第57話 Event2:ひとりぼっちの戦い(自業自得風味)

 そのときシロウはとても、とても悲しそうな顔をした。

 そして私の肩をがっちりと掴むと、

「サラ……そういう、刹那的な生き方は、良くないと思うんだ」

と、切々とした口調で言い放った。

「あ」

 あんた、全然分かってないのよあの女がこの事知ったら一体私たちどういう目に遭うことか、そりゃもうテレビの残虐ショーも真っ青、心を千切りにして見た目にはなんの傷も負ってないイヤな女の攻撃に決まってるのよ! と口を開きかけたときだった。

 シロウの肩に、小鳥のようにとまってるハムスターがじいっとこちらを見てきたのである。それはもうしんねりじっとりとした目線で、言いたいことを百五十パーセントはゆうに伝える雄弁な眼差しだった。

「もっと、信頼とか、友達関係とか、そういうのを大事にして生きていくべきだと思うんだ……」

 じぃっとした視線。

「サラ、分かるだろ!」

 ねっとりした視線。

「サラ!」


 わ、分かったってぇのぉーー! と、叫ぶ以外に、無力な武闘家に他になにができただろうか……。


 そして私は、出稼ぎに出ることにした。

 といってもなにか新しいイベントに出るとかそういうことではない。呪いつきの戦士がいるとモンスターがよってきてどうしようもないから、だから一人で町の外に出て適当にモンスターと戦って小銭を稼ごうという作戦である。

「そうよね、そういう地道さって、大事よね、フ、フフフ」

「サラっち、思い詰めちゃダメ! さあ地面に穴掘って思いのたけをぶちまけてッッ!」

「そうねー、太陽のバカヤローーーーってね、フ、ウフフフ、なんで穴掘ってまで叫ばなきゃいけないのよ!」

 ぷちっとした感触のハチを握りしめることで心の平静を保つことにする。

「俺は、たぶんもうすぐノアが出てくると思うから一緒に町を歩いて情報収集するよ。君は……カジノで大勝ちしてるからしばらくそっちにいるって、言っておく……」

「へぇー、信頼とか友達関係とか大事にする生き方ってずいぶん融通がきくみたいねぇ~」

 シロウは、「……じゃあ正直に言う」と言ったので、冗談よと答えた。

 モンタの私を見る目がほんとに痛々しくなってきました。


「あ、君武闘家!? ひとりだったらつきあわない?」

 吟遊詩人のお兄さん、しかもエルフに声をかけられてしまった。きゃあきゃあ、なんて場面ではない。この場合つきあうというのはパーティに参加しない? という意味であって、つまり一緒にモンスター退治しないかいという意味である。

「間に合ってます……今諸事情あって、出稼ぎ中なの……」

 力強く無一文。アイテムの中に薬草(というかレアラ草?)はつまってるけど、そうそう減らしていいもんでもない気がする。倒れるくらいなら使用するけどぽんぽん使っていいもんじゃないよね、パーティみんなのアイテムなんだから。


 悄然として門から出ようとしたとき、

「あの……」

と話しかけられてふりかえりそのまま飛び上がりそうになった。目隠ししたおかしな女の人が、私めがけて歩いてくる! くるりと向きを変えるとそのまま思い切りダッシュして町から出ていった。

 あの人あそこにずっといるの? 怖い。




* * * * * * *




 そして私は戦った。そして戦った。なおかつ戦った。

 トルデッテの町の周りにいるモンスターは魔獣系が多かった。こしゃくな魔法をかけてくるようなやつはあまりおらず、力業でがむしゃらにかかってくるようなモンスター。「ちからじまんベア」とか「宝石ブタ」とか。宝石ブタというのは全身に宝石をまとわりつかせた、ノアまっしぐらみたいなモンスターだが、倒すと30ゴールドも手に入る。安くきこえるけど、これって結構大した額だ! 他の敵なんて5ゴールドも手に入らなかったりするもんね。そいつを見つけると思い切りダッシュして先制攻撃を決める。

 なかなか強いけど、負けていられない。

「ねぇ、バッチョ、私って死んだらどこの町で復活するの?」

「えーとォ。サラっちこの町の教会に挨拶に行ってないから、はじまりの町まで戻される予定だよ!! ぎゃはははは」

 最低だ。

 絶対負けるわけにはいかない。と兜の緒を締め直したところで(装備してないが)、モンスターに囲まれてみました。

 ちからじまんベアといなおりドッグ……クマさんが三匹とー、わんわんが二匹という寸法である。仲間を呼ばれてしまったんである。私はドラゴンナックルを構えてシーンとしてしまった。いなおりドッグ、窮地に追い込むと遠吠えを初めて、その声によって仲間を呼ぶんだわ! んで呼ばれてきたやつらがちからじまんベア……私の今の体力は、こいつらの一斉攻撃に耐えられないだろう。逃げようにも円の中心になってしまっているからどうにもならない。

「え、えぇーーい! 不思議粉をくらえっ!」

 レアラの店で粉を買って置いて本当に良かった。ハチをへなへなにさせたパウダーは対象モンスターが「全部」だった。いなおりドッグたちがぐっすりと眠りだす。ちからじまんベアは二匹だけ起きたままだった。

 伸びてきた腕が私の身体をかすめた。かすめただけに思えたけど、ぐらりと地面に手をつけてしまった。一気に目の前が赤くなる。もう一匹の攻撃が飛んできて……私はかろうじてそれを避けた。

「や、薬草……!」

 手に取ったのはれあらパック。中に赤、青、緑、紫の各種の草が入っている。

「…………用途聞くの忘れてたっ……!」

 アホだ。えーとえーとえーと、

「何色食べたらいいと思うバッチョ!?」

「えー……紫色がステキかな?」

「じゃあ青だ!」

 ハチののんきな声が憎い。しかも一番微妙な色選びやがって。私は青いのを取ると口に放り込んだ。

 回復しなかった。

「うわーーー!?」

 クマたちは私を見てうなっている。怖くないけど、怖くないけどさ、死ぬのはやだ! 一撃をまたかろうじて避ける。一発で昇天しそうなだけあって、命中率は低いみたい。そしてそのまま私は回復しようか、また不思議粉を使うか迷った。けど、あれ一瓶しか買ってなかったんだよねぇそういえば!

 グォォォォ!

 クマは吠えた。精神攻撃で、「サラはすくみあがった!」なんてことになったりするのだけど今は空っぽの財布がそうさせてくれない。

「しっ……死んだらぁぁぁ!」

 ナックルを構えて思い切り一撃をぶちこんだ。イマイチどころでないかけ声が自分でも悲しいが仕方がない。するとその攻撃はスマッシュヒットとなった。しかももう一発。スピードの差があると、私ったら二回攻撃できるみたいなのだ。

 そしてクマはずんと倒れた。

 やっ、やった! 私って強いかも!!

 返す刀でもう一匹、なんてことは無理なので私は赤い草を食べた。

 体力が回復する。クマが驚いている隙に、寝ている犬を倒してしまう。最後のやつも、と思ったときに背後からクマの一撃を受けた。

 これまた一発で目の前が真っ赤になる。


 やっぱりパーティて大事だ……。収入とか人数分で折半になるけど、でもでもパーティて大事だ。敵が数匹出てきたらこちとら回復しかできなくなったりするもん。ようやく回復してもそのターンで傷つけられて次のターンも回復しかできなかったり。

 そのまま回復アイテムが尽きて……なんだろそれ、回復死に?

 一人旅は危険きわまりない、ほんと。絶対しないぞ私は! まずノアが魔法を決めて敵のHPあらかた減らしたところでシロウと私でおかたづけ、と言うのが美しくて良い。命のためでもある。


「うっわぁっ!」

 クマの一撃を避けて、私は薬草を食べた。しかし私ったらさっきから側転したりして避けてるよ。これもあの錬金術師のブルーリボンのおかげだ。かっこよく動く以上の役に立ってないけど。

 薬草を食べたのに、体力は回復しなかった。

「あれ!?」

 ちからじまんベアが攻撃してくる。そしていなおりドッグも。避けられるはずのない攻撃を、私は避けた。

 身体が、なんだか紫色のオーラを放っている。


 紫色の薬草の効用は、「ブーストする(確率1/2)」だったらしい。

 ブースト、というのは一時的に能力が飛躍的にアップすること。でもこの場合1ターンだけだったけど。

 弱い敵から片づけるか、強い敵をたたいておくか?

 私は、強い敵から攻撃した。つまりクマを。


 …………死ぬとこだったけど、なんとか生き残ることができた。

 もう無理はしない。




* * * * * * *




 そして私は稼いだ230ゴールドを抱えて再びカジノへ入った。

 シロウとノアはどうしてるんだろうな……と考え込みながら無意識に止めたスロットが、みっつともパイナップル。そしてこれはいけるとそそぎ込んだコインが、子供孫曾孫までつれて帰ってきた……


「サラちゃん、ほんとォ? これ~! すごいすごーい!!」


 ビビさんがすごく興奮して肩を叩いてくる。自分でも信じられない。だけどこの結果を導き出さねば命が危険だったのだから……

 コイン、550枚ゲットした。懐がものすごく重い。だけどこれは安心と幸せの重みだ。ああ、顔がほころんでしまう。

「くやしいけど祝福するよサラっち」

「なんでくやしいか!」


 そして残念ながら武闘家装備セットには50枚足らなかったから……、真珠を手に入れた!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る