第58話 Event2:運命は、三択


 えーーと、真珠をゲットした私は、シロウとノアに合流しようと思った。

 けど、ふたりが見つからなかったので街をうろつくことになった……。


「あーん、なんだろ、なんで一人ぼっちなんだろ。ねぇバッチョ。私これからどうしたらいいと思う?」

「あんたの生き様のことなんか知りま……えっと、うん、街の人に話をきくとイイと思うよ!」

「そうだよねー。なんかこう、色々曖昧なままで来てる気がするわ」

 ノアの頭の中では整理されてるのかも知れないけど。私はすでに見失っていたりして……。

 真珠の首飾りをゲットしたら、恋のしおりを手に入れることができて、そしてそれをドジョウヒゲに渡したら「猫語の教科書」をもらえるから、それを使ってヴィクトリアにきくといいのよね。

 アリーゼは一体、どこにいるの? って。


 見たこともないお姫様。アリーゼは一体、どこにいるんだろう?

 彼女の母親もまた、失踪しているのだ。このふたつの事件は関係あるようで関係なく、その実密接にからみあっている……複雑な形容をしたのは、執事のイシューさんだった。

 関係あるなら、ある。ないならない。そこらへん、100か0かって話じゃない? 天気予報じゃあるまいし、ぐだぐだと人の心を惑わせやがって。

 はっきり言えばいいものをあの執事、ふざけてるわよね。つらつら考えていると、ほんとろくでもないヒントばかりくれやがって、役になんか立たないっての。


「文句言いに行こう」

「へ!? サラっち、あんたまたなにを……」

「ちゃんとしたヒント、もらいに行こう。このままではひきさがれないっ」

「あーれー、やめてーやめてーといいつつ面白そうだからヤメナイデー」

「ほんと不思議なんだけど、あんた一体なんの役にたつの?」

 カジノを出てまっすぐ歩けば、すぐトルデッテ伯爵の城が見える。というかどこからでも見えるけどね、このでかい城は。


「おっ?」

 道に出ると、世界は黒く染まっていた。や、夜が来てるってことだけどね。昼と夜だと店の品揃えが違ったりとか出てくるモンスターが違うとか、ちょこちょこ違うことがあるんだけど、今は関係ない。

 夜だからといって冒険者がいなくなってしまうなんてこともない。

 そして私はひとり、城へ歩いていった……。




* * * * * * *




「は、あいつら」

 門の前には、あのなりきり門番たちがいた。またあいつらそろいも揃って世に害毒まき散らしてんのね、とこぶしを握ったときだった。

「あっ……」

 反射的にそばにあった木に身を隠した。


 ひっそりと歩いていく女の影。あれは、あのアラビアンな格好は、間違いない。

 シャーリーだ。シャーリーは、ひたひたとなりきり門番たちに近づいていく。

「あんたたち、きちんと仕事はしているようね」

「ウヒッ、ちゃんとしてるですよ」

「してるですよ!」

「いいこと、この城に冒険者を近づけないこと。特に、シスター・セーラは絶対に入れてはならない。分かるわね?」

「ウホッ、完璧です!」

「パーフェクトっ!」

 ああ、遠目から見てもやつら、マヌケだわ。真面目にクイズに答えた自分が憎いってーの。

 でもシスター・セーラってなに。なんなんだろう。


「あのイシューにも、きちんと脅迫はすませているわ。彼は決して冒険者に答えを言うことはできない……ふふふふ、アリーゼは夢の中、もうすぐ生まれ出るわ、泡沫の宝玉が。そうすればきっと、邪の黒オパール団の……誰? 誰かいるの?」


 私の目の前にウィンドウが立ち上がった。


どうしますか?

1 「お前達の悪事、見抜いた!」と飛び出す

2 「わしゃあ通りすがりの者じゃよ」と去っていく

3 「ニャー……へっくしょん」


 な、なななな、なんなのよこの三択!!!

 とくにこの、三番! へっくしょんの部分がめちゃくちゃ気になるっつーーの!! 見てみるとシャーリーたちはぴたりと動きを止めていて、私が選択するまで時間が流れないみたいだ。


 え、えーーーと。


 見抜いた! て飛び出したいところだけど、そうなると確実に戦闘よね? あのシャーリーはきっとレベルが高い魔法使いだと思う。となると薬草がほとんどないいたいけな武闘家ひとりきりじゃー、かなわないと思う。悪辣な魔法使いと朴訥な戦士の助けがいるわ。

 わしは通りすがり……てなんなのこの口調。なんとなくこれ選ぶと、

「ちょっと待てぇぇぇぇい!」

「ヘイ、ウェイト、ヘイヘイヘイ!!」

「ヘイヘイヘイ、お前……あやしいやつ!!」

て、あのなりきり門番と戦闘になる気がするわ。切実にそういう予感がするわ。となると、あいつらふたりがかりで私を倒しにくるって寸法で、そして私は純情可憐な武闘家(薬草こころもとなし)、ひとりきりでなにができるってーの。ここは残虐な魔法使いと猪突な戦士の助けが欲しいところ。


 ああんでもこの三番。怪しすぎる! 怪しすぎて、選びたくないんだけど、でも、これしかないわよね!!?


 で、三番を選択した。


「ニャーーン……へっくしょん!」




* * * * * * *




「猫……!?」


 もう、心臓が止まった。

 振り返ったシャーリーと、なりきり門番たち。ああこの選択すると問答無用で戦闘になったりとか……

「くしゃみの音が」

 ああんあのマヌケどうでもいいことを! そこは! 是が非でも! 無視して欲しいポイントだってばーー!!


 がさ、がさがさがさがさ。

 私が身を任せていた木が揺れた。そして、ぽーんと飛び出してきたのは。

 猫だった。ヴィクトリアではない。どこにでもいそうな、野良猫。


「ぎゃああああ猫ッ!!」


 効果、てきめんだった。シャーリーは大音声で悲鳴をあげて逃げていった。猫、怖いらしい。門番達もつきあいで走っていった。



 どうやら……助かったみたい。よかった。

 そして朝になった。もちろん何時間もたったとかではなくて、しばらくしたら昼夜切り替わるのだ。

 私は息をついて城を見上げる。門が閉まっていた。あれ、さっきは違ったはず……?

「入城条件を満たしてないからだよ、サラっち」

「へ?」

「城に入るには、ヴィクトリアが一緒でないと無理なんだよ? ほんとにもう、困ったひとだこと」

「早く言え」


 そして城に入ることができないまま、私は漫然と街をほっつき歩いた。またフリギールギルドとかに遊びに行くのもいいかなぁと思ったけど、ただ単に歩くのも楽しかった。そういやシスター・セーラというの……。

 さっきのシャーリーの話、色々考慮の余地があるよね。ノアに話さないとな。

「あ、毎晩あのイベントは起こるから、体験してもらうのがいいんでなくて?」

「そうなの?」

「そうじゃないとみんなにきちんと情報がいかないじゃないノ」

「ああ、そうだね」

 しかしこいつの口調……わからん。

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