夜: 会敵 [須佐政一郎]
胃が、痛い。
「ふ〜んふ〜ふふふふ〜ん。くすくす」
私の痛みなぞ裏腹に、隣を歩くシャルロッテ嬢は上機嫌だ。
それは何よりである。
溜息が似合う夜の道だ。浴びるほど酒を飲み、前後不覚になるのも良い。ただし、状況は全くそれを許してくれない。
何時もより明るい夏の夜だ。やや曇りがかっているが、天を彩る星達は、今日も休みなく輝いている。
町の明るさは人為的なものだ。単に夜警の人間が何時もより多いのだ。
だが、この島を統括する行政官の一人として言わしてもらうならば、まだ足りない。
学生の志望者一部を夜警に加えているが、まだまだだ。この夜の闇を全て照らすほど明るくしたいと言うのが本音だ。
ただ、私の胃を痛めているというのが、
「あのあの! テレジアさん、気づきました!? さっきの方達で二回目ですよ、二回目! すっごい大きな声でしたね。私ビックリしちゃいました」
これだ。こちらの晴れやかで可愛らしい、美しく麗しい令嬢のせいである。
『本日はかねてからの刀の返還の件、例のお宅まで案内させて頂きます』
『はい、よろしくお願いしますね!』
教会を出る際に交わしたこの会話がもはや遠い過去のようだ。
ここまでとは思いもよらなかった。
すんなりと山ノ手の教会を出られるとは思いもしていなかった。
私が手配した教会正門の警備から、『夜間外出の申し出が出ていない』と難癖をつけられた。
<思い出す>までもなく無論きちんと提出し、そもそも教会へ入る前にそのことを確認したはずなのだ。
出した、出していない、確認した、していない、と不毛な水掛け論が永遠続いた。その間、本日の主賓であるシャルロッテ嬢と彼女の執事テレジア嬢を外に立たせたままである。
今日の日のために海と山を幾つも越えて、我らの同胞の遺品を届けてくれた客人に対してする礼ではない。
例え彼女達が昨晩の関所の襲撃犯二人を手引きし匿っている疑いがあるとしても、である。
そんな状況もシャルロッテ嬢には好奇に映ったようで、大変に喜ばれていた。
それが唯一の救いだと思っていた。
我々の不毛なやりとりの相違点を見つけてはしゃいだり、喋りすぎで喉が渇いているでしょうから、と教会から飲み水を持ってきてくれたりと、名家のご令嬢らしからぬ心配りだ。微笑ましくもあり、頭の下がる思いだ。
問題は、彼女ではない。もう一人の彼女だ。
「あのあの、テレジアさん知ってます? ニッポンのことわざで二度あることは三度あるっていうんですって!」
シャルロッテ嬢の柔らかい声が聞こえる。
胃が、痛い。
“……”
それはシャルロッテ嬢の後ろに付き従う女性執事、テレジア嬢が原因である。
彼女から発せられる殺意と敵意は武術を修めていない私でも感じ取れる。テレジア嬢の私を切り刻まんとする強烈な意思が全身に重くのしかかる。故に——
胃が、頭が、痛いのだ。
“テレジアさん、テレジアさん! ニッポンでは二度あることは三度あるんですよ! 今度はどんな人達なんでしょうね!”
“左様ですか”
テレジア嬢は日本語を理解していないのか、主人の独逸語の問いかけにはそっけなく答える。
私としては、『日本語を解しているが喋る気がない』と言う諮問官の意見を支持したい。
家令や執事と言う職種の人間とそう頻繁に接している訳ではないが、主人を立てて一歩後ろに引く——それが執事のあり方ではないのか? 主人の代わりに怒り狂うなど初耳であり、勘弁して欲しいものである。
“……”
痛い、痛いのである。私の他に弐係の者が二名付き添ってはいるが——
「申し訳ありませんね。昨晩の件で警備を特に厳重にしておりまして」
二人とも顔面蒼白で生きているのか死んでいるのか、棺桶に片足を突っ込んでいる状態だ。テレジア殿の剣気に当てられ生きた心地がしないのであろう。
テレジア殿はスーツ姿で私とシャルロッテ嬢の後ろにいる。右手には刃に布がかけられたハルバードを握り、左手は肩にかけている黒い革鞄の吊り紐を握っている。
弐係の二名は最後尾だ。武術を知るだけに彼女との力量の差を骨身に染みて分かってしまっているのだろう。厄介な仕事を押し付けてしまった。
「そんなそんな! 頭を上げて下さい。島の大変な時期に無理を言っているのは私達なのですから」
シャルロッテ嬢はそう言って下さるものの——
“……”
この無言のプレッシャーである。
『貴様らの失態のせいだろう?』
彼女は決して暴言や悪態を吐かないが、その分の怒りを態度にて表している。
内に秘めたものが何時爆発するのか、我々は細い糸の上を歩いている。
シャルロッテ嬢にもう一度礼をし、ふと思う。諮問報告書にもある通り、あの温厚な水野君が声を荒げてしまった、と言うのも分かる。
この状況を理解していないのか何なのか、ドを越した能天気なのだ。性格欠損者か大人物かのどちらかと言う彼の読みは当たっている。
しかし、この態度、ご島主殿や宗家当主代行殿にも見習って欲しいものではある。
夜は深まるが、目的地はまだ遠い。
前方に石灯籠に照らされた人影が見えた。
「あーあー! 見て下さい見て下さい! すっごいです! 三回目ですよ三回目!」
「やや、そのようですね」
“……”
痛い。胃はおろか、腹ごと握りつぶされそうだ。
『また不毛な問答で時間をつぶす気か』と彼女は何も語らずに告げている。いっそ口に出してくれた方が助かる。
前方の警備組と私達の距離が近づくにつれ相手の顔が見えてきた。
「伍係の国司です。お疲れ様です」
地獄に仏とはこのことか、助かった。
「見回りご苦労様。異常はないかな?」
彼へと夜間外出許可証の書類一式を渡す。
「特には。帰りですか?」
「いや、行きだよ」
国司君が書類から目をそらさず大きく眉を動かす。
「マジですか。事前申請の予定をはるかにぶっちぎってますよ」
「道中、特に出発前に私の書類不備で手間取ってしまってね。そのつけだよ」
「あーれま」
「巡回の多くなる夜間までに足止めされた訳ですか。てことはうちのヴォルフハルト含め、容疑は晴れちゃいねーってことすか」
流石は国司君、鋭い。
「巌サン、そんなところまで心配するから頭が寂しくなるんですよ……」
「髪は関係ねぇだろ、髪は!」
と、彼は言うが、<思い出す>——彼がこの島に赴任してからの三年間、頭の頭巾を取ったのを見たことはない。
「リズさん、リズさん」
「こんばんは、シャルロッテ。いよいよこの時が来ましたね。最後までおつき合いできなかったとは言え、共に貴女と過ごせた時間は名誉なことでした」
「はい! 私の方こそリズさんとご一緒できてとても楽しかったです! あのあの、リズさんもシノノメさんも今日もお気をつけて下さいね!」
可愛らしいやりとりが続く。
「わー、そっか。リーゼちゃんってこの子達とずっと一緒だったんだ」
「あのあの、リズさん、こちらの方は?」
「あ、お姉サンはねー……」
女三人よればやかましいというが、そのやかましさことが今何より必要だ。
ヴォルフハルト嬢にはテレジア嬢も(ある程度の)敬意(なのか?)を払っているのか、彼女の敵意がわずかながら和らいでいる。
願わくばこの時間が、
「書類拝見しました。お疲れです」
国司君、この平穏な空気をもう少し味あわせてくれまいか。
そう思うものの口にできないこの身の虚しさよ。
素直に国司君の返す書類を受け取り、早く行こう。
「では今日も宜しく頼むよ。くれぐれも、無茶はしないように」
昨晩学徒で唯一怪我を負った彼の顔を覗き込むように念を押す。
礼を交わしながらすれ違い——
「あ! あ! そうでした、ハジメさん、ハジメさんですよ!」
シャルロッテ嬢がすれ違う彼、東雲萌の具足の袖をつかんで大きな声を上げる。
「あのあの、シノノメさんてお呼びしては失礼にあたるのですよね? 私、ハジメさん、ってお名前で呼んでいいですか?」
苗字か名前か、か。随分と微笑まし光景だ。思わず遠い学生時代を<思い、
嫌な、音がした。
ビシリと、何かが壊れた。
それのせいで、手も足も、頭も舌も、指一つすら動かせない。
かろうじて眼球を動かす。球体が動き、それを視界内に収める。
テレジア嬢である。主に忠実な猟犬かと思っていたが、どんでもない。鎖に繋がれたただの狂犬ではないか。
今の彼女と比較すれば、道中浴びせられ続けた敵意など笑えない喜劇師のジョークのようなものだ。
私は呼吸すらできず、かろうじて動作する眼球を左右に動かし状況を把握する。
テレジア嬢の殺意が、敵意が、たった一人の人間に向けられている。私にはその余波だけでこの有様だ。痛覚すら怖気付き仕事を果たせないでいる。
そんなに己の主人が彼、東雲萌、と仲良くなるのが許せないのか。
当の本人は、テレジア嬢の狂気に当てられカチコチに凍りついている。彼からすると、自分の袖を掴みながら照れ笑いする少女の後ろに、地獄の閻魔ですら裸足で逃げ出す凶獣が目を爛々と輝かせながら睨みつけているのだ。何時気が触れてもおかしくない。天国と地獄、まさに紙一重の差である。
もはや料理されるだけを持つまな板の上の鯉に成り果てた東雲少年であるが、
『ハジメさん、ってお名前で呼んでいいですか?』
と言うシャルロッテ嬢の問いかけに、カクカクと首を上下に動かす。
「まぁまぁ、本当ですか! ありがとうございます!」
シャルロッテ嬢が強引に東雲少年と握手する間も、彼の両目はシャルロッテ嬢の後方——テレジア嬢に釘付けだ。良く失神しないものだと感心してしまう。
「わーいわーい、ふふふ」
冷え切った空気の中、シャルロッテ嬢が一人大いにはしゃぎ、テレジア嬢は牙むき出しに威嚇する。
「そんじゃ警備に戻ります。おい東雲、仕事だ、仕事」
対照的な主従の二人と護衛役の二人(もはや誰が誰を護衛するのか定かではないが)を連れ、国司君達に別れを告げる。
「ああ、頼んだよ」
「それじゃあ皆さんお気をつけて下さいね!」
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
「なーんか納得いかないんですよね〜」
シャルロッテ達と別れてから、道を巡回する傍ら、日鉢殿がのんびりとした声を出す。
「何だ、燈。仕事中だぞ。口は慎んどけ」
「まーまー、いーじゃないですか。暇なんですし」
昨日のような狂騒は起こってはいない。私達夜警の者達がせわしなく動き回っていることを除けば、静かな夏の夜だ。
「アタシ分かんないんですよ、何でリーゼちゃんって壱組じゃないんですかね?」
「? それはそんなに不思議なことなのですか?」
隣を歩く萌の顔色を伺うも優れない。無理もない。テレジア殿のあの剣気をまともに受けては平常状態に戻るのには時間がいるだろう。
眼鏡をかけている今の状態では彼を見ることはできない。祈祷の一つでも唱えてあげたいところだが巡回している今は余計なことをすべきではないだろう。彼には気の毒だが、耐えて貰うしかない。昨晩の傷が開かないことを祈るのみだ。
「もち。今の東雲クンを見て突っ込まないぐらいの不思議さ」
「? ではさほど問題ではないのでは?」
「顔に似合って毒舌だなぁ、こいつは」
どうしてだか日鉢殿と国司殿に笑われてしまった。むむむ、何故だ?
「巌サン、リーゼちゃんの『目』ってどう思います?」
「昨日の感じじゃ、そうだな、悪くはねぇ。目を使いながら剣も使えてるし、そこそこなんじゃねえか」
「そこそこぉ?」
日鉢殿が素っ頓狂な声を出す。
「はぁ……人生諦めてる四十路のオジさまにはそう見えちゃうのかな〜?」
「三十路だ、三十路。大体壱組がどうのってぇとあれか、学園の話だろ? 俺はお前と違ってそこの卒業生でも何でもねえぞ」
「のりが悪ければ髪の毛も薄い……。二人とも、これがダメな大人って奴よ」
「うるせぇなぁ! 髪は関係ねえだろ、髪は!!」
流石は国司殿と言った反応速度だ。早く、無駄がない。しかし気になるところでもある。
「私が参組でいるのは不思議なことなのですか?」
「うん。知らないはずの狼煙の意味も見えちゃってるし」
「そもそも、クラスを分ける基準てのは何なんだ? 適当に学校がするもんだろ」
「
「——……。あったなぁ、そんなの」
「長! 記憶のどれだけ奥から引っ張ってきたんですか。ま、それを元に上の方から壱組、弐組って振り分けるんですよ」
「恩寵の点数化ねぇ」
「そ。稀少性とか優良性とか有効性だけじゃなくて、理解度て言うか今の状態もきちんと把握されちゃうのよ」
恩寵をどう数値化するかは分からないが、点数にできるのであれば人を評価する指標の一つになるだろう。
「日鉢殿は、壱組だったのですか?」
「まーねー」
「さらっと自慢してんな。おい、二人とも、これがダメな先輩って奴だ」
やはり、か。あれほど見事な火炎の技を扱うのだ。学園に在籍していた時から抜きん出ていたのだろう。
クラスの皆の中、私が現時点で恩寵を知るのは五人しかいない。
大豪寺の<拡大身体>、萌の<何も無い>、透子の『身体透明化』、志水の『水質変化』、そしてシャルロッテのものだ。
待てよ、と思い出す。明日の授業で『恩寵学実践弐』と言う科目があった。題目通りに捉えれば、皆がどんな恩寵を持つかが分かるのかも知れない。
しかし、と目を瞑る。誰がどんな恩寵を持っているかは本来は秘すべき情報だろう。
目を開けて隣を歩く彼の顔を見る。顔色が非常に青ざめているのを除けば、私達の会話を気にしている様子はない。
「裏口を使えば多少の融通は効くって噂もあるんだけどねー」
私が参組でいることに特に異存はないが、シャルロッテが参組にいるのは解せないところではある。
「ならこいつもさっきのちっこい嬢ちゃんも参組で決まりだろ」
「へ?」
国司殿が断言する。
「そのテスト、こいつらは受けてない、だろ?」
「はい。テストのようなものは何も」
「だったら得点は零点だ。文句無しに参組だろ」
「はぁぁ〜?」
なるほど、と私は納得できるも日鉢殿はご不満のようだ。
「巌サンの何時ものつまんないジョークじゃないんですから、そーんないい加減な話がありますかって。ねぇ、東雲クン?」
「いい加減も何も現にヴォルフハルトは参組にいるんだろ。なら決定じゃねえか。なぁ東雲?」
私達の視線が萌に集中するが、彼は少し困ったように微笑むだけだ。
彼にとってはやや辛い内容だったかも知れないが、気にした様子ではない。
「東雲クン、そういう煮え切らない態度は良くないと思うわ、お姉サン」
「東雲、男だったら黙って俺について来い、な、な?」
日鉢殿が彼の右手を引っ張り、国司殿が彼の左側からガッチリと腕で首を固める。
順当だったはずの巡回だが、雲行きが怪しくなってきた。何やら萌を中心に嵐が巻き起こり始めた気配がする。
彼と目が合う、
「——」
うむ、実に困った様子だ。これを助けずして何とする。
「お二人とも、宜しいですか——……」
ふぅ、本日の夜警も、簡単にはいかないようだ。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
国司君達と分かれてから歩くこと十数分、ようやく目的地にたどり着いた。
「シャルロッテさん、ほら、丘の上に見えるあの明かりが目的のお宅です」
「まぁまぁ、たくさん人がいますね」
「分家とは言え、この町ができた時からある古い家ですので、警備を強化しているのですよ」
それでは行きましょう、と一同を促す。
見る分には前方の斜面をまっすぐ登ればいいのだが、道が無い。
現在この島は『鳥上結界』、通称存在強化の結界が敷かれている。昨夜より強度を上げており、『道』を通らずして『門』へたどり着くのは難しい。
大きな丘の上にある分家の屋敷へ、丘全体をぐるりと一周するなだらかな坂道を登る。
屋敷の側面、背面部は寂しいものだ。ただ味気ない白い塀だけが頭上に見える。
「ふんふふんふふ〜」
シャルロッテ嬢は先程思いもかけずクラスメイトと出会えたせいか鼻歌を歌い、
“……”
テレジア嬢は主人に近づく虫の存在に気づいてか無言の圧力をより強く放ち続ける。まだ慣れないが、少し耐性がついてしまった。
「すみませんね、もう少しですので」
機嫌取りとしか思えない会話をしてしまうのも長年の中間管理職の経験のなせる技か。
「はい! これから会う人ってどんな方なんでしょう。ね、テレジアさん?」
“……”
「ははは、きっと驚かれますよ」
「まぁまぁ! うふふ、ワクワクしますね、テレジアさん!」
“……”
“ドキドキしますね、ね!?”
“左様ですか”
長い迂回路が終わり、やっと正門が正面に見える。
固く閉ざされた門の左右にはかがり火が焚かれ、門を護る衛士達の姿を私達に示す。
「ご苦労様。ご予定のお二人をお連れしたよ」
私が差し出す書類を、本日この屋敷の警備責任者である弐係の
連れてきた二名を加えた計十名が、今夜この屋敷を担当する人員だ。
島の要所の一つとしてはいささか心許ない。だが、この分家を優遇すると宗家当主代行殿やその太鼓持ち達から何を言われるかたまってものではない。
御手口君が書類と私達に目を通し、無言で私達の通る道を作る。碌に確かめもしないのは意外だが、予定時間はとうに過ぎている。彼らとしても待ちくたびれているのだろう。
「ありがとう。それじゃ外は頼むよ」
軽く会釈し、その間を通り抜けようとすると、
「くすっ、開けゴマですね、テレジアさん?」
本人は小声のつもりだったのだろう。が、距離が近すぎた。
おちょくられていると思ったのか、シャルロッテ嬢への不快感を衛士達は露わにし、それに対しテレジア嬢が殺意を持って迎え撃つ。そして私の胃がまたキリキリと悲鳴をあげる。
当のご本人は何も気にした様子がなく、軽い足取りで衛士達の間を通り抜ける。
雑念を振り払い(主に胃を落ち着ける意味で)、閉ざされた扉に両の手のひらを押し付ける。
目をつむり、パチパチという薪のはぜる音を聞きながら、手の感触だけに集中する。
「須佐政一郎、鳥上島鍛冶宗家緋呂金が分家、青江家の当主への目通りを願う」
門が、私の願いと血を感知し、厳かな音を立てて開く。
「まぁまぁ、すごいすごいです!」
シャルロッテ嬢は手を叩いて喜んでいるが、
“……”
テレジア嬢は相変わらずだ。まるで私の主家の方が勝っているとでも言いたげな態度なのは私の気のせいだろうか。
「それでは参りましょう。随分お待たせしてしまいましたね」
門から屋敷入口へと伸びる敷石の道を歩み続けると、後方では私達三名を通した門が自動的に閉じる音がする。
そして、屋敷の玄関に取り付けられた灯りが、着物姿の一人の少女を照らす。
「まぁまぁ!」
「…………」
その人物に、シャルロッテ嬢は驚きと喜びの声をあげ、テレジア嬢は当然の沈黙を守って答える。
「ご紹介しましょう。こちらが鳥上島鍛冶宗家の緋呂金家の分家筋に当たる青江家のご当主になります——青江、静さんです」
立っていたのは青江家の当主にして本件を緋呂金宗家より押し付けられた人物、そして鳥上学園弐年参組——つまりシャルロッテ嬢と同じクラスに所属する少女、青江静さんだった。
青江家の居間へと通されても、シャルロッテ嬢の上機嫌はとどまることを知らない。
「んふふ、んふふ」
「……ん……」
「んふふ、シズちゃーん」
「……ん……」
「きゃ〜、シズちゃん、シズちゃ〜ん」
「……ん……」
前に座する静さんの両手を取り上下に動かしながら賑やかな声をあげている。さて、学園で昨今流行っている遊びだろうか?
日本家屋の居間に四人が正座し、そのうち着物を着ているのが静さんだけなのは滑稽か。青の着物と茶色のドレスを身に纏いながら正座し手を握り合う二人の後ろに私とテレジア嬢が黒のスーツを着てそれぞれ侍っている。
果てしない異物感だ。政庁の政務室なら兎も角、和室の畳にスーツとドレスは頂けない。
「シ〜ズちゃ〜ん」
「……ん……」
「きゃ〜、きゃ〜」
この空気を壊すことなくどう本題を切り出そうか考えあぐねていると、
“お嬢様、こちらを”
テレジア殿の冷めた独逸語が二人の動きを止めた。
彼女が持参してきた鞄から白い布で包まれたものを二つ、重々しく取り出す。布はそれぞれ赤い蝋で封がしてあった。
「あっ! そうですそうです!」
シャルロッテ嬢がようやく静さんから手を離す。やっと、やっと本題だ。
後から取り出された包みをシャルロッテ嬢が封を解き、布をゆっくりと外すと——
一振りの刀があった。
「え〜、こほん。……私達のために、十年前、遠く離れた異国の地で戦われたニッポンの英霊の遺品を、スイス誓約者同盟の一員ルツェルブルグに名を連ねる者としてお返しします。お納め下さい」
「……ん……」
シャルロッテ嬢は仲々に堂に入った口上であるが、対する静さんは何時も通りの無表情に無口である。
シャルロッテ嬢がうやうやしく差し出す刀を静さんが受け取り両手で持つも、
「……ん……」
そっけなく、後ろにいる私へ渡す。
「ありがたく頂戴いたします。鳥上の者として、また日本皇国の一員としてルツェルブルグ家を初めとする皆様のご協力に厚く御礼申し上げます」
静さんから渡された刀を両手で持ち、座した姿勢を崩さないままに頭を畳につけんばかりに下げる。
これこそが、遥か遠く離れた地のご令嬢をこの陸の孤島にお招きした原因だ。
十年前の<赤き馬に乗った騎士>を討伐するため、日本皇国は異国で戦う志願兵を募った。
志願兵、義勇兵と言えば聞こえは良いが、実態は自殺志願者と変わらなかった。祖国を遠く離れた地で戦い、そのほとんどが命を落とした。この鳥上島からは四名の者が志願し、誰一人帰ってこなかった。
多くの遺骨、遺品が未だに彼の地に取り残されている。中央政府は何度も部隊を派遣しているが二つの理由から作業ははかどっていない。
一つは、物理的な距離だ。単純に遠いのだ。
海、山、砂漠、渓谷を幾つ越えて行かねばならないと言うのか。旧時代ならば空を移動するカラクリの乗り物で一日とかからずに移動できたと言うが、今はそうはいかない。『海』はともかく、『空』は完璧に奴らの領域だ。移動に使ってはミイラ取りがミイラになってしまう。故に、海路、陸路を使うのだが、時間がかかる。
二つ目は、欧州の好事家のせいだ。
<赤き馬に乗った騎士>との戦いで、我が国の義勇軍は多大な戦果を挙げた。そのため、日本兵の遺品——特に主兵装の日本刀があちらの権力者の方達に随分とご好評になってしまったようで、多くの収集家が出現してしまった。恩寵兵装としての日本刀の実用性もさることながら、刀身の美しさや
故に我々の手には帰ってきにくい。己が地の権力者へ取り入るための有力品を見ず知らずの人間のために誰が手放そうか?
だからこそ、である。彼女——シャルロッテ嬢の主家、ルツェルブルグ家は稀有な存在なのだ。
ルツェルブルグ家はスイス誓約者同盟の一角を成し、欧州諸国連合でも指折りの名家であり、日本兵の遺品収集家なのだ。なおかつ、それを日本へ、元の持ち主の遺族へ何の見返り求めずに返還しているのだ。
外交上、見返りを求めない善意などお笑い種だ。そんな組織があるのなら骨の髄までたかられ、その善意を悪用しようとする者達で周囲は溢れかえる。
ところが、それをやってのけているのがルツェルブルグ家なのだ。唯一絶対の恩寵を血統として受け継ぎながら異国で死した兵士の遺品を無償で返還している。その効果は大きい。
『怪異と戦い散って逝った兵士の遺品を無償で故国へ届ける』、歯の浮くような美辞麗句を実際にやってのけるその見返りとは? 風の噂とは凄いものだ。現に極東にいる私のような者の耳にまでルツェルブルグ家の名声は聞こえてきている。欧州ではその名は揺るぎないものになっており、
今回、天下六箇伝に挙げられる恩寵鍛冶技術を持つこの島への留学が認められたのも、ルツェルブルグ家の我が国に対するこれまでの恩を報いることも一因だろう。
もう一つの理由が、
「それでは、拝見いたします」
今回返還される刀の貴重さ、である。
黒く染められた鞘から右手で刃を解き放つ。ひゅっと、風が渦を巻く。
左手で鞘を畳の上に置き、右手に持つ刃の煌めきを眺める。
軽い。寸法は三尺、中腹に反りの強い中反りの太刀だ。そこに走る波紋は地に落ちた花びらを舞い上げるそよ風のように儚く、柔らかく——何よりも美しい。
刃と同じく銀色に輝く鍔には三匹の蛇が互いを喰らいあう様子が描かれている。遠呂智家の刀に良く見られる蛇鍔である。柄には濃い紺色の蛇皮が巻かれている。
刃元に掘られた二字は、
「間違いありませんね。<
歴代遠呂智の刀匠の中でも一、二を謳われる三代兼長の作だ。氏が『鍛えた』と明言したのは、<風鼬>と、皇室へ献上しこの島の鍛冶が天下六箇伝を拝領することになった<
<風転>、<風切>、<風癒>の三振りをまとめて一振りの刀と言うのも変な話だが、天才の考えることは分からないものだ。
「この島の宝とも言える刀をわざわざご返還頂き、誠にありがとうございます」
刀を鞘に収め、もう一度頭を畳につける。
「そんなそんな、こうして遺族の方へお返しすることができて光栄です」
「そう仰って頂けると私共としても大変助かります。しかし、昇武祭を前にこの刀、<風転>がこの島に戻って来るとは……これも運命なのかも知れませんね」
「え?」
「……ん……?」
「昇武祭で最も活躍した者に刀が贈られると言うのは、遠呂智三代兼長が初めたのですよ。ご覧になった三対三の決勝戦にいたく感激されたそうで。その勝者の三兄弟へ刀を贈った——それが起源なのですよ」
「まぁまぁ」
実はこの逸話には落ちがある。
三代兼長はその後も昇武祭の
ならば<風鼬>の後、昇武祭を制した学生達に贈られた刀はと言うと、『鍛えるには鍛えたが、真を入れなんだ』、だそうだ。それでいても並の真打では及びもつかない逸品である。
もっとも、後の鍛え手には、『左手一本で鍛えることに挑戦してみた』、『優勝者の面構えが気に喰わないから鼻をほじりながら鍛えた』等々、ひどい言葉を残した者が大勢いる。そんな輩と比べれば三代兼長のなんと真摯なことか。
彼を遠呂智鍛冶で最高の鍛え手と推す者が多いのも納得できる。
“お嬢様、続いてはこちらを”
「あっ! はい! 続いては、こちらです。この二本をお返しますね」
遂に、この時が来たか——
「……ん……?」
シャルロッテさんが包みの封を切り、包装を解くと、見事な大小二振りの刀が姿を見せた。
先程の<風鼬>とは、趣が違う。
大きい方の打刀の鞘には
「……ん——ん……」
静さんは相変わらずだ。そっけない態度で、打刀を私に渡し、ついで脇差も渡す。
「頂戴いたします」
一礼して、それぞれを受け取る。
まずは打刀からだ。
反りは均一だ。鍔の作りは蘭の枝を模しているのか非常に技巧が凝らされている。記録では二尺四寸とあった。刃紋は乱れ小花、外観は美術品のそれだが刃の造りは紛れもなく戦場にて敵の血で彩られる一品だ。
「間違いありません、この刀が<
「まぁまぁ、そんなお名前だったんですね。あちらの<カゼマロボシ>さんと違ってお名前がどこにもなかったので」
「私も完璧な状態をこの目で見るのは初めでです」
「まぁ! ふふふ、そんな大切なものをお返しできて嬉しいです」
「それは——、」
返答に詰まってしまう。
「あのあの? どうかなされましたか?」
「いえ、<
「まぁまぁ」
「昨晩のことといい、我々の失態のせいでご迷惑をおかけしてしまい、この島の行政府に身を置くものとして改めてお詫び申し上げます」
「そんなそんな! だって私、『ジンモン』されたのなんて生まれて初めてでしたもの! すっごく楽しかったですよ!」
おかしい、急に胃が痛くなった。テレジア嬢の顔を見るのが怖い。
「とっても綺麗な刀ですよね」
「はい。<蘭桂騰芳>、遠呂智最後の当主である十三代
この二振りは、私が責任を持って持ち主のところへ届けなければ。
手が、知らぬ内に震えている。
現代の最上大業物工に間違えなく入ると言われている、遠呂智三代兼長と遠呂智奇刀斎兼無がそれぞれ鍛えた恩寵兵装刀が今この部屋にある。このどれか一振りのために人が何人死んでもおかしくはない。
「時にシャルロッテさん、お聞きしている話ではもう一振りあるとか?」
「はい! こちらの刀なんですが——」
テレジア嬢が鞄から取り出した刀をシャルロッテ嬢が静さんの前に出し、布を払う。封蝋はされていない。
「本当はこの島の前に立ち寄ったところでお返しする予定でした。ですが、そちらでこの島に返してくれ、と言われちゃいまして……」
「立ち寄ったところとは、太宰府ですね? しかし、この島に返してくれとは……」
出自を知る人が見たのだろうか?
「……熱っ……!」
「? シズちゃん?」
「静さん?」
普段滅多なことで大きな声を出さない静さんが……?
差し出される刀を右手の人差し指でツンツンとつついている。
「……ん……」
だが結局は受け取り、私へ刀を渡してくる。ただし、着物の袖を使い、直接自分の手を触れないようにして、であるが。
「拝見します」
刀を受け取って、見る。
やや刃渡が長いが、先程の名刀達と比べると格と言うか見劣りする外装だ。
反りは弱く、ほぼ直線に近い。
小さい鍔だ。鍔に穴が二つ空いており太い針金が通っていて、鍔と鞘を繋いでいる。固いし解けない。これでは抜けそうにない。
鞘には、帯に挿す際に抜けないようにする返し角が見当たらない。
柄は太く長く、刀身とは逆方向に反っている。外見としては英字のSに近いか。
確か、このような外装、拵のことは——……<思い出す>……
「
「ええと……テレジアさん、お会いした方のお名前って覚えてますか?」
“……”
「……んー……」
「シズちゃん?」
静さんがすっくと立ち上がった。
「……探す……」
「静さん?」
静さんが立ち上がり、私達をその場に残して、居間と縁側仕切るふすまを開ける。
私達の視線などお構いなしに、そのまま縁側へ出ると、草履を足に引っ掛けて灯りの無い暗がりの庭を歩いていく。
「静さん、待って下さい。私もお供します」
庭にある蔵に記録物があったはずだ。静さんは思い当たるところがあるのだろう。探すのをお手伝いするとしよう。
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風が、吹きました。
‘分かっていますね、ゲオルグさん?’
‘知らねェな、クソガキが’
相変わらずの反応に、ふぅとため息が漏れてしまいました。
視線を走らせますと、昨晩よりも町が明るいのが見てとれます。その火、一つ一つが私達を狙う衛士達なのです。
中々の明るさ、そして数ではありますが、私とこの男を止めようとするのには少なすぎると言わざるを得ませんね。
‘参りましょうか’
事前に事細かく説明していても、この男はいざ動く段となれば何をするのか分かったものではありません。
この男の性格を考えれば多少の見当はつくのですが、戦場での不確定要素は少ない方が良いのです。
‘カッ、言われるまでもねェ’
この男の声には隠しきれない喜びがありました。それは来るべき強敵と遭遇できることへの喜びなのでしょう。我らの任務を担う喜びを、私の十分の一程もこの男が持ち合わせていないのは悲しいことです。なれど、問題ではありません。
問題なのは、任務を完了するに足る力量があるかどうかなのですから。その一点だけにおいてはこの男は基準を遥かに凌駕しているのです。
私は胸の前で十字を切ってから、自らが呼び出した兵士達へ命令を下します。
さあ、今夜も我らが神聖なる任務を粛々と遂行するといたしましょうか。
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静さんとの探し物が終わり、一冊の書が出てきた。途中、壮大な音を立てて蔵の物が棚から三度も落ちてきたが、整理するのは後にしよう。
「……ん——ん……」
彼女は今、縁側に腰掛けながら、蔵の中から探し出した一冊の冊子をペラペラとめくっては眺めている。
「……ん〜……」
ろうそくの灯が、庭を照らす。
月光と相まって鈴虫の鳴き声でもあれば、随分と風情が出る涼やかな夏の夜になるだろう。
「でもでも、シズちゃんってすごいですね! こんな広いお屋敷に一人で住んでいるなんて!」
「……ん……」
今、テレジア嬢の顔が、『これの何処が広い屋敷なのですか?』と言いたげな表情を見せたような。気のせいではないな。
「ごはんとか洗濯も自分でしてるの?」
「……ん……」
「きゃ〜、きゃー、すごいですシズちゃん!」
このご婦人の喜ぶツボがいまいち分からない。凡愚の私には計りかねる。
「……ん、あった……」
おや、どれどれ——
静さんの手元を覗き込むと、癖のある汚い字で、
『
と一行目にあり、
『件の者に渡すも、不可也と返品される』
との二行目の文が黒墨で線を引かれている。読むことは難しいが解読不可能ではない。
最後に三行目、
『薩人へ渡す』
と続いている。
「茶釜が刀とは、また変わっていますね」
静さんが読むこの冊子には記憶がある。『奇刀斎目録』——シャルロッテ嬢が返還して下さった<蘭桂騰芳>はこの冊子の最後のページに記されている。遠呂智奇刀斎兼無が自ら書き記した己の刀達の目録である。
あの文章にはもちろん覚えがあったが、あの奇刀斎兼無のことだ、本当に茶釜をこしらえたのだとばかり思っていた。
「ちゃがまさんが、あちらの刀?」
「……ん……」
静さんが肯定の意を示す。
「茶釜は、本来ならば日本茶を
強い風が、吹き抜けた。
「太宰府でシャルロッテさんがお会いしたのは南郷上級政務官でしょうから、この刀の由来や元の持ち主もご存知だったのでしょう」
この島へ返すよう促したと言うことは、この刀を受け取るべき遺族はいないのかもしれない。だから、刀が誕生した地へ戻すよう頼んだのだろう。
時間があれば文の一つでも書いて確かめたいが、現在のところ島の外への連絡路は封鎖している。二名の賊を捕縛するのがこの島の政務官としての目下の急務だ。
「そうですね……。改めて、お礼を述べさせて頂きます、シャルロッテさん。<風転>についてですが、ご遺族の風間君の家に還すのが良いでしょう」
「……ん、私やる……」
「いいんですか、静さん?」
「……ん、シャルちゃんと一緒にする……」
「まぁまぁ! はい! 私とシズちゃんで一緒にお還しします! ね、シズちゃん?」
「……ん……」
「ふふふ、きゃ〜」
やはりこのご令嬢の喜ぶポイントは不明だ。
「では続いて、<蘭桂騰芳>ですが、これは私が責任を持って緋呂金に返します。残るはあの『茶釜』ですが……ふーむ、そうですね、一旦青江の蔵で保管しておきましょうか。折をみて事情を知ってそうな人物に手紙を、」
書いてみるとします、と続けようとした私を、テレジア嬢が手で制した。
「テレジアさん?」
「……ん……?」
「どうかされましたか?」
テレジア嬢が刃を覆っていた布を左手で剥ぎ取る。すると、槍と、斧と、鉤爪の三種類の刃を組み合わせた無骨な武器が現れた。
ハルバード——欧州圏ではそう呼ばれている長柄武器だ。この武器を使いこなすには兵士が必要とする全ての技術を持たねばならないとされている品物だ。
“敵です”
“敵、ですか?”
「あのあの、テレジアさんが——……あっ!」
「……あっ……」
「あっ!」
私と、静さんと、シャルロッテ嬢が同時に驚きの声を上げる。
ピィィィィ、と耳をつんざく呼び子の笛が鳴った。
本来は怪異の出現を周りの人間へと知られるための可聴域の呼び笛だが、今の島の状況では敵発見もしくは会敵を示す合図だ。
「出たぞーー!」
「黒騎士だぁーーっ!!」
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