第45話 帰ってきた青龍

 青龍は、気持ち良さそうに飛行している子龍を見つめる。龍は子龍の間は、本能のまま生きているので、自分が居なくても大丈夫なのだ。

「我が君と混同していたようだ……どうされているだろう? 白龍と赤龍がついているのだから、生活面は大丈夫だとは思うが……」

 聡を幼い時から擁護してきた青龍は、本能のまま自由に生きている子龍にも世話を焼こうとしていたが、全く必要がない事だったと苦笑する。もちろん、子龍に対して愛情も感じるが、べったり側についている必要はない。

『時々、会いに来る!』

 そう告げると、青龍は愛しい我が君の元へと飛び去った。


 子龍は、親龍が居なくなったのを認識したが、さほど気にすることもなく飛び回る。それより、一度ちらりと見た黄龍の美しさが胸に熱く残っている。

『黄龍! 会いたい!』

 親龍が飛び去った先には、黄龍がいるのだと本能が告げていたが、まだ空間を飛ぶ力も無いし、龍人の姿にもなれない。子龍が黄龍を欲しても、会えないように自然の摂理で隔離されているのだ。子龍が百歳を越える頃には、空間を飛ぶ能力も身につくが、人間に生まれつく黄龍は既に居ない。それから、自分の黄龍が産まれるまで、長い探索の時間を過ごすのだ。


 青龍にとっては、自分の黄龍と離れていた時間はとても辛かった。

『我が君……』

 聡の気配を感じる世界の空気を吸うだけでも、喜びが身体を巡る。


 いつもは冷静な青龍だが、アクアプロジェクトの建設現場に現れる。もちろん、龍の姿ではなく、龍人の姿でだ。

「我が君……」

 浄水場の設計図を持って、現地の作業員にあれこれ指示している聡の姿を遠くから眺める。

『チッ! 青龍が帰ってきたな!』

 ライバルの気配を察知した黒龍は内心で舌打ちする。聡と青龍の間に立って、少しでも視界に入らないように邪魔をしようとしたが、ふと図面から目を上げた聡は「青龍!」と駆け寄った。

「我が君、ご不自由をお掛けしました」

 いつもなら、外で我が君と呼んだりしたら怒る聡だが、今回はそんなことを気遣う余裕もない。青龍に子どもの時のように抱きついた。

「聡、こんな場所で、何をしてるんだよ!」

 青龍は至福の時を邪魔されて、殺気を黒龍に飛ばす。人間なら心臓発作を起こしそうな殺気も黒龍にはきかない。

「あっ、そうだよね」と、聡は人目があるのに何てことしたんだろうと恥ずかしそうに、青龍から離れる。腕の中の我が君が離れた喪失感に、青龍の胸は痛む。子龍を得る前には、交尾飛行すれば聡への愛情は変化するのでは無いかと思っていたが、愛しさは募るばかりだ。

「ねぇ、子龍は一人にしてて良いの?」

 こそっと聞き難くそうに尋ねる。

「龍は生まれつき丈夫ですから……我が君は、私が側に居なくても寂しくないのですか? 私は、我が君のお側に居たくて仕方ありませんでした」

 聡は、青龍の青みがかった黒い瞳に見つめられ、頬を染める。

「聡! 仕事中だぞ!」

 いつも仕事中にサボってデートに誘ってくる黒龍に注意されて、聡はハッと我に返る。

「青龍は、上海の家に居るんだよね?」

 当然ですと微笑む青龍に、一瞬見とれてしまった聡だが、黒龍に手を引っ張られて現場へと帰った。

 青龍は、黒龍が相変わらず聡の側にべったり引っ付いているのを見て、苛立ちを感じる。

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