2.香菜
うのない無念さでいっぱいになった。
時間とともに、彼女の心に受けた傷はみるみる内に大きくなっていった。
いつまでもこれみよがしに彼女に向けられる周囲の理不尽な好奇の目に耐えられなくなり、結局香菜は辞表を提出したのだった。
だが、ようやく人目を気にしなくてすむようになったとはいえ、精神的なショックからは簡単に立ち直ることが出来ず、他人を信用するのが怖くなってしまい、なかなか次の仕事を探すことが出来ない日々が続いた。
毎日家に閉じこもってばかりで臆病がちな香菜を、カウンセリングも兼ねて親身に相談に乗ったり、外に連れ出し、叱咤激励しながら常に支えてくれたのが、中学時代からの親友の環であった。
わざわざ仕事も休んで警察へも一緒に付き添い、香菜への接近を禁じる裁判所命令によってヤケクソになった元カレにとんでもない事をされるかもしれないからと、引越しを忠告してくれたのもまた彼女だった。
親友のおかげでなんとかここまで立ち直る事が出来たのだ。
環には、本当に感謝してもしきれない。
いつかこの恩は返さなければとかたく心に決めていた。
香菜は環との電話を切ると、何かまた肌にまとわり付く様なぬめり気のある視線を全身から感じ取った。
一気に緊張が走り、窓辺に近寄りつつ、物陰からそっと外を覗いて見た。
別段怪しい人影は見当たらないようだ。
“大丈夫。神経質になっているだけ。電話番号も仕事も変えたんだし、もうアイツに悩まされる事なんかありえないわ。”
ネガティブな考えを振り払うと、再び後片付けを開始した。
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