0014 自由でも手に入れない限り
——人を殺していた。
ただ、ひたすらに、人を殺していた。
殺してきた——だから、これからも、殺していく。
いつからこうだったのだろうか——最初からこうだったのだ。
この世に生まれて最初に与えられた命令が殺人だった。
生まれたその日からというわけではないが、多くても一年以内には、殺戮と破壊に浸っていた。
それを不快に思ったことはない。
それを普通だと思っていたから。
日常に死が溢れていた。
決して、それが楽しくてやっていたわけではないが、それを苦しいと思ったことだってただの一度もない。
「優しい心を持って欲しい。それが出来るのは——アイン、きみだけだから」
もう何年前になるか分からないが、母親にそう言われたことがある。
何十年も前ではない。
叫声とか、悲鳴とか、怒号とか、罵声とか、そういういろいろのせいで、埋もれてしまったのだ。
そのたびに掘り出すけれど、いまだにその意味は理解出来ない。
人を殺すのは厳しいことか。
敵を見逃すのが優しい心か。
いつか分かるのだろうか——いや、多分一生分からないままなのだろう。
それほど知りたいとも思っていない。
味気ない。
日が経つにつれて、人を殺すという行為につまらなさを感じるようになった。
面白いとも思っていなかったが、言われたことをやるだけの人生はつまらないものだ。
少し趣向を変えてみようかと素手で殺すことにした。
べっとりと、まさにそんなような感じで全身が血で濡れるようになった。
その中に俺の血が一滴でもあったかと訊かれれば、首を横に振るしかない。
人間は脆いのだ。
マッハ十で突進すればそれだけで引きちぎれる。
顔を殴れば頭が破裂する。
首を絞めればペットボトルのようにひしゃげてしまう。
多分、異常なのは自分なんだとは思う。
ふと顔を上げたときに瞳に映り込む光景が血だらけの街並みなのだ。
そんな事例は今までないから正確には分からないが、昔の小説を読んだ限りではおかしいらしい。
あのとき、あの場所で、何人殺したのだろう。
任務内容自体右から左に流していたので確かな人数は不明だが、地面が全て死体で見えなくなっていたのだけは覚えている。
いい加減に毎回血を洗い流すのが面倒になってきた頃、拳銃という武器を過去の資料の中で見つけた。
ワンアクションで一人しか殺せない。
効率は最悪だが、悪くはなかった。
ミサイルやレーザー砲を用意し、アンドロイドやアニマロイドを率いた、総勢百万を軽く超える軍勢を近代型に改造した拳銃一丁と身体能力のみで鏖殺した日に、戦争は終結した。
——目を閉じてもまぶたの裏に血の色を認識出来る。
一生、忘れることはないだろう。
あの色も、あの匂いも。
自由でも手に入れない限り——
「……つまんね」
「あ、おっはよー、アインッ! 今回も一緒だねっ」
「あー、だな。……さっさと行こうぜ、ここにいると息が詰まる」
「はいはい、りょーかいです」
——俺は人を殺し続ける。
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