第53話 Event2:ここを通りたければ!


 ……えっと。

 そろそろ見失ってみたので思い返してみる。


 このトルデッテの町で、伯爵の娘が誘拐された。母親も、現在姿をくらましているとか? そこらへんは小耳に挟んだだけだから、詳しくは知らないけれど。

 その娘の名前はアリーゼ。

 この白猫ヴィクトリアは、アリーゼ姫の行方を知っている。それは、もっていた手紙からしても明らかなんだけど、なにしろ猫。ニャーしか言わねぇ。

 だけど、露店でドジョウヒゲが売っていたのが「猫語の教科書」。これで君も猫とおしゃべりができるスグレモノ。

 それを手に入れれば、きっと私たち……!

 てぇところでつまづきのはじまりだった。


「たぶん、この町すべてを使って誰かが罠を張り巡らしてるんじゃないかな」

 ノアが言った。

「誰かって、誰なんだろう」

「………だれだろ?」

 考え込んでも、答なんか出るわけがない。アイテム手に入れようと歩き回ったけど、基本的な事件の背景知ってるわけじゃないもんね。 


「んじゃそろそろ、行っとく?」

 私は指さした。

 町の真ん中には、どどんと重々しい迫力で、円屋根のかわいいお屋敷が建っている。赤と緑の色彩が目にも派手。だけど悪趣味ってわけじゃない。むしろ、住んでみたい……。トルデッテ伯爵のすみか、かぼちゃ屋敷だ。

 近づけば近づくほど、なんだか美味しそうなにおいのしそうな趣だけど、もちろんそんなことはない。

 町の中心はその屋敷にでんと陣取られている。周りの建物が円屋根なのはもちろんかぼちゃ屋敷を擬してのことだろう。門は金色でまるでケーキのまわりについているペーパーのように複雑で可愛い飾りがついている。

 くるりと回る道を進んだ。

「ねぇねぇ、お屋敷の中入れてくれるかなぁ。ライナーさんとか、見つけて一緒に行かないといけないんじゃないかなぁ」

「うーん……」

 ヴィクトリアはノアの胸に抱かれてあくびしている。

 魔法使いのビジュアル的に似合うのは黒猫なんだけどね。

「だったらレアラを連れてくれば良かったわね」

 基本的ないやがらせを欠かさない子だわ。

「あれ、門番かなぁ」

 シロウが指さした先に、いたのはもちろん、まごうことなき門番だった。


「こんにちはー!」

 にこやかさを装って、いや装ってなんていうと誤解を招くわ。生まれたままの無邪気な笑顔で私は門番の前に立った。




* * * * * * *




 門番はふたり。

 そっくりな顔をした双子のような剣士たちだった。なにに似てるかってトランプのジャックかな……? 濃い顔がふたつ並ぶと愉快ならざる心地。あまりタチよくなさそうな感じだ。

 でもおそろいの赤と緑の服装はいいなぁ。おしゃれな装備は値段高いか弱いか、どっちかみたいなんだよね。ま、わたくしにはこのドラゴンナックルがあるわけですからうらやましくないわけですけど。ほほほ。

「入れてくれだと? 何者だお前たち」

「何者だお前たち」

「…………一介の冒険者です」

 シロウの自己紹介が、普通! ふつうすぎ! 遠慮がちすぎるわ。もっとこう、派手な自己紹介を放ってもいいよな気がするんだけど。私なら「片手で竜を殺す(予定)武闘家のサラです」。ノアなら「最高の炎の魔法を使う(ことになる気がする)魔法使いノアです」。シロウなら……「運の悪さでは誰にも負けません、シロウです」。

 なんて考えている内に門番達はカキーンともってる槍を×の形に組み合わせた。


「ならん!」

「ならん!」

「入るだなんて、もってのほか!」

「ほか!」

 門番達はそっくりな顔を同じように振り回していった。

「通りたければ!」

「れば!」

「我々が出すなぞなぞに答えてもらう! ぞ!」

「まず第一問」


「早!!」

 なぞなぞに挑戦する以外の選択肢は存在しなかったみたいだ。私たちはいやおうなく彼らの問いをきいた。


「手紙を書くのが好きな野菜は、なんだッッ!?」

「ッッッッッ!?」

 ああ。

 左側の男が思いきり息を止めている顔の方が気になって仕方ないよ。右側の男は勝ち誇ったように私たちを見下して、ぴくぴくと目の下の筋肉を動かしている。

「…………レタス」

 ノアが、白けた声を出した。

 門番達は、両手をたてて「ものすごびっくりしたなぁもう」て顔になった。なんなんだ、なんなんだろうこいつら!

「ああ、レターする、でレタスかぁ。あははは」

 シロウがのんきに感心している。あ、なるほどぉ。


「では第二問!」

「もんもんもん!」

「すごーく頭がいい楽器、これはまさに何ッッッ!?」

「ッッッッッ……!!」

 ああ。やっぱり気になる、左側のひと。

「リコーダー」

 またノアがあっさり答えた。

 ふたりとも目玉が飛び出しそうな表情になった。

「あ、利口だ……か。へぇぇぇ」

 シロウがまた感心している。ふーん、そうか。


「だっっだだだ」

「第三問!」

「モーーーン!!」

「破れば破るほど誉められる、これはなに!?」

 うーーん? ノアを止めた。えーと破れば破るほど……約束、じゃないよねぇ。えっと、紙とかでもなくて。えっと。

「記録!?」

 答えると、門番は顔を見合わせて青くなった。


「では、最後の問題!!!」

「ダァァーーイ!!」

「………フラスコの中にある細胞がある。1秒ごとに倍に増える。つまり1個が2個に、2個が4個に。フラスコがいっぱいになるのにちょうど1分かかった。さて、細胞がコップ半分の量になるには何秒かかる?」

「ちょっと待ちなさいよそれ、なぞなぞなわけぇ!?」

 門番たちはつんとあごをたててそっぽを向く。ち、ちくしょうこいつら。いきなりなんなのそれ。えっと、フラスコの中に……えっと………フラスコいっぱいになったとき細胞はいったい何個だったんだろ。ああ、個数きかれてるんじゃないのかな。でも、えーーーーと。

 30………

「59秒だろ」

 さらりと答えたのはシロウだった。

「倍に増えるんだから、1秒前に半分なはずだろ。だから59秒」


 門番はふたりそろって、ぴょょーーんと飛び上がった。もうとてつもなくびっくり! といった趣。や、悪いが私も驚いた。ぴょーんと一緒に飛び上がりたい心地。

「な、なんだよ?」

「いやなんでもないけど……」

 モンタが出てきてシロウに言った。

「よくがんばった……」

「あ、ありがとうモンタ……」

 なに生暖かい声援受けて照れてるんだろうか、この人。

 そして門番はショックを受けていたけれど、気を取り直して背をただした。


「びっくりしたけど」

「続くぜHEY,YO!」

「ちょっと待ってよ!」

 慌てて制止してしまいました。

「さっき最後の問題って言ったじゃないの」

「え?」

「え?」

 おそろいのぽかーんとした表情。

「言ったかなぁ……」

「ハァーン、きこえんなぁ……」

「どうだろうなぁ……」

「とりあえず、続きだ!

 帰ってきた最後の問題Z!」


 ふ、ふざけるなぁぁぁ!!

 拳を握りしめたときだった。


「君たち、なにしてるんだ?」

 降ってきたのは覚えがある声だった。振り返り、その人が立っているのを見てノアの腕の中の猫がニャアと鳴く。


「ヴィクトリア!? 君たち、一体その猫をどこで……!」

 ライナーさんだった。なんだか髪の毛に木の葉がついていたりして薄汚れているが、レアラのハートをわしづかみにして離さない美青年ぶりは健在だ。


「あーれー」

「あーれー」

 ふたりの門番はそろいで駆けていく。な、なに? まるで逃げてるように見えるんだけど……

「あれは偽物の門番だよ。最近この手のいたずらが増えていて困っているんだ」


 …………思わず追いかけていって百裂爆破流星乱舞をきめたくなりました。



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