世界を二度救う? その13
「離れたり近づいたり。どっちかにしたらどうなの」
「お前的にはどっちが良いんだ」
「愚問だわ。もちろん近づかれていた方が、ガレットの息づかいや匂いが感じ取れるもの」
「そう。なら一撃目だ」
ガレットはミニエルの両足の股を斬りつける。
「何やっているの。不意打ちでも効かないわよ」
「細胞破壊し、足を爆破」
ガレットが小さく言うと、その言葉通りにミニエルの両足が突如破裂する。
しかも、今度は血も一緒に噴き出してきている。
「ニ撃目」
すかさずガレットはミニエルに斬りかかる。
今度はミニエルの両腕。
するとまた、ガレットの剣に光った謎の球体に入る。
「今度は何が」
「腕が腐敗し、そのまま落ちる」
そしてまた、ガレットの言葉通りに、今度はミニエルの両腕が急激に腐敗し落ちる。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ」
さすがのミニエルも自分の腕が落ちる光景を見て正気ではいられなくなっていた。
「降参するならやめるが」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「降参の意思はなしか」
まるでガレットの方が悪役に見えてくるほどにその状況は先程までとは違い、ガレットが有利な状況だった。
「次は翼か胴体か」
ミニエルは正気を保っていられなくなり自己再生を忘れてしまっていた。
その結果、ミニエルは両足と両腕を失くし何もできない状態でいた。
「いや。その前に髪とか」
「あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
その光景はミラでさえ見るに堪えない光景だった。
今までの経緯を見ていなければミラにはガレットがただの最低な犯罪者にしか見えなかっただろう。
しかし、今までの経緯を知っても、今目の前に広がる光景は男が女を虐げているようにしか見えない気分の悪いものでしかなかった。
「ガレット老!」
「あ?」
ミラはつい声をかけてしまった。
その光景が見るに堪えなさすぎた。
「さすがに。……その敵だからと言って明らかにやり過ぎじゃ」
「こいつはこの短期間で幾らの人間を殺したと思う」
「そ、それは」
「だからな、こいつには苦しんで死んでもらわないと困るんだよ。…しかしま、なんだ。ついさっきまではあんなに禍々しかったのに、今じゃ負ける気すらしねぇ」
「それでもガレット老は英雄なの」
「あのな。心が綺麗な人間なんて誰一人としていない。それと同じように英雄も一緒だ。心が綺麗なままじゃ見た目が人間とまったくもって一緒な上級魔族を殺せねぇんだよ。いいか、この世の中にはな、穢い奴しかいねぇんだよ。テメェもそのうちの一人だ。覚えとけ」
ガレットの言葉に何も言い返せないミラは、そのまましばらく黙りつづけた。
「なんだよ。黙んないで何か言えよ」
ガレットはそのまま待っていたが黙りつづけるミラにイラつきを覚えていた。
その時だった。
ミラの後ろから男の声が聞こえてきた。
「魔王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
その声の主は、勢いよくこちらへ向かってきていた。
「あ、魔王様!? この状況は」
「ほら、サドンド。あわ、て、ない」
「どうかしたか。…わぁお」
「ちょっ、カルデアさん。…って、ガレットさん?」
その声の主は一人ではなかった。
今さっきまで採掘場の外で戦っていた全員がその場に着ていた。
「お、カルデアにバレット。無事だったんだな」
「おま、そいつ」
「あぁ、魔王だ。ま、正しくは聖魔王なんだけどな」
「え、ミニエルさんですよね」
「あぁ。ミニエルだ」
なんの悪びれもなく淡々と話すガレットからはただの異常しか伝わってこなかった。
サズ、リミカ、ジアンの三人はその光景があまりにもショックすぎて直視できずに、スイは黙ったままガレットへ対しての怒りがこみあげてきているのを抑えている。
両腕と両足を失ったミニエルの長く美しい髪を握るように持ちあげて、髪の毛を今にも剣で斬りそうな勢いだった。
「じゃあ、なぜそんなことを」
「なぜって、こいつが聖魔王だからに決まってんだろ」
「でもさすがにやり過ぎです。とどめを刺すのならば、迅速にするべきです」
「知るか。こいつはオレの敵だ。バレットが横から奪えるような敵じゃねぇんだよ」
「魔王様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
サドンドが感情まかせにガレットへ挑む。
「おっと」
ガレットはそんな単調な攻撃をいともたやすく避ける。
「なんだ、それ。攻撃のつもりか」
「避けんじゃねぇ」
「いや、避けるだろ」
サドンドの怒りはガレットには届かず、ガレットは冷めた表情で地面に座り込むようにしていたサドンドを見ていた。
「さてと、殺るか」
その時だった。
ミニエルが目を醒まし、闇の瘴気を瞬時に極大にまで増幅させる。
「なっ!? テメェ」
その瘴気に絡められガレットは身動きが取れなくなる。
「ガレットさん!」
バレットが助けようと剣で斬りかかるが、闇の瘴気によっていともたやすく防がれてしまう。
「ふふふふふ! これでガレットは私だけの人になるの」
猟奇的な笑い声をあげて、盛大に喜ぶミニエル。
彼女の両腕と両足はすっかり元に戻っており、全てのダメージもなくなったためミニエルは万全の状態に戻っていた。
「魔王様! 御無事で」
「御身への外傷等は」
「あら、二人とも。心配してくれていたのね。大丈夫よ、すっかり元に戻ったわ」
サドンドとマゾンドはミニエルの前にひざまづく。
「テメェ、さっさと解放しやがれ」
「嫌よ。せっかく私の自由にできるんですもの。こんな贅沢を逃すバカはいないわ」
ガレットの訴えなどミニエルには通じなかった。
「カルデアさん。ここは僕達がやるしかないですよ」
「…だな。あんな奴だが一度は世界を救った英雄様だしな」
バレットとカルデアがそれぞれの武器を構える。
「ちょっ、二人だけで大丈夫なの」
「そうです! 私達にも」
スイとリミカが一心の想いで言った。
「お前ら、二人が加わってもなんの意味もねぇよ」
「ならボク達も!」
「そうですよ!」
「私もまだ出会ったばっかりだけど」
カルデアの言葉にサズとジアン、それにミラが言う。
「それでも変わりません。相手は上級の中でもトップクラスの魔族が二人に魔王です。無駄に死体が増えるだけですよ」
バレットの辛辣な言葉を聞いて何も言い返せなくなる五人。
「まぁ、でもアレだ。テメらより何万倍もツエェ、俺とバレットに任せとけ」
「先輩の意思を見せてあげます」
そう言って二人は魔王たちのいる方を向く。
「あら、抵抗するのね」
「はい。心から抵抗させていただきます」
「できるだけ短い時間で決めるぞ」
「勿論です」
次の瞬間、バレットは全ての力を足元に掻き集め一気に距離を詰める。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
普段、まったく声が粗ぶることのないバレットがこの時だけは粗ぶっていた。
「魔王様にはちかっ」
サドンドが立ちふさがるがバレットはいともたやすくサドンドを打ち払う。
「…んだよ。さっきまでとは違うにもほどがあり過ぎだろ」
「させないよ」
次にマゾンドが立ちふさがるが、こっちはカルデアが応戦する。
「わりぃな。そりゃ、こっちもなんだわ」
「一体何を」
「いやぁ、空気を鎌に変える程度の魔導だ」
「っ。この老い耄れがぁぁぁぁ」
マゾンドもまた、激昂する。
「とどいたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして、バレットがミニエルに剣を斬りつけられる距離まで詰めた瞬間、ミニエルはにやりとうす気味悪く笑った。
「もっと周りを見なきゃ駄目でしょ」
そのささやきにも似たミニエルの言葉を聞いて、バレットとカルデアは本能的に後ろに待たせていた五人のいる方へ振り返ってしまった。
「うふふ。バカね」
妖艶な笑みとともに全てを計算していたかのようなミニエルが、五人へ闇の瘴気で攻撃を仕掛けようとした。
「カルデアさん! ここは」
「あぁ、それしかねぇよな!」
バレットとカルデアが瞬時に状況を理解し、目的を、ガレットを救うことから五人を逃がすことへと変わる。
「トランス・ユーズ!」
カルデアが叫んだ。
その魔導は一定以上離れた複数人を瞬間移動させる支援系魔導。
「ちょっ、おっさん! その魔導」
「だーっとけ!」
「すみません。今は過去の遺産より未来の遺産を残した方が先決だと」
バレットのその笑顔は、五人に全てを伝えた。
そして闇の瘴気が今にも攻撃しようとした瞬間に五人はその場から消えた。
「なにを!」
「大人の役割を果たしただけですよ」
「俺等がここで死んでも人類の希望が絶えないようにと、な」
バレットとカルデアは表情を醜くゆがませるミニエルへ向かって、盛大に皮肉を込めて笑って見せた。
そして、カルデアの魔導によって五人はユーカライズ朝の中心地のへと続く通行口に飛ばされていた。
「……そんな」
まず、サズが現実を受け止められずその場で崩れるように座り込んでしまう。
「ほら、こんなところに居ちゃダメ。現実を受け止めるのは皇、リズマレットに報告してから」
ジアンがサズへ手を刺しのばす。
サズはジアンの手を取って力なく立ち上がる。
「じゃ、行くよ」
ジアンが冷静を無理に保ち皇、リズマレットの元へ向かう。
向かう途中、数日の間、いなかっただけなのにすでに懐かしささえ感じる街の風景はサズ、ジアン、リミカの三人にとって見れば、物凄く気持ちの悪い光景にしか見えなかった。
この街では犯罪を犯そうと心に少しでも思っている人はいなく、平和そのもの。しかし、人間が負の感情を忘れてしまっているこの街は、外の地下都市を見てきた三人にとってすれば、今はもう異様にしか見えない。
少なくとも、地下都市で見た人間は様々な感情を持ち合わせて、自己の気持ちをちゃんと伝えられていた。
「なんか、違って見えちゃう」
「そうですね。私もです」
「ボクも、かな」
三人はこの街が本当に以前に自分たちが居た街なのかを疑いたくなっていた。
「なんかこの街さ。気持ち悪いね」
「それ、私も思った」
外で育ったミラとスイにはこの街が最初から異様にしか見えない。
そして、外から帰ってきた三人もまた、この街に違和感を持ってしまった。
「あ、もうすぐ着きそうだね」
そうこう話しているうちに皇、リズマレットの居場所へと着いた。
「アンリミデット・ワークスです。帰還の報告のため皇、リズマレットへの謁見を許可いただきたく存じ上げます」
普段とはまったく違うジアンを見てサズとリミカは驚く。
「許可が下りた。入っていいぞ。皇、リズマレット様が謁見室で待っておられるそうだ」
門番が魔法を使い、中へいる門番とリズマレットへ許可をとった。
「ありがとうございます」
そう言ってジアンが入って行き、続くように四人も中へ入って行った。
そして、言われた通り謁見室に行けばそこにはリズマレットが椅子へ腰を掛けていた。
「やぁ。お帰りなさい」
リズマレットは暖かな笑顔で迎え入れた。
「まぁ、腰を掛けて。話しはそれからだ」
リズマレットに言われるがまま五人は椅子へ腰を掛ける。
「…ところでガレットとバレットとカルデアの三人は?」
その質問に五人全員がうつむいてしまう。
しかし、ジアンが覚悟を決めリズマレットへ説明を始める。
「皇、リズマレット。これから、私達の身に何が起きたのかをご説明いたします。それこそが皇、リズマレットからの質問の答えです」
「あぁ、頼んだよ」
「はい」
ジアンは今回の冒険の内容をリズマレットへ包み隠さずにすべてを話した。
手つかずの野原エリアでの下級魔族や中級魔族の進攻。その後にスイとミラが仲間になった経緯を。そして、採掘場で何があったのかを。
「それは、悪夢の様でしたね」
リズマレットはその言葉をかけるのが精一杯だった。
「…悪夢。失礼ですが、そのような簡単な言葉では表せることなど到底できない程でした」
ジアンは噛みしめるように言う。
「では、私の方から一つ程、提案があります」
リズマレットがその場の空気の流れを変えようと少し明るめの声で言う。
「そちらにいる、スイ・鋳薔薇さんにミラカスファ・ローゼスさんの二人を新たに仲間へ向かいいれた、新しいアンリミデット・ワークスとして、ガレット、バレット、カルデアの捜索及び救出を主とする。また、全魔族の討伐の元に旅をしてきてはどうでしょうか?」
リズマレットのその言葉にその場にいた五人の表情が明るくなるのが見て分かった。
「はい! もちろん、受けさせていただきます」
ジアンの意見には誰も反対ではないらしく全員が納得いった表情となっていた。
「では、改めて。新生アンリミデット・ワークスにお仕事です。仲間を救いだし世界を救ってきてください。なお、この旅のリーダーはジアン・ラリティア。貴女にお任せします」
「え、わ、私ですか!?」
「統率力が優れて、覚悟を決めることができるまでの時間の速さ。そして何より、魔導使いとしての実力。リーダーに申し分ないですからね」
リズマレットの言葉にジアン以外の全員が賛成の意を表していた。
そんな状況になっては、断るに断れないジアンはリーダーを快諾する。
「では、旅の出発は皆さんが決めてください。今この瞬間から私は一切の関与をしませんから。あ、それとまた今回みたいに新しい仲間を増やしてくれても大いに構いません」
「はい。新生アンリミデット・ワークス。死力を尽くし偉大なる先輩方とこの世界を救ってきてみせます」
「お願いしますね」
リズマレットがそう言うと、五人全員が部屋を後に舌。
「…若き世代。これから世界は安泰するでしょう。私もその若き世代に入っているのでしょうかね?」
予言めいた言葉を一人になった謁見室でぼそっと言うリズマレットの目には期待と希望が詰まっていた。
「はぁー! まさか私がリーダーなんて」
「ジアンがリーダー。私は、いいですよ」
「あ、ボクも!」
「私はパパを救えればいいから」
「私はもうこの件に少しでも関わっちゃったからね。それに、ガレット老を止められなかった責任もあるし」
五人の想いは様々だが、この旅とジアンがリーダーの件については反対のものはやはりいなかった。
「よし。じゃあ、気合い入れよっか」
「そうですね」
「ボク、大好きです! そういうの」
「私もそのノリ。ばっちこーい」
「あ、憧れの気合い入れ! やりますやります」
その場で円陣を組む。
「いくよ! 新生アンリミデット・ワークス! ゴー・ファイ」
「「「「「ゴー!」」」」」
五人の気合いの入った声がその場に響き渡る。
戦争が終わり、世界が統一され、ほとんど人々から悪の概念が消えたこの世界で、未来を担う若い世代の彼、彼女等はまた一歩先に進むため歩み始める。
世代交代の鐘の音を鳴らし、新たな冒険の旅が始まった。
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