第6話 シドー研究所へ
コンコン、コン、コン。
扉を叩くには少し独特な音が聞こえた。
「はい、どうしました?」
シビアナがその音に答え、イージャンのくぐもった声が返ってきた。
「シビアナ、準備が出来たそうだ」
ああ、さっきどこか行ってきたのは出発の準備か何かだったのか。
シビアナ鍵が開けるように言いガチャリと音がして扉が開いた。
私はぐっと背伸びをしながらシビアナに尋ねた。
「それで、シビアナも来るのか」
「はい。あとイージャンも同行させます」
イージャンもこの後のことも考えて呼ばれたんかな?
馬車の御者と護衛を兼ねて同行させるのだろう。
「ところで、どうしてここで取り調べをしたんだ?」
これは最後までしっくりこなかった。執務室で十分だと思う。
「雰囲気作りです」
――あっさりとまあ言いやがったよ。
ここに人が来るんじゃないかとか色々深読みしてしまったじゃないかよ。
私が罠にはめられる方だと思っていなかったというのもあるけど、こいつの計画は、遊びを入れる傾向があるの忘れてた。
ガチガチに固めないんだよな。ゆとりというか柔軟性があるというか。
そして、私では理解できない訳のわからん情報をわざと流したりする。だがこれがまあよく効く。
さらに、流さない時もあるしどんどん訳が分からなくなる。
それで、敵が混乱させてそれを上から見ながら笑ってる感じだ。恐ろしい奴だよ。
まあ今回は私がこいつの敵になっていた訳で、その恐ろしさを体験してしまっているんだがな。
部屋の外に出てたら少し眩しかったが、すぐに目が慣れてきた。
さて、気持ちを切り替えて前向きに行こうじゃないか。先生のところへいざ行かん。
豊胸の薬が完成するかもしれないしな!やばいことになるかもしれんがその時はその時だ!
苦労をかけるぜシビアナ、 おっイージャンを発見。
「イージャン、さっき聞き忘れたが、何でビクってなったんだ?」
さっきこれ聞いたとき、驚いてたから気になってたんだよね。
「いえその……」
覚えてたのかって顔だな。ふふん忘れんよ。
私とシビアナの顔を交互に見る。シビアナは笑顔だな。
何度か私たちを見た後、観念したようでイージャンが答えた。
「私が妻に怒られる時に見せる顔だったもので、その、怒られるのかと……条件反射です……」
「そうか……」
ごめん。何か、ごめんな。
ああ、もう一つ聞いておこう。
「お前、小さいおっぱいと大きいおっぱい、どっちが好みだ?」
イージャンの顔が一気に青褪めた。うーん私の髪の色みたいだな。
おっと流石にこれは分かりました。今お隣のシビアナから殺気を頂戴いたしております。
私も顔を見る勇気はありませんが、夫に向かってすんごいおっかない殺気を放っております。
お顔は多分あの笑顔でしょう。答え次第でどうなるかは明白です。
それでも私に気を遣うか?それとも妻をとるか?
さあイージャン、どう答えるかね!?
イージャンが片膝をついて頭を垂れた。
「申し訳ございません! 殿下!」
「私は妻の胸以外一切興味がございません!!」
そう言い切った。
嘘だな。
だがよく言った。さすが愛妻家いや恐妻家か?
シビアナは満足そうだな。一気に殺気がなくなった。ちっ。
「よく言ったイージャン褒めて遣わそう。妻を愛しているな。満点の答えだ」
「ははっ!」
イージャンの声はとても嬉しそうだ。よしよし自分の答えに誇りを持つがいい。
ちなみに妻を大事にしないやつは私がこの世から抹殺してやる。つまり私に気を遣っていたら終わりだったということだよ。危なかったな、イージャン。
「が、私への配慮がなってない。よって次の訓練は覚悟しておくように」
それはそれ。これはこれ。
イージャンが泣きそうになった。
シドー先生のいるところはこの王都の郊外にある研究所だ。
王宮から然程離れてはいない。
シビアナの手配した馬車でゆらゆらと。
王女が乗っているとばれるたら騒ぎになるので、少し質素な馬車だ。
私は王国でも一番の人気者だからな。わははは。
イージャンが御者をしてくれている。
おや? いけないな。後ろ姿が元気ないじゃないか。馬車酔いかな。ぐふふふ。
御者の哀愁を感じさせる背中を観察しつつ、私はシビアナが用意してくれたお菓子をパクつく。
おなか減ってたんだよ。うーん程よく甘い。私好みだ。お茶もおいしい。ふへえー落ち着くよ。
馬車が出発して少し経った。
頃合いを見計らっていた私はシビアナに謝罪をすることにした。
「シビアナ、今回はすまなかった」
そりゃ三割増しにもなるよな。今回は私の失態だ。しかも大がつく。
こいつはその尻拭いをしてくれていたんだ。
謝罪をしておきたい。例え私が王女であろうとも。
向かいに座っていたシビアナが礼をする。
「殿下の補佐が私の仕事でございますので」
ありがとうシビアナ。本当に優秀なやつだ。これからも頼むよ。
「ありがとう」
私は素直に礼を述べた。
「取り調べは面白かったとは思っておりませんので、そこは誤解なきようお願い申し上げます」
いや思ってたよな? やっぱりな薄々そうだと思っていたよ。今の発言で確信した。
絶対に私の失敗に対する鬱憤を晴らそうとしてきていただろ。
しかし、完全にこちらが悪いので何も言えない。
私は無理矢理、笑顔を作る。
「ああ、分かっているよ」
私はお茶をグイっと飲みほした。
「殿下、お菓子のお味は如何でしょうか?」
「ん?ああ美味しいよ。この野イチゴの乗った生クリームのやつは最高だな」
皿の上には様々なお菓子が私に早く食べてとせがんでくる。
ははは。せっかちさん達だね。よおし食べてあげようじゃないか。
「それはようございました」
ニコッと笑顔を作った。
――じっとこちらを見ている。
――よこせってか。まあ……まあいいだろう。
「ああ、良かったらお前も食べるか?構わんぞ」
卓の上にある、沢山お菓子が乗った皿をシビアナの方にしぶしぶ差し出した。
「ありがとうございます。頂きます」
シビアナがお菓子に手を伸ばす。
やれやれまったくこいつは。と半ば呆れながら私は外の景色に目を移そうとして、お菓子の皿を二度見した。
お菓子がどんどん減っていく!?え、ちょこいつ何個食ってんの!?
こうやって実況している場合じゃ――はやっ一気に三個無くなっ――あ!それ最後の一つ!私が残してた――
いやあああ!野イチゴおおお!!わたしのおおお!!
「ふぁいへんびびび……もぐもぐごっくん。……ございますね(大変美味にございますね)」
ニコッと笑う顔が清々しい。
「おおおおお……」
皿の上にあったお菓子は全てシビアナの口の中に吸い込まれた。
馬車は進むよどこまでも……。
お菓子をシビアナに全て食べられ、放心状態の私を乗せ馬車は一路シドー先生の研究所へ向かっていた。
シビアナは自分で勝手にお茶を入れて優雅に飲んでいた。
ふうって落ち着いた声出して外見てるよ。
「今回の件どうなるだろうな」
そこそこ回復した私は優雅にたたずむ淑女シビアナさんに問いかけさせて頂きました。
こいつがどう考えているか聞いておくか。
「命の危険性は、あの薬は毒ではないと一応判明しておりますので、低いと考えてます。しかしながら、薬を飲んだのが殿下であると知ったシドー様が早急に来いというのが気にかかります。やはり、王家の血統に関わりがあるのではと。ただ一刻も早くということであればシドー様が直に早馬にでも乗ってやってくるはずですし、最悪の事態ではないようには感じられました」
確かにそうだな。しかしまあどうにも嫌な感じだよ。
「あと、不完全という言葉、シビアナはどう考察したんだ?」
シビアナがお茶を一口飲み、間をおいて話を続けた。
「何かが足りなくて不完全な豊胸の薬ということであれば、完全にするために必要なものを手紙に記しても良いような気がしましたが、それをしないということは、秘密にしなければいけない方法か薬でも使用するのかもしれません。――もしくはシドー様の、例のあの研究が関係しているのかもしれません」
ああ、あれかあ……。確かにそうだとするとあそこに行く必要があるよなあ。
不意に馬車の中が暗くなった。
外を見ると、黒い雲が空を覆っていた。
うーん雨でも降りそうだな。これから天気が悪くなるかもしれない。
そう思っていると見知った建物が目に入ってきた。
シドー研究所に着いたみたいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます