第54話 Event2:詳しく申しあげればカドが立ちます
なりきり門番、てやつだったらしい……。痛いにもほどがある。
だいたいなりきって楽しいか!? 門番て。いたいけで純粋で汚れない冒険者からかって楽しいか!? なぞなぞ出して楽しいのか!?
……ヘンタイさんの心は分からない。
しかもダブルヘンタイ。もうなんなんだろうあいつら。再会しないことを切に切に祈るばかりだ。
ライナーさんは伯爵が雇っている騎士団の、リーダー代理をしているらしい。なんでもその騎士団は「ビューネフォルト騎士団」といい、北の国ニーデルラントからやって来たはいいけど団長が迷子になり、今も捜索中だけど路銀が尽きて、団員たちは一生懸命働きながら団長を捜しているらしい。
「団長は、緋のビューネフォルトというふたつ名をもつ斧使いなんだ。とりあえずものすごい方向音痴だから今もきっとすごい場所をうろついているんだろうな」
………きっとすごい、ヴァイキングみたいな容貌の魁偉な戦士なんだろうな。両手に巨大な斧を持ち振るいまくる巨人……頭に二本角のカブトかぶってそう。
「今は伯爵に雇っていただいているけど、まさかこんな事件が起こるとは……」
ライナーは眉をひそめた。
私たちは応接間に通された。
ゲームとかだとすごいお屋敷、どこでも勝手に入っていけたりタンス開けられたり宝箱開けようとして鍵がかかってたり、するもんだけど。リンダリングではふつうの家みたいに、勝手にうろつくことはしにくい……。しにくいだけで、まぁ、気が向いたらうろついてもいいかなぁ、なんて思うわけだけど……
「リンダポイントが上がるよォー」
「わっ」
いきなり耳元でハチの声がしたので思わず蚊みたいにぱちんとやってしまった。
「なんだ、もうおどかさないでよバッチョ!」
「なんでそこでゴメーンなどの言葉にならないんだ、ろ……ガク」
私の両手に挟まれてつぶれたハチが地面に落ちていく。まったくもって同情心はわかない。
「や、ちょっと待ちなさいよ、なんでリンダポイントが上がるよなんてアドバイスしてくるわけ? あんたエスパー?」
「あんたの思うことなんて、リンダポイントが上がることばかり、さ……ガク」
ねじりきってやろうか。
ライナーさんから聴く話はおおまかなものなので、ちゃんとした話を別の人から聴くことになった。
トルデッテ伯爵は、なんでもうち沈んで病気になってしまったらしい。屋敷の中を動き回っているメイドさんたちはいそがしいいそがしいと呟いているけど、実のところあまり活気があるようにも見えないのは、そのせいだろうか……。
……当主が病気で夫人と娘が失踪、で活気に溢れていたら困りものだけどさ。
「おお、これは確かにヴィクトリア……アリーゼ様が愛された猫に相違ありません」
現れたのは、片目がねの紳士、執事のイシューだった。整えられて見事に先がぴんと上向いているヒゲは真っ白。
その姿には一瞬のスキもない。身のこなしはまるで芸術。
後で知った話……このイシューさんは元冒険家で現使用人。積んでるスキルが山のようにあり、戦場に出れば魔法をぶっぱなすは剣を振り回すはで、大変な御人らしい。にこやか~に微笑んでる様からは予想もつかないけれど……。
ちなみに使用人は使用人で特殊なスキルを覚えることができるらしい。なんでも超上級職につくにはそういうスキルも必要になってくるとか……まだまだ、まだまだまだまだまだ関係ない話だけどね! 私たちには。
* * * * * * *
「この猫を、アリーゼ様が大変かわいがっていらっしゃいました」
イシューさんはいとおしげに目を細めて言った。
「……アリーゼさんはどうしていなくなったんですか」
ソファに三人並んで座り、イシューさんも席に着く。ライナーさんは立ったまま。
「…………」
イシューさんは質問をきいても柔らかく笑ったまま黙っていた。
「……あの?」
「詳しくは使用人の身ですから、どうにも言いかねます」
「……………詳しい話をききたくて、やって来たんですけど」
「………詳しく申し上げればカドが立ちます」
こ、こいつ。とっくに私の心はカドまみれになりましたが!? 私が手を握ったときノアが口を開いた。
「アリーゼさんに関して、あなたが言えることを全て言っていただけますか」
「………そうでございますねぇ……」
イシューさんは横を向き、遠い目をした。
「アリーゼ様は大変、おっちょこちょいでいらっしゃいました。好きな動物はイノシシ」
「………」
「………以上です」
って。えーー!?
「以上ですか!?」
「以上でございます。わたくし仕事がありますので、コレで失礼させていただいてよろしいでしょうか。あとひとつくらいなら聞いて差し上げてもよろしいのですが」
ええええ、あとひとつ!?
詳しい話を聞けると思っていた私たちが浅はかだった。イシューさんの鉄壁の穏やかさの前にわたわたするばかり。ノアが慌てて口を開いた。
「わっ、私たちに糸をくれそうな人、ご存じありませんか!?」
イシューさんは片目がねの奥の目をきらりと輝かせた。
「…………糸、でございますか」
「糸です!」
それって、真珠の首飾りに必要な糸のことだよね。確か店では高貴な女性が持ってるって話だった。ああ、なるほど。伯爵家の執事だったら覚えがあってもおかしくない。
「うーーん……失礼。最近健忘症が激しいので。ですがこれだけは言って差し上げましょう。お嬢様がいなくなられた事件と奥様がいなくなられた事件とは、関係あるようで関係がなく、その実しっかりと結びついております。わたくしの、しがないカンでごさいますが……奥様はお嬢様を探しに出られたのかもしれませんね……お嬢様にはお友達がおられましたが」
「………それ、誰です!?」
「この屋敷は放任主義でございまして、我々の関知するところではございませなんだ。町に出てきいてみれば知っている者もいるかもしれませんな。
では、失敬。仕事がありますので……他に聞きたいことがおありでしたら、時間をおいてまたいらしてください。質問はみっつまでとさせていただきますが」
「…………ありがとう、ございます……」
完璧な礼儀の前に、闘志は萎えた。
イシューさんはぺこりと頭を下げてそのまま出ていった。
完敗、だったんだろうか。今の話で分かったことって一体、なに!?
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