Chapter3.始動

▶1.

<大災害>が起きて六日目。

黒水晶はこの日、急いで<ギルド会館>に向かっていた。

事の顛末はこうだ。昨日のお昼に気分転換と称して福々・シバ・珠洲の三人でアキバを散策していた所、大柄な<冒険者>五人に囲まれ強引なギルド勧誘を受けたのだ。

幸い、福々が朝日・疾風・浩・ザキ・青伸という<現実><エルダー・テイル>共に180越えのメンバーへ救援要請を送り、逆に取り囲んでもらうという機転を利かせた為事なきを得た。

それでも、<大災害>六日目にしてアキバ内での勢力図はだいぶ変わってきた。大きなギルドや積極的なギルドが次々と人数を増やし、軋轢が生じ始めているのだ。

黒水晶も今までレイドなどに参加させてもらっていた<D.D.D>や<黒剣騎士団>等から勧誘があったが、丁寧にそれを断りこの場にいた。

「すいません、ギルド申請の手続きお願いしたいんですが」

「はい、では・・・」


実を言うと、黒水晶は特定の集団に属するという事が幼い頃から苦手だった。

集団同士の摩擦や所属してない事による扱いの差など諸々の事を煩わしいと感じていた黒水晶は今日までずっとソロで活動していた。

ただ困ってる初心者がいたら放っておけない性格故に周りには常に人がいたし、レイドや一人じゃ無理なクエストの時はシロエや直継を頼って<放蕩者の茶会>に参加していた為に<エルダー・テイル>内ではそれなりの有名人になってはいるが・・・。

「はい、手続きはコレで終了です」

「ありがとうございました」

手続きを全て終わらせた黒水晶は一つ息をつくと、背後から聞こえた足音に振り返った。





▶2.

「かーとーらー!どこ行ったボケェ!」

「火寅ー、頼むから一人でどっか行くなー」

「オレ等がアッシュに殺されんだろうがー」

アキバを出てすぐの初心者用ゾーンにて、Shadowと光希と渉が一緒に訓練してた筈なのにいつの間にか消えていた火寅を探していた。

「紐つけっか紐!」

「やめとけShadow、それこそアッシュがブチ切れんぞ」

「えーっと?そもそも普通の女子と行動理念がズレてるからいまいち行き先が」

三人が周りを忙しなく確認しながら徐々に街道沿いへと移動すると・・・。

「あぁ!ちょうど良かった!Help!」

「「「どういう事だよ!」」」

探していた火寅が<大地人>のキャラバンを庇う様に<棘茨イタチブライアウィーゼル>や<暗殺蜜蜂アサシンビー>の大群相手に戦闘をしており、三人は慌てて武器を構えて走った。

「お前、いきなり消えんな!<アクセルファング>!」

「だってキャラバンの後ろを<棘茨イタチブライアウィーゼル>が追っかけてんの見えたし!<ラフティングタウト>!」

「あんまり一人でヘイト集めんな<木霊返し>!」

「回復行くよー<快癒の祈祷>」

全員初心者の域は超えている為、戦闘はそんな長引かず終わり。

「取り敢えず、火寅はそこ正座」

「うっす」

「大丈夫っすか?」

「怪我とか荷物は?」

光希が火寅を説教してる間にShadowと渉が<大地人>のキャラバンの無事を確認した。

「あぁ、お気遣いありがとう。襲われてすぐにあの子が来てくれたからそんな大きな怪我はしていないよ」

「商品も全部無事さ、いや本当に<冒険者>というのは凄いね」

Shadowが差し出した手を握り、起き上がる初老の男性。渉の問いに笑って答える青年。馬車の中には遠慮がちに手を振る幼い女の子。

「アキバに向かうなら一緒に行きますか?」

「おや、良いのかい?」

「まぁ連れが首突っ込んだんなら、な」

「最後まで付き合いますよ」

「すまないね」

初老の男性は目を細めると、柔らかく笑った。

「キミ達は優しいんだね」

「?」

「へ?」

当たり前の事をしたつもりの二人が首を傾げると、男性は苦笑交じりに口を開いた。

「実は三日ぐらい前に他の<冒険者>に護衛を頼もうと思ったら酷く荒れててね、声をかけても支離滅裂な事を叫ばれてしまって諦めて私達だけで来たんだよ」

「・・・三日前」

「運良くここまで襲われずに来たけど、やはり護衛をつけないと危ないね」

「キミ達以外の<冒険者>が結構荒れていて声も掛けられないし、下手すると八つ当たりされかねないんだけど・・・一体どうしたんだい?」

青年の素朴な疑問に二人は答えに詰まった。自分達だって事態を上手く理解出来ずにいるのに、他人に説明なんて出来ないからだ。ただ言えるのは。

「今までの生活と、環境が一変したせいで多くの人がパニックを起こしちゃってるんですよ」

「オレ達はまだ冷静な部類に入ってるだけっす」

多くの<冒険者>がパニックを起こしているという事実だけだった。それでも青年は納得がいったのか一つ頷き、二人に礼を言った。

「二人ともぉ~、光希が怖いぃ~!」

「ん?」

「ごめんなさい!」

「光希、チビがいるから表情」

「おっと」

「火寅、この人達アキバまで護衛すんだろ」

「うん」

説教していた光希とされていた火寅も加わり、四人はキャラバンと共に移動を始めた。その道中、光希と火寅は渉からさっきの会話の一部始終を教えてもらい、表情を曇らせた。

「あ、あの!その、今アキバ、結構荒れてて」

「多くの<冒険者>がパニックを起こしているんだろう?」

「はい、それで<冒険者>によっては理不尽な八つ当たりをしてくると思いますので良ければ宿まで護衛しますよ」

「いいのかい!?僕達そんなお礼を!」

「いいんすよ、オレ達がやりたいだけなんで」

「助かるよ・・・私や息子だけならあれだが、孫娘もいるから少々不安だったんだ」

男性の言葉に馬車の中にいた女の子が小さく頭を下げる。

男性の言葉と女の子の少し怯えた様子に、四人は思わず顔を見合わせた・・・。





▶3.

「ギルドに全員入ったー?」

「姉貴ー、珠洲が固まったー」

「朝日フォローお願い」

「分かった」

「なぁ火寅達は?アッシュが怖いんだけど」

「さぁ?訓練行ってくるって言われて以来」

「何とかお茶煎れられましたわ!」

「おー、<新妻のエプロンドレス>だっけ」

「回すぞー」

夕方の<黒の守護騎士団ギルドホール>では学生特有の騒がしさに包まれていた。黒水晶の指示に従って朝日や智尋達がギルドへの参加手続きをしている間を梓が<新妻のエプロンドレス>を身に付けたまま動き回り、手続きが早々に終わった面子が梓の手伝いをしていた。

「爽の言う通り火寅とか光希どこ行った?」

「後Shadowと渉だろ?」

「あ、でもアキバには帰って来てるよ?」

「誰か、ってかアッシュ連絡いれてみろー」

「っす!」

アッシュが火寅に念話を入れ出したのを見てから、黒水晶はメニュー画面からギルドメンバーを確認した。

(あとは今いない四人が入れば全員、当面は大丈夫かな)

「はぁ?大通りの商店!?んでっそんなとこに!あぁ?!<大地人>キャラバンの護衛!?」

「アッシュ煩い」

「るっせ!・・・あ、別に火寅に言った訳じゃ!・・・切られた」

「・・・どんまい」

唐突に肩を落としたアッシュを福々が叩いて若干一触即発な雰囲気が流れたが、浩が黒い笑顔を向けた事によって喧嘩は起きなかった。

「アッシュ、四人は?」

「あー・・・なんか<棘茨イタチブライアウィーゼル>とかに襲われてた<大地人>のキャラバン助けてそのまま取引先まで護衛したんだと」

「それで商店ね、帰ってくるのは」

「なんかお礼がどうのこうのっつっ押し問答中」

アッシュや紬達の会話を聞きながら、黒水晶は傍においてあった装備品を手に立ち上がった。

「あれ姉さんどこ行くんだどっか出掛けるなら俺もついていく」

「四人を迎えに、それと智尋は留守番で疾風同行お願い」

「ん」

「俺「智尋、Stay」はい」

(犬かよ)

(良いのか智尋、それで)

黒水晶の言葉に座り直した智尋に微妙な空気が流れたが、黒水晶が疾風と部屋を出た事からまた騒がしくなった。



道の左右で鬱々とした<冒険者>のせいで全体的に暗い雰囲気が蔓延する通りを、ヒール音を響かせながら黒水晶が疾風を連れて歩いていた。数人の男が黒水晶へ変な視線を向けるが、後ろを歩いている疾風が睨めば直ぐに視線を反らす。

「姉ちゃん、智尋置いてきたのって」

「あーいうのに過敏なのよ」

「なるほど・・・ぁ」

<ギルドホール>から大通りを一本挟んだ場所の商店が賑やかで聞き覚えのある声があるのに気付いた疾風は黒水晶を引き留めると、その商店を指差した。黒水晶が耳を澄ましてみると確かに聞き覚えのある声が聞こえる。

「あそこね」

「にしても賑やかだな」

「えぇ、通りとは大違い」

ゾーンの区切りではないらしい木製のドアを疾風が押し、二人で入ってみると。

「ホント助かったよ嬢ちゃん!」

「坊主達も流石<冒険者>って感じだったな!」

酔っぱらってるかのようなテンションの<大地人>に囲まれ、目を回している四人がいた。その様子に一瞬黒水晶と疾風の足が止まったが、すぐに疾風が動いた。

「火寅、Shadow、光希、渉」

「! 疾風兄さん!」

「疾風兄貴!」

疾風が四人の名前を大きな声で呼べば、あっという間にすっ飛んできた四人によって疾風は後ろへと倒れた。

黒水晶は疾風が四人を慰め始めたのを確認して、店内を見渡した。酒場のようで店内にはアルコールの匂いこそしないが、ドラマや小説に出て来る酒場の様な賑わいに満ちている。そのまま現状やShadow達が護衛したという<大地人>について聞こうとした時。

「この子達の保護者ですかな?」

(保護者?!)

背後から黒水晶もビックリな声の掛け方をされ、勢いよく振り向いた。

「・・・お姉さんのようでしたかな?」

「まぁ、そっちの方が当たりです」

「これは失礼」

声を掛けて来た初老の<大地人>は頭をかくと、黒水晶へと片手を差し出した。

「私はウェルノ、あそこの<冒険者>の少年達に助けられた者だよ」

「黒水晶です、あの子達の入ってるギルドのギルドマスターをしています。それで、あの子達は」

「街道でモンスターに襲われてる所を助けられてね、そのまま酒場まで護衛してもらったのさ。そしたら酔っぱらい達が‘なんてエライ子達なんだ’と囲んでしまってね」

「えぇ・・・」

「すまないね、聞けばここ数日他の<冒険者>から意味の分からない罵倒を受けた者は多かったらしくて」

初老の<大地人>、ウェルノの説明に黒水晶は何とも言えない気持ちになった。<大地人>の言う‘意味の分からない罵倒’はもしかしなくても運営への連絡を取ろうとしたりパニックに陥った<冒険者>の叫びだ、しかし<大地人>には<冒険者>が何故こんなにもパニックに陥っているのか知らないから‘意味の分からない罵倒’になったのだろう。

「そうですか・・・不愉快な気持ちにさせていたようですね」

「いやいや、キミ達の様な<冒険者>もいると分かったから安心したよ。そういえば報酬というには少ないが礼をしようと思っていたんだが・・・他の人達にあの子達を取られてしまってね、黒水晶さんに渡して大丈夫かい?」

ウェルノが自身の鞄を漁りながら黒水晶に護衛の報酬を渡そうとすると、会話が聞こえていたのか、疾風の背中にくっついていた火寅が顔をあげた。

「だからいらないってば!別にオレ達がしたくてやっただけなんだからさぁ」

「しかし、それでは私の気が」

「マジで良いってば!」

典型的な日本人のやり取りが自分を挟んで始まった事に黒水晶はため息をつきつつ、口を開いた。





▶4.

黒水晶達は結局、ウェルノの孫娘の「もらってください!」というお願いに折れて少しばかりの報酬を受け取ってギルドホールに帰ってきた。そこから火寅と紬が急いで夕食を準備し、モソモソと食事をとった。

食事からしばらくして。受け取った報酬を集会部屋と決めた一階の大部屋で確認を行っていた黒水晶は、運よく全員部屋に揃ってる事に気が付き手を止めた。

「全員作業しながらで構わないから聞いてちょうだい」

黒水晶の言葉通り、それぞれ武器の手入れや鞄の中身の確認をしながら返事を返す。

「今日火寅達がやったみたいな<大地人>の護衛、ギルドの仕事にしてみるのはどうかしら」

「「「「「<大地人>の護衛?」」」」」

「えぇ」

黒水晶の考えはこうだ。数日間生活してみて分かったが<大地人>は<冒険者>の態度の変化に驚いている、いつまで続くか分からない状況で<大地人>からの信用を失うと後々取り返しのつかない事になりそうだから自分達だけでも前の様に<大地人>の護衛などをしていく。

個性豊かとはいえ、人が良いのが集まっている<黒の守護騎士団>の方針としては確かに打ってつけのものであり、メンバーも誰も異を唱える事なく頷いた。

「スイ姉、さっきの<大地人>の・・・ウェルノ?さんに言ってみるのはどうだ!」

「ウェルノさん確かに顔広そうだね」

「そこから<黒の守護騎士団《ここ》>の知名度上げてこうぜ!」

従来のクエスト受注が出来るか分からない今、確かに頼りなのは<大地人>同士の連絡網だ。

「じゃあ疾風、明日渉と一緒にもう一度あの酒場へ行って」

「了解」

「説明だな」

「智尋は<銀葉の大樹>にチラシ・・・と言って良いのか分からないけど‘護衛任務承ります’っていう内容の紙を貼ってきて」

「任せろ!」

「それ以外は<ブリッジオブエイジス>付近で護衛つけてないキャラバンいないか気にしながら戦闘訓練、僕は<ギルド会館>でそういう類の募集かけれないか確認してくるから」

「「はーい」」

「( ・ω・)و」

「ん」



翌日、アキバにいた行商キャラバンの間を一つの情報が駆け抜けた。

‘‘<黒の守護騎士団>というギルドが護衛をしてくれるらしい’’と

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