第40話 Level 2:難問積みパーティ、暗黒教会に行く


 ノアは宿屋に行けばって言ってみたんだけど、

「私だって暗黒教会見てみたいわよ~!」

と軽く言われてしまった。

 そりゃそうだな。私も興味津々だもんね!

 暗黒教会というのは、地下教会と呼ばれることが多いらしい。なぜなら文字通り地下にあるから。


 地下神殿ていったら……サバトとか!? ゾンビで実験してたりとか、呪いをかけるの受けつけてたりとか、もちろん教会員は全員覆面しているのね。変な服きて変な煙が立ちこめてて、オオオーオオオーなんておかしな声がずっと響いてるの。

 んで私たちが偶然行き合わせたところで、逃げる人々の群れにぶつかる。どうしたの! と訊いたらば、

『実験は、失敗した……暗黒の使徒が今、目覚めた……世界はもう終わりだ!』

 なんつってなんつって。

 ぶっつけで暗黒の使徒を倒しちゃうには私たちレベル足りなさすぎるけどね。ついでに今HP 3なんだけどね。ああ薬草を食べたくないけど食べないと。や、もしくは三人で宿屋に泊まった方が薬草を買ってすぐ食べちゃうのより安くつくかも。ノアだけぬくぬくとベッドにくるまってゆったり寝てリフレッシュなんてずるいもんね。


「サラ、なにしてんの? へらへら笑ったり顔しかめたり。変な人だってばれちゃう

よ」

「あはごめーん……て、ばれるってどういうこと?」

「あ、地下神殿あっちですって」


 そのときぽんぽん、と肩を叩かれた。ふりかえるって

「うわっ!?」

て、後ずさってしまった。


 女の人が立っていた。

 これがまた気持ちの悪い人だった。なにが変って、両目を黒い布で巻いて覆っているのだ。それだと視界が悪い以前の問題だ、歩けないだろう。何も見えないはずだ。けど額に目玉の意匠の飾りがつけてある。それが私を見ているのが分かる。ぎょろっとした目玉が私を見据えているのだ。

 ダッシュして逃げれば呪われそうな気がした。

「あの……」

「な、なんですか!?」


「こんにちは……」


 背が高い。黒いマントを身につけて、前をぴったりむすんでいる。少しだけのぞく中の服は赤い、ドレスだろうか。


「こ……こんにちは。なにか用ですか」

 女の人は、首を傾げた。


「あの……お金貸してくださいませんか……」


 見るとノアが杖を握りしめている。シロウも青ざめている。だって、そうとう怖いもんね。気持ちが悪い、人間が喋ってるみたいじゃないのだ。人形が喋るとこんな感じだろうか。

「あの……お金……」

「そ、その」

 なんで二人とも私を盾にして思い切り逃げ腰なわけ!?

「こんにちはっていうか、その、すみませんっていうか、その、さ、

 さよならっっっ!!」

 ………そのときの逃げ足はかなりのものだったと自負している。



「私たち、最近、走りすぎ……」

 ぜーはー言いながら速度をゆるめた。後ろを振り返ってもさっきの女の人はいない。なんだったんだ!? 怖すぎる。シロウが怖がっていたのはほとんどお化けに見えたからだろう。あの額飾り、なんなんだろう。

「ああいう人になっちゃいけませんよって、いい例ね!」

 ノアが言ったけど、別に「良い」例では全然ないと思う……。

 それにしても怖かった。笑いながらついてこられたら泣いてたと思う。



「気を取り直して、地下神殿に行こうよ!」

 そういえば確認しておかないといけなかった。

 パッチョではなくカンナに話しかける。

「ねぇ、地下神殿て善神信仰の人が行っても呪われたりとかしないの」

「しませんよぅ」

「呪いじゃなくてもなんかひどい目に遭ったりしないの」

「ないですよぅ」

「ホントに?」

「はい」

「ホントにホント?」

「…………疑わないでください……」


「ああ、なんて心が広いんだろう悪神信仰って! どっかの教会とは大違いだよ、変なお布施もとらないしさ。俺、だんぜん悪神信仰だな。悪神万歳だよ!」


「あ、信仰に目覚めてる……」

「だってそうだろ、絶対悪神信仰の方がいいよ! 生き返るのもタダだしさ。思ってたんだけどあの変なお布施、いろんな値段があっただろ」

「そういえば」

「絶対これからも金を払わされる展開になるはずだぜ、賭けてもいい」

「何賭ける」

「え……えーと、この女神像を……」

 シロウは唯一持っていたアイテムを取り出した。

 前のゴースト屋敷で手に入れたアイテムだ。花を抱いた女神像。今はにぶく光を放っている。

「あああ! 女神像! そういやこれを売ればいいんじゃない!?」

 叫んでしまった。




■ ■ ■ ■




「えー。でも、思い出を売るなんて、気が進まないんだけど……」

 私はにっこり微笑んで言い放った。

「思い出は、この胸にあるわ」

 ノアはものすごい顔をした。

「別に俺は売ってもいいと思うよ……思い出とか言えるのは最初だけだよ。俺も確か言ってたな、そういうこと……でもアイテムボックスは膨らんでいくし、金は足りないしでどうしようもなくなるんだ。

 このゲームでは換金アイテムはさっさと売ってしまった方がいいよ。そういうもんだから」

「……うーん、仕方ないか……」

 しぶしぶだけどノアもうなづいた。



 さて、地下教会だった。レンガづくりの建物の並ぶあたりに、地下に下りる階段があった。かなり大きな入り口で、上から看板が垂れている。地下教会と書いてある。

 喋りながら来たせいで人にぶつかってしまった。

「ん?」

 なんだか人がたかっている。

 徐々に人が集まりだしている感じ……


「ラガートだ」

「奴が来てるの?」

「ラガート」

て、名前がそこかしこで聞こえてくる。教会の前だからか、冒険者が多い……なんだなんなんだ? ぴょこぴょこ背筋を伸ばしていると、人だかりの中心に人が見えた。

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