第41話 Level 2:錬金術師と騎士と


 いやに派手なお兄さんだなあ、というのが第一印象。

 もしかしたら地味なのかもしれないけど。色味は。銀の髪に黒いマント、なんて辛気くさいもんね。でも、雰囲気は派手。

 かなり背が高い。そして銀髪。片眼鏡をかけた顔つきはかなり皮肉げで、なんか「いやな奴?」という感じが、一言もかわしていないのにぷんぷんしている。全体的に見て、かなり格好いいタイプではなかろうか。格好いい分性格もひんまがりました、て感じがするけど。


「ラガートだ」


「誰なんですか」

 その辺にいた戦士をつかまえて訊くと、相手は親切に教えてくれた。

「錬金術師を超えようとする錬金術師と言われているよ。あっちこっちに現れるんだ、なにか探しているらしい。なにかは知らないけれど」

 錬金術師を超える錬金術師? あ、超えようとする、だからまだ超えちゃいないのか……。超えるってどういうことだろ。というかNPC? 一般プレーヤー? 謎だ。どっちかカンナにきいたら、リンダポイント上がるんだろーか。それはともかく。


「金じゃなくてダイヤでも作るのかなっ」

「しっ、サラ」

 私の笑い声はとってもよく響いたらしい。ざっと音がするような勢いで周囲の視線がこっちに集中した。そのどれもが思い切り、思うさま、驚いているのは気のせいだろうか。

 ……気のせいなら良かったんだけど……ラガートという人もこっちを見ていた! 片眼鏡の向こうの目が冷たい光をたたえている。

 こりゃもう気分を害したなというのがアリアリで、私は小さくなって逃げようとした。


「待て、そこの冒険者」

 ノアもシロウも他人のふりだわ。なんて冷たいやつら!

 小さくなってなおかつ逃げようとする。

「待て、そこの女武闘家一行!」

 ああんもうそんな変な集団名つけないでいただきたい! 錬金術師は貴族のようなタカビーさで朗々と命令してきた。

 振り返った。相手は思いきりこちらを見ていた。

 や、そうなるとなんだか戦闘意欲がわいてきた。喧嘩売ってくるなら買ってやろうじゃないのさ、言い値でね!

「そこのお前が持っている……」

 彼が何か言おうとしたときだった。


「待て、ラガート! この悪徳錬金術師めが!」


 地下神殿の出入り口から現れた人がいた。

 赤毛の熱血漢、というのが第一印象。その印象はそう外れていないだろう。

 大きな目をした戦士で、かなり怒っているようだった。ラガートを呼び止め、止められたラガートは眉間にしわを寄せて彼を見返る。

「もはやお前に用はないぞ、ライナー。そして私をおかしな名称で呼ぶな」

「ふざけるなこの、エセ学者め! アリーゼ様をどこにやった!!」

 ざわめきがおっきくなる。周りの人たちはこの人とかアリーゼとかいう人とか、ちゃんと誰なのか分かってるみたい。だって驚いているから。私たち三人は心強く仲間だった(さっきは見捨てられかけたけど)。私たちだけさっぱり分かってないみたい。

「ねえねえお兄さん、この人誰。アリーゼって誰。教えて教えて」

 さっきの戦士のお兄さんの腕を引っ張った。




■ ■ ■ ■




 トルデッテ町の真ん中に、伯爵の館がある。もちろん、伯爵が住んでいるのだ。名前はそのまんま、トルデッテ伯爵ね。三時のお茶が何より好き、美しい娘と麗しい妻に囲まれてなにより幸せな伯爵様が住んでいたらしい。

 ほら、この国の王様は至福の王と呼ばれるひと。その部下である貴族たちも、ちゃんと幸せなのだ。


 いやしかし、彼は幸せだったからこそ、不幸になってしまった。


「アリーゼ様というのは伯爵の娘だよ。ちなみに奥方の方も行方不明だったはずだ……彼の言うことが本当なら、あ、あの戦士はライナーといって伯爵の直属の部下だよ。騎士さ。今は馬に乗ってないけど……町が盗賊に襲われたとき戦っているのを見たことがある。まぁそんなことはどうでもいいや。

 うーん、これ、イベントっぽいよなぁ……」


 騎士かぁ! といきなりきらきらしてライナーさんを見つめだしたシロウは放っておくとして。

 うーん、確かに、イベントっぽいよなぁ……具体的にどう関わればいいのかどう展開していくのかよく分かんないけど。


 伯爵の妻と娘が行方不明になった。これはまさに、事件だわ。


「アリーゼ嬢がどこにいるか? そんなことを私が知るわけはあるまい。私が興味があるのは、君がお守りあそばしている伯爵閣下の『翠の女神像』だ。それ以外のものは私にとって無価値だ。アリーゼ嬢を見つけたければ、花畑でも探してみればいかがかな。あの夢見がちなお方なら、今頃きっと四つ葉のクローバーでも探しておられるのだろう」

「ふざけるなッ! お前は常に不幸をまき散らして歩いている! いつだってお前が来た後だ、奥様が失踪されたのも、お嬢様が消えてしまったのも! 言え、お前はなにに関わっている。どうして伯爵家を……」

「笑止だ、騎士殿。想像力が余って困るのならば、ポエムでもしたためていればどうだ? 傑作ができるだろうさ、だが私の耳には聞くにたえない」


 騎士が何を言ってもこの男には通用しない気がした。

 気がするというか、明らかに……騎士の怒りは空回りしている。


 フフンと嫌味な笑みを見せてくるりと振り返ると錬金術師は、こっちに来た。こっちに向かって歩いてくる。

 な。なんなの。

「お前たちが持っているその……いや、ここでは言うまい。お前たちに用がある。こっちに来るがいい」

 なんて、言われてしまった。戦士のお兄さんがびっくり目でこっちを見ている。こっちだってびっくりしてるともさ、一体何が起こってるの?


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