第102話

 柱さんと緋真さん、そして白亜が去った後、父さんだけが残る。


「で、私たちにやってもらいたいことって何かな?」

「僕の方から説明しよう」


 父さん絡みってことか。だとしたら、研究の手伝いとかそんな感じになりそうな予感がする。


「さっきの話しにも出ていた魔具のことだ。それについて手伝ってもらいたいことがある」


 やっぱり。そうじゃないかなと思った通りだった。


「先に言っておくけど、専門的なことなら私多分、全然力になれないと思うよ」

「安心していい。やってもらうことは簡単なことだ」

「それならいいけど」


 父さんの手伝いと言われると、真っ先に思い浮かぶのは何だかよく分からない機械や薬品なんかを使った物が出てしまう。私的な研究のイメージでしかないのだけども。


「なんだっていいわ。丁度暇を持て余していたのだから、やるわよ」

「専門的なことでないなら、俺たちでも協力できそうだ」


 みんな乗り気だ。よし、私もどうせ暇だし、たまには親の手伝いをするのも悪くないか。


「そうか。僕はいま、奴らから盗んだ技術を応用し、これから魔具の開発に取り組むつもりでいるんだが」

「――! つ、作っちゃんですか? 魔具」

「ああ、元々そのつもりで魔具の研究をしていたのだからな」


 そういや、死者を扱うとかなんとか説明を前にしてもらったことがあったような。あれって、そういう意味だったんだ。


「もう分かると思うが、魔具の開発。それに必要な死亡した魔法使いを連れてきてもらいたい」

「そ、それは……いいんでしょうか」


 行きつくところは同じで気持ちの問題。今さら正義感ぶるのもどうかと思うけど、後ろめたい思いはあるもんだよね。


「おいおい、オッサン。俺が散々研究所を潰しまくって、死体なら十分確保出来てるだろ。ありゃあ、どうなったんだ」

「覇人は“回収屋”として動いていたんだったな」


 計三か所の研究所襲撃事件。魔法使いの保管施設としても機能していた場所から盗み出してきたんだから、考えたくもないけど、かなりの数の死者が連れ出されているはず。


「今も大切に保管しているよ」

「え? ひょっとして、ここにいるの?」

「地下深いところにな。魔法使いは死後、存在そのものが魔力の塊と化してしまう性質があってな、厳重な保管をしておかないと溢れ出してしまう恐れがあるんだ」


 背筋がゾッとした。夜になったら、霊的なものが徘徊してそう。良し、決めた! その場所には絶対に近寄らない。


「中には組織のため、志半ばに亡くなられた方もいます。その者らにも救いを与えるべく、魔具と化し、アンチマジックに一矢報いらせてやりたいのです。そうして、死してなお私(わたくし)どもと共に在れるように。そう願いを込め、また賛同してもらっているのです」

「それが、魔具研究の目的なんですか」

「はい」


 どこまでも、仲間意識の強い組織なんだなと改めて感じた。

 そう――例え、死んでも。

 仲間の死は無駄にはさせない。

 悔やみきれぬ思いは、仲間と共に果たす。

 敵に回したら、これほどまでに恐ろしい相手はいないのじゃないだろうか。


「仮にあなた方が無くなられた場合も同様の処置は取らせてもらうつもりです」

「死ぬ気はないけど、もしそうなったときは喜んで差し出すよ」

「第2の……いえ、第3の人生になるんですね」

「3つ目は死んでるわよ」

「細かいことはいいじゃん。なんか名を遺せてるみたいでカッコいいし」


 まさに偉人や英雄にでもなったような気分をあの世で味わえるんだろう。


「……誰かが引き継ぎ、共に歩む道か。羨ましいな。

 魔法使いでない俺は――そこで立ち止まるしかなくなってしまうから」


 忘れていたわけじゃないけど、一緒に行動している纏は私たちとは違って普通の人なんだ。いや、普通……とはちょっと言い切れないけど、大体は普通だ。


「なんか、悪かったわね。あんただけ仲間外れみたいな言い方になっていたわ」

「別に人とか魔法使いとかどうでもいいんじゃない? 友情に在り方なんてないよ」

「そうですよ。気にしちゃダメです」


 問題のある事柄でも、感情論で片付けられることだってある。

 それが――今回。


「ありがとう。……だが、俺は本当についてきても良かったのか……たまに不安になるときがあるんだ」


 裏切り者のラベルを自分から貼り、魔法使いと一緒に行くことを決めた纏。かつての同胞たちと戦っていくことに覚悟はちゃんとしていたんだろうけど、それでもこういった形に発展したことで纏の気持ちにも揺らぎが出てきてしまっているのかもしれなかった。


「本来、貴方と私共とは相いれることのない存在。それが奇妙な縁で繋がり、こうして手を取り合っているのです。であるからには、貴方はすでに共に歩む命であることを忘れなきように」


 相対している組織同士が部分的に繋がる。

 それが今後、どう世界が変わっていくのかは分からないけど、今はただ味方同士であることは間違いない。


「改めて聞かせてもらうが、魔具の製造に協力してくれるか?」


 もちろん、私たちはそのつもり。――だけど。

 纏一人が異色の存在で、更に私たちがこれから争っていく相手は同じ人種。更にはいよいよ本格的に魔法使い側に加担していくことになるこの現状、纏にとっては色々複雑な気持ちがあるのは分かる。

 でも、それを望んだのは本人。

 自分の父親に敵対してまで選び取った道。

 ここから先は、魔法使いが生き残っていくための協力。


「やるよ。考えてみれば、俺はすでに魔法使いにも人にも剣を向けているんだ。それに俺自身がこんな身体になってしまっているしな。だったら、俺は俺のやりたい方へと進むだけだ」


 半魔法使い。どちらでもない存在。

 どちらにも剣を向けた存在。

 難しく悩んだところで解決するわけでもないし、もっと難しくなるだけ。

 明らかな異分子の纏には、孤高の道しかない。


「では、これよりあなた方に魔具製造に必要な魔法使いの収集に入ってもらいます。道中の危険を掻い潜り、どうか成功を祈ってますよ」

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