第弐章三話 【抹殺】

夜闇の中、何かの施設が見える。無数のサーチライトが辺りを照らし、その施設にただならぬ雰囲気を出させている

「作戦内容を説明します」

死神と呼ばれる凄腕の傭兵。彼の受けた依頼は必ず成功すると言われている

その傭兵が、ブロンドのオペレーターから作戦の内容を聞かされていた

「大陸の他の組織が、委員会を本格的に壊滅させようとしていますね・・・今度は委員会の基地を夜襲、大陸の外から来た要人を殺害してほしいようです」

ディスプレイに殺害対象の顔相と基地の外観が写し出される

ミシェルの声が、明らかに暗いものに変わった

「生身の人間を・・・これじゃ本当に、死神じゃない」

エンジンの音が一際大きくなる。それは言うなればレース前のアイドリング

「文句言ってる場合じゃないよ!そろそろ・・・」 

ジャスミンの叫びと同時、輸送機のハッチが開く。死神の機体が一歩を踏み出した

その時、夜襲に気付いた委員会基地からのミサイル攻撃が輸送機を襲った。大小八つの高速飛行爆弾が、死神目掛けて飛んでくる

ジャスミンの顔が青ざめた

しかし死神は、機体の片手を動かした。握られていたガトリングの砲身が高速回転、そのまま大量の弾丸を吐き出す。放たれた弾丸は一直線にミサイルに向かっていった

ミサイルがガトリング弾を次々と食らい、目標に到達する前に爆散する

撃ち漏らした最後のミサイルが、他のミサイルの爆発に巻き込まれた。バランスを崩し、そのミサイルは地に落ちる

「目標地点到達!タナトス、投下します!」

委員会基地に接近、輸送機からタナトスが飛び降りた

墜落したミサイルの爆光に照らされ、死神が大地に降り立った





黒い機体は夜闇に紛れた。委員会の機体がタナトスを探すのに手間取ってしまう

この基地で委員会が使用している機体は、索敵能力に優れたスコープ頭にキャタピラの下半身を付けたかなり兵器然としたものだった

そんな機体の部隊が基地周辺の森を見回しながら、死神の傭兵を見つけ出そうとする

「どこ行きやがった!?」

「わからん、よく探せよ!」

三機編成の部隊がバラバラの方向を向いた瞬間、林の間から何かが飛んできた

ロケット砲の弾だ

「ん?」

横から襲い来る何かを察知し、部隊の一機のパイロットがその方向を見た。それがそのパイロットの最期の行動だった

ロケットを真横から受け、機体が突き飛ばされたように転ぶ。着弾した場所からは火炎が燃え盛り、さらに機体を傷付ける

パイロットが即死なのは目に見えていた

「なんだ!?」

同僚が倒されたのを察知したのか別の部隊員がその方向を向く

すると正面の木の間から、タナトスがバズーカを撃ち込んだ 爆散するスコープ頭。轟音が辺りに轟く

同僚の後を追った同僚に、最後の一機が振り向こうとする。しかし時既に遅く、いつの間にか接近していた死神が、左ストレートを叩き付けた

耳障りなほど甲高い音が、殴られた箇所から出た。その音は、鉄が貫かれる音だ。死神が命を刈り取った音でもある

そしてコクピットを壊され既に動かない敵機体をパイルバンカーで持ち上げながら、タナトスはブースターを起動した

バリケードを突き破り、黒塗りの人型機動兵器が基地に侵入した

「敵機が基地に侵入した!繰り返す、敵機が基地に侵入した!」

トランシーバーで報告していた防衛部隊の機体が、タナトスを確認した。以前タナトスが散々に叩きのめしたのと同じ、ホバークラフトの機体だった

その機体が、タナトスに機関砲型腕部を向ける

タナトスは、そんな豆鉄砲に怯む様子はなかった。持ち上げたままのキャタピラ型を敵の方へ向け加速する

機関砲が放たれる。鋼鉄の矢は真っ直ぐ忌まわしき死神を射止めるべく連続して発射された

しかし、死神はその攻撃を、パイルバンカーに刺さったままの敵機で防御する 

発射したのとは別の機体が同じ様に機関砲を連射するが、味方の残骸に穴を空けるだけ。そのままタナトスは敵部隊を飛び越え、ターンしながら盾代わりを捨てた

ガトリングとバズーカを同時に撃つ。一瞬にして敵機は蜂の巣か消し炭になった

基地の外にいたキャタピラ型が、キャタピラを回転させながらミサイルを撃つ

振り向いたタナトスは体をひねる。あっさりそのミサイルは避けられた。タナトスが右手を敵に向け、反撃のバズーカが撃たれた

腕のミサイルユニットにバズーカが当たり、内部のミサイルと誘爆。キャタピラ型機体はそれに巻き込まれてしまった

敵機の爆発で、敵機の頭部がタナトスの足下に転がってくる。大破したのは火を見るより明らかだった

実際に火は目の前で起こっているが

傭兵はコクピットの中でレーダーを確認した。敵の人型機動兵器はもう全滅したようだ

たった一分で基地の防衛隊を壊滅させた計算になる

「目標が逃げるわ!追いかけて下さい!」

タナトスが頭部を左右に動かした

タナトスから見て二時の方向、発進準備の整った飛行機が飛び立とうとしている。いかにも乗り心地の良さそうなジェット機が、主翼の下のエンジンを回していた

そうはいかなかった。タナトスは肩からロケット砲を撃つ。狙いを澄ました砲弾は、風を切って飛行機に直進した

直撃したロケットは、B級アクションのラストシーンのごとく大爆発する

地面に焦げ痕を残し、委員会の要人が乗っているであろう飛行機は破壊された












「た、助かったか・・・」

タナトスの目標である委員会の要人は、装甲車の助手席で深呼吸した。そうでもしなければ生きた心地がしない

基地を見捨て早々に逃げ出したお陰で、醜い傭兵ごときの手にかかることはなかった 

「く・・・傭兵風情が、憎らしい・・・」

早くこんなところから離れ、大陸の謎を持ち帰ろう。そして自宅に帰り、自宅のプールで飲み慣れた銘柄のワインを飲みたい

彼がそんなことを考えていたとき、既にタナトスはスナイパーライフルを向けていた

なんの迷いもなく引き金が引かれ、空気を切り裂きながら弾丸が進む。要人が全く気付かないまま、スナイパーライフルは装甲車を撃ち抜いた

委員会の要人のものと装甲車の運転手のものが一緒くたになった紅の液体が、着弾地点にぶちまけられた

夜闇の中、死神の目がトパーズ色に輝いていた


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