十二かぐや
黒乃 猫介
第一部
第一章・母の言葉に縛られた少年と国を動かすかぐや姫
序章・始まりの日~忘れられない過去の記憶、全てにおける原点~
世界は紅に包まれていた。
そう、世界だ。僕にとってこの国こそ、世界そのものだった。
僕が生まれ育った国、皆が笑って暮らしていた国。
その世界が…今…血と…炎で…染まっていた。
紅色に染まった世界で、僕はお母様を探し出すために走っていた。
お母様は今、国をこのようにした者と戦っている。いや、正確には戦っていた。少し前までは戦闘音が辺りに響いていた。だが、今はもう聞こえていない。戦いはもう終わったのだ。だからこそ、こんな小さな僕が戦火に焼かれた町を走り回っていられるのだ。
戦闘が止まったとしても、安全とは限らない。そんなことは僕でも分かっていた。だが、行かなくちゃいけない。理由がある。お母様が戦いに出る前に、こんな事を言ったのだ。
「
そう言いながら、僕ら兄妹の頭を優しく撫でてくれていた。だが、その後に続く言葉は、普段のお母様の口からは出てこない言葉だった。
「
「…お母様?」
「これはもしもの話だ。そんなことになりはしない。大丈夫、大丈夫だから、私が帰ってきたらいつものように笑って出迎えてくれ」
そういうとお母様は戦いの中へと向かっていった。
いつも勝気で、不遜で、自信の塊の様なお母様から出る言葉ではなかった。不安で仕方なかった。だから、僕は待っていなさいと言うお母様の言葉を破ってしまった。我慢できず、戦いが終わったであろう町へ飛び出したのだ。
建物の少ない広い場所に出た。何かが足に引っかかた。足元を見る。
「…
「ああ、うああ、ああああああがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!うぇ、ぐおええええええ!」
胃の中の物全て吐き出した。信じられなかった、目の前の光景を。いつも元気よく僕に挨拶をくれたおじさんが、人ではない別のものになっていたのだから。それだけでも僕の心は張り裂けそうだった。だが、それだけでは終わらなかった。
「…
知っている人ばかりだった。少なくとも形がちゃんと残っているモノは。潰れ、引き裂かれ、原型を留めているモノは僅かしかなかった。
「あああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
どうして?どうしてこんな酷い事が?みんないい人ばかりだった。こんな目に合っていい人なんて一人もいなかった。なのに何故…⁉
頭がクラクラする。正気を保っていられない。それでも、お母様を、お母様を探さないと…
一瞬この中にお母様がいるかもしれないという考えが浮かんできた。だが、すぐにそんな訳ないと首を振った。ただの現実逃避という訳じゃない。根拠ならあった。ここには虐殺の後はあるものの、戦闘の後はなかった。お母様がここにいたのなら必ず戦っていた。だから戦いの後がないこの場所には、お母様はいないはずなのだ。
「みんな、ごめんなさい…後で供養しますから…今はお母様のところへ行かせてください」
返事は勿論返ってこなかった。もうここにいる人たちと会話する事が出来ない。そう思うと、涙が溢れてきた。止まらなかった。僕は止まらぬ涙を拭いながら、この場を走り去った。
走って、走って、ようやく戦いが起きていたであろう場所に辿り着いた。周りには、その証であるものが沢山転がっていた。
巨大な人型の鉄の
『
現代の戦争のほとんどが、この「
全長五~六メートルはあるその姿は、小さい僕にはとてつもなく大きく見えた。だが、どの機体もコクピットに当たる部分が破壊されていた。あの中には人がいる。潰れているという事は、中にいる人はもう…想像してしまった。また吐きそうになる。しかし、どの機体もお母様のものではなかった。亡くなった人には失礼ではあるが、安心してしまった。お母様は生きているかもしれない。いや、きっと生きている。
見たことのない機体も多く混ざっていた。おそらく敵の機体だ。敵が生き残っていたのであれば、まだ攻撃は続いているはずだ。だが、今現在攻撃されている様子はない。敵はおそらく全滅したのであろう。
お母様は言葉通り、僕らを守ってくれたのだ。それならば、帰ってくるという言葉も守っている筈だ。お母様が嘘をつく訳がなかったのだ。今更ながら、お母様の言葉を信じず、飛び出してきた自分を恥じた。お母様の言いつけ通り待っていれば、今まであった酷い光景は見ずにすんだのだ。お母様は正しかった。しかし、ここまで来たのならお母様を迎えに行きたかった。きっとお母様はこの先にいる。僕がここまで来たのを知ったら、カンカンに怒るだろう。でも、すぐに、いつもみたいに優しく抱きしめてくれるはずだ。
僕は全速力で奥へと向かっていった。予感通り、お母様の愛機「
だが、距離が縮まってくると、何か違和感を感じた。気のせいだと首を振った。だが、近づくほど違和感が大きくなっていく。思えばこの違和感は、お母様を見た時からずっとあったものだだった。どうして倒れているのだろうか?どうしてピクリとも動かないのか?どうして…どうして…どうして…下半身が存在していないのか…?いつの間にかその場で立ち尽くしていた。まだ…お母様だと…決まったわけではない…顔を覗き込む…そんな訳がない…だが…それは…間違いなく…お母様の顔そのものであった…
僕は心の底から湧き出る感情を、ただ叫び続けるしか出来なかった…
目が覚める。夢をみていた。遠い記憶。忘れたい出来事。でも、忘れてはいけない出来事。十年前に起きた惨劇。あの時感じた、悲しさも苦しさも怒りも無力さも悔しさも、全て忘れてはいけない。そう、あの時誓った。その想いを抱えつつ、俺は今を生き続ける。強くなるために。
まずは目の前の学園生活を完遂しなければ。その為に、そろそろこの机に突っ伏してる顔を上げないと。
机?
あー、えっと、これはつまり、授業中にも関わらず爆睡。起きたらそこに怒り狂っている先生が立っているパターンですか?
怒られる事はもちろん嫌だ。でも、俺が全面的に悪い。覚悟を決めろ。すぐに謝れば先生も許してくれるはず。いち、にの、さんで立ち上がり、そく謝ろう。
さあ、いち…にの…さん!
「授業中居眠りをしてしまい、すいませんでした!」
お叱りの言葉が来ると思っていた。しかし、その言葉はいつまで待っても来なかった。というか、先生自体がいなかった。
「あれ?」
それどころか教室には人っ子一人いなかった…何故?
よし、冷静になろう。時計を見てみる。時間は4時間目の真っ最中だった。そして今日の4時間目の時間割は…
「体育」
……………置いて行かれたぁ⁉
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