第七章 アミー 4

4 新帝国の未来



(1) 惑星ほしの文明、星々の文明


「我等の星間文明は既に、他星系植民・惑星移動の段階を経て、種族の融合化即ち、種族規模における量子頭脳網への人格移転を達成せり。そして現在では、種族間融合体や複合分離体、各種の適応分離個体による異種族間の連続性・一体性の確保という段階に至りつつあり。これを惑星上の文明に例えれば、農業・工業段階を経て、情報段階から生体親和段階に移行しつつある時代に相当せり」


「我等は農耕時代、体外の物質から道具や器械を作り出して生態系を操作し、文明を獲得せり。工業時代には、動力機関が供給せる体外動力エネルギーを用いて物資を大量かつ迅速に生産・輸送し、文明を拡大せり」


「情報時代には、電子頭脳網コンピュータネットワークを中心として体外情報処理を行い、工業段階のパワー速度スピード制御コントロールすることにより、惑星という環境的限界への到達に適応せり。即ち、情報通信技術を活用して世界各地の人々を結び、また資源消費や環境破壊を低減する、全惑星的グローバルな協働を可能にせり」


「また、ここにおける情報とは、生物の脳神経系に限らず、広く『組織体システムの活動を制御する物質または動力エネルギー配列パターン』と定義することも可能なり。何となれば、この時代における情報には、体外の機械や、体内の内分泌ないぶんぴつ外分泌がいぶんぴつ系組織、あるいは遺伝子において処理されるものも含み得ればなり」


しからば、体内情報伝達物質ホルモン剤や遺伝子診断による産児制御や疾病治療によりて、人口爆発や経年・経代的な健康水準の低下を抑制せしこともまた、情報技術の活用と言い得たらん」


「然し情報時代においても、持続可能性の問題は残りたり。第一は、物的資源の持続可能性なり。人工物はなお自然環境や生態系・生体との永続的共存性に改善の余地があり、特に材料・動力資源の性質からくる資源枯渇や環境破壊の問題につきては、対策が要請せられたり。第二は、人的資源の持続可能性なり。生物等の自然物においても、機械の如き合理的改善が困難という問題が意識され、特に人間自身については、医療の発展や少子高齢化を背景として、健康水準の人道的な維持・向上技術が待望せられたり。第三は、経済・社会活動の持続可能性なり。従来の制度・政策体系システムでは、複雑化・加速化・大規模化せる経済・社会活動の中において、急速に進行する格差拡大や予測し難き経済変動に対応して、富の生産と分配を公正かつ効率的に両立させ続けることが困難となりたり。以上の問題を解決すべく、新しき技術と、その活用政策が期待せられたり」


「故に生体親和時代には、自然環境に親和的な材料・動力資源や、使用者の生理・心理・社会的活動に親和的な機械が開発せられたり。特に後者には、装着型機器ウェアラブルデバイス・高性能人工器官、、生物類似の形態や微細構造、応答・学習機能を備える自律機械ロボット極微機械マイクロマシン等が存在せり。またこの時代には、再生医療や遺伝子治療・遺伝子設計によりて、生体組織を機械組織の如く修復・延命さらには改良する技術も出現せり。加えてこの時期には、人工知能や大量情報ビッグデータ処理技術等、個人的・社会的な意思決定を補完・代替し、家政や交通管制から徴税・社会保障等の行政運営にまで至る経済・社会活動をより公正かつ効率的に、争い少なく行い得る技術が登場せり」


「即ち生体親和段階においては、体内環境も含む自然環境や、社会環境にも優しく親和的な、『環境親和技術』あるいは『生体親和技術』が実用化せられたり。この技術は、生体内外の情報処理過程を親和化・連続化して生物・機械複合体を形成するなど、自然物・人工物間の障壁を取り払い、双方における長所の共有を可能とせり」


「同技術は、適切な政策のもとで活用されれば、より少なき犠牲や損失ロス費用コスト危険リスクにおいて物的資源、人的資源、経済・社会活動を持続せしめることにより、惑星という空間的限界に到達せる文明に、時間的な持続可能性を提供せり。このことはさらに、その後の宇宙進出に必要となる宇宙船や宇宙施設、他天体基地等の、閉鎖系クローズドシステム内における文明活動の持続にも道を開きたり」


「然しこの時代には、自律機械ロボットや人工知能と開発種族自身との活動の競合も予想され、知的機械組織・知能向上動物等の被造者が創造者を凌駕し、あるいは淘汰することが懸念せられたり。多くの文明ではこれを回避すべく、有名なる〝空想科学小説〟における自律機械ロボット三原則の如き、技術利用上の制約が考案せられたり。もっとも他方では、両者の融和を図る種族も存在し、その中には他の〝空想科学小説〟の如く、知的な機械や他生物との対等なる共生や物理的融合、規模や能力は限定的ながら人工頭脳への人格移植を達成したる文明も出現せり」



(2)星間文明の課題


「以上は惑星上における生体親和文明の課題なりしが、星間文明は惑星文明と異なる特色も有せり。我等の文明においては、特定種族における生物・機械間の相違よりも、異種族間の生物学的相違の方がはるかに大なる場合が存在せり。従って、ある惑星において、人工知能が何らかの事情から十分な生存能力と独立性を獲得せる場合、我等はこの〝機械生物〟を新たな知的種族として認定せり。また、彼女達が製造者達に代わりて政治的主導権を獲得せる場合も、知能向上動物が実権を得たる場合と同様に、我等はそれを統治種族の交代と判断せり」


「故に、星間文明の種族融合段階から種族間親和段階においては、自然進化種族と機械・人工進化種族という起源・発展史上の区分は相対的となる一方、種族融合体と個体群種族等、属性上の区分が問題となるに至れり。この区分は実質的には知性の規模・能力上の分類にして、例え構造・機能が融合体の量子頭脳に類似せるとも、記憶容量や演算能力がこれに及ばざる〝機械生物〟の集団は、個体群種族と認定せられたり」


「従って、生体親和段階における課題が、機械組織と製造種族や他生物・生態系との融和なりとせば、種族間融合段階における課題は、種族融合体と個体群種族の再融和及び、外周種族の如き〝天然の種族融合体〟やストラスの如き単一個体種族との融和とならん。かかる親和関係の構築を達成したる暁には、我等は様々なる融合体・単一個体種族の高度な知性や融通性と、個体群種族の拡散性・生残性や活動性という双方の長所を共有し、惑星上の生体親和文明と同様の持続可能性を、局部銀河群ローカル・グループの社会にもたらすことが可能とならん」


「然し、技術は諸刃の剣なり。我等は惑星上の工業・情報段階の文明においてさえ、原始的なる穿孔紙片パンチカード式の情報機械や人工の寄生遺伝情報体ウイルスが、民族浄化のために悪用されしことを忘れるべからず。我等理事種族もまた、生体親和段階の文明群において補助電子頭脳への乗取りハッキング事件という先例が数多く存するにも関わらず、融合体への乗取りの危険性を過少評価せしことにつきて、遺憾の念を禁じ得ざるものなり。我等は今後、さらなる技術と政策を以て、かかる問題を克服すべく対策を講じる予定なり」

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