ケイオスダイヴ

時雨晃一

第1章 館

第1話 混沌、館にて

気が付くと、目の前に石畳の廊下があった。



石畳自体は特段珍しいものではない。しかし、先程まで彼女は確かにアスファルトで出来た通学路を歩いていた筈なのだ。


ところがこれは一体どうした事だろう。見事な入道雲を作り出していた空は石造りの天井で遮られ、申し訳程度に壁に蝋燭が立っているだけだ。


状況が飲み込めないまま一歩踏み出す。


ガシャン。


「……?」


自らの足音に彼女は耳を疑った。なぜなら、履いているのは通学用のローファーだった筈なのだから。


ゆっくりと足元を見やる。


あんな音がする訳だ、ローファーが錆びた金属の長靴になっているではないか。中世の騎士が身に付けるような、脚甲というものだ。それ以外は制服のまま。


「え、何……?」


夢でも見ているのだろうか?


否、脚甲の感触も、どこからか吹く風の冷たさも確かに現実だ。背中に感じる重量も。


背中に手を回すと、その何かは簡単に外す事が出来た。


「これって……弓?」


細長く加工した木材に毛のような弦を張ったそれは、簡素ではあるが確かに弓だ。左腰には筒に収まった矢が数本。


いよいよ混乱も極まってきた彼女は、どうにか状況を整理しようと試みる。


まず目の前の出来事は夢ではない。試しに頬をつねってみたがやはり痛い。


次に記憶を辿る。


数分前まで確かに放課後の通学路を1人で歩いていた。ところが瞬きを1つした次の瞬間には風景が様変わりしている。


「ダメだ、余計分からなくなっちゃった……」



目眩がして右側の壁にもたれかかる。



カチン、と再び金属音。


そこで彼女は矢筒の反対側の腰にも何かがぶら下がっているのに気が付いた。


見れば、ベルトに取り付けられた金属製の筒のようなものがあるではないか。


幾何学模様の施されたそれは矢筒よりは薄く短い、しかし彼女の指先から肘までの長さがあった。片方の端には握り易くする為の加工がされている。


何の気は無しに握ってみると、加工されていない部分がスルリと動き、蝋燭の明かりを反射して姿を現した。




眩しさに目を細めた彼女がそれを刃物だと認識するのには数秒で十分だった。



「っ……!!」


思わず息を飲んで取り落としてしまう。刃物といえば料理で使う包丁程度しか見たことのない彼女にとって、これ程の刃渡りは恐怖の対象でしかない。


金属で出来たその刃物……ダガーという武器である事は後に知る……が落下した音は石造りの壁や天井に反響し、不快な騒音を生み出す。


「私、どうしてこんなものを……?」



困惑しながら刀身を見る彼女の耳に、足音が聞こえた。


石畳の上を進む足音は1人ではない。2人、多くて3人ほど。足に怪我でもしているのか、そのリズムは一定しない。


ともあれ精神的に限界を迎えていた彼女にとって、それは救いだった。


「あ、あの!」


蝋燭に照らされた人影に声を掛けてみる。


「……、……」


小さな声で何か言ったようだが聞き取れない。だが、こちらを認識はしたようだ。


「あの、道を教えて頂けませんか?どうやってここに来たのかも分からなくて……、北区の国道へ出る道が分かれば1人で帰れるので」


返答は無い。


仕方無しに相手の表情が見える位置まで近付いてみる事にする。


「あの、すみませ……」


表情を窺い知る事は出来なかった。


暗くて見えなかったのではない、蝋燭の明かりの下に姿を現したその人物の顔ははっきりと確認出来る。


人ではないのだ。少なくとも、彼女の中にある人間の定義には当てはまらない。


兜を被った"それ"の顔には眼球が無く、頬は痩せこけ、だらしなく開いた口からはボロボロの歯が覗いている。


「ゥ、ア……ガァ……」


舌も動いていないのだろう、何事か声を発したが人語とは思えなかった。


とうとう彼女の思考は限界を迎え、虚ろな目でその場にへたり込む。


目の前の"それ"は声にならない呻きを発しながらも、人間の様な動作で腰の剣を抜き、緩慢な動きで振り上げた。


それを認識する事は出来ていた。しかし、あまりにも現実離れした状況に脳が付いて行けない。


「ゥガァ……」



振り下ろされる剣を眺めながら出来る事といえば、これが夢であって欲しいと願う事くらいのものだった。




「何してるのっ‼︎」


甲高い金属音とともに現れた人影は、人間の言葉を話していた。



真っ白な髪を伸ばしたその人物は、左手に構えた盾で攻撃を受け流すと、がら空きになった"それ"の胴体に深々と長剣を突き立てる。


人間であれば明らかに致命傷であろう攻撃を受けた"それ"は、声も無く灰となって崩れ落ちた。


「ねぇ、貴女……ちょっと、生きてるんでしょ⁈何とか言いなさい!」


己に向けられた声で我に返った彼女が視線を向けると、白髪の女性は左右から襲い掛かる"それ"達の剣を盾と剣で受け止めている。


「援護して!その弓で片方を撃ち殺してくれれば後はわたしが片付けるっ」


「えっ?で、でも私弓なんて触った事も……」



触った事も無い筈だ。


それなのに、彼女の身体はどうやって矢をつがえ、どうやって敵の眉間を貫けばいいのかを知っている。


更には、先程床に落としたダガーの扱い方も頭の中で理解していた。


「急いで!ここじゃわたしの剣は長すぎるの、これ以上増えたら勝ち目は無いわよ⁈」


必死の剣幕に圧された彼女は戸惑いながらも立ち上がって弓を持ち、矢筒から矢を1本取り出した。手間取る事無く矢をつがえ、標的に向かって弦を引き絞る。が、


「……無理だよ」


「何ブツブツ言ってるの⁈さっさと」


「無理だよ!いきなり人を殺せなんて無理に決まってる……」


ガタガタと全身を震わせた彼女は、矢を放つ事無く再びその場に座り込んだ。


彼女に襲い掛かってきた"それ"は、明らかに生者の理から外れた何かだ。


それでも、つい先程まで一介の学生として過ごして来た彼女に、ヒトの形をした存在を殺せというのは無理な相談である。


青ざめた顔で手の中の弓を見つめる彼女に、白髪の女性は訳が分からないといった表情を見せる。


しかし、回廊の奥から聞こえた複数の足音に気付くと、一瞬の思考の後舌打ちをして両腕に力を込めた。


「あぁもう……、邪魔よ‼︎」


左右同時に相手の剣を跳ね上げると、長剣で左側に居た"それ"の太腿辺りを斬り付ける。


痛みに怯むような敵ではない、しかし体勢を崩すには十分な攻撃だ。ガクンと膝を落としたところへ横面から盾で殴り付けてやれば、斬りかかろうとしていたもう一体ともつれ合って転倒する。


「ふうっ、何とかなるものね」


素早く長剣を収めると、壁に取り付けられた蝋燭を乱暴に掴み取って投げ付けた。




弓を手に、青ざめた顔のままの彼女が火の手に気付いて顔を上げると、盾を背負う女性の後ろ姿があった。


振り返った女性の表情は陰になって見えない。


「これで時間が稼げるわ。ほら立って、走るのよ!」


だがこの時の彼女には、その手を取る以外の選択肢は思い浮かばなかった。




どれ位走っただろうか。


単調な石造りの回廊を先程の女性に手を引かれて走っているうち、永遠に走り続けなければならないのではと思えてきた。



だがそんな時間にも、唐突に終わりが訪れる。


「そこの扉に入るわよ!」


減速した女性は、木で出来た扉を半ば蹴破るように開くと、素早く室内を確認して滑り込んだ。


「さっき調べた時には誰も居なかったから飛び込んでみたけど、まだ無人のままで良かったわ」


乱暴な入室の勢いで部屋の中に投げ出される格好になった彼女だったが、文句を言う余裕は無い。上体を起こして膝を抱える。


その様子を眺めていた白髪の女性は短く嘆息すると、彼女の前にずいと弓を差し出した。


「あ、あの……」


「ここで丸腰なのは獣か死体くらいのものよ。わたしはジゼル。貴女は?」


ジゼルと名乗った女性は遮るように名乗ると弓を置き、彼女へ尋ねる。


「私は……咲夜、平見咲夜」


「そう、サクヤっていうのね。早速だけどサクヤ、そこの棚を扉の前まで運ぶのを手伝ってくれる?連中は扉を開けられるほど頭は良くないけど、念の為によ」


なるほど、鍵も付いていないドアの重しに使うには丁度良い大きさの棚だ。

どんな精神状態でも身体は生存本能に従うらしく、躊躇いなくジゼルを手伝って棚を押し始める。


「せぇのっ!……で、貴女何者よ?あんな化け物殺すのを躊躇うような人間がここに居る……のはっ、異常な事よ」


ゆっくりと棚を押しながらジゼルが尋ねた。


「んっ……分からないんです。どうやってここに来たのかもっ、何で武器なんて持ってたのかも……」


話しながら、武器を取ってヒトの形をしたものを殺そうとした事実を思い出し、あの時の震えが蘇る。


「武器なんて……私、人を……」


足が震え、力が入らない。踏ん張りがきかず、それ以上棚を押す事が出来なくなった。



ーー「平見さん、人を殺した事はある?」ーー



心臓の音が頭の中まで響く。頭蓋骨の中で誰かが駆け足でもしているかの様だ。


ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……


ジゼルが肩に手を置き、何か言っているのが気配で分かったが、その音以外には何も聴こえない。


音につられて呼吸が乱れ、上手く息を吸う事が出来なくなった。顔から血の気が引いて行くのが分かる。視界がぼやけるのは何故だろう?



ーー「命を奪うというのがどんな事か、平見さんはまだ知らないんだね」ーー



目を開けているのが辛くなって、意識を手放してしまおうとしたその時だった。


柔らかくて良い匂いのする何かが顔を包み込み、頭の中に別の音が混じる。


トクン、トクン、と緩やかなリズムを刻むその音は、早鐘を打っていた心音を落ち着かせるように寄り添う。



それがジゼルの心音だと気が付いたのは、2つの音がぴったりと重なってからだった。



「落ち着いたみたいね。もう……、驚かさないで頂戴。いきなり押すのをやめたと思ったら、今度は震えながら倒れ込むんだもの」


知らぬ間に膝を突いていたようだ、感覚の戻った両脚が床の冷たさを教えてくれる。だが不思議と腕から上は暖かい。


「震えは止まったようだけど、具合はどう?毛布でも用意した方がいいかしら」


やっと目の焦点が合うようになったというのに、どういう訳か視界が狭い。頭上からはジゼルの声がしている。


「ちょっと、大丈夫?反応が無いと不安になるでしょ」


急に視界が開け、こちらを覗き込むジゼルの顔がすぐ近くにあった。


「え、あ……、えぇと……」


柔らかくて温かかった訳だ。 サクヤはようやく、自分がジゼルの胸に抱かれている事に気付いた。


「ご、ごめんなさいっ!」


同性とはいえ、親でもない者に抱き締められるというのは中々に気恥ずかしいものだ。


顔を真っ赤にして飛び退き、何故か謝罪の言葉を口にするサクヤ。


それを見たジゼルは、暫しキョトンとした表情をしていたが、すぐに安心したように微笑んだ。


「どうして謝るのよ?変な子ね。でも良かった、もう平気みたい」


立ち上がったジゼルは再び棚へ手を掛け、作業の再開を促す。


まだ顔を赤らめたままのサクヤだったが、オドオドと隣に移動し、同じく棚を押し始めた。


「せぇ、のっ!!」


落ち着いて見ればさほど広い部屋でもなく、棚の移動はすぐに終わった。


扉の前で重しの役を務めている棚に背中を預け、一息つく事にする。


「とにかくこれで連中に襲われる心配は無くなったわね。日が昇れば動きも鈍るし、今夜はここで過ごす事にしましょう。あぁでも、ここじゃ外の様子がわからないわ、どこかに窓は……」


立ち上がろうとしたジゼルの袖をサクヤがつまんだ。


「どうしたの?」


「思い出した……。"あれ"は一体何なんですか?そもそもここはどこなんですか⁈」


混乱で尋ねるのを忘れていた。出来るだけ冷静になろうと務めたが、やはり言葉尻が強くなってしまう。


「……様子がおかしいとは思っていたけれど、本当に貴女何者なの?」


怪訝な表情で見下ろすジゼル。数秒思案した後、嘆息して座り込み、意を決した様子で口を開いた。


「まず口調からね」


「……えっ?」


「堅苦しいのよ。見た所それほど歳も離れていないようだけれど、貴女いくつ?」


「じ、16歳……です」


唐突にそんな事を訊かれ、思わず答えしまった。


「なんだ、わたしも16よ。それなら尚更気軽に話してほしいわね、サクヤ」


正直言って驚いた。豊満な肢体に艶やかな唇、こちらの心を見透かしているかのような深い瞳。言われてみれば顔立ちに年相応の幼さを残しているものの、彼女が纏う大人びた雰囲気は人生経験の差から来るものなのだろうか。


「分かりまし……、分かった。ジゼル、ここは一体どこなの?」


「ここはとある館の廃墟よ、スタルハンツという町の郊外にあるの。貴女を襲った化け物……あれは元々は人間だったもの、わたし達が"ロア"と呼ぶ存在」


ーー人間"だった"もの。


不思議と合点のいく響きだった。


「連中がいつからこの世界に現れたのかはよく知らない……少なくともわたしが生まれるよりずっと前よ。物心付いた時には剣術と一緒にロアとの戦い方を教わっていたから」


そう言って腰の長剣を撫でるジゼル。確かに彼女の装備には、長年に渡って愛用されたと思われる細かな傷や修繕の跡があった。


「……話が逸れたわね。まずは1つ教えておいてあげる。ロアに殺されれた者はロアになるわ……自分から人間を辞めた者もね。他にも色々と教えてあげたい所だけれど、生きてここから出た後にしましょう」


ため息混じりに言うと、ジゼルは腰に下げていた革袋を取り外す。彼女の顔より一回り程大きなサイズのものだ。


「食事を済ませたら今日はもう休みましょう。干し肉は食べられる?と言っても、後は木の実くらいしかないのだけれど」


「あっ、はい、大丈夫……。好き嫌いは無いから」


その日のディナーは炙った干し肉と木の実、食後にジゼルの淹れた紅茶となる。


それらを用意する為には相応の道具が必要となる訳だが、彼女の荷物と言えば長剣と盾、それから腰に提げた革袋が3つほど。


驚いたことに調理道具と食糧は全て、彼女の持つ革袋の内の1つから出てきた。挙句の果てには毛布まで出てくるではないか。


「えっ、ちょっと待って、流石に今日はもう驚かないと思ってたけど、その袋はどうなってるの⁈」


何気無い顔で毛布を広げるジゼルは、その問いに目を丸くして固まる。


「何って……まさか知らないの?」


怪訝な表情のジゼルは数十秒かけて考え込むと、毛布をさらに1枚取り出す。次いで取り出した小ぶりのランプに湯を沸かした火を移すと、いそいそと毛布にくるまった。


「あの……」


「早く入って、寒いじゃない」


毛布の端を持ち上げてジゼルが言う。言われてみれば、日もすっかり落ちたらしく少し肌寒い。大人しく従う事にした。


「ちょっと狭くなるけど我慢してね。これはこれで暖かいから、わたしは構わないけれど」



小さなランプが照らすのは2人の顔が見える程度の空間で、それ以外は闇と沈黙に閉ざされている。


まるで虚無の世界に2人きりで取り残されているようだ。虚無の世界というものがどんなものかは知らなかったが。


「……教えて、貴女はどこから、どんな所から来たのか。どんな人生を歩んで来たのか」


しばらく沈黙が続いた後、静かに問うジゼル。


天井の闇を見つめ、サクヤは答えた。


「私が居たのは……そう、もっと明るい世界。こんなに暗闇は多くなくて、人が創った光が支配する世界だった。でも都合の悪い所にだけはどうしたって光は当たらない、そんな世界」



それから2人は、お互いの身の上を短く話し合った。


サクヤはほんの少し裕福な以外は平凡な女子高生で、学校では1人のクラスメイトに召使いのような扱いを受けていた。逆らえば理不尽な暴力を振るわれ、従ったとしても人としての尊厳は磨り減っていく。


会話をしてくれる者はいたが、その状況から助け出してくれる筈はなく、久し振りに1人で下校している最中にここに来た。


「子供は1つの場所に集まって勉学に勤しむ事が出来る……素敵な国ね。武器を持たなくても生きていける国があったなんて知らなかった」


「うん、本当に素晴らしい国だと思う。その平和に比べれば、私の状況なんてほんの些細な事だった」


「……今度はわたしね」


一方ジゼルは、厳格な騎士の家系に生まれた一人娘だった。


この国ではその家系に生まれた者には性別に関係無く武器を持って戦う事が求められるそうで、彼女とて例外ではない。


しかし、彼女の家が守護していた町はロアの脅威に晒され、壊滅する。彼女の家族は果敢に戦ったが悉く命を落とし、僅かに残った住人を辺境の山奥へと逃した彼女は帰る家を失った。


「守護の役目も無くなって、自由に生きる事にしたの。幸い武芸は一通り修めていたし、それほど世間知らずでもなかったから、生きて行くのに不自由はしなかったわ」


「それならどうしてこんな危険な所に?」


「簡単な事よ、ここはその壊滅した町を守っていた騎士の館だったの。在りし日の財宝でもないかと調べていたけれど、ロクな物も見付けられずに帰る所よ。つまらない話だわ」


そう言ってジゼルが肩をすくめるのがわかった。


命懸けで生きてきたジゼルに対して、被害者面で身の上話をしてしまった自分が恥ずかしくなり、毛布に潜り込むサクヤ。


「ごめん、私なんてあなたに比べたら……」


「つまらない話だって言ったでしょ、気にしないで。それに、誰だって生まれた場所で精一杯生きてるものよ」


そんな事より早く寝なさい。そう言ってジゼルは背中を向けてしまう。


様々な事が一度に起きたせいか、サクヤもまたすぐに眠りに落ちた。





夢を見る事も無く目が覚める。

朝の冷気が早く起きろとでも言うように頬を撫でた。


ぼんやりとした視界の中、枕元で自分を見下ろす人影が何か言っている。


「……母さん、まだ目覚ましは鳴ってないよ……」


寝起きの悪さを良く知る母は、いつも目覚まし時計のきっかり15分前に肩を叩きに来てくれたものだ。


「……ヤ。サクヤ、そろそろ起きてちょうだい」


「目覚ましが鳴ったら起きるから……」


それから逃れるように毛布を頭の上まで掛けた所で、愛用の毛布と感触が違う事に気付く。


清潔だが使い古された毛羽立ちの目立つ簡素な毛布から頭を出すと、そこは自分の部屋ではなかった。


「天井に小さな吹抜けがあったのね。天気も良さそうだし、これなら今日中にはスタルハンツに辿り着けるはずよ」


「……そうか、私やっぱり……」


徐々に昨日の事を思い出し、これが夢ではない事を思い知らされる。


「さぁさぁ出発よ。いい加減毛布を返してくれるかしら?」


困り顔でこちらを見下ろすジゼルは既に出立の準備を終え、サクヤの起床を待つばかりだ。


のそのそと毛布から這い出すサクヤへ、小振りのタオルが差し出される。


「早く目を覚まさないと貴女、死ぬわよ。シャキッとしてちょうだい」


濡れタオルで顔を拭うと、やっと頭の中がはっきりとした。次いで差し出された弓とダガーには見覚えがある。


「……それ、私が持っていないと駄目かな?」


「当然。動きが鈍るとは言え、外には大勢のロアが居るのよ?最低でも自分の身くらいは自分で守ってもらわないと。……欲を言えば、食糧を分けてあげた分くらいは戦って欲しい所ね」


差し出されるままに平らげた食事だったが、昨夜のあれはジゼルのものだ。旅の身であるジゼルにとって食糧は限りある大事な要素のはず、それをサクヤは何の対価も無く消費してしまったのだ。


「ご、ごめんなさい、私何も考えずに……」


「あぁ……そういうつもりじゃないわ、困った時はお互い様って奴よ。どうせ武器以外には何も持ってないでしょ?」


全くもってその通り。だからこそ武器で対価を支払う必要があるのだが、場所が場所だけに武器の売却は出来そうもない。ならばそれを振るうしかないのだろう。出来なければ死ぬだけだ。




出来るだけ音を立てないように棚をどかし、ゆっくりとジゼルが扉を開けて外の様子を伺う。数秒後、緊張していた表情を僅かに緩ませてこちらへ顔を向けた。


「武器はひとまず構えなくていいわ、足音に気を付けて付いて来なさい」


小声で手招きされ、無意識に握り締めていた弓を背中に担いだサクヤは恐る恐る扉から顔を覗かせる。


「陽が昇っている間はこんな感じよ」


回廊の所々にロア達が座り込んでいた。あぐらをかいて壁にもたれる姿は、まるで居眠りでもしているかのようだ。


「こうなると大きな音を立てたり、ちょっかいを出さなければ襲って来ることはまず無いわ。と言っても、陽が沈むまでの話だけれど」



言葉を交わす事無く回廊を進む。

左右にいくつか扉があったが、それらには見向きもせずに進むジゼル。脚甲が音を立てないように細心の注意を払いながらそれを追うサクヤの額には、気付けば汗が浮かんでいた。


そういえば昨晩から風呂はおろかシャワーも浴びていない。意識する余裕は無かったが、昨日も相当な量の汗を掻いているはずだ。おまけにこの回廊、なかなかに湿度が高い。こっそり髪に触れてみたが、少々うねり気味だった。


油断無く前を歩くジゼルとて昨日から条件は同じはずなのだが、どういう訳か白い長髪に乱れは無く、角を曲がる時などはほのかに良い香りがするではないか。やはり生活習慣の違いで体臭も変わってくるのだろう。僅かに甘い、どこか懐かしい香りだった。


頬を伝う汗をシャツで拭いながら、その香りが何だったか思い出そうとしたその時、曲がり角の先を探っていたジゼルがぐいと手を引いてきた。


突然の事にバランスを崩しかけたサクヤは、音を立ててしまったらどうするとでも言いたげな表情で顔を上げる。

しかしその表情は、眼前の光景によって一瞬で歓喜の表情へ変わった。


時間にして半日と少ししか経っていないはずなのに、どうしてかその光景に胸が弾む。高鳴る鼓動に歩調がつられないよう一歩ずつ足を前へ。


こんなにも陽の光に感動を覚えるのは、きっと生まれて初めてだ。



「ようやく出口ね。油断せずに行きましょう」


耳元で囁いたジゼルは盾を構えながら、先程部屋から出た時と同じ様に外の様子を伺うと、やはり同じ様に緊張を解いて踏み出した。


続いて足早に飛び出したサクヤの頬を心地よい風が撫でた。久方ぶりに踏みしめる大地の感触と、青空を流れる雲を眺め、生の実感を噛み締める。


「館に入る前はもっと大勢のロアが居たはずだけど……。昨日派手に騒いだから、外をウロついていた連中も中へ入ったまま動きを止めてしまったのかしら?周りに注意してね」


周囲を用心深く見回すジゼルの言葉はほとんど耳に入っていなかった。


館は小高い丘の頂上にあり、見下ろす先には灰色と緑色の町。あれがジゼルの家が守っていた場所なのだろう。火事でも起きたのか、この距離でも半分崩れ落ちた家の残骸が視認できる。そこから地面へびっしりと生える草木が時の流れを感じさせた。


「スタルハンツへは館の脇にある林を抜ければすぐに着くわ。陽が落ちない内に……、サクヤッ!!」


叫び声に振り返ると、引きつった表情のジゼルがこちらへ駆けて来る。その頭の向こう、館の出口の上に人影があった。


否、"人"影ではない。明るい場所では姿がよく見える、出口の上にある僅かな足場で弓を引き絞っているのは紛れも無くロアだ。それも2体。時間差で放たれた2本の矢がサクヤ目掛けて向かって来る。


死の間際には……というのはあながち間違いではないらしく、その動きはとても遅く感じられた。だというのに身体は全く動かない。左右どちらの矢が先に己の胸に突き刺さるのか容易にわかるのだが、危機感は無かった。


やがて一方の矢の鏃がはっきり見える距離まで迫った、その瞬間。


「世話の焼けるっ!」


目の前に大きな影が現れ、次いで小さな金属音。一瞬の間を置いて肉を抉る音。


我に返ったサクヤの身体に矢は刺さっていない。数秒前の金属音の正体を探すと、それは目の前にあった。


上半身を守るように金属の盾があり、すぐ横には眉根を寄せたジゼルの顔。彼女が守ってくれたのだと理解すると同時に盾は地面に突き立てられる。


「ジ、ジゼル……矢が……!」


肉を抉る音の正体があった。盾を持つジゼルの左肩に、後から放たれたもう一方の矢が突き刺さっている。


「ごめんなさっ、私……ごめ」


「かすり傷よ、深くはないわ。無傷のくせにそんな青い顔をしないの」


呆れたように微笑んだジゼルは再び眉根を寄せて素早く矢を引き抜き、サクヤを庇う形でロアへ向き直った。


「時々いるのよ、昼でも変わらず活動する個体がね。生前は余程真面目だったのか、それとも不眠症だっのかしら」


ジゼルは矢をつがえ始めるロアへ不敵な笑みを向けると、構えた盾の裏に収められている小振りのナイフを滑らかな動作で引き抜く。


放たれた矢を今度は全て盾で受け切り、お返しとばかりにナイフを投げる。2本同時に投擲されたそれは真っ直ぐに飛び、あやまたずロアの額にめり込んだ。


ロアの身体は灰になって音も無く崩れ落ちたが、装備はそうもいかない。粗雑だが金属で出来たそれらは足場から落下し、よく音が響く回廊の中へ目覚めの合図を送る。ジゼルはまたしても顔をしかめた。


「あぁ、こういう事……。倒さずに退くべきだっわね、失敗だわ」


回廊で座り込んでいたロア達はこれで活動を始めるだろう。


追い討ちをかけるように足場の奥からも複数のロアが現れ、地面に着地した。


先程ジゼルが言っていた事を思い出し、サクヤは館の脇にある林へ視線を移す。既に数体のロアが行く手を遮っており、今から仕掛けても挟み撃ちに遭ってしまうだろう。



ーー逃げなければ。


そう考えた訳ではない、ただ本能に従ってサクヤの身体は動いた。


「こっち!」


冷や汗を流して動けずにいるジゼルの手を取って走り出す。


前方への道は閉ざされ、敵と戦う事も得策ではない。それならばとサクヤは後方へ足を向ける。丘を駆け下り、かつてジゼルが守った町へ。


「ちょ、ちょっとサクヤ!考えは分からないでもないけれど、あそこが今どんな状態かわたしだって知らないのよ⁈」


「大丈夫!……多分」


「多分って……。貴女、昔どれだけの数のロアがあの町を襲ったか分かっているの?人口の3倍は下らない大群よ、残党が潜んでる可能性は大いにあるわ!」


それでもサクヤは止まらなかった。


前進が叶わない事を理解していたからか、それとも自棄を起こしたのか、ジゼルもそれ以上は何も言わずに手を引かれるまま走る。徒歩よりも遅い速度のロア達はすぐに小さくなった。




始めこそ前を走っていたサクヤだったが、10分と走らない内に手を引かれて転がるようにそこへ辿り着いた。

かつて町だった場所の入口、身長の倍ほどの鉄で出来た門の残骸があった。崩壊した住居よりも丈夫なそれは、僅かに変色しただけの状態で鎮座している。倒れ込むように背中を預けた。


「館の周りの群れは振り切れたみたい。それに……、ここにも敵はいないようね」


空を仰いで犬のように息を乱すサクヤの隣で剣を収めたジゼル。汗一つかいていない辺りは感服する。


「敵の姿が見えなかったから……という訳じゃないんでしょう?いきなり逃げに走ったのは」


やっとの事で呼吸を整えると、ふらふらと立ち上がったサクヤは最後に大きく息を吸い込んだ。


「ふぅ……。うん、草がびっしり生えてたから」


草などここに来るまでの道端にも生えていた。発言の意図が分からずに辺りを見回したジゼルはすぐに、あぁ、と声を洩らす。

家々の残骸から門の周辺まで背の低い草がびっしりと生えているのだ。


人や獣が往来する場所は土が踏み固められ、草は生えにくくなる。足を使って歩く限りロアとて例外ではない。


「目が良いのね。いえ、良く見ているといった方が正しいかしら。短い時間によく判断出来たものだわ」


「判断した訳じゃないよ、安全な逃げ道を探そうと思ったら身体が動いてた。結論が出たのも走ってる間だったし」


感心したように笑顔を向けられたが、単なる直感で動いたに過ぎないサクヤはバツが悪そうに俯く。


「そんな事より、ここならロアも潜んでいないようだし、しばらく様子を見ましょう。井戸くらいは残っていてくれると有難いけれど……」


どうでも良さそうに話を切り替えたジゼルは辺りを見回し、瓦礫の向こうを探索し始める。

一歩間違えば更に危険な状況に陥っていたかもしれないというのに特にこちらを責める様子が無いのは、彼女の性分なのだろう。


短くとも濃密な時間を共に過ごしたせいか、彼女のことをおおよそ理解し始めている自分がいた。




「うっわ、マジで平見じゃん」


背後から聴こえた声に振り返ろうと動かした頭は、無理矢理地面へと叩き付けられる。程よく柔らかい土で良かったと一瞬だけ思った。


それでもかつては多くの人が往来した町だけあって、すぐに側頭部に衝撃が走る。喉から声にならない苦悶の呻きが絞り出された。


「ラッキー、こいつ弓持ってる!これなら少しはマシに戦えんじゃね?」


動けない。


首根っこを押さえ付けられているからというだけではない、困惑によってだ。


「……で」


「ん?何か言った?」


「なんで……ここに?」


視界の端でニヤニヤと笑う顔には見覚えがあった。


ジゼル以外で初めて見た人間の顔。しかし二度と見る事は無いと思っていた、クラスメイトの顔。


「三田……さん……」


「へぇ、覚えてたんだ。マトモに喋った事も無いのにね」


サクヤと会話してくれる者は居たが、無視を決め込む者は圧倒的に多かった。

彼女もその内の1人。数人のグループを作って他とは関わりを持たずに過ごしていた。


「あんたまでこっちに来てるって事は、下手したらクラス全員……全校生徒が集まってたりしてね」


膝でサクヤの身体を押さえ込みながら背中の弓を無理矢理外すと、具合を確かめるように弦を弾く三田。腰のダガーには気付いていないようだ。


混乱していた頭も徐々に理解が追い付き始める。


「私……まで?」


「……もしかして1人でここまで来たわけ?やるじゃん!こっちはもう4人やられたのに」



三田のグループも気付いた時にはあの館に居たのだという。サクヤと同じく各々武器を携帯しており、扱い方も理解していた。


「よーし、これもオッケー。やっぱ武器はどれでも使えるんじゃん?なんでか知らないけど」


小さく呟いた三田は弓を担ぐと、おもむろに腰にぶら下げた得物を抜く。大きく湾曲した刃を持った風変わりな剣だった。


「さてと……特に知ってる事も無さそうだし、さよならといきますか」


迷う事無くそれを振り上げる。


よく鈍臭いと言われるサクヤだが、それほど鈍い訳ではない。三田の明確な殺意はすぐに感じ取れた。だが分からない。


「あ、そうだ!何か言い残す事とかある?いいモン貰ったし聞くだけ聞いといてあげるよ」


「……どうして?」


「は?あんたを生かしとくメリットが無いじゃん、帰る方法とか知ってるんなら考えてあげてもよかったけどさ」


それは理解出来る、分からないのは……。


「どうして……、どうして平気で人を殺そうと出来るの⁈三田さんだって友達がロアにやられたんでしょ?どうして……」


「2人は、あたしが殺したんだよね」




最初に橋谷が殺された、心臓を一突きだった。混乱する永松も腹を抉られて倒れ込む。

永松の肩を支え、なんとか逃げようとすると、死んだと思われた橋谷が起き上がったではないか。しかし、気遣うように伸ばした浜西の腕を斬り落とした橋谷の眼は、既に人ではなかった。


泣きながら橋谷の首を刎ねようと剣を突き立てる田屋を置き去りにして、手近なドアへ飛び込む。永松はもう目の焦点が合っていない。


奴らと同じになる前に殺さないと。


腕の出血は止まる気配が無いのにやけに落ち着いた様子の浜西が、ポツリと言った。


「永松はさ、幼稚園の頃からの親友だったんだ。それを浜西の奴……。どうせあいつも助からないし、永松を守る為には仕方無かったんだよ」


永松もすぐに、三田の名を呼びながら事切れた。


「しばらくして、永松が目を覚ましたんだ。嬉しくて武器も持たずに駆け寄ったよ。でも、あいつの眼が……眼がさぁ」


その眼はもう、橋谷と同じだった。


「頭おかしくなりそうだったよ。永松の奴、ウーウー言いながら斧を振り回すんだもん。……怖くて悲しくて、でも死にたくなかった!だから……だから」


内臓を剥き出しにした永松の腹を素手でかき混ぜると、程なくその身体は灰になって消えた。


置き去りにした田屋の断末魔が聞こえたのは、そのすぐ後の事。



話し終え、剣を持つのとは反対の手を見つめながら、ボロボロと涙を流し始める三田。


「血も灰になっちゃったけどさ、まだ感触が残ってんだ。あの時引っこ抜いたのは多分……」


もしも剣を突き付けられていなければ、きっと耳を塞いでいた。押さえ付けられる圧迫感と相まって、ゆっくりと喉に熱いものがこみ上げる。朝食を食べていなかったのは幸いだった。


「そういう訳で、もう死んでね平見」


ポタポタと首筋を濡らしていた涙の雫が止まる。再び剣を振り上げた三田の眼から、涙は消えていた。


「アンタの事覚えておいてあげるよ。弓を貰ったし、他に覚えててくれる子も居ないだろうから」


剣が振り下ろされれば容易くサクヤの脳天に突き刺さり、致命傷を与えるだろう。そうでなくとも重傷だ。


ここに迷い込んで初めて感じた、その身に迫る明確な死。逃れる為にはどうしたら良い?

両腕を除き、身体を動かす事は出来ない。説得は望めないし、交渉材料も皆無。


亀のように手足をばたつかせても、馬乗りになった三田を払いのける事は出来ない。しかし右手が何かに触れる。

硬く細長いそれはあのダガーだ。幸い三田にその存在は知られておらず、今の体勢でも簡単に抜く事が出来た。これを三田の太腿に突き立ててやればきっとバランスを崩す。


だがその後は?


見事三田を払いのけ、報復とばかりに逆襲するのか、それとも逃げるのか。恐らく追ってくる事は出来ないが、太い血管を傷付けでもすれば出血で死に至るだろう。ならば治療でもしてやるか?否、それでは……。


刹那の間にこれだけの思考を巡らせても、結論が出る事はなかった。


「攻撃をする」という、唯一とも言える現状打破の為の手段を行使出来ない。



ーー「見てよ平見さん、ここが動脈。とっても綺麗な血が出るんだって」ーー



そして、刃が振り下ろされる。


「アンタの分まで生き残ってあげるね」



が、その刃はまたしても振り上げられた。


「ぎゃああああっ!!」


掲げた三田の腕から何かが生えている、これは……


「貴女じゃ無理よ、眼が半分お友達と同じだもの」


弓兵のロアを仕留めたあのナイフだ。


「痛っ……たい、痛い痛い痛いぃぃぃぃ!くそっ、何で、誰だよお前⁈」


小振りではあるが鋭いナイフだ、女の腕を貫く事など造作も無い。


痛みに悶絶する三田はサクヤの事などどうでもよくなったのか、鮮血滴る腕を押さえながら後ずさる。それでも剣は手放さなかった。


「ジゼル、ジゼルぅ……」


ようやく拘束から解放されたサクヤだったが、恐怖の為か上手く立ち上がる事が出来ず、半ば這い寄るようにジゼルへと手を伸ばす。


「1人にしてごめんなさい。助ける機会を窺っていたのだけれど、寸前になってしまったわね」


ひとまず安堵した表情でその手を取ろうと屈んだジゼル。次の瞬間、素早く上体を反らした。


一瞬だった。2人の間を遮るように飛んできた槍がジゼルの鼻先を掠めて瓦礫に突き刺さり、その隙を突いて血塗れの手が乱暴にサクヤの髪を掴む。


「フッ、ハッハハハハ!!こっちが1人とかいつ言ったんだよ!残念だったね平見ぃ」


髪を引っ張られ、意図せず喉を前に突き出す格好になる。今度は首筋に剣を突き付けられた。


「動くなよ……あんた、うちのクラスじゃないよね。別にいいや……おーい、出て来て良いよ」


物陰から姿を現したのはやはりサクヤのクラスメイト、名前は山中といったか。三田と交流は無かった筈だ。恐怖で硬直するサクヤを横目に無言で槍を回収に向かう。


「用心深いのね、ここへ来たばかりとは思えないわ。親友を手に掛けたというのは本当みたい」


僅かに反応が遅れたジゼルは剣を抜きかけた体勢のまま、静かに三田へ鋭い視線を向ける。


固い表情で槍を構える山中。彼女を盾にするようにその後ろへ回り込んだ三田は、乱れた呼吸を整えると得心したようにサクヤの顔を覗き込んだ。


「ジゼル……って呼んでたね、あいつの事。うちの学校にそんな生徒は居なかった。ひょっとして……」


「お察しの通りよ。私は貴女達の言う学校とやらの人間じゃない、生まれも育ちもこの土地の者よ」
























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