シードピラーを擁するグォイド艦隊に突破されてしまった場合、SSDFはその時点で動かしうる全航宙艦を用いて追撃戦を開始。

 この自点で両艦隊は著しく損耗しており、この追撃戦に参加できうる艦は、全艦艇中の数割程度になっていると思われる。

 基本前提として、地球及びその他の惑星・衛星に球状空間グォイド・スフィアを構築することを最上目的とするグォイド艦は、星へのタッチダウンを最優先にするあまりに、迎撃してくる前方の敵との戦闘にのみ特化し、後方や側面の攻撃能力が人類側の艦に比べ劣る傾向があり、その分、前方目標への加速能力に優れている。

 これに対しSSDFの艦は、グォイド艦隊の迎撃態勢構築の為に、グォイドの進撃コースが分かり次第、集結地点に向かって移動を開始し、減速してそこで停止し迎撃戦闘を行い、迎撃網を突破されてしまった場合はそれをまた追いかけ、同航戦をしつつ追い越し――また迎撃態勢を構築するという、動いては止まる任務がこなせなければならない。

 故に、艦尾を進行方向に向けての最大減速時でも、並走しつつの左右同航戦でも戦えるよう、武装が前後上下左右に向け撃てるよう対応している。

 以上の特性から、追撃戦では、距離をとられない限り、後方と側面の攻撃能力にかけるグォイド艦を撃破するのは比較的容易であるはずだが、シードピラーに関してはこの限りでは無く、追撃戦となった場合でもSSDFの艦にとってシードピラーを撃破するのは容易なことではない。また、他のグォイド艦は自ら盾となってでもシードピラーを守ろうとする為、シードピラー撃破は追撃戦に至る前の達成が望ましい。

 【ステージ3】へと突入した場合、地球圏及び火星圏に残された最低限のSSDF艦艇が防衛網を構築し、最後の砦となる。

 この時、残されていたSSDF艦艇では、戦力的にシードピラーを撃破することは至難であるが、敵艦隊前方への攻撃により、敵艦隊を減速させることにさえ成功すれば、敵艦隊後方から追撃中のSSDF大規模侵攻迎撃艦隊・残存艦艇との挟撃が可能となり、シードピラー撃破率を上昇させることが可能である。

(※第四次大規模侵攻迎戦では、実際に【ステージ3】に突入し、VS―801〈じんりゅう〉の犠牲によって、辛くもシードピラーの地球着床を阻止できたわけである)






【ステージ4】

◇地球・火星・木星圏内のいずこかの星へのシードピラーの着床を許してしまった場合。


 現在、【ステージ4】の情報は開示されていない。







◇総括

・第一次から第五次までのグォイド大規模侵攻を人類が退けてこれたのには、数々の幸運や、人類とグォイドの航宙艦の設計コンセプトの違い、VS艦隊等のSSDF航宙士の英雄的行為の他に、以下の様な理由があったからと言える。


【グォイドが本拠地とした土星圏から、木星以内の人類圏までに距離があり、人類がグォイドの大規模侵攻を観測してから迎撃態勢を整えるまでの時間的余裕があったこと】


【迎撃網構築ポイント近傍にメインベルトがあることにより、小惑星から大質量高速実体弾をグォイド大規模侵攻艦隊の保有数以上に大量生産が可能であったこと】


 距離の問題は、グォイド側艦艇の推力が徐々に進歩していることから油断は出来ず、メインベルトの小惑星による大質量高速実体弾の生産も、迎撃網構築ポイント近傍の小惑星が実体弾製造の為に消費されつくしてしまう状況が迫っている為、人類に油断は許されない。

 人類が継続してグォイドの脅威から身を守り続けるのは、徐々に困難になっていくものと思われる。

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